1章1話 異世界にやって来てた少女達
第2部の編集いたしました。
当時書いていたあとがきは削除されていますのでご容赦ください。
とある日本の高校生たちが飛行機に乗って修学旅行へと向かっていた。
高校2年生の学生たちが静岡にある空港から飛行機に乗っていた。
行き先は北海道。彼らはいくつかの便に分けて北へと出発する。
この日は曇っており大雨の中、フライトを開始した。とはいえ、空の上は晴れたものだった。
そんな高校の女子高生2人は席を外して一緒に手洗いに行っていた。
手を洗い終えると二人は並んで自分の席の方へと戻ろうと機内を歩いていた。
「それでね、勇斗君がね…」
「はいはい、ホント智子は高城の事好きよね~」
「べ、別にそ、そんな事ないもん」
「じゃあ、嫌いなの?」
「そ、そういう言い方ずるいよ、百合ちゃん」
頬を膨らませて拗ねるのは鈴木智子。三つ編みのおさげをしたおっとりした少女だった。
その隣でからかうように笑っているのは岬百合。髪を後ろの高い位置で束ねており学校でも美人で有名な少女だ。
2人は中学時代からの友達で、塾が一緒で同じ高校に進学した友人でもある。大人しくて清楚な智子と快活な百合の二人は美人でスタイルもよく、クラスでもリア充と呼ばれる側の少女たちであった。
「そう?伝えられるときに伝えておかないと後悔するわよ?」
「………え、ええと、そうだよね。百合ちゃん、まだあの事…………」
百合が何気なく放った言葉に智子は過剰反応を示す。
そのもう一人の幼馴染、百合の家の隣に住んでいる若干オタクの入った友人がいた。
彼は引きこもりになってしまい、百合が無理やり学校にこさせようとしたが、復帰するその登校日にトラックに轢かれて死んでしまったのだった。ジャージ姿で死んだらしく、学校に行こうとしたのか、単に外出しようとしていたかは不明であった。朝だったが多くの人が車に轢かれた目撃証言があり、吹き飛ばされて水門に激しく血がこびり付いたあとが残されていたが、死体が見つからなかった。血液調査では間違いなく本人だったので、車に引かれて行方不明になった事件だが、結局死体はは見つからなかったが、死亡したものとして処理された。
「べ、別にアイツの事なんて好きでも何でもないから。むしろ世話を焼く必要が無くてせいせいしている?って感じだし。大体その話は止めよう。折角の修学旅行を暗くしたくないしね~」
「そ、そうだね。ごめんね、百合ちゃん」
「ホント、智子も真面目過ぎるんだよ」
溜息を吐く百合は自分の席に向かって歩き出す。
智子は隣を歩いて機内の通路を進んでいた。
普通の機内の通路だった。そう、通路を歩いていた筈だった。
自動ドアが開き自分の席に行こうと前に足を踏み出した瞬間、突然、世界が入れ替わった。
2人は足を止めてぼぅと周りを見る。
そこは荒野だった。
「ねえ、百合ちゃん、ここ、どこ?」
智子の問いが荒野にむなしく響く。
百合は絶句していた。問われても飛行機の中だと思っていたのだが、何故か周りが荒野になっていた。客席がどこかに消えていた。
青い空、輝く太陽、黄土色に染まった大地が続き、丸い地平線の奥には小高い山も見える。木々や草木も転々と存在していた。
「わ、分かんない。さっきまで飛行機の中に……いたよね?」
百合の問いに智子は頷く。間違いなく飛行機にいた。
今、自分達は夢でも見ているのか、そう思う以外に考えられなかった。
「皆はどこに行っちゃったんだろ?普通に飛行機の通路を歩いていたのに何でこんな場所に?」
飛行機内の風景とは全く異なるのだった。ありえない事だった。
