1章2話 異世界にやって来てた少女達
「は?……北海道?小樽?」
「ピヨピヨ【違う、ここは北海道じゃなくてでっかいどうだ】」
………
「意味が分からないんだけど。もしかしてチャックとかあるのかな?」
百合はヒヨコの背後に回り背中にチャックがないか探すのだった。
「ピヨヨーッ!【な、何をする!?ヒヨコは着ぐるみじゃないぞ!立派なヒヨコに何て事を!?】」
「ねえ、ヒヨコさんは地図とか持ってないの?ここがどこだかわかる?」
智子はヒヨコを見て訊ねる。
するとヒヨコは肩から垂れ下がっているタスキにぶら下がっているるポーチの中に手羽先を入れる。
「ピヨピヨ【そういうのなら持っているぞ。ピヨピヨン、世界地図~】」
「おかしいな。どうしてドラ●もん風に道具を出すのか?」
「しかも声が旧ドラ●もん風のダミ声だったよ!?百合ちゃん」
2人は首を傾げていた。ここはやっぱり日本で、変なヒヨコの着ぐるみに出会っただけなのではないかと感じる。
だが、どう見てもこの世界はおかしかった。地平線が丸いのだ。
「ピヨピヨ【ほれ、取り敢えずこれを見て確認するが良い。ちなみにヒヨコ達のいる場所はここだ】」
ヒヨコはせっせと世界地図を出して広げる。
「……明らかに地球と違うんですけど」
「っていうか、妙にでっかい北海道があるんだけど。本州が北海道よりちっちゃいし、四国や九州がないよ」
不思議そうに首を捻る百合と智子の二人。
「ピヨピヨピヨピヨ【よく分からんが、もう500年前になるか。ヒヨコの住んでいた国に異世界の勇者がやって来て魔神をやっつけたという話があるのだ。その勇者が、世界を平和にした後にこっちの大陸に渡ったそうだ。まだ大陸名もついていなかった頃の話で勇者曰く、こいつは<でっかいどう>だ!という話から大北海大陸と名付けられたらしい】」
「……異世界の勇者?」
「ピヨッ!ピヨピヨ!ピヨヨ~【そう、異世界の勇者だ。この世界には異世界転生したとかほざく師匠もいるぞ。そしてヒヨコはこの世界の現地人の勇者だ。ピヨヨヨ~ン】」
「いや、そういう冗談はどうでも良いから。あと現地人もなにも人じゃないし」
百合は目を細めてヒヨコにツッコミを入れる。ヒヨコは口元を翼で抑えて『あらびっくり気付かなかったわ』とでも言わんような顔をしていた。何気に芸の細かいヒヨコだった。
「え、じゃ、じゃあ、ここ、本当に異世界なの!?うそでしょ?」
智子は混乱したようにヒヨコの両肩を掴んでブンブンと振り回す。
「ピヨヨ?【そう言われてもヒヨコも知らんぞ~?ヒヨコはこの星の大北海大陸の裏側コロニア大陸から来たんだ。名前はピヨ、これを見るが良い】」
ヒヨコは少女たちに対して胸にかけてあるタスキを前に出す。
『ローゼンブルク帝国親善大使ピヨちゃん』
と書かれていた。
「何でだろ。見たこともない文字なのに読めるんですけど」
百合は当惑したようにぼやく。
見たこともないアルファベットでさえない文字だが、何故か理解できて読めてしまう。発する言葉も日本語の筈だが喋っている内容が微妙に違うように聞こえる。
「ピヨピヨ【ふむ。どうやら異世界人と言うのは本当らしいな】」
ヒヨコは二人を眺めるように見ながら、何故か納得していた。
「どういう事?」
「ピヨピヨ、ピヨピヨ【ヒヨコはステータスを見るスキルを持っているのだ。お姉さん達の情報が手に入るのだが、<異世界人>という称号が入っていた。あと<火精霊の加護>というのがついていたぞ。それに伴ってスキルに<言語理解LV1>というのがついていたぞ】」
