6章26話 兆し
撤退したシュテファン達はケンプフェルト領シュバルツシュタットに到着する。
アルトゥルへは既に知らせて作戦会議をする事を告げており、町の東にある陣幕に人を集めていた。帝国騎士団は直に戦争に出る準備を整えていた。
「体長100メートルの巨大な死神。武器は背丈ほどの鎌。空から隕石を落としてもダメージがほとんど受けず、逆に無数の隕石を落として来る上に鎌を一振りで辺り一帯の山々を薙ぎ払う…ねぇ」
報告を聞いて思わずため息をついてしまうのは帝国皇帝アルトゥルであった。
ギュンターは報告に来ているラファエラに問う。
「巫女姫殿は?」
「多くの宮廷魔導士団と騎士団と共に巨大な隕石の落ちた直下にいた。恐らくは……」
ラファエラが首を横に振る。
「ヴィンとモーガン、それに獣王陛下が残って足止めに徹すると言っていたが……大丈夫か?」
アルトゥルは心配げに生き残って戻ってきたメンバーを見る。
生き残ったメンバーは合計100人ほど。
主要メンバーである銀の剣からはシュテファンとユーディット、宮廷魔導士隊からはラファエラ、親衛隊からはラルフ、騎士団からはカール、獣王国からはロバート、マキシム、マーサ、ミーシャが作戦会議を開く皇帝の前にやってきていた。
ステラとその周りにいた3000程の騎士団や宮廷魔導士部隊、親衛隊、獣王国の戦士達は全滅とみていいだろう。
出征した3000程の部隊は100人程度しかここに戻ってはいない。獣王国のメンバーもかなり厳しい状況だった。
「くそっ!足止めは俺の仕事だってのに!ガラハド陛下を置いて逃げる事になるなんて!」
拳を地面に叩き付けるマキシム。
ロバートも悔しそうに俯いていた。
彼らは隕石の魔法の余波で吹き飛ばされ、命こそ拾ったが気絶していた。
寝ている間に撤収部隊に拾われてここに来たのだ。
「モーガンもヴィンも馬鹿じゃない。獣王陛下は何としても生かして返すでしょう」
シュテファンはそう言って彼らの嘆きを取りなす。
アルトゥルは周りをきょろきょろと見る。
「そう言えばヒヨコは?」
「……巫女姫殿を探していた。………現実を受け入れられていないかもしれない。撤退に忙しく説得する暇もなかった」
逃亡してきた面々は沈痛な面持ちで俯く。
「こっちでは天変地異が起きていると大騒ぎでした」
アルトゥルの横に控えているギュンターがこちらの状況を軽く説明する。
隕石魔法も見えるし、さすがに遠いにもかかわらず轟音が響き、何度も落ちるので隕石を空で目撃した者もちらほらいた。
だが、実際には獣王国と帝国も、眷属を倒し意気揚々と攻め込んだが、結果は惨憺たる結果だった。
するとズウウウウンとはるか遠くで何かが落ちたような震動が起こる。
まだ遠くで戦闘中である事が分かる。シュテファンはモーガンやヴィンフリートが無事かどうかを想い、唇を強くかむ。
「惨敗か」
「だが、俺達は戦わなければならない。勝つしかないんだ」
アルトゥルは溜息を吐くが、シュテファンは周りを見渡し強い言葉で言い切る。
「しかしローゼンハイム卿。どうやって勝てと?天変地異のような攻撃を受けてもダメージを受けないなどありえない話だ」
カールが訴える。国で最強の剣士だった男だ。その男からしても絶望的だと訴えてしまえば誰もが沈黙せざるを得なかった。
おそらくはこの言葉こそが他の騎士や兵士たちの代弁でもあるだろう。
「ラファエラ殿下。魔法の手ごたえはどうだった?」
シュテファンはラファエラに訊ね、ラファエラは首を横に振る。
「分からない。足止めにはなっていたからそれなりにダメージは通ったように感じたわ」
「それなんだが、あの威力の隕石による攻撃よりも風の魔法の方が効いていたのではないか?」
「!?………言われてみればそうね」
ハッとした様子でラファエラはシュテファンを見る。
「あれほどの威力に差がある攻撃なのにダメージのほどは大差ないというのはおかしい。物理が効きにくいという部分は察していたが、眷属同様実体は影であり物理は効かないのではないか?隕石による衝撃波、落下による爆風によるダメージが通ったが、もしかしたら火魔法なんかの方がよほど効く可能性がある。ヒヨコ君を脅威に感じていたようにも思えるし」