「……こういう時は動かない方が良いかもしれないけど……、飛行機の中……には全然見えないよね、ここ?」
その問いに答えられる者はいなかった。
2人は途方に暮れてしまう。飛行機の駆動音も何もかもが消え、よく分からない荒野に放り出されていたのだ。
地平線がやけに丸く見える。
「ここってさ、絶対地球じゃない気がするんだけど」
「ゆ、百合ちゃん、変なことを言わないでよ!」
百合の言葉に智子は過剰反応する。
百合とて冗談で言ったつもりはないが、異世界に行ってハーレムを作りたいなんて言うバカなことを言う幼馴染を思い出したばかりに、まさかという思いが百合の中に過ぎっていた。
そう、地球と比べると明らかに地平線が丸いのだ。
「どうする?」
「どうしよう」
女子高生が何の準備もせずに荒野に立たされる。夢でなければどうしようもない状況になっていた。少なくとも日本には見えない地形である。
するとそこに巨大なカラスが二羽飛んでくる。そして巨大な雀が一羽。
人間を飲めそうなほど大きい、尋常ならざる鳥が会わせて三羽、二人の前に降り立つ。
「チュンチュン【人間だぞ】」
「カァカァ【見かけない容姿だ。でも人間だから悪者に違いない】」
「カァカァ【構いやしねえ。ちょっとつついてやろう】」
三羽は鳥らしい鳴き声を上げつつも、なぜかこちらに分かるような声を響かせて話し合っていた。
つついてやろう?
それって、最後には食べられるって事?
百合と智子は危機を感じて後退る。
剣呑な雰囲気になる三羽の怪鳥。大きい雀と大きいカラス達。
見た目はファンシーでかわいらしいのだが、言葉は非常に不穏当だった。
カラスの一羽が襲い掛かろうとした事で、百合は智子の手を引っ張って走り出す。
「チュンチュン【逃げたぞ!】」
「カァカァ【逃がすな!】」
3羽の鳥が追いかけて来る。
即座に雀が羽搏き二人の前に回り込む。
「チュンチュン【人間風情が僕らから逃げれると思うなよ】」
鳥の鳴き声を上げつつ頭に直接語り掛けるような声が響く。
「カァカァ【それじゃあ、突いちゃうぞ】」
カラスがとがった嘴をシュッシュッと勢いづけて素振りをしながら近づいてくるのだった。
その瞬間、空から光が落ちて来る。
二人を守るように、三羽の鳥との間に炎の壁が立ち上がっていた。
「ピヨピヨ【おいおい、どういう事だ、チュン助】」
地平の奥からものすごい速さでやって来たのは赤いヒヨコだった。
ピヨピヨとかわいらしい声で鳴きながらヒヨコ登場。
チュンチュンと雀は鳴きながらヒヨコを見上げる。
「チュンチュン【アニキか……】」
「ピヨピヨピヨピヨ【ヒヨコは言ったよな。他人様に迷惑を掛けるんじゃねぇって。それが人間を襲うってのはどういう了見だ?仁義ってもんがあるだろ】」
何か妙に偉そうなヒヨコだった。ヤクザの下っ端と若頭みたいにも見えなくもないが、いずれもファンシー感あふれる容貌である。
「チュンッ!【いい加減にしてくれ、ピヨのアニキ】」
「カァカァ、カァカァ【俺達は確かにアンタに世話になった。人間に襲われていた所を助けて貰い、大きくなるまで育てて貰った恩がある。だけどな、いつまでも俺達もピヨピヨのヒヨコじゃねえんだよ】」
「カァ~カァ~【そうだぜチュン助のアニキの言う通りだ。ピヨのアニキ。僕達はもうあんたにはついて行けないよ】」
三羽の鳥たちは突如現れたヒヨコを見上げて睨みつける。
「ピヨヨッ!ピヨヨーッ!【なんでだ!?俺達はかつてピヨピヨ団として共に育った仲間だった筈だ。どうして俺を失望させるようなことを言うんだ!チュン助、ミルマス、ドス】」
