6章27話 ヒヨコのタイトルは変わりませんよ
ヒヨコとガラハドの1羽と1人はネビュロスへと襲い掛かる。
「うおおおおおおおおおっ!」
最初にガラハドが一直線にネビュロスに向かって行く。
ネビュロスは赤い光線を大量に放ってガラハドを攻撃するが、ガラハドは拳で叩き落しながら向かう。叩き落しきれなかった攻撃は、多少の傷を負うが体が消えるようなダメージは無い。
即死耐性LV10、一撃で人を殺す攻撃を無効にする女神によって与えられた祝福だった。
ネビュロスは命を散らす事に特化した神としてこの地に降臨した。イポスやナベリスやカーシモラルともまた別の存在なのだ。
ガラハドは次々と飛んでくる赤い光線を拳で叩き落しながら向かうが、ネビュロスは赤い光線が効かないと感じて鎌を使い攻撃を仕掛けてくるがその攻撃をかわす。
だが、鎌による破壊の副作用として暴風が吹き荒れ、ガラハドは吹き飛ばされる。
だが、ヒヨコはその瞬間を狙っていた。ヒヨコは爆炎弾吐息を長距離弾道ではなく直接砲撃によって飛ばす。
大爆発が起こり、ネビュロスの形が大きく歪む。
それに怯んだ隙に今度はガラハドが着地と同時に大きく跳躍しネビュロスの顔面へ拳を叩き付ける。
影の形が揺らぐ。竜の牙によってつくられた爪がネビュロスの顔面を大きく削る。
『グアアアアアアアアアアアアアアアアッ!』
神殺しの爪はネビュロスに大きいダメージを与える。
ガラハドは人を一瞬で殺すダメージを恐れていた事、そして自分が神殺しの切り札で距離を取るしか出来なかった事、物理が効いていなかった事で思い切った攻撃が出来ていなかった。
赤い光線のような一撃で人をえぐり取る攻撃が即死無効体質である勇者にとって弱点だと気付き、従来の思い切りの良さがガラハドから消えていた。
だが、遠慮する必要がないと気付いた今、枷から解き放たれたのだった。
「ピヨヨーッ」
ヒヨコはさらに大きく息を吸い、<爆炎弾吐息>を3連発吐き出す。
爆撃に体が一瞬だが吹き飛び、ネビュロスを後ろに下がる。
『クソッ!小虫の分際が!何故神である私に歯向かえる!?』
「てめえは俺たちを舐め過ぎだ!どれだけの同胞を食い物にしやがった!クソッタレ!」
ガラハドは吠えながら着地し、空高く飛びあがりその拳でネビュロスへと襲い掛かる。
『舐めるな!我が食物風情がが!』
「ピーヨッ!」
ネビュロスは風の刃を生み出す鎌を使ってガラハドを撃退しようとするがヒヨコがその腕に<爆炎弾吐息>を叩き込む。腕が一瞬だが消し飛び黒い死神の鎌が落ちる。
そこをガラハドがネビュロスの顔面を殴り飛ばす。
ヒヨコは大きく息を吸ってから、空を跳びあがる。倒れているネビュロスに対して極大に集中した炎を吐く。魔肺の活性化によりヒヨコの吐息の限界が超えた。ヒヨコに火吐息レベルがLV10を迎えたという神託が降りる。
それはイグニスが使っていた火吐息最強の技の習得を意味していた。
<収束熱線吐息>
かつてヒヨコはついに最強の吐息を解き放つ。
その吐息はネビュロスの首を貫き遥か先にある山を抉り空の雲さえも切り裂いていく。
『ぐあああああああああああっ!』
大きく削られるネビュロスは悲鳴を上げる。
ヒヨコのブレスで首までも吹き飛ぶが、ネビュロスは直に影を伸ばして体を復元させる。
右肩より先も失われていたので復元させる。だが、その結果、ネビュロスは100メートルほどあった体が多く削れて、既に80メートル程度に縮んでいた。体積で言えば30%以上削れていることになる。
ネビュロスはヒヨコとガラハドを睨みながらも考える。
どこで計画が崩れたのかと。上手くいっていた。事を慎重に進めていた。