「確かに悪神の眷属も火魔法が最も効いていたわ」
ラファエラは腕を組み思い出す様に頷く
「………獣王国ではそういう傾向が分からなかったからな。グリフォンの咆哮砲を最も嫌がっていたし風系が効くのではないかと言う推察はあったが」
シュテファンは獣王国ではそこまで相手の弱点を見るようなことは出来ていない事を告白する。
逆に帝国はどうだったのかと気にはしていた。
「そうですね。獣王国は魔法使いがいませんから………。むしろ弱点を探していた感は否めません。帝国の掴んでいる情報を元に戦った方が良いでしょう」
マーサは皇帝の方を見る。皇帝もそれに対しては強くうなずく。
「ヒヨコ君以上に炎系に長けた者はいないのが痛いな。……今になって女神がどうしてヒヨコ君に戦うように言ったのか理解した……。あれは、ヒヨコが天敵だったんだ」
シュテファンの言葉は真をついていた。
「とはいえ、今、居ない者に頼る訳にもいきません」
ギュンターの言葉にラルフも頷く。
「火魔法LV8<灼炎>の合成魔法はどうなってますか?」
ラファエラは宮廷魔導士長に訊ねると、宮廷魔導士長は頷き
「殿下と私でそれぞれユニットを組めば、2ユニットは使用可能です」
「たった2ユニットでどこまで可能かは分からないけど、削る手立てはあるって事よね。マジックポーションを使い、削るだけ削りましょう。弱点を見つけ次第、私やローゼンハイム卿の神殺魔法で核を破壊する」
「魔法部隊が切り札になるが、陸戦部隊も獣王国の精鋭のように攻撃に衝撃波を纏える者達は足止めに出て貰うしかないだろう。住民の避難は9割は完了している。この町の前の荒野を決戦の舞台にしよう。叔父上を最後に列車による避難は終了だ。皆、死力を尽く…」
きびきびと指示を出し始めるアルトゥルだが
「陛下も避難ですよ!」
ギュンターは目を吊り上げて自分の主を睨みつける。
「俺が逃げる訳にはいかんだろう。エレンには帰ってこれなかったらお前が帝国を纏めろと伝えてある。アイツは帝国最強の肩書があるし騎士団に顔が利くからな。ここで負けるような事があれば、力がモノを言うようになる。そうすればどちらにせよ逃げた皇帝よりもエレンの方に求心力はいくだろう。そうなれば俺は生きている意味がない。ここで最後に堪える役目は皇帝の仕事だ。ここで俺が死ねば帝国も死に物狂いで戦う者も少しは出るだろう」
アルトゥルは普段からふざけた態度をとってはいるが、多くの弟妹達が最も皇帝に相応しい人柄と認める男である。
その事実を騎士団達は改めて思い知らされるのだった。
「すまんな、ギュンター」
アルトゥルは苦笑してギュンターに謝罪をして、それから周りを見渡す。
「剣術LV5未満の衝撃波を繰り出せない者達は避難民の退避をし、列車を最後に撤退せよ!我らは最後の砦となる!」
全員が覚悟を決めた顔で立ち上がる。
皇帝がここまで覚悟を決めているのに、貴族や騎士、軍人が逃げる訳にはいかないと腹を括るのだった。
***
時は戻り、撤退戦をしていた頃のヴィンフリート、モーガン、ガラハドの三人はネビュロスの前を立ち塞がっていた。
撤退するグリフォンや魔物達を追わせないよう攻撃をしようとするネビュロスの邪魔を徹底して行う。
『ちっ、邪魔な小虫が』
ネビュロスは忌々し気に三人を見る。
逃げる蠅とたかる蠅どちらに気を取られるかと言えば、たかる蠅である。
ぶんぶんと邪魔な足元から攻撃を飛ばして来る虫けらを払おうとしている間に、ミーシャの使役する魔獣達は地平の奥へと帝国軍や獣王国軍の面々を乗せて逃げていた。
そのぶんぶんと払おうとするだけでも、飛んでいる魔物達が風に負けて落ちたりして多くの被害を出しているのは事実である。
3人は足止めをすべく必死に気を引けるよう攻撃を仕掛けていたからこそ、この撤退戦は成功したと言えるだろう。
