6章24話 ヒヨコ、悪神との前哨戦
ヒヨコが悪神の眷属・ナベリス君とやらをピヨピヨしてから20日後、ヒヨコ達は帝国第3騎士団は北へと向かいアルブム王国首都レオニスへとやってきていた。
この町自体が既に悪神の拠点となっていて、変な膜のようなもので覆われていた。ヒヨコは首をひねって周りに聞いてみるが、ステちゃん以外誰も変な膜をみえていない様子だ。
恐らく神眼だから見えるのだろう。その中がどうなっているか、ヒヨコの魔力感知LV10をもってしても見えない。
街の中に入ると、あの先輩君の記憶を紐解けば、とてもたくさん人がいて賑わっていた王都が、見る影もなかった。人っ子一人いない。まさに廃墟である。先輩君はこの王都も守るつもりで戦っていたのだが、それも裏切られて死んだ。
ここは勇者の記憶を受け継ぐ者としてザマァとか言ってやればいいのだろうか?
いや、そういうのも憚れる程酷い状況だった。死体しかないのだから。しかも数か月ほど時間が経っている為、腐敗していたり、白骨になっていたりしている。
恐らく、この地でも殺戮は行われたのだろう。それ程の力があるのかもしれない。
ステちゃんの予知通りだ。
ヒヨコを含めた精鋭部隊以外は踏み込むだけで殺される可能性があるという話だった。
「皇妹殿下。これは…」
「悪神に既に滅ぼされていたという事でしょう。2~3か月前ほどでしょうね」
「俺達は大丈夫なんすかね」
「…………巫女姫殿も神相手では何が起こるかは分からないと仰っていたわ。ただ入った時に何もせず一瞬で朽ちた人間だけを止めただけらしいわ。自分も含めてね」
残念皇女さんは険しい顔をして口にする。
「便利な能力っすね、予知」
「便利?私はそんなもの持ちたくも無いわ。一度、死ぬ体験を見るのよ。聞けば、苦しさや痛みも感じるそうじゃない。彼女はその能力を持つために何度も疑似的な臨死体験をしている。知り合いや家族が死ぬ経験を何度もしている。彼女はあの歳で精神耐性LVが5もある。死ぬより過酷な環境にいた頭が壊れている貴方ならともかく、常人なら耐えがたい苦痛でしょうね」
「いや、精神耐性が高い俺からしたらそうっすけど…」
「しかも予知に解決法が見当たらない場合、そのまま知り合や自分の死を受け入れるしかないのよ?彼女は共に過ごした母も義兄も死んでいるわ。貴方、自分の恋人が死ぬと分かっていて避けられない人生を生きていける?」
呆れた様子で残念皇女さんは突っ込んでくる。
と言うよりもステちゃんは安全な場所にいても自らそれを何度も使っているので結構苦労しているのだ。
残念皇女さんはよく分かっていらっしゃる。下っ端君はまだまだだな。
「………。それは………。凄いっすね」
「そりゃ予知があれば助けられる命はたくさんあるでしょう。でも能力には代償がある。良い所だけ手に入れる事なんて出来ないわ」
「………まあ、俺ならむしろ欲しい能力ですけどね」
「まあ、巫女姫殿の場合、ご両親が命と言う代償を大きく払っていたそうだけど」
「まともな家族の下に生まれる才能だけが無かったんすよね、俺は」
「まあ、まともな家に生まれていたらここにもいないし、フロレンツィアとは絶対に関わりのない生活をしていたと思うけど」
「……家族に売られて殺し屋に育てて貰って感謝っすね」
下っ端君の変わり身の早さに、周りも苦笑する。つまり、下っ端君はフロレンツィアさんとやらと出会えない事は死ぬより嫌なのかもしれない。