この世界の人間は大したことが無いのだと安心してから攻め込んだのだ。
大陸全てを合わせても人口は1000万程度。自分がかつて住んでいた大陸は3億は存在している土地だった。30分の1の人間しか住んでいない僻地にどうしてこんな戦略兵器のような存在が個々に存在しているのかと理解に苦しむ。
「ヒヨコ!使え!」
ガラハドはヒヨコにMPポーションを投げる
ヒヨコはそれを嘴で咥えて器用に瓶を明けてポーションを飲む。
「ピーヨッ!」
ヒヨコは再び<地獄業火>の魔法を使う。
ネビュロスは慌てて逃げるがヒヨコから解き放たれて黒い竜のような炎がネビュロスを食らおうと追跡し続け、ネビュロスに食らいつく。
『グアアアアアアアアアッ!クソックソックソッ!俺は神だ!何故、たかが単なる生物風情に!?』
神さえも食らいつくそうとする黒い炎にネビュロスは体を黒い炎に飲まれた部分を切り離して、際限なく自分を殺しにかかる炎から逃れる。
無尽蔵に攻撃を仕掛けるガラハドは休む隙間もなく、そしてネビュロスがガラハドを殺そうと動けばヒヨコが遠距離から次々と爆炎弾を放って守勢に回らざる得なくなりガラハドを止める事も出来ない。
だがネビュロスは所詮ガラハドも人類でしかないからやがて力尽きると甘く考えていた。
ヒヨコの黒い炎を食らってしまうとその体は大きく削られる。
神を殺す魔法なんてものをどうしてこの世界では使い手がいるのかさえ理解ができない。それは下手をすれば神自身でさえも殺しうる最悪の魔法だからだ。
(ここは辛抱だ!俺は人類と違い無尽蔵の力がある。こいつらとて休まず1日中闘うなど出来まい!)
ネビュロスはついに守勢に回る。真の勇者の称号を持つ2つの存在が自分にとって非常に相性が悪いのだと理解する。
***
ヴィンフリートとモーガンはグリフォンに乗ってケンプフェルトにやってくる。
「ヴィン!モーガン!」
シュテファンとユーディットが陣幕から飛び出す。
次いでマーサとミーシャ、アルトゥルとラルフが続く。
ユーディットはモーガンが右腕を失い布で縛って血止めをしているのを見て、慌ててモーガンの治癒に当たる為に駆け寄る。
「情けねえが、命拾いしてきたわ」
ヴィンフリートは申し訳なさそうにする。
「死ねば清算されると思うなよ。このバカ弟が」
アルトゥルは死を覚悟して残った弟が帰ってきた事で抱きしめる。
「無事で何よりだ。だが、………獣王陛下はどうした?」
「そ、そのグリフォンはガラハド君に貸してた子……。まさか…」
シュテファンとミーシャは顔色を悪くしてヴィンフリートとモーガンを見る。
「ネビュロスの攻撃がヒヨコに効かなかった事であの攻撃の真実を陛下が解き明かした。あれは殺す為の攻撃だと。陛下が言うには真の勇者の称号持ちは『即死耐性LV10』があるからその攻撃で命を取られることがないと言って残られた。ヒヨコと陛下はネビュロスの天敵だと分かり二人で対処すると」
「!?」
モーガンの言葉に誰もが互いに見合う。
「無茶ではないのか?」
「いや、グリフォンで遠くから見ていたがネビュロスは押されていた。ヒヨコの使った黒い炎の魔法が体を焼き尽くそうとして悲鳴を上げて腕を切り離している所を見たし、陛下に殴られて痛がっていた」
モーガンは逃亡中に見た背後の光景に確信を持って口にする。
「だが、何があるか分からないから戦闘準備をして欲しいと仰っていた」
ヴィンフリートはそこでここに対する対処方法を伝える。
「陛下はまだまだ知識的には幼いが感覚的にはよく理解していらっしゃる。さすがはあの歳で獣王になられただけはあるな」
感心するようにシュテファンは頷く。
「どういう事だ?」