ヴィンフリートの炎の剣がネビュロスを襲い、チリチリとわずかだがダメージが入っていた。
モーガンが<咆哮砲>でネビュロスに攻撃をしてネビュロスは軽くガードをする。それなりにダメージはあるようだが、炎の方が効いているらしいと感じていた。
「拳の衝撃波はあんまり効いてねえな、やっぱり」
ガラハドは悔し気に顔を歪める。衝撃波をぶつけてはいるが、これも風に分類されるため、モーガンの<咆哮砲>と大差ないと感じる。
『邪魔な奴らめ』
ネビュロスは黒い鎌を振ると空気を切り裂き凄まじい衝撃が大地を走る。
攻撃に対して3人は慌てて逃げる。
3人は走って攻撃の当たらない場所へと逃げつつ、衝撃波による攻撃を放つ。気を散らして時間を稼がねばならないからだ。
「……ったく、弱点なんて無いんじゃないか?」
「いや、一つだけ疑問があるのだが」
モーガンは右腕を失ったまま左で斧を持って走り回る中、ヴィンフリートが口にする。
「何がだ?」
「あの鎌での攻撃にせよ、赤い光線にせよ、確かに木々を塵に帰すような威力があるのだが、大地が抉れない?」
「そう言えば…」
モーガンは走って周りを見る。
「破壊規模は黒い光線と比べて小さいが、殺傷能力が高い。赤い光線はどうも物理干渉力が低いんじゃないか?」
ヴィンフリートの言葉にモーガンはすとんと腹に落ちる気がする。
賢いのも強いのもシュテファンで、ヴィンフリートは剣と魔法がどっちらも一流レベルにあるだけの器用貧乏だ。それでもヴィンフリートが頼られていたのはシュテファンに次いでいろんなものをよく見えているからだ。その能力は時にシュテファンをも上回る。最後にこの場で弱点を探り切って………
獣王陛下に託して未来を繋げる。その覚悟を持って臨んでいた。
「まだまだこっちは死んじゃいねえぞ!ネビュロス!」
ヴィンフリートは炎の剣を振るいネビュロスに攻撃を仕掛ける。大して威力がある訳ではないがネビュロスの視線がガラハドからこちら側に移る。
だが、直にガラハドが拳による衝撃波を放ってネビュロスの気を引かせる。
ヴィンフリートは疑問に思っていた。
大地の色が砂漠のように荒野にはなっているが、大地そのものはえぐれていない。
あれほどの威力があるならば、噂に聞く獣王と勇者が戦った時のように谷が出来てもおかしくない。山が死の山のように木々が滅しているが、山そのものを吹き飛ばしても疑問を持たないが、そういった事は無かった。
「魔法によって隕石を落としてはいたがそれ以外でこの大地はどうだ?」
「魔法で破壊の限りを尽くしてはいたが、奴自身の攻撃によるものは直接的な干渉がない」
モーガンはモヤッとする影のような敵に対して<咆哮砲>を吐きながらネビュロスの攻撃から走って逃げる。
自分達にとって蜂が周りにブンブンしてたら厄介なのと同じだが、攻撃力は残念ながら人間に対する蜂程の威力は無さそうだ。だが蜂でなく蠅であってもうざいのは同じことだった。
何処までもこのネビュロスを煩わせてやろうと3人は決死の覚悟で戦う。
するとネビュロスから赤い光線が放たれる。
ヴィンフリート、モーガン、ガラハドの3人は慌てて飛び射線から逃れる。一撃で大地を荒野に変え、大地に住まうあらゆる命を消し飛ばす凶悪な威力を要していた。
だが、隕石の周りをうろうろしていたヒヨコに攻撃が直撃してしまうのだった。
「ピヨッ!」
ポテッとヒヨコが地面に倒れる。
「ピヨヨーッ!【何するんだ!ヒヨコはご飼い主を探しているのだから放っておいて欲しいのだが!】」
ピヨピヨとヒヨコが抗議する。
この修羅場の状況で呑気に人探しをしているヒヨコがいた。
あまりの事にモーガンとヴィンフリートも唖然としていた。こんな時に人探しかよ、とツッコミたい所だけは堪える。
ガラハドはヒヨコの呑気さに呆れてしまうが真実を口にする勇気はなかった。
もう巫女姫殿は死んだのだ、などとは。
***
ピヨピヨ、本当にステちゃんはどこに行ったのだろうか?さっき皆で逃亡した時もステちゃんは見当たらなかったのだ。
ヒヨコアイから逃れるとはどういう事?