「火精霊の加護?」
「ピヨピヨ【この大陸には精霊というのが神様の代わりにうろちょろしているんだ。火精霊はヒヨコの知り合いだから、多分ヒヨコがお姉さん達を見つけたが為に、火精霊達が異世界人の称号を持ってる人間を見つけて、言語を分かる様に加護を与えたのだろう。精霊たちは迷い人、異世界人に加護を授けてくれるらしい】」
ヒヨコはピヨピヨ説明する。
「そうなの?」
「ピヨピヨ【そうなのだ。ヒヨコは火精霊達に何故かなつかれているのに、ヒヨコはそんな素敵スキルがないので悔しいのだ】」
「いや、懐かれているのと力が使えるのは違うでしょ。って……。………で、でも、ここが異世界だとしたらどうしよう」
「帰る方法は無いの?」
百合と智子は縋る様にヒヨコを見るが、ヒヨコはコテンと首を傾げる。
「ピヨヨ?ピヨピヨ【帰る方法があるなら異世界の勇者は異世界に帰ったと思うが……こっちの世界で生涯を過ごしていると聞いているぞ?子孫とかはいないそうだ。当時生きていた人からもそう聞いている】」
「ええと、500年前………の人。だよね?異世界人」
「ピヨピヨ【その通りだ】」
ヒヨコはコクコクと頷く。
「当時生きていた人がいるの?」
「ピヨピヨ【人というかエルフとかドラちゃんとかだな。ヒヨコはこれでも顔が広いのだ】」
「いや、見た感じ既に広い顔したヒヨコだけど」
百合はミョンミョンとヒヨコの顔を横に引っ張りながらうなずく。
「ピヨヨーッ【顔がデカいとか言うな。さしものヒヨコも傷つくぞ!?】」
一々ヒヨコに酷いことを言う百合であるが、智子の方は不安そうな表情になる。
「っていうか、これからどうすれば良いのぉ?」
若干泣きそうな智子は弱弱しくぼやく。
「ピヨピヨ【ヒヨコが養っても良いが、ヒヨコはこの世界の裏側にある国からやってきているお子様のお目付け役でもあってな。余り自由は無いのだ。自由なヒヨコだったのだが知り合いに頼まれてな。困ったちゃんのお目付け役をしているのだ】」
「困ったちゃん?このヒヨコ以上の困ったちゃんがこの異世界にいると?」
百合は戦慄したような顔でヒヨコを見る。
「ピヨヨ!?ピヨピヨ【失礼な。ヒヨコは名乗ってもいないのにピヨちゃんピヨちゃんと子供たちの人気者だというのに。異世界人は失礼な生き物だとヒヨコは理解したぞ。そう言えば異世界の勇者もロクでなしだったように思う。勝手に街の名前を変えたり、この世界にない音楽を流行らせたり。きっと異世界はロクでなしばかりが生息していたのだろう】」
ピヨピヨと憤ったようにヒヨコは鳴きながらも百合と智子を見上げる。
「地球に帰る方法は無いの?」
「ピヨピヨ【……神にも等しきピヨちゃんを自称するが、万能ではないのだ。まあ、雑に扱われてお冠だがヒヨコも悪魔ではない。ヒヨコがすぐ近くの町に案内しよう】」
「いや、怪しいヒヨコだし、そういうのはちょっと」
「えー、百合ちゃん。ここはお世話になろうよ」
「でも後で寝ている隙をついて食べられるかもしれないし。あやしくない、このヒヨコ」
「でも、背中にチャックがないよ?」
女子二名は真剣な面持ちでどうでも良い議論をしていた。
「じゃあさ、人のいる場所に出れる方法を教えてよ」