「もしもあの神が押されだしたら逃げるだろう。逃げて弱い人間を殺すだろう。最も人が多く、あそこから近いのはここだ。奴はアルブムの半数以上を食い散らかして王都付近は人がいない。1万の軍人が集まるケンプフェルトが一番いい場所だ。その背後には十万以上もの避難民もいる。奴は俺達を侮り食料としか見ていないだろう。逃げて来る可能性を感じているんじゃないか?」
シュテファンの言葉は他の面々もまさかネビュロスが逃げるとは思えなかった。
「ピヨちゃんとガラハド君、大丈夫かな」
心配そうにするのはミーシャである。
「陛下もバカじゃないわ。大丈夫よ。死ぬ気で残った訳ではないのでしょう?」
「決死の覚悟、というよりは突破口を見つけ我等が足手まといになるという口ぶりでした。少なくとも陛下がそこまで腹芸の利く人ではないかと」
「そうね。実際、押していたのでしょう?ならば陛下には勝てる確信があったのではないでしょうか?」
「いや、ガラハド君、勝てない相手でも尻尾を振って喜んで行くから心配」
ミーシャの言葉に後からやってきていたロバートやマキシムは苦笑してしまう。そういう人だったと彼らも思いなおす。
「だが、もしもネビュロスとやらがこっちに逃げて来て我らが殺される事で力をつけられたら目も当てられないぞ。獣王陛下とヒヨコで勝てたのに我らが皆で足を引っ張ったとなればな」
アルトゥルは周りを見る。
全く敵わなかったメンバーがここにはこぞって存在している。ここで蹂躙されて二人が負けたら、それこそこの場で自死を選んだ方がマシというものだった。
「……獣王陛下のあの赤い光線の謎解きと同時に気付いた事がある。あのネビュロスと言う奴、確かに物理攻撃が効かないが、奴自身には物理的な攻撃が無いのではないか?対物魔法や鎌による攻撃は気がかりだが、山そのものを滅ぼすような攻撃はしても山自体を吹き飛ばすような事が出来ていない。あれほど大規模な攻撃ならば、先代獣王や先代勇者であれば谷をつくるような攻撃力だった筈だ。だが、奴は死の大地にしても大地その者が削れたりはしていない」
ヴィンフリートは口にし、敗走していた軍人たちも思い当たる事があり頷き合う。
言われてみればと言う事だ。
「そうか、奴自身はアルブム王国国王レオナルドの肉体を使っていた時は物理干渉が出来たが、そこから解き放たれた今は、逆に物理干渉が出来なくなっているという事か!」
シュテファンの言葉に、最終決戦で王城に入ったメンバーは全員が思い出す。
そう、奴自身が言っていた。レオナルドの肉体を捨てて強くなったということを言っていたが、逆にヒヨコとガラハドにとってはやりやすい相手になったのだと。
「ヴィン、これで俺達も戦える。もしもこちらに来たときは迎え討てる。早速準備に取り掛かろう」
半信半疑で準備をしていた帝国と獣王国も、シュテファンの自信を持った言葉に全員が頷き合う。
「宮廷魔導士長。ラファエラ殿下!魔導師たちをお借りしたい。準備をする」
「はっ!」
宮廷魔導士長は頭を垂れて、シュテファンの指示を受ける。
ケンプフェルトの反抗作戦が始まる。
***
夜がやって来て、そしてその夜も明けた頃、アルブム王国の首都レオニスは激しい戦闘によって影も形もなくなっていた。
『くそっ!』
ネビュロスは鎌を振りかざして、真空刃による強烈な攻撃を放つ。
その攻撃をガラハドは避けるが無数の風の刃が襲い、傷だらけになって吹き飛ばされる。
ネビュロスはトドメに入ろうとガラハドに攻撃を仕掛けるが、ヒヨコによる無尽蔵に放たれる<爆炎吐息>が嵐のように飛び交いネビュロスは吹き飛んでしまう。
倒れている間にヒヨコはガラハドに近づいて回復魔法をかける。
「あぶねえ、助かったぜ」