ヒヨコの神眼が衰えたのかもしれぬ。所詮、駄女神のやる所業だからな。
なんだか目の前のネビュロスがヒヨコを見下ろして偉そうなことを口にする。
『小鳥風情が……見て分からぬのか?』
ヒヨコを嘲笑うかのようにネビュロスは見下ろしていた。
なんて生意気な、ヒヨコを見下ろすとは。まるでヒヨコが何も分かっていないヒヨコみたいじゃないか。
ヒヨコの中のプライオリティ的に、お前の様な奴を殺すよりステちゃんを探す方が重要な任務なのだが。
するとネビュロスは周りを見渡すように手を広げ
『もはやこの大地に立っているのは私とそこの3匹の小虫とお前しかいない。その事実を理解するが良い』
と一人で勝手に語る。
「ピヨヨッ!?」
ヒヨコは目を丸くして周りをきょろきょろする。
ダレモイナイ?
ヒヨコは前を見る。誰もいない。
ヒヨコは右を見る。誰もいない。
ヒヨコは左を見る。誰もいない。
ヒヨコは再び右を見る。やっぱり誰もいない。
では横断歩道を渡ろう。ピヨピヨ。
……………いや違う。何だ、横断歩道って?
ヒヨコは後ろを見る。誰もいない。
ダレモイナイ。
『分かっただろう?お前の飼い主とやらは死んだという事だ』
………ピヨピヨ?
死んだ?ステちゃんが?
ヒヨコは俯きプルプルと震える。何故か目から水が流れて来る。意味が分からない。
シンダ?
殺された?
誰に?
目の前のネビュロスはまるでヒヨコの反応を楽しむかのように嗤っていた。
「ピヨピヨ【つまり…………お前如きがヒヨコの飼い主を害したという事か!】」
ヒヨコは怒りに震える。ステちゃんが死ぬなんてある筈がないのだ。
ステちゃんはトルテと約束をしたのだから。長寿種族だからいつでも会えると。最後の別れではないと思っていたのだ。
「ピヨヨーッ!【ステちゃんはヒヨコの母ちゃんになってくれるかもしれなかった飼い主だぞ!】」
ヒヨコは体に炎を纏っていた。
怒りによりヒヨコの魔肺がオーバーヒートし始めていた。
抑えようと思っても抑えきれない怒りがヒヨコの足元を焦がす。ヒヨコが怒りの炎に包まれる。流れる涙は即座に蒸発する。
「ピヨピヨ、ピヨヨッ!【もはや許さぬ!ピヨピヨしてやる!この駄神がーっ!】」
ヒヨコの<灼熱吐息>がうなりを上げる。
近くにいたイケメンオークさんと種馬皇子さんが慌ててヒヨコから距離を取る。
「効くか!この程度の炎が!」
ネビュロスは炎を払いながらも赤い光線を目から放ちヒヨコを襲う。
赤い光線はジュッとヒヨコに直撃する。
………
『え?』
「ピヨヨ?」
ネビュロスは赤い光線がヒヨコに当たったのにヒヨコが無傷なのに驚く。
ヒヨコは何か飛んできたけどなんだったのだろうかと考える。
さっきもなんかポムッ押された感じがして驚いて怒ったが……。
お互いにきょとんとしてアレレ?と言った感じで首を傾げる。
『<地獄業火>』
ヒヨコはそこで間髪を入れず火魔法LV10を発動する。魔肺による活性化の力も加わり、あっという間に火魔法LV10が溜めもなく黒い炎となってネビュロスに襲い掛かる。
ネビュロスは右腕でヒヨコの黒い炎に対する防御態勢に入る。
黒い炎がネビュロスに食らいつき一気に腕を燃え上がらせる。
まるで黒い炎が竜のようにネビュロスの右腕に巻き付き食らいつくそうとする。
『グアアアアアアアアアアアアッ!』
悲鳴を上げるネビュロスは即座に右肩を切り落とす。
「ピヨピヨ【後悔させてやる。ヒヨコは貴様を許さない】」
ピヨピヨと鳴きながらネビュロスを見上げる。
ネビュロスは右肩を抑えながら、初めて恐怖を感じているかのような絶望的な表情をしていた。
『くっ……くそっ…何故だ。何故、あらゆるものを殺す俺の赤き極光が効かない?たかが鳥の雛だろう?』