ピヨピヨとヒヨコは鳴きながら
「【安心するが良い、下っ端君よ。「俺、この戦争が終わったら結婚するんだ」とか言っている奴は大抵死ぬからな。下っ端君はここが人生の終着地点に違いない】」
「不吉な事言わないで欲しいっす!っていうか下っ端君って俺の事っすか?」
するとプッと親衛隊の人達が噴き出す。
そして彼らは隠れてヒヨコにサムズアップをする。ヒヨコはウムウムと頷き、かつて設営を手伝った時の同僚と心を交わし合うのだった。皆の心が下っ端君を下っ端君だと認識している。
「立派な三下っぽい喋り方だと思うわよ」
残念皇女さんもうんうんと頷く。
「親衛隊の副長、帝国屈指の立場につき子爵位を貰った俺が下っ端扱いっすか!?」
「ヒヨコが誤解する程度には下っ端に見えるから仕方ないですね、隊長」
「ピヨピヨ【帝国皇帝をやってるのが山賊の親分だから、丁度いいポジションかもしれん】」
ぶふぅと噴き出す残念皇女さん。
「皇妹殿下、気を付けてくださいっす。このヒヨコ、俺を下っ端と呼び陛下を山賊の親分と呼んでいる以上、他の皆も心の中で何と呼ばれているか分かった物じゃないっすからね」
下っ端君は余計なことを言うが、今はそれ所でもないのだ。
「雑談をしている所ではないぞ」
ピシャリと苦言を呈すのは元帝国最強と称されたカール・フォン・アルブレヒトであった。その言葉に下っ端君も顔を引き締める。
すると城門の前に獣王国の面々と銀の剣の4人がいた。
「ピヨヨッ!【おお、腹黒公爵さんではないか。おひさ~】」
パタパタとヒヨコは翼を振って駆けだす。
「ヒヨコ君。……?あれ、もしかして念話LV4が使えるようになったのかい?」
「ピヨピヨピヨピヨ【ふはははは、ヒヨコにお任せあれ。これで、下っ端君や残念皇女さんともコミュニケーションが取れる事に!】」
「誰が残念皇女さんですか!」
ゴスッと背後から皇女さんの蹴りが飛んでくる。
「ね、言ったでしょ?酷いっすよね」
「確かに酷かったわね。ルークの記憶が入っているとは思えない。ルークは紳士だったのに」
「ピヨピヨ【その紳士が為に、女の飢えている先輩君は残念皇女さんの事を男としか思っていなかったという悲劇が】」
余計な事を口走ってしまったヒヨコは残念皇女さんに胸倉をつかまれてプラーンと持ち上げられた状態でいた。
「そちらの話は聞いていないが状況はどうなってる?」
そこで後輩君が話しかけてくる。
「悪神の眷属と思しきケルベロスをこのヒヨコが秒で滅ぼしてしまってましたが……」
「秒で?」
「秒で」
「………マジで?」
後輩君は胡乱気な目でヒヨコを見る。ピヨピヨと鳴いてヒヨコは頷く。
「ピヨピヨ【ヒヨコは前世と思しき先輩君の最後の記憶を思い出し覚醒したのであった!ピヨヨヨーン】」
「いや、ピヨヨヨーンは良いけど……覚醒したって?」
「ピヨピヨ【ヒヨコはついにイグッちゃんの<火吐息>に匹敵する<灼熱吐息>を吐けるようになったのだ。ピヨヨヨヨーン。どうだ、凄いだろう】」
「その例えだと凄さが今一伝わらないと思うよ?」
「350キロほどある場所に爆炎を吐いて一網打尽にしていたのよ。キノコ雲がはるか先に見えたし、悪神の眷属が怒りのあまりこっちにやって来たくらい。そこで倒してそのままレオニスに来たって訳」
「…………帝国最凶のヒヨコ兵器……」
誰かがボソリと口にする。
誰がヒヨコ兵器か!?