「ピヨピヨ」
ヒヨコは感謝しろよと言わんばかりの態度だが、ガラハドは苦笑しながら立ち上がる。
ネビュロスは体長20メートルくらいの大きさになっていた。つまり約5分の1の体長、体積にして125分の1にまで削られている事になる。
「グラキエスには感謝だな。こいつが無ければ足手まといだった。また会えたら獣王国の皆で感謝しよう」
右拳にはまる神殺しの爪を見てポツリとぼやく。
『グラキエス君もトルテも動きが遅いからネビュロスとは相性が悪いだろうけど、イグッちゃんや青竜女王さん辺りなら多少の傷を覚悟すれば普通に勝ちそうだしなぁ。青竜女王さんと黄竜女王さんがこの大陸から去った理由が分かるぞ』
ピヨピヨとヒヨコはぼやく。
だが、それには大きい代償も想像できる。
これ程巨大な化物を凍らせたり熱したりするとなるとアルブム王国全土の半分くらいが大きい被害を出し、更には近隣諸国、それこそケンプフェルトや獣王国の南部は大変なことになるだろう。
今になってヒヨコは彼らの自重の理由を理解する。ヒヨコがやっとこさイグニスと同じレベルのブレスを手に入れた事で気付いた事実である。ヒヨコは体も小さいし魔肺の許容量も彼らと比べて小さいからこそ、彼らの事情を理解できるようになっていた。
ネビュロスはもはや風前の灯火だった。
(まずい……俺が弱くなっている事もあるが、奴ら無尽蔵すぎるし、何故か逆に強くなって来てやがる)
ネビュロスが思い出すのは、この二者の特殊性だった。
真の勇者
女神の予知を覆す存在。神の理を破りし、運命を超越した存在
調べた事を思い出す。この世界にある勇者と言う存在。
それはこの世界における神をも超越した存在と言う事だ。しかも神殺しの力を備えている武器や魔法まで備わっている。
(俺は勘違いをしていた。弱体化している神を敵に回していると思っていた。人間どもなど最初から眼中になかったし、この世界の神など取るに足らないだろうが慎重に倒す為に勢力図を書き換えようと考えていた。だが、違う!違ったんだ!この神は人類によって盗神アドモスとその七英雄を殺させるためのシステムを構築していたんだ!何故こんな事に気付けなかったんだ!神の理を破りし、運命を超越した存在、それはアドモスさえも越える可能性と言う事だったんだ!とんでもない勘違いをしていた!くそっ!………こいつらを単身で立ち向かう方が間違っていたのだ。せめて眷属達を生かしていれば……)
この時点でやっとネビュロスは失敗に気付いていた。
そして勝てないとはっきりと理解する。次のヒヨコによる黒い炎を食らったら本当に命が危ない。そしてヒヨコはMP回復速度が尋常ではなかった。スキルにも一切存在しないが理解はできる。この世界の人間の魂は魔力が散りやすいが、ヒヨコだけは魂が神以上に固着している。
神格を得ていれば現人神ならぬ現鳥神だったと最初から警戒していただろう。
そう、この世界は神を殺し神を生み出せる世界なのだ。冗談じゃないとネビュロスは彼らに勝利するにはもっと膨大な時間と力が必要だと思いなおす。かの盗神アドモスを上回る莫大な力が。
ネビュロスは余裕があると見せかけるために、作り笑いをして相手の警戒をヒヨコ達に煽りつつ周りを見る。
ヒヨコとガラハドの位置取りが自分の東側に来ていた。
ヒヨコが黒い炎を使う程の魔力が戻ってきていた事も察している。あれは神をも殺す悪魔の炎だ。ネビュロスはそれを知っている。以前いた異世界の主人が使っていたものだ。
それを自在に使うヒヨコなんて聞いた事も無い。むしろ地獄で戦ったら勝てる要素が一切ない化物を相手にしている事実に恐怖さえ湧いてくる。