「クァアア!【俺達はいつまでもアニキみたいにヒヨコじゃねえんだよ!】」
「チュンチュン【大人になれよ…アニキ…!!】」
「ピヨヨーッ!」
赤いヒヨコはショックのあまり、クラッと立ち眩みしたように揺れる。
眼鏡をかけている地味な男が、グレてしまった友人に掛けるようなセリフを言われてヒヨコは項垂れるのだった。
何故そんな事を思ったのかはヒヨコにも分からなかったが、ヒヨコは最年長なのにいつまでもヒヨコなのは確かだった。
「カァカァ【この獲物は俺達がいじめてやるぞ】」
「ピヨッ!」
だがドスの言葉にヒヨコは立ち上がり二人の少女を守るように立つ。
「ピヨピヨピヨピヨ【だが、ヒヨコはお前達の好きなようにはさせない。人間を害するなとは言わないが、だからと言って無闇に人間を害する事は許さない。それはお前たちの為でもあるんだ。チュン助!】」
「チュンチュン!【黙れよアニキ!俺はもうピヨピヨのヒヨコじゃねえ。立派な雀なんだよ!ミルマス!ドス!やるぞ!】」
ピヨピヨ、チュンチュン、カアカア、カアカア
何だか白熱したやり取りを見せるが、やはりファンシー感が酷かった。
かわいらしい鳥たちがポコポコと体をぶつけ合って何か戦っているようだが、外目からするとじゃれ合っているかのようにしか見えない。
なんだろう、すごく可愛らしい、と切迫している状況のはずなのになごんでしまう2人だった。
数分後、勝者はヒヨコだった。
「カァカァ【くっ、まだヒヨコの癖に……。覚えてろ!】」
「チュンチュンチュンチュン【今日はこの辺にしておいてやらぁ】」
「カアカア【あばよ!】」
空を跳んで逃げて行く3羽の鳥。下っ端臭する去り方をする雀と烏であった。
百合と智子は何なんだろうと首をひねっていた。
すると赤い大きなヒヨコがピヨピヨと鳴きながら二人の方を見る。
「ピヨピヨ【迷惑をかけたな、お嬢ちゃん達】」
「……ええと、何か無駄に格好良くどこかの若頭みたいな感じに言われても困るんですけど」
百合は頬を引き攣らせて突っ込みを入れる。
ピヨピヨと鳴くヒヨコはヤサグレたように遠くを眺める。
そう、あれは雨の降る夏の頃だった。ヒヨコは親を殺され冒険者に追われていたチュン助を助けた時の事である。
「…いや、あの、勝手に回想に入ってないで教えて欲しいんだけど、ここってどこなの?」
「ピヨヨ?ピヨピヨ【君、空気読めないって言われない?ここはヒヨコとチュン助の回想シーンが入って、ヒヨコとチュン助の熱い物語を知ることから始めるべきだと思うぞ。大体、場所を聞くとは君はあれか?記憶喪失なのか?】」
「そんな訳ないでしょう?」
ピヨピヨとヒヨコは百合を眺める。
どこかで見たことがあるようなないような。
いや、無いな、うん。
ヒヨコは勝手に自己完結する。とはいえ、この少女は民族的にはこの大陸の南にある本州島の人達に似た顔立ちだ。
しかし場所を聞くとはこれ如何に?
ヒヨコもよく他人様に場所を聞くからその類かと思っているようだった。
「ピヨピヨピヨピヨ【記憶喪失はヒヨコの専売特許なのだが、仕方ない。応えて見せよう。レディに問われると弱いのがヒヨコの弱点。ここは大北海大陸の北西にあるプラージ王国第二の都市、オタルという港町からちょっと西に行った場所だ】」
村人Aのごとく、スムーズに語るヒヨコであった。
まさかラノベによくある異世界転移なのかと思って説明を聞いたら、飛行機で向かっていたはずの場所、北海道の地名が出てくるのであった。
私達、新千歳空港に行く予定だったのだけど、小樽の近くってどういう事?