6章29話 エピローグ
『ピヨはレベルが上がった。レベルが88になった』
『ピヨは悪神眷属討伐者の称号を獲得した』
『ピヨは功績により聖鳥と神の使徒が統合されて神鳥の称号を獲得した』
『ピヨは気配感知のスキルレベルが上がった。レベルが3になった』
『ピヨは離陸のスキルレベルが上がった。レベルが3になった
『ピヨは着陸LV3のスキルを獲得した』
何やら妙なファンファーレが鳴り響きヒヨコは朝に目を覚ます。
「ピヨピヨ【何が起こったのだろうか?うーん、覚えがないぞ。ヒヨコ屋敷を買った翌日のような状況が。はっ!?まさかヒヨコは夢遊病患者のようにフラフラと歩いていたのだろうか?フラフラ歩いて悪神の眷属の残りを倒したのか?さすがはヒヨコである】」
取り敢えず勝手に自己完結してみる。
きっとヒヨコの知らない所で悪神の眷属が死んだのだろう。万事解決である。誰がやったかは知らないが感謝感激雨霰である。
さて、いつもの事であるが、ヒヨコの朝は早い。
太陽が出るちょっと前にヒヨコは狩りに行くため帝都の外に出発する。
ピヨピヨ
おや、あのシルエットはまさか、まさかまさかまさかさまさかさま
おっと驚きすぎて『まさか』が『さかさま』になっていた。だが間違いない。
静かに帝国近隣の丘の陰にひっそりと飛んでいる鳥がいた。
ホロホロ鳥様である!
ヒヨコは颯爽と飛び出してホロホロ鳥様へと襲い掛かる。
「ギャーッ」
ホロホロチョウ様は悲鳴を上げてヒヨコの前に倒れる。
「ピヨピヨッピヨ~!【獲ったどーっ!】」
ヒヨコは勝鬨を上げる。なんという歓喜と祝福。ヒヨコは遂にやりました。苦節20年、先輩君時代を含め、ヒヨコになってから幾星霜。
いや一年弱だ。そろそろヒヨコの誕生日ではなかろうか?1歳の誕生日おめでとう記念も近し!
ありがとう。ありがとう。ありがとう。皆ありがとう!ヒヨコは遂にやり遂げました!
ホロホロチョウ様もありがとう。
もはやこれは最終回で良いのではないのだろうか!?
丘の上に聖剣を突き刺して、空にヒヨコの顔をを浮かべて
再びヒヨコが帰って来る その日のために…!!
みたいな感じで最終回で良いのではないか?
※パクリ ダメ ゼッタイ
ヒヨコは遂にホロホロチョウ様を越えて羽搏きます。いや、まだ飛べないけどな。とうっ!
ヒヨコは翼をひろげて木から飛び降りるとふわりと体が浮かぶようにゆっくりと着地する。
ハッ!?
これが着地LV3の効果か!?もはや飛ぶことも近し!
ピヨヨヨーッ!
ヒヨコは走って帝都の方へと翼をはためかせながらジャンプする。
おおおっ!ついに、遂にヒヨコはとんだ!とんだとんだヒヨコが飛んだ。
ヒヨコが飛んだ。
城塞まで飛んだ。
城塞まで飛んで、
べちゃり
潰れて消えた。
ヒヨコは帝国の城塞にぶつかってペチャンコになってしまっていた。
「ピヨピヨ」
嘴を打ち付けてヒヨコ涙目。
着地スキルLV3とは着地時に翼を広げれば重力に逆らえるようだ。翼が強くなったような気がする。だが残念、曲がる事も出来ず止まる事も出来ないらしい。
まあ、着地スキルがあっても着地出来る地が無ければ着地スキルの意味はないのは確かだな。
どうやら飛行系スキルを身に着けると翼が強くなるようだ。これなら鍛えて行けば天地ヒヨコの構えが出来るようになるのではないだろうか!?
ピヨポロリーン。
と、いう事で、鳥になる兆しを見たヒヨコは鳥らしく、堂々と出入り口からフリーパスで帝都に戻る。そう、ホロホロチョウ様のお通りだぞ。ピヨピヨ。
いや、それではヒヨコじゃなくてホロホロチョウ様が主役みたいではないか!?