「ピヨヨ?ピヨ~ピヨ~【そんなので良いのか?まあ、ヒヨコもおせっかいを押し付ける真似はしないのだ。ここから向こうの方へ2キロほど歩くと街道に出るぞ。そんで街道から右手羽方向に15キロほど歩けばオタルの街に出る筈だ。ヒヨコもそろそろ休暇を終わらせてニクス竜王国の首都ナヨリに戻らねばならぬ。ついでに乗せて行ってやろうと思ったが、嫌なら…】」
「ちょちょちょちょちょ、ちょっと待った。ツッコミどころが多いけど、オタルよりも近い町は無いの?」
ヒヨコをワシッとつかんで百合が訴える。
「ピヨピヨピヨピヨ【この辺は村と村の間隔が広くて、滅んでる町も多いぞ。ヒヨコのような猛者ならば山賊なんて一捻りだけど、まず街道に出ないと山賊が出て来るし、街道沿いにどっちに進んでも似たようなものだ。オタルから南東に500キロくらい歩くとプラージ王国の首都サッポロがある。まあこの地図で言うとここだ】」
ヒヨコはピヨピヨと鳴きながら地図を手羽先で差しながら説明する。
巨大な北海道の形をした大陸において、まんま札幌の位置辺りを指し示していた。
「……場所も地名もまんま北海道だし。スケールが全然違うけど」
「異世界の勇者………。絶対に日本人だよね」
「でも、500年前の日本人は北海道なんて知らないと思うけど。その頃の呼び名って蝦夷とかじゃなかったっけ?」
不思議そうに首を傾げている二人の少女にヒヨコも首を傾げる。ヒヨコは異世界事情なんて知らないのだった。
「ピヨヨ?【さあ、ヒヨコに聞かれても…異世界人の事なんて知らぬぞ】」
「でも、異世界から来たって言われて信じるのもどうかと思うけど」
「ピヨピヨ【割と異世界から来訪者は多いらしいからな。異世界の勇者、異世界の神、天下無双世界最強の偉大なるピヨちゃんとかな】」
「そこにサラッと自分を含めない」
ベシベシベシとヒヨコを叩く百合。
「ピヨピヨ【ヒヨコは気付きました。ポニーテールのお姉さんはツッコミ属性。綺麗なのに残念な暴力お姉さんだ。なのでヒヨコはお姉さんの事を残念お姉さんと呼ぶことに決めました】」
「プッ」
すると智子は口元を抑えて噴き出してしまう。
百合はジロリと智子を睨むと、智子は笑いながら
「だって、ピヨちゃん。学校の皆と同じことを言うから」
「と~も~こ~…」
ジトリと親友を睨む百合であるが、ヒヨコはピヨピヨと頷く。
「ピヨピヨ【まあ、大丈夫っていうならヒヨコは去ろう。貨物列車よりも早いヒヨコ列車に乗って行けば町まであっという間だが、歩いて行くのも旅の醍醐味というもの】」
ヒヨコはピヨピヨと翼を振って二人を置いて去るのだった。
「別に旅に来てるわけじゃないんだけど……」
「ピ~ヨヨ~【それでは皆さん。ハバ~グッデ~イ。今日の司会はDJピヨでした~】」
ヒヨコはスタコラさっさと去っていく。足音がしないのに物凄い高速で去っていくのだった。
「やっぱりあのヒヨコ、普通に異世界じゃなくて日本のヒヨコだよね」
「あんなに大きいヒヨコは日本にいないから!」
ぼやく智子に百合は慌てて突っ込む。二人は取り残されて少しだけ沈黙すると、どちらからともなく歩き出す。
「でもさぁ、送って行って貰った方が良いと思うんだけど」
「あんな何を考えているか分からない怪しげなヒヨコについていくなんてむしろ危険よ。だってヒヨコだよ?親鳥が出てきたらどうするの?」
「でもさ」
「何?」
「あのヒヨコ、ちょっと駿介君に似てたよね」
……………
「ど、どうだろう。バカっぽい所が……ね」
若干溜息を吐くようにぼやく百合であった。