頭痛を堪えるようにコメカミを右手で押さえる腹黒公爵さんは大きく溜息を吐く。
「ところで殿下。思ったより人員が少ないようだが、他の面々は?ステラ君も一緒だという情報は陛下からの伝書鳩で聞いていたのだが?」
「巫女姫殿が街の中に入っただけで死の予知をした者は街の外で待っています。まあ、神が相手なのでそれでもどこまでやれるかは分かりませんが、確実に無駄死にする位ならと。今更逃げても悪神の眷属が2週間の距離を1時間で飛んでくる位なのでどこにいても逃げられるとは思いませんが」
「それにしても、皇族が二人もこんな場所に来て良いんすか?」
「それこそ俺もラファエラも皇族と言っても母親は平民だから問題ないな。姉上が妊婦で良かった。絶対に首を突っ込むだろう。現場で皇族が指揮をとりながら死んでも問題ない存在。だからこそ俺達は、こういう時は最前線で戦う事になるし、その為の教育を受けてきた。多くの功績を上げて次期皇帝になんて話も出たが実際にそうはならない。何時でも切れる皇族であり、最後のバックアップ程度の存在だ」
種馬皇子さんは珍しく真面目な顔で語る。
「そうだな」
苦笑する腹黒公爵さん。何か含みがある感じだ。なんだろう?
この城に来ている全員が集まる。
「行こう。最終決戦だ」
後輩君が高くそびえたつ城を見上げる。
ヒヨコ、銀の剣4名、獣王国精鋭3名、帝国の精鋭3名が城へと乗り込む事となり、他の獣王国の戦士20名、帝国兵10名は街に残って逃走経路の確保をしていた。
「逃走経路の確保なんて無駄じゃないっすか?」
下っ端君はそんな事をぼやく。
「無駄という事はない。失敗した時に誰かが陛下に連絡を取らねばならないからな。ハッキリ言おう。戦闘になってあっさり死ぬ可能性のある者でも、連絡役としてなら仕事は出来ると思ってる」
「……失敗なんて考えてないけどね」
腹黒公爵さんと後輩君はそんな事をぼやく。ヒヨコを先頭に城を進む。
ヒヨコは先輩君の知識を使って、城の玉座の間に辿り着くのだった。
玉座にはレオナルドの姿をしたナニカがいた。
「レオナルド・エンリケス・アルバ王とお見受けするが……」
腹黒公爵さんが訊ねる。
「そういう回りくどい話は良い。分かっているのだろう?私が異世界の神であると。この世界の神から神託でもあったか?ほほう?神の使いがいたか。そのヒヨコが伝えたのか?」
玉座に座るレオナルドの姿をしたナニカが楽し気に訊ねてくる。
「いや、それはない」
「ないな」
「ないわね」
「ピヨヨッ!?」
何故か全員がヒヨコを全否定する。確かに神の使徒らしいことは何もしていないけど、そういう扱いは酷いんじゃないかな?
「君達は神に歯向かうと?」
「悪いが我らが世界の人間は割と頻繁に神々と戦っているんでね。知らなかったのかい?私としてはさっさとお帰り願いたいところだけど」
腹黒公爵さんは交渉をしようとしているが、多分無駄だと思うけどな。
「私としては神界に鳴り響いた盗神アドモスの配下七英雄『邪眼王』を殺した一味と戦うのは面白い話ではあるがね。英雄殺しの神となり格を上げるのも悪くはない」
「ピヨヨーッ!」
ヒヨコは目の前の自称神から殺意が膨れ上がった瞬間、既に<灼熱吐息>を放っていた。
赤色が世界を塗りつぶし、玉座があった場所をえぐり取るような高熱で何もかも吹き飛ばす。城に穴が開き城の頭が崩れ落ちて行く。
だが大穴が空いたその場所に何事も無かったかのようにレオナルドの姿をしたナニカが存在していた。
「眷属を削り切ったブレスが全く効いていない?」
残念皇女さんが驚きの声を上げる。
「全員戦闘準備!」
シュテファンが口にし、全員が構えるが
「<重力>」