ヒヨコは家に帰ると相変わらずステちゃんがだらしない格好で寝呆けた様子で起床していた。ブラウスとパンツ一枚のステちゃんはベッドの上でポヤポヤしていた。昨今暖かくなってきて、眠くなる気持ちは分からないでもない。
朝の陽ざしを浴びてブラウスが透けている。
「おはよー、ヒヨコ」
「ピヨヨ~【全く、年ごろの娘さんがそんなだらしない格好で。ヒヨコは許しませんよ!】」
「お前は私の母さんか」
おかしいな?役割が逆のような?
どうやらステちゃんは、ヒヨコの母ちゃんになってくれるかもしれなかった飼い主ではなく、ヒヨコが母ちゃんになってしまう飼い主だった。
ヒヨコは雄ですよ、雄。まったくもう、だらしない飼い主だ。
「ピヨピヨ【ほら、ちゃんとお着替えしなさい。パンツも新しい服も出してあるから。ブラは…いらなかったな】」
パンパンパンパン
「ピヨピヨ【世話を焼いているヒヨコにハリセンで往復ビンタするのを辞めて貰おうか】」
「自分の胸に聞きなさい」
「ピヨヨ?【ヒヨコの胸に?……そうだな、ステちゃんの胸に聞いても何もないしな】」
パンパンパンパン
言われたままに自分の胸に聞いたのに何故怒るのだろうか?
だが、ヒヨコは賢いのでこれ以上何も言わず、ステちゃんが着替え終わるのを待つのだった。
そしてヒヨコは朝の日課が終わったらお散歩をしに行く旨を伝える。
「ピヨピヨピヨヨ【つまりヒヨコもそろそろ稼ぎに出ようと思ってます】」
「稼ぐ?ああ、魔物レース?」
「ピヨヨッ【そう、魔物レース。と言う事で朝の日課が終わったらテオバルト君の所に遊びに行ってきます】」
「んー……でも確か魔物レースはスキル都合上、もうヒヨコは出れないんじゃない?」
「ピヨヨ?」
ヒヨコは首を傾げる。どういう意味だろう。
「私も詳しい所は分からないけど飛行スキルが一定以上育つとレースに出れなくなるって聞いた事があるよ
「ピヨヨー【何という事だ。これではヒヨコはこの屋敷を維持する事も敵わぬ】」
「まあ、貴族が帝都の長閑な場所でゆったり暮らす割と小さい屋敷だから、維持費に大金が掛かるって程じゃないと思うけど。それに戦争の褒章で貰ったお金もあるし問題ないんじゃない?」
「ピヨピヨ【ステちゃんの稼ぎが当てにならないから】」
「悪かったな!」
ビシビシとヒヨコの頭を叩いてくるステちゃん。
しかし、ステちゃんは屋敷の維持費の為に稼ぎを増やす事でちやほやされはじめ、知らぬうちに増長していき、母親の言葉を忘れて悪ステちゃんになるのであった。そして九尾の狐として傾国の姫となるのであった。残念無念である。
「勝手にモノローグを入れるな!」
ピシピシとヒヨコを叩くステちゃん。何で分かったのだろうか?
「いや、顔に書いてあるから」
「ピヨヨ~【そんな~】」
ヒヨコの顔にそんな壮大な物語が書かれていたとは。
「まあ、レースの事はアインホルンさんの所に行って聞いてみればいいよ」
「【ピヨピヨ】」
コクコク頷くヒヨコ。
「何故喋れるようになったのに、態々ピヨピヨと念話で頷く?」
「ピヨヨッ!?」
言われてみれば!
***
という訳でやってきました。テオバルト君のおうち。
テオバルト君のおうちの前にはキーラとキーラの体を拭いているお姉さんがいた。
キーラは気持ちよさそうに目を細める。
「ピヨピヨ~【こんにちはー】」
「ブルルン(ピヨちゃんだー。お久しぶりー)」
尻尾を振るキーラはおバカさんだからどうやらヒヨコにあった蟠りは忘れたようだ。だが、いきなりヒヨコの上に乗ろうとするな。ヒヨコは乗り物じゃないぞ?
「あら、もしかしてピヨちゃんかしら?貴方ー、ピヨちゃんが来てるわよー」
アナタ?
この女性はどちら様?
