1章13話 ヒヨコはグリフォンの武器である
俺は過去の事をぼんやり思い出す。
神眼の鏡を持つ王国と異なり、獣王国はあまりその手の鑑定技術が盛んではないようだ。
まあ、王国も神眼の鏡は女神教会に3つしかないらしい。なので多くの子供達は成人すると3つある大都市に行く決まりがある。
ルーク時代はそれで大都市に行って勇者という称号を受けて王国に引き取られたのだ。
マーサの夫でありミーシャの父エミリオは間違いなく獣王国に生まれた『真の勇者』の称号を持つ存在だった。
周りの対応からして侮られている感じはあった。
獣人族は己の武の強さを評価されると言う。
重要な存在であるにもかかわらず、部下達から取り残されてしまうように逃亡されたエミリオは間違いなく侮られていただろう。
だが、あれほど強い存在を侮られているという事はあり得ない。王国では能力を隠すのが難しいからだ。鑑定されればおおよその能力はばれる。鑑定がない獣王国だからこそと言えるだろう。
彼は次期獣王として恐れられていても良い存在だったと思っていたからだ。だが、現実は違った。
恐らくだが、従魔士としての力量が強すぎて、本来の実力を見せてこなかったのだろう。もしも彼が他の国にいたらそんな評価を受ける事は無かっただろう。
女神様に教わったのは『命を賭して己のステータスより高い複数の敵に立ち向かい勝利した者のみに与えられる』称号が<真の勇者>であり、向こう見ずなお馬鹿さんへの救済措置として<神眼>や<神託>だけでなく、<勇気>と言う自分より強い相手に立ち向かうときにステータスが大幅に水増しされるスキルや<即死耐性LV10>という致死攻撃を無効にさせるスキルが与えられる。
様々な称号があるが、<真の勇者>の称号は他の称号と比べて膨大なスキルサポートがあるようだ。<真の愚者>なんて野生の勘だけだからやるせない。もしかしたら真の勇者と被っていて新しくスキルが増えても気付かなかっただけかもしれないけど。
とはいえ、今は獣王国の事だ。
うーん、立場が違えばエミリオとは友達になれたと思うんだけどなぁ。
残念な話だ。ピヨピヨ。彼も今頃どこかで俺みたいに生まれ変わっているのだろうか?
………!?
なんだ、俺の思考の中に勝手にピヨピヨが入っているのはどういう事だ!?まさか身も心もヒヨコになっているのではなかろうか!?
これは俺の人間としての危機である。
さて、現在の俺達は行列に並んでいた。
どうも先には大きな橋があって前に進むのを待っている状態にあるらしい。後方から人が来る様子は見当たらない。もしかしたらこの行列の後の方なのかもしれない。とすると、王国軍が後ろからやって来るのも近いかもしれない。
やばいよやばいよ。
もしかして、俺が起きるのを待っていたからかな?だとするとなんだか申し訳ない気がする。早く進まないかなぁ。
すると暫くして行列の向かっている方からぞろぞろと鎧を着こんだ狼人族の人達が現れる。
「ここが最後尾か?」
「分かりませんが、今のところはそのようです」
答えるのは集落の警備をしていた男達。
「あー、狼の小父さんだー」
「こ、こら、ミーシャ。失礼でしょう」
ミーシャは母親と手を繋いで歩いていると、ゾロゾロとやってきた男の一人を指差して口にする。マーサは慌ててミーシャの口を手でふさぐ。
「魔物やグリフォンが見かけるから何かと思えばミーシャか。猫姫殿も久しいな。石化毒で倒れたと聞いて心配していたが体の方は大丈夫か?」
その中の一人、狼人族の男が足を止めてマーサの方を見る。
「ええ、この通り。でも、猫姫はお辞めください。籍は残れどもはやただのマーサでしかないのですから」
マーサは畏まって狼人族の男に頭を下げる。