ネビュロスはその時点でこの二人にこのまま戦っては滅ぼされると確信していた。
『ふっ、我が真の力を見せてやるぞ!』
両手を掲げるネビュロスは盛大に叫び、ヒヨコとガラハドは警戒をする。かつてない動きだ。
ネビュロスはグルンと背を向ける。何をするのかとヒヨコ達は警戒していると、ヒヨコ達から離れるように腿を上げて全力で駆けだす。
ヒヨコ達は何かあるのか?と警戒をしていた。
………
だが地平の奥へと消えて初めて気づく。
「って、逃げるのかよ!ヒヨコよりも潔く逃げやがった!神だろ!あれ!?」
武闘大会で背を向けて逃げるヒヨコを思い出してガラハドは頭を抱える。
「ピヨッ!」
「乗せてくれるのか!?助かるわ!さあ、追うぞ!っていうかマジかよ、あの野郎!神なら神らしく神のプライドを持ってくれよ!」
ガラハドはヒヨコの背に跨るとヒヨコは物凄い勢いで駆けだす。既に悪神の姿は見えない。
だがヒヨコには魔力感知がある。
どこに逃げても逃がすつもりはない。ヒヨコは魔力感知を大きく広げて周りを感知する。
「ピヨヨッ!?」
ネビュロスは気配を消して逃げているが、それを容易に見つけだす。
だが、ヒヨコは同時に違うものも見つけてしまった。それもかなりの数だ。ヒヨコは一瞬だけ落ちた隕石の方を見てから、今はまずあのネビュロスを倒すのが先決だと感じて追いかけるのだった。
***
丸一日かけて全力で走るヒヨコ。背中にガラハドが乗っているが、ネビュロスに追いつこうとしていた。
やがてケンプフェルト領シュバルツシュタットが地平の奥から見えてくる。
ヒヨコはケンプフェルト領に伝えるべく狼煙代わりに爆炎弾吐息を空に打ち上げる。
ケンプフェルトでは騎士団がヒヨコの狼煙だか信号弾だかを見てネビュロスが近いと感じ隊列を組む。
「来たぞ!ネビュロスだ!」
「何としてでも城門には通すな!」
怯え切った顔の騎士団達が街の門前に陣取り分厚く守りを固める。宮廷魔導士達もちらほらと見受けられる。
だが、どう見てもシュテファンが考えたとは思えない程の下策だった。門に入らせまいと中央を固めるような布陣はありえない。何故ならネビュロスの赤い光線は射線上の全ての生物を皆殺しにする。纏まっていたら逃げるに逃げれない。死刑宣告にも等しい壁であった。
出征していたメンバーが見るネビュロスは想定よりもはるかに小さくなっていた。ここまで小さければもしかしてどうにかなるのではないかと言うレベルまで小さいのだ。それこそナベリスやカーシモラルよりも小さい。
追いかけている勇者の1人と1羽がどれだけ奮闘したかが分かる。
だが、近づいてくるネビュロスは赤い光線を使わなかった。
弱って逃げているならば、ただ殺すのではなく少しでも自分に吸収させるべく食いに来るのは当然だった。
帝国軍はそれを想定していた。殺傷能力の高い赤い光線は飛んでこないと。
「来たぞ!全員固めろ!突撃!」
「宮廷魔法部隊、撃てーっ!」
「「「「「「爆炎!」」」」」」
とある一定のラインを越えた瞬間、騎士団長の指示が出て壁として立っていた騎士団は前へと進軍する。さらにラファエラの指示により6人の宮廷魔導士団により火魔法LV8の爆炎の魔法を唱える。
『邪魔だ!』
ネビュロスの前で大爆発が起こる。
これが策だった。ネビュロスの視覚を封じる。
そして兵士たちの目の前の大地が突然大きくえぐられる。
巨大な溝がネビュロスの目の前に出来て、ネビュロスが落ちると誰もが確信した時、ネビュロスはそれを大きくジャンプして飛び越える。
『愚か者どもが。未来予知の能力を持つこの私が貴様らのちんけな策に陥るとでも思っていたか?』
「思ってはいないわよ!魔法部隊、押し返して落とせ!」