すると奥の方からテオバルト君がやってくる。
「ピヨ~【ハロー、テオバルト君】」
「やあ、ヒヨコ君。もしかして念話LV4を覚えたのかい?」
「ピヨピヨ【過酷な戦いの中で、遂にヒヨコは言葉を覚えました】」
「<過酷な戦い>と<言葉を覚える>の間にある因果性がとても不思議だけど」
「ピヨピヨ【所でこちらの女性はどちら様?初めましてと見受けられるのにヒヨコをご存じとは】」
「……じ、実は今度結婚するんだよ」
「ピヨピヨ【なるほど。結婚ですか。うちの元町長さんも結婚して腹黒公爵さんになったからな。しかし、リア充サイドに回るとは……裏切り者め!テオバルト君はヒヨコサイドだと思っていたのに】」
「ヒヨコサイドって何なの!?」
「ふふふ、本当に愉快な子なのね」
ピヨピヨ。ヒヨコの頭を撫でるテオバルト君の奥さん。優しそうな人だ。ヒヨコの頭を撫でる撫でテクは中々である。もっと撫でても良いんだぞ?
「それじゃ、貴方。キーラは奥の厩舎に連れて行くわね。」
「うん、頼んだよ」
「藁をたくさん敷いておいたからね」
「ヒヒーン(わーい、お姉ちゃん大好き)」
キーラが浮かれているのはどうやらヒヨコの蟠りが解けたのではなく、お姉さんに懐いているだけだったか。
「ピヨピヨ【いつの間にこんな奥さんを捕まえていたのだ。ヒヨコは聞いていませんよ】」
「実は1月頃にステラ君からヒューゲル様、いやローゼンハイム様が結婚したという話を聞いてね。とはいえ、この仕事はあまり女性向きでもないし出会いと言えば復興している貴族アインホルンに興味があっても、従魔士アインホルンに興味のある人はいないからね。どうにかならないかなぁとぼやいていたんだ」
「ピヨピヨ【まさか、ステちゃんめ。ヒヨコに出会いを斡旋しないくせにテオバルト君に斡旋したのか!?】」
「いや、斡旋はされてないよ。若手貴族で合コンがあるからその時に、従魔士としての活躍を褒める人ではなく、キーラを褒めてくれる人を探してみてはどうかと相談に乗って貰ってね。それで話をしてみて、キーラの世話までしてくれてなんやかんやと他の従魔達も彼女に懐いて…。ヒヨコ君の最後のレース辺りからだね」
「ピヨヨ?【貴族のお嬢さんなのか?】」
「いやいや、大きい商家のお嬢さんだよ。二代前に民爵を賜る程度には大きい家だね。まあ、妾の子らしいけど。貴族の家へ政略結婚に出そうとしていたらしいけど、馬車馬の世話なんかをするような変わった子らしく貰い手がいなかったらしくてね。爵位はともかくアインホルンは有名な家だから割と簡単に縁談がまとまっちゃったんだよ。レースでは通用しなくてもユニコーンは儀礼用として、スレイプニルは馬車として育てれば高値で売れる部分もあるし」
「ピヨピヨ」
むう、テオバルト君の癖にヒヨコを差し置いて結婚とか生意気な。
だが、しかし、結婚とは人生の終着点。ここは敢えてヒヨコが伝えておこう。
「ピヨピヨ【お前はもう死んでいる。ピヨピヨリ】」
「いや、意味わからないから。だが、ヒヨコ君よ」
「ピヨヨ?【なんだ?】」
「ミリヤムとの結婚できるのだ。我が生涯に一片の悔い無し」
ギュッと拳を握るテオバルト君。
まさかの返しにヒヨコは涙があふれる。
完璧だ。完璧な返しだ。
よく分からないけど、ヒヨコの感性がそう訴えていた。涙があふれて止まらない。
「ピヨピヨ【良く育ったな、テオバルト君よ】」
ヒシッとヒヨコは翼をひろげてテオバルト君を抱きしめる。
「だから意味わからないよ!?っていうか、ウチに来たのは雑談しに来たんじゃなくてレースの相談じゃないの?」
「ピヨヨーッ!?」
いかん、うっかりしていた。そう言えば目的はそっちだった。
と、いう事でヒヨコはピヨピヨとテオバルト君に説明をする。
「離陸スキルと着地スキルがレベル3になったの?それは……拙いね」
「ピヨヨ~?【不味いのか?】」
ヒヨコは美味しそうと評判なのだが………。
「うん。そこまで育つと飛行可能とみなされるからね。大きくジャンプすれば全て飛行とみなされ失格だ」
「ピヨヨ~?【何て事だ!?ヒヨコが鳥に近づいたが為に……】」
マズいってそっちかよ!