ネビュロスはヒヨコを睨みながらもヒヨコへの対策を練っているようだった。
その言葉に後輩君はハッとする。
そう言えば後輩君も赤い光線を拳で叩き落していた。
真の勇者の称号を持つと同時に手に入るスキルがある。勇気と即死耐性LV10というスキルである。あらゆるものを殺す、逆に言えば殺す属性を無効にする真の勇者は耐性がある可能性がある。
その言葉に後輩君は指をくわえて口笛を吹く。すると遠くに待機していたグリフォンが空を走ってやってくる。
「モーガン殿、ヴィンフリート殿、逃亡したメンバーの所へ合流して伝えてくれ。ここは俺とヒヨコが受け持つ!あのグリフォンはミーシャから預けられていて、逃げる時用の切り札だ」
後輩君はやって来たグリフォンに二人を避難するように命令を出す。
「し、しかし、……」
「こいつの天敵は勇者だ。俺達には即死系攻撃は効かない。ヒヨコにもな。俺ならヒヨコが攻撃する際の溜めをフォローできるし、ヒヨコは俺に無い魔法がある。アンタらじゃ赤い光線は一撃で死ぬだろうが、俺たちなら戦える!」
肩を抱えて苦しんでいるネビュロスを見ながら後輩君が断言する。
「……勝てる可能性があるって事か?」
「俺達は足手まといか?」
「足手まといではないが、勇者だけの方が思い切りやれるし、ヒヨコのブレスの気にする範囲も少なくなるはずだ」
「ピヨピヨピヨピヨ【よく分からんが、ヒヨコはあのネビュロスにピヨピヨするのに忙しいので帰って貰って構わんぞ。時間がかかりそうだ。ヒヨコの魔力が尽き気味でな。こんななら腹黒公爵さんや残念皇女さんに魔力を分けてやらねば良かった。町へ帰る間、ヒヨコが何かしないよう責任を持って抑え込もう】」
ヒヨコは悪神君とやらは強いようには見えないが、恐らくその通りなのだろう。
ヒヨコの気持ちが伝わったようでしぶしぶだがイケメンオークさんと種馬皇子さんが頷く。
「分かった」
「それよりも俺達がここを受け持つと皇帝たちの方が留守になる。何があるか分からないし俺達が戻るまで警戒を緩めないで欲しい。奴らは狡猾だからな」
「ああ、分かってる。ヒヨコ用に使ってくれ!MPポーションだ」
「武運を祈ります。獣王陛下」
種馬皇子さんはマジックポーションを投げて後輩君に渡し、イケメンオークさんは恭しくて後輩君に対して礼をしてからグリフォンに乗る。
「じゃあ、行ってくれ」
「ぐるるるる~」
後輩君の指示によりグリフォンは二人を乗せて空を走り去っていく。
だが、右肩を抱えていた苦しんでいたネビュロスは去っていくグリフォンに赤い光線を放つ。
『逃がすか!』
「ピヨッ!」
ヒヨコの<爆炎吐息>が逃げるグリフォンを襲う赤い光線を打ち落とす。
「戦う相手を間違っているだろう?それとも神様ともあろうものが逃げる相手の背中しか襲えないとは言わせないぜ」
後輩君よ!そこはヒヨコの手柄なんだからヒヨコに喋らせてよ。格好いい事を言うのはずるいぞ!これから残すであろうヒヨコ伝説の主人公なのに!
「いくぞ、ヒヨコ!」
後輩君は駆けだしてネビュロスへと立ち向かう。
いやいや、だからヒヨコの見せ場を取らないで?
ハッ!?
ま、まさかやがて歴史に残るだろうヒヨコ伝説の主人公の座を奪うつもりか!?
ヒヨコ伝説なのに主人公が後輩君!?
もしやこれは、ヒヨコ伝説Destinyとして主人公として出て来た筈のヒヨコが、最後に敵に回って負ける運命なのか!?
ピヨの姿は、ヒヨコに似ている。
ピヨピヨ鳴いているように胸に響く。
ハッ、勝手にヒヨコの中に謎の音楽が鳴り響いていた。
待て、後輩君よ。ヒヨコはステちゃんの仇を打つのであって何で君が燃えているのか!?
ヒヨコは慌てて後輩君を追いかけるのだった。