俺が首を捻り狼族の偉い人なのだろうかと首を捻って思い出そうとする。
ピヨピヨッピヨー
思い出しました。そう、三勇士の蚊の人だ。チョロチョロして動きが早くて厄介だったのを覚えている。
俺が必至に思い出そうとしているさなか、彼らは彼らで話をしていた。
「ピヨちゃんが治してくれたんだよ」
マーサと狼人族の男が会話を割り込むように、ミーシャが俺の首に抱き着きながら自慢するように口にする。
「ぴよちゃん?」
「ピヨ?」
胡散臭いものを見るように狼人族の男は俺に視線を向ける。どうやって?と首を捻ってマーサに訊ねるのは仕方ない事だった。ヒヨコが病気を治すなんて俺も聞いた事が無い。
「その子が私に神聖魔法を使ったら体から全ての毒素や呪いが抜けたんです。どうも聖鳥の類のようで……祖父でもその種族が分からないと言ってました」
「グレン殿でも分からないと言うとよほど希少な魔物なのだろうな」
「人の言葉が分かり、従魔にしてないのにミーシャの面倒を見てくれているので」
「って、従魔にしてないのか!?」
狼人族の男は少し驚いて俺から距離を取る。失礼な奴である。こんな善良なヒヨコに向かって。
ミーシャは「ピヨちゃんは良い子だから心配ないよー」とフォローしてくれるのだが、あまり効果は無いようだ。
実際、魔物を従魔にせずに懐かせる例を俺は聞いた事が無い。
怖がるのは仕方ないだろう。
「まあ、ミーシャもエミリオに似て、魔物を従魔にしてないのに懐かせたりする所があるので」
「エミリオか。…………俺はあれからずっと気になっていたのだが、奥方はご存じだったのか?アイツの真の実力を」
狼人族の男はマーサさんに神妙な顔つきで訊ねる。だが、マーサ自身は首を横に振るだけである。
「あの人が私よりも腕がたつのは知ってました。元々巫女姫様の元でお会いして、決闘騒動を起こしてしまいそこで手加減されたうえで負けたのですから。とは言え、祖父に猫王の地位を渡されてからはその力を見る事が無かったので。ただ、今思えば………祖父がそのステータスを把握できず獣王様は知っていたかのように何の力の評価もせずに三勇士の一人として迎えられている以上、三勇士に相応しい力はあったのだと思います。ただ、あの人は優し過ぎたので」
「まあ、猫姫殿はそれが良かったのだ…ゴフゥッ」
狼人族の男が茶化そうとした瞬間、マーサさんの拳がヒヨコの目でも辛うじて見える速度で、狼人族の男の鳩尾をに叩き込まれる。
誰も分からなかったが、狼人族の男は腹を抱えて、脂汗をダラダラと流し、死にそうな顔をしていた。
「………びょ、病気で伏せっていたと聞いていたが……拳聖と呼ばれた実力は未だ健在か……」
「あらあら、うふふ。何の事かしら」
マーサさんはとぼけているが、神眼は誤魔化されない。
優しいお母さんだと思って侮っていたが、かつて勇者時代に前に立ち塞がったおっかない鎧のお姉さんだったのは既に判明しているのだ。
くわばらくわばら。
「狼の小父さん、どうしたのー?お腹痛いなら薬草食べると良いよ。苦くて不味いけど」
マーサさんの拳が見えなかったミーシャは不思議そうに狼人族の男を心配して背中をさすってあげる。
「ふ、し、心配は無用だ、ミーシャよ」
狼人族の男は青い顔して上体を起こし虚勢を張る。
「これでもかつてはお前の父と肩を並べ三勇士だった男だ。そう簡単にくたばったりはしない。多分」
「強いんだー」
ほうほうと納得しているミーシャ。
「勇者にとっては単なる蚊と同じ扱いの哀れな犬コロかも知れぬが………………………ふふふふ、三勇士なんて口先だけの雑魚かもしれないけど……」
何故か狼人族の人は何かを思い出したかのようにするや否や、ブツクサと小言を口にして勝手にいじけ出す。
強い事に何かトラウマでもあったのだろうか?