「とても残念だよ。……ヒヨコ君はうちの、いやMRAの人気者。次のダービー出場も期待されていたのに、ダービーは飛行スキル持ちは出場できないんだ」
「ピヨヨ~【そんな~】」
ヒヨコはガッカリする。それはもうがっかりだ。
「それにヒヨコ君は魔獣であっても人権宣言に記入しちゃったからね。どちらにしても無理じゃないかな?」
「ピヨピヨ」
そう言えばそういうのもあったな。
「でもせっかくだし、引退式をやろう」
「ピヨヨ?」
「有名な従魔は引退するときは引退式をするモノなんだよ。ヒヨコ君もたった1年弱の活動だけど人気だしね」
「ピヨッ!」
なるほど、引退式だな。だがヒヨコ的には金が欲しいのだ。屋敷の維持費が欲しいのだ。袖の下はないのか?
「勿論、無償とは言わないよ。金貨10枚くらいは出るから」
「ピヨ~ピヨ~」
おお、なんと金貨10枚出るのか。それなら出てやらんでもないぞ。ヒヨコは喜びの舞いを踊るのだった。
それから2週間後、ダービー当日に引退式を行ないとっても大盛況だった。
***
そんな翌日、ステちゃんは帝城に呼び出され、ヒヨコと一緒にお城に向かう事になるのだった。
迎えるのは先帝陛下と腹黒公爵さんだった。
既に正式な大臣の1人になっていた。
ギュンター君と並び皇帝の懐刀と呼ばれているとかいないとか。
いつもなら自分でヒヨコハウスに来るのだが忙しくて呼び出したらしい。
「すまないね、呼びだしてしまって」
「いえ、民爵と言えど国に仕える貴族でもありますし。一体何でしょうか?」
ステちゃんは何かあるのかと首を捻る。
「エルフ領のエルフの王アナスタシヤ・アレクサンドロヴナ陛下より手紙が来てね。ステラ君を一度エルフィスキゴロドに寄こしてくれないかという誘いがあったんだ」
「アナスタシヤ様ですか?母からは友達だと聞いてはいましたが」
ヒヨコも知っているぞ?
先輩君がアルブムで耳にした知識ではあるが、確か500年前の魔神戦争で勇者と共に戦った人類最古参の大魔法使いだとか。
「竜王陛下からも聞いたがステラ君はお母上に何も聞かずに先立たれてしまって知識的なものが欠けているとか。アナスタシヤ陛下は君を引き取り、最低限の知識は授けておかないと今後何かあった時に危険だと仰っていた。それに陛下はヒヨコ君にも興味があるようでね。留学とでも言えば良いのかそういうお誘いだよ」
「……うーん。でも、エルフ領に行ったら早々帰って来れなさそうですよね」
「そうだね。とはいえエルフは女神様とつながりの深い種族だし、彼らが今のタイミングで誘うという事は暫くは平和だともいえると思う」
「………。出来れば……獣王国はともかくフルシュドルフのお祖父ちゃんやお祖母ちゃん達に挨拶してから行きたいなぁ。元々、今回のことが終わったら折を見て話に行こうと思っていたし。フルシュドルフがどうなってるかも心配だし」
「……そうだね。一応、今の代官からは報告は聞いているけどね。私は残念ながら見にいくことは出来ないから、もしも行きたいなら代わりに見に行ってくれないかな。エレンからもステラ君の事はしっかりと守る様に言われているし、我が家から移動の都合はつけるよ」
「ピヨピヨ」
ちょっと待った。そうしたら、ヒヨコハウスはどうするのだ。
「ヒヨコハウスなら信用できる人間を雇って私が管理させるよ。いつでも帰れるようにね」
「ですが、そんな何から何までやってもらうのは……」
「君はフェルナンドの子供、私にとっては兄貴の子供みたいなものさ。姪っ子の面倒を見るのに一々惜しまないさ。それにフルシュドルフは見ておきたかったしね。あとエルフ領に行くなら途中までヒヨコ君を連れて護衛任務をお願いしたいんだ。船旅だから護衛と言う程ではないけどね」
腹黒公爵さんはそんな事を言う。
「ピヨヨ?」
ヒヨコの護衛とはそんなあれこれがあるのですか?