「「「「「「灼炎」」」」」」
さらに宮廷魔導士達が正面から大魔法を解き放つ。
「ハナっから力押しで落とす気満々なんだよ!」
宮廷魔導士長が叫びラファエラが灼炎の2ユニット目の魔法を放とうとする。想定よりもネビュロスが小さくなっているため、威力は十分だ。
『バカが!貴様ら風情の小規模魔法がこの私を力押しで……』
キューンと何かが空から近寄ってくる音が聞こえてくる。
「「「「「は?」」」」」
無人の街に凶悪な一撃が大爆発を起こす。更にネビュロスのすぐ目の前に巨大な炎が空から降って来て大爆発を起こす。兵士たちは慌てて逃げるが爆風に吹き飛ばされてしまう。
だがネビュロスの足元が崩れ、そのままネビュロスは数十メートルはあろうかという落とし穴に落ちてしまう。
『俺の予知の外からだと!?』
困惑の声を上げて落とし穴に転がり落ちる。
さらに極めつけ3弾目は無人となっているシュバルツシュタット城に直撃して崩壊していく。
「はい?」
陣幕にいた元ケンプフェルト辺境伯代行だった現皇帝アルトゥルはかつての居城が崩れ行くのを見て唖然としていた。
するとヒヨコとガラハドが追いつく。
ヒヨコはピヨピヨと頭を翼で撫でながら
「ピヨピヨ【みんなに知らせようと合図の為に爆炎弾を空に撃ったのだが、そう言えば落ちる場所を考えていなかったのだ。失敗失敗】」
ネビュロスの持つ予知スキルは未来予知と言うよりは未来予測に近いものだった為、意図を全く持たないヒヨコの爆炎弾は予測できていなかったのだった。
「失敗失敗じゃねえよ!殺す気か!」
「「「「「死ぬかと思ったわ!」」」」」
アルトゥルも騎士団の面々も怒りの声を上げる。主に爆風で吹き飛ばされている人達だった。
***
やばいよやばいよ。ヒヨコはとっても慌てていた。
そう言えばさっき自分たちの存在を知らせるべく空に爆炎弾を撃ったけど、あれ、どこにもセットしてなかった!まさか間違えて人に落ちたりしないよね?
ヒヨコはとんでもない大ポカをしていたのだが、慌てた様子を見せずにネビュロスを追いかけていた。
ネビュロスがシュバルツシュタットに到達した事で戦争が始まってしまう。
魔法の音がどんどこ響いてくるのが戦争開始の音だ。だがやがてキューンと音が響き空から近づいてくる。
「お、おい、ヒヨコ。お前、あれどこに撃ったんだ!?」
「……そ、空?」
ヒヨコの言葉に後輩君は激しく引き攣る。その瞬間町へ落ちて大爆発、さらに攻め込もうとする兵士達とネビュロスの間に落ち、最後の一発は遠くに見えるシュバルツシュタットの城、大陸東部最大の城塞ケンプフェルトを撃墜する。
やっちまった。
ヒヨコは後輩君を背負ったまま追いついてしまったのだが、現地で迎えてくれた皆様の目が白い。
ヒヨコはピヨピヨと頭を翼で撫でながら誤魔化そうと考える。
「【みんなに知らせようと合図の為に爆炎弾を空に撃ったのだが、そう言えば落ちる場所を考えていなかったのだ。失敗失敗】」
「失敗失敗じゃねえよ!殺す気か!」
「「「「「死ぬかと思ったわ!」」」」」
山賊の親分が激怒し、騎士団の皆も大層怒っていた。
ちゃ、ちゃうねん。
山賊の親分も騎士団の皆も怒りの声を上げる。主に爆風で吹き飛ばされている人達だった。
ここは誤魔化そう。そう、悪いのはネビュロスだ。
ヒヨコはピヨピヨと穴の上に近づく。
「ピヨピヨ【見えている落とし穴に落ちる愚かな神め。わが天罰を受けるが良い】」
ヒヨコは落とし穴にヒョコリと顔を出して、唾をネビュロスにペッペッと唾を飛ばす。
「異世界の神を相手になんて嫌な嫌がらせをするヒヨコなんだろう」
誰もがヒヨコの嫌がらせに何故か嫌そうな顔をしていた。なして?