口ぶりからすると三勇士は解散されたようだが、今の獣人族はどのようになっているのだろう。謎である。
「ところで狼王陛下。この先はどうなってますか?進みが遅いようですが」
「吊橋の所で詰まってしまっていて時間が掛かっている。獣王様と勇者の戦いで出来た谷底を渡るのに苦心しているあそこさえ渡れば、前回の戦争ではそこを越える事が出来たから我らは王国軍から身を守れたのだが、今はそこがネックになっている」
「あそこですか」
ああ、思い出した。そうだ、アルベルトが「獣人族は皆殺しにしろ」とか言って騎士団の連中を煽ってたから、獣王が派手な攻撃で穴をあけているのを見て、俺もそれに乗って山の端から帝国領付近まで大地をぶった切って作った谷か。
あれで事実上、獣王国への侵攻が不可能になったんだよな。
なるほど、今は逆に逃げる為に橋を渡るのがボトルネックになっているのか。
三年の不可侵条約で再び獣人族は元の土地に戻ったせいで、今度はその谷を越える立場になった訳か。
ちょっと厄介だな。戻っていなければ問題なかったのだが、さすがに故郷に戻るか。逆に言えばそこを超えれば王国はこれ以上の侵攻は不可能ともいえるだろう。
グリフォンでも使って渡らせれば良いのだが。
というか、既に獣王国の首都付近に、ここに逃げている獣人達は分断され済みだったわけか。
なんだか申し訳ない。でも共同開発者はオタクらの元ボスなので恨むならそちらにお願いしたい。
俺は小さく溜息を吐いてから、チラリとグリフォンを見るとグリフォンは知ったこっちゃねえと言わんばかりにミーシャになついており、暇なのか俺を嘴でピシピシ突いてくる。
「ピヨッ!」
俺はグリフォンに反撃を試みるが、グリフォンはヒラリとかわして鼻息で俺を空を舞わされてからくるくる回転して着地しつつもそのままピヨコロリと地面に転がる。
くっ……何て強さだ。
いや、俺が軽いだけなのかもしれないけど。その内、鼻息で空も飛べそうだ。だが、俺も鳥のはしくれだ。グリフォンからの鼻息がこの身に吹かなくても、きっといつか自由に空も飛べるはずだ。
とはいえ、今はしがない一介のヒヨコである。グリフォンに屈しても、致し方ないのだ。負けを認めた訳ではない。いつか倒してやるのだ。必ず、きっと、多分、おそらく、その内、
…………………べ、別に負けなんて認めた訳じゃないんだからね。
あれ、おかしいな。何か負け犬っぽくなってる。ヒヨコなのに。
負け犬は奴なのに。
俺はチラリと狼人族の元三勇士さんを一瞥する。
「何故だか一瞬あのヒヨコに蔑まれたような視線を向けられたような気がするんだが…」
不思議そうに狼人族の男が俺を見る。たしかウルフィードさんだとか言っていたような気がする。
それにしても危ない。負け犬呼ばわりしているのを察知されるとは、きっと奴も野生の勘があるに違いない。という事はもしかして真の愚者だったりするのか?
むむむむむ。
何でだ!?奴のステータスには野生の勘があるのに、真の愚者が無い……だと。そんな馬鹿な。
真の愚者になって初めて野生の勘が手に入るのではなかったのか!?
いや、待てよ。そういえば俺は魔物もそういうのを持っていなくても野生の勘がある奴もいた様な?