「実はそれ以降は私からの願いなんだ」
だんまりだった前の皇帝さんが口を挟んでくる。
「どのようなご下命でしょうか?」
「いやいや、命令ではないよ。出来ればと言う話さ。実は最近になってラファエラとヴィンフリートの素性が分かったんだ」
「ピヨヨ?」
いや、素性の分からん皇族ってのはどうなんだよ、おいおい。
「元々、我が第2妾妃だったディアナ・フォン・フリートベルクは英雄ミロンの拾い子でフリートベルク伯が後見していただけで、英雄の育てた子供という点以外は素性が分かっていなかったんだ」
「素性が分からなくてもお二方とも国の英雄で立派な方たちですが…」
種馬王子さんは銀の剣の一員として帝国最大のダンジョン攻略をした英雄的冒険者の一人。
残念皇女さんは先輩君と共に悪魔王討伐に出て、賢者の称号を持つ大魔道師。
皇帝の子でなくても偉大な功績のある人間。母親の素性なんて今更どうでもいいような気もするが。
「ピヨピヨ【残念皇女さんはともかく種馬皇子さんはむしろ素性を明らかにしたらまずいのでは?】」
「うむ、ヒヨコが言うようにヴィンの素性は無くても良い事かもしれんが、想定以上に予測された素性が大物でね」
「え」
「エルフ領に隣接する西の大国<花国>の王族かもしれないそうだ」
…………
「え?あの花国の王族?」
「うむ。ミロンが言うには花革命の頃にエルフ領の北側、つまり花国の国境付近でディアナを拾ったらしいのだ。最近、詳しい話を耳にしてもしかしてと思って花国の王族に確認を取った所、特徴や捨てられた場所もよく似ているらしい。今更ではあるが向こうも是非会いたいと言っているらしくてな。二人に行ってもらおうと思っていたんだ。エルフ領に行く際に一緒に行って貰ったら、と思ったのだ」
「そういう事ですか」
「どうだろうか?無論、君の用事を優先させてもらって構わない。大至急という話でもないし、花国まで我が子達を帯同させて欲しいという話だ」
「ヒヨコはどうする?」
「ピヨッ!」
まあ、ヒヨコ的にはシーサーペントをうっかり殺しても船には吊るしたりしないと約束できるなら構わんぞ。ヒヨコもエルフ領とか花国とか見てみたいし。お爺ちゃんとお婆ちゃんにも久しぶりに会いたいしな。稼ぎを利用し、フルシュドルフでマトンジャーキーをたくさん手に入れてから旅に出るのだ!
「船に吊るさなければOKと」
ステちゃんは呆れるような口調でぼやく。
「あはははは。そこは言い含めておこう。と言うよりもヴィンもラファエラ殿下も休暇のハイテンションだったからああいう事をしていたが本来はそこまで好戦的ではないんだけどね」
***
ヒヨコ達は一度フルシュドルフに戻って、お爺ちゃん達と再会し今度はエルフ領に勉強しに行くことを告げるのだった。最後の別れになりそうなので1月ほど一緒に暮らしてから去る事になった。
無論、ヒヨコはジャーキーをたくさん食べたのだった。懐かしきお爺ちゃんとの晩酌を楽しみながら過ごしたりした。
そして出発前には剣聖奥さんからお子さんが誕生した。元気な男の子だった。生まれた早々に近づいたヒヨコの嘴を掴んで引っ張る程度には。
末が恐ろしいお子さんである。
ヒヨコはお父さんに似ない腹黒じゃないお子さんになる様に祈っておくことにするのだった。
そんなお子さんを見てからヒヨコ達は帝国を出発する。
ヒヨコ達の新しい冒険の始まりである。
***
ボーッと船が汽笛を鳴らしゆっくりと進む。
ジメジメと暗くて広い場所にヒヨコがいた。
何とも懐かしき船の中である。周りには大きな荷物が転がりそんな薄暗い貨物室の中、ヒヨコがピヨリ。
………
「ピヨヨーッ!?」
だから何でヒヨコを貨物に入れるのだ!?