まさかネビュロスなんかに同情をしているのか?
だが、その瞬間、ネビュロスはギラリと目を光らせる。
『愚か者め、油断をしたな!貴様さえ死ねば俺はまだ負ける事はない!エターナルエイジング!』
なんと死にぞこないのネビュロスはヒヨコに対して最後っ屁とも言わんばかりの魔法を仕掛けてきた。
バチバチバチとヒヨコは魔法を食らってしまう。
「ピヨヨーッ!」
ごめんなさい。ヒヨコは調子に乗りすぎてました。
まさかこんな落とし穴があったとは。落としたつもりが落とされている。
「魔法部隊前へ!攻撃だ!ヒヨコは放っておけ!」
「はっ」
誰かが指示を出し、一斉に魔法攻撃を仕掛ける音が聞こえる。
効いていない!?
やばい、穴から出させるな!
悲鳴があちこちに聞こえる。
どうやら作戦は失敗したように聞こえる。
くっ、ヒヨコの体が……体が熱い。骨が溶けるみたいだ。ダ、ダメだ……。
ハッ!
まさか、これは………目が覚めたら子供になっているケース!?
ヒヨコは帝国親善大使ピヨ。黒ずくめの異世界の神様が落とし穴に落ちたのを目撃した。
唾を垂らすのに夢中になっていたヒヨコは反撃してくることに気付かなかった。
ヒヨコはその神様に魔法を掛けられ、目が覚めたら…
体が縮んでしまっていた!
みたいなことに!?
後輩君の声が聞こえてくる。
「一体、ヒヨコに何をした!」
そうだ、何をしたんだ!いいぞ、後輩君、ちゃんと聞いてやって!
ヒヨコは体がだるいので動けません。
『貴様らの魔法で言えば時空魔法・老化と同様のものよ』
老化
確かルークの知識にあった魔法だが、確か体が一時的に老いて体力や運動能力が落ちてしまう魔法だ。
………若返るんじゃないのかよ!
見た目はヒヨコ。頭脳はヒヨコ、名探偵ピヨ!
あれ、変わって無くね?普通のヒヨコやん!お前、空気読めよ!
『だが、我が魔法は貴様らの使う魔法などの比ではない。老いさらばえて死ぬまで老化していく魔法だ。1秒で5メガ倍の時間を過ぎる事になる殺傷魔法よ!即死系魔法が効かなくても我が魔法には様々な…………。』
「………」
5メガ倍?分かりにくい数字が出てきたぞ?1秒で5メガ。
1分で60秒、1時間で3600秒、1日で……
もっと詳しいせつめいおねしゃーす。
とはいえ、もしかしたら鳥になるのかな?
ワクワク………ワクワク………ドキドキ………ドキドキ………
『あれ、何でいつまでもヒヨコなんだ?』
ネビュロスは不思議そうに首を傾げる。
「ピヨヨーッ!」
ヒヨコは慌てて飛び起きる。
『ちょ、お前、ヒヨコにももう少し夢を見せろよ!大人になって鳥になる優雅な姿をご所望なのに!折角、年取る魔法を使ってもらい、鳥になるのを夢見ていたのに!いつまでもヒヨコってあんまりだろ!ワクワクドキドキして待っていたのに!来週からタイトルが魔法の天使クリィミーピヨが始まると思っていたのに!』
「あの、ヒヨコ君。基本的に君らって経験値で進化出来ないと寿命で死ぬ系の獣だから、老化しただけじゃ大人になれないのでは?」
腹黒公爵さんがヒヨコに進言をする。
『そう言えばそうだった!経験値!大きい経験値はどこ!?ヒヨコを鳥にしてくれる経験値は………』
ヒヨコは周りを見渡す。
バチッとネビュロスと目が合う。ネビュロスは露骨に後退る。
「ピヨヨーッ!」
経験値みっけたーっ!
ヒヨコはネビュロスに向かって大きく口を開ける。
『やめ、やめろ!うああああああああああああっ』
ヒヨコの<収束熱線吐息>を吐き、強力な炎がネビュロスの体を引き裂くのだった。