くっ…………
そういえばヒヨコブレインは日々多くの内容が詰まるようになりつつあった。レベルアップで賢さが上がっているからだろう。ヒヨコから進化するにはレベル上限に達しなければならないのだから。
神眼でステータスを見るにレベル上限は50.恐らくそこを越えればヒヨコから鳥になるのだろう。
レベル50までの道のりは長いけども。
俺は一人………ではなく一羽で未来を思い描き黄昏れていると、どんどん行列が進んでいく。いつの間にかおいて行かれていたのでそれにピヨピヨついて行く。
そんな俺に何か遠くでヒヨコセンサーに引っ掛かる感覚があった。
「ピヨッ!?」
俺が不思議そうに後ろを振り返る。だが、特に何も無いようだった。
だが、数秒した後、ピクピクッと狼人族の男の耳が動く。
「人間の部隊が近づいてきている!?背後を気を付けていた筈だが……まさか…」
大きな丘と丘の間を行列が前へと進んでいる中、突然、矢が降り注いで来るのだった。
悲鳴が上がりあちこちで混乱が起こる。
「ミーシャ!」
マーサさんは慌てて娘を抱きかかえるが、俺は左側から降り注ぐ矢を<火炎吐息>で焼き落す。右方向から降り注ぐ矢をグリフォンが<咆哮砲>で吹き飛ばす。
「ピヨ」
「グルル」
俺とグリフォンは目配せをして互いに左右を睨む。
「兵士たちは避難民を守れ!何としてでも守り切るのだ!」
ウルフィードが連れてきた兵士たちは避難民の行列を守るように左右に配置し、それぞれが盾を構える。次々と降り注ぐ矢の雨から必死に守る。だが、あまりにも凄まじい矢の攻撃に防御しきれなかった。
あちこちから悲鳴が上がる。それでも必死に守ろうとしていた。
「グルルルルルルーッ!」
するとグリフォンが翼を何度もバタつかせて凄まじい暴風を呼び込む。あれはグリフォンの持つスキルの一つ<暴風壁>だ。従魔士などがいれば指示をして使わせる事もあるが、自分から使うのを見たのは初めてだ。基本的にグリフォンは守るより攻撃する方が好きだからだ。
しかも器用に獣人の行列に干渉しないような繊細な暴風である。
このグリフォン、侮れぬ。
「このまま橋を渡れば逃げきれる!負傷者がいたら支えて北へ逃げろ!」
ウルフィードが指示を出し、矢で射られた避難民を矢から免れた避難民が肩を貸して逃亡を開始する。ノロノロであるが行列は動き出す。
グリフォンの<暴風壁>を抜いて来る矢を俺が<火炎吐息>で焼き飛ばす。
急いで前へと進むのだが、やがて獣人達が一つの場所でたくさんいる丘へとたどり着く。地の底へ続くような巨大な谷があり遥か下には川が流れているようだ。
俺と獣王が戦いの末に作られた巨大な溝である。
獣王国軍を倒したものの、俺達はこの溝が出来てしまった為に、行軍不可能な状況になったのだ。というか、既に自然と一体化してただの谷が渓谷になっていたのね。
これが出来た時点で俺達勇者の軍は帝国へと移動する事を決意しているので、恐らくここを越えれば逃げ切れるはずだ。
俺が目撃した三勇士の主力軍を退けた後に王国軍は酷いものだった。
獣王国領での侵攻は目に余るものだったからだ。俺は止めようとしたが王国軍の侵攻には食料調達が不可欠で、騎士達は獣人達の集落を襲撃せざるを得ないという説得に反対できなかった。
どのくらい酷かったかと言えば、怒り狂った獣王が本国からこんな南方まで出征するほど。
これ以上、獣王国を滅ぼさないよう、俺は獣王と共に通れないような道を作る事にしたのだ。
獣王もそれを察してわざと大振りな攻撃で地形を無茶苦茶にしたのだ。
ある意味で、俺と獣王の共同作業という訳だが、正直新婚さんのケーキカットみたいで気持ち悪いけど。
俺達がカットしたのは大地である。
まさか、あの時カットした溝が、今、俺達の逃亡を妨げる場になってしまうとは思いもしなかったが、ここさえ超えれば後は逃亡は完了するとみていいだろう。
そんな事を思い出していると、こちらに押し寄せてくる王国軍が見えてくる。
王国軍は橋に集まる避難民を取り囲むような布陣でじわじわと近づいてくる。慌てて先に進ませようとして
「ミーシャ。良い。貴方はグリちゃんと一緒に溝を渡りなさい」
「おかーさんは?」
「お母さんはまだやる事があるから、ミーシャだけは先に渡りなさい」
「でもぉ……」
ミーシャは心配そうに母の裾を掴んで上目遣いで見上げる。
「大丈夫。ピヨちゃんもついて行ってあげて」
「ピヨ?」
何故俺に話が飛び火するのかな?と思ったら
「グルルルルルーッ」
グリフォンは翼をはためかせると両前脚で俺とミーシャを掴むと空を飛ぶのだった。
「ピヨーッ!?」
「わわっ」
俺とミーシャはグリフォンに捕まれて空を輸送される羽目になるのだが……王国軍は抜け目が無かった。
「グリフォンを逃がすな!撃てーっ!」
凄まじい数の火の魔法が下から飛んでくる。
「グルーッ」
グリフォンはミーシャを抱えて必死に守るのだが、俺はほったらかしですか?
いや、まあ、彼らが撃って来るのは炎の魔法なので炎熱耐性のある俺はダメージ受けないんだけどさ。
「ピヨーッ」
俺は魔法を撃ってきた方向に<火炎吐息>を集中させて放つ。俺の嘴から放たれた炎が王国軍の魔導師を吹き飛ばす。
「ピヨピヨピヨ」
ヒヨコにピョコピョコ当てた罰である。
「グルグル」
するとグリフォンはミーシャを抱え込んだまま、俺に何かを指示するように嘴で頭をつついてくる。炎に撃たれてフラフラの癖に、どうやら俺にもっと反撃しろとおっしゃっているらしい。
無論、今は勇者でなくただのヒヨコである。
王国軍の横暴は許さない。神様公認の天罰である。
「ピヨピヨピヨピヨーッ」
嘴から<火炎吐息>4連撃。遠く離れた場所からこちらに攻撃してくる魔導士団に着弾し、なんだか凄いパニックになっていた。
フハハハハッ!ヒヨコ、なめんなよ、ヒヨコ!
「ピ~ヨピヨピヨピヨ!ピ~ヨピヨピヨピヨ!ピ~ヨピヨピ、ピヨヨッ!?」
俺が三段階高笑いをしているとグリフォンは俺の脳天をバシバシと嘴で突いてくる。
このグリフォン、ヒヨコ使いが荒くないか?
もっと撃てと命じているようだ。
なので俺は命令に従いヒヨコ大砲に早変わり、ピヨピヨと一生懸命に炎の弾丸を嘴から放つ。
王国軍は大楯を持ち、重装甲兵を先頭にずんずんと囲みを狭めていく。獣人達の兵士たちは必死に避難民を守るように戦い、終には大規模な戦端が繰り広げられる。
とはいえ獣王国の兵士たちは非常に少数であるが王国の軍は完全に全勢力を向けているようで、どう見ても多勢に無勢ではあるが。
魔法に焼かれてフラフラしながらもグリフォンはどうにか向こう岸に辿り着く。
「グリちゃん大丈夫?」
ミーシャは心配そうにグリフォンの様子を見る。
俺視点からすると結構元気だと思うけどな。炎の息を辞めるたびに催促するように人の頭をつつきやがって。
でも、体中が火傷をしておりダメージはかなりありそうだ。そういえば獣系って炎の魔法に弱かった覚えがある。俺は炎を食らっても大丈夫だが、グリフォンはかなりダメージがあったのだろう。ミーシャを守りながら必死に飛んでいたようだ。
回復魔法をかけてやりたいが、戦争になりかけている現状を見るに、迂闊に死にかけている訳でもないグリフォンに貴重なMPを使う訳にはいかない。
橋は行列が出来ていて物凄い人数が渡り続けている。それでも避難民はまだまだ逃げる事が出来ない。
この命綱とも言うべき橋を王国軍は攻撃してこないとなると、恐らくはもっと攻め込む必要があり橋がなくなられては困るのだろう。谷側から多くの兵士を回して、橋を確保しつつ逃げようとしている避難民を確保しようとする動きがみられる。
マーサは最近まで寝込んでいたというのに必死に王国軍から獣人避難民たちを守っていた。
というか、やはりマーサさんは強かった。王国の戦士のレベルは30を越えれば良い方で大半は20中盤くらいだ。
だが、三勇士やマーサクラスはレベルにして50を超えて来る。対してエミリオは125、獣王アルトリウスは105とある。
無論、実力とLVは比例しない。実際、エミリオよりも獣王の方が強かったからだ。エミリオのレベルは戦闘力+従魔士という二つが足されていたからだろう。
勇者である俺からしても、獣王国は化け物だらけだったと言えるだろう。
俺は盾を持っていたが仲間を守る為で、自身で戦うだけの時は防御なんて必要が無かったのだ。間違いなく獣王国の上位陣は強い。それは俺も保証できる。
だが、………あの数の暴力を前に果たして保つことができるのだろうか?
1万を軽く超える軍勢が雲霞のごとく丘の下から湧いてくるのだから。