レオナルドの姿をしたナニカが呟くや否や、強力な重力が一帯に掛かりそのまま城そのものが崩壊していく。天井が砕け空から大量の石材が落ちて来る。
「ピヨヨッ!【<大地制御>!】」
ヒヨコはそれに合わせて大地を制御する魔法を使う。この城は岩を切り崩しレンガを使って積み上げている。石によって土魔法で制御可能だ。
全員の足場を確保し崩れ落ちて行くレンガなどを全て制御している大地を迫り上げて、全て飲み込み上空からの落下を抑え込む。
行き遅れ神官さんも聖魔法による結界で頭上から降る城のの塊から防衛をしていた。さすが歴戦の神官さんだ。とはいえ、結構魔力を使っているようだった。
「たかがレベル4の魔法でそこまで制御するとはな。たかがヒヨコだと思っていたが、さすがは神の使いと言う事か」
「ピヨピヨ【神風情がヒヨコ舐めんなよ。ピヨピヨしてやる】」
ヒヨコはフンスと鼻息を荒くして自称神を睨みつける。
「まさか全員今ので生き残れるとは私も君たちを過小評価していたようだな。では名乗ろうか。我が名はネビュロス。とある世界の悪魔に仕える精霊として生まれ神格を得た異世界の神である」
「女神様が言っていた悪神……ってのはそういう事か」
腹黒公爵さんが呟き、ヒヨコもそう言えば駄女神が悪神とかなんとか言っていたなと思い出す。
「行くぞ!」
後輩君が真っ先に切り込む。ヒヨコはアースコントロールを維持しつつ、そのまま足場を宙に浮いているネビュロスまで繋げる。
だが、そこでネビュロスとやらの瞳が怪しく赤く蠢く。偽エセベロス君の使っていたものに似ているがちょっと違う。
ネビュロスの瞳から赤い光線が放たれる。
「うおおおおおおっ!」
拳による衝撃波でネビュロスの赤い光線をはじき返しそのまま走って行きネビュロスの顔面をぶん殴る。
さらに熊の人が棍棒を振り回し衝撃波の嵐を生んでネビュロスに叩き付ける。
種馬皇子さんの炎の剣による炎が、イケメンオークさんの斧とライオンお兄さんの大剣による衝撃波が、下っ端君の槍と元帝国最強さんの剣から繰り出される衝撃波もさらにネビュロスに襲い掛かる。
前線メンバーによる激戦が始まる。その背後で神聖魔法による防御障壁を張って彼らを守る行き遅れ神官さん。
そんな彼らの背後から機会や隙を伺っているのは腹黒公爵さんと残念皇女さんがいた。
「ピヨッ【腹黒公爵さん】」
「何だい、ヒヨコ君」
「ピヨピヨピヨピヨ【ヒヨコの魔力は腹黒公爵さんの4倍以上ある。一度距離を取れたらイグッちゃんにダメージを与えたという魔法をアイツにぶつけて欲しい。魔力不足になったら<魔力譲渡>の魔法でヒヨコから魔力を奪って回復してくれて構わない】」
「?……私の魔法を知っているのか?」
「ピヨピヨ【川で流された先でヒヨコは前世の記憶をちょっとだけ思い出した。アルブム王国で魔法の勉強をした際にアルブム王国に伝わる全魔法を覚えていたからな。神殺しの魔法もどういう魔法か思い出している。女神の言う事を聞くのは癪だが神殺しの術を持っているヒヨコと腹黒公爵さん、それに後輩君、それに残念皇女さんの3人が鍵だ。今は核も世界に露出していないし、皆に任せよう。行き遅れ神官さんの魔力も不味くなったらヒヨコから魔力を移して構わない。あと、魔力をつかわないくせに魔力の高い下っ端君も魔力タンクとして使える筈だ】」
「ははは。私の能力を知った上で、自分も他人も魔力タンクとして見るとはね。だが、君が神殺しの魔法を使えなくなっても本末転倒だけど?」
「ピヨヨ~【それこそヒヨコは<地獄業火>を使えなくても、神を殺せる魔法がある。世界の異物を殺す神聖魔法が】」
「おいおい、死ぬつもりかい?あれは命と引き換えに敵を殺す魔法だ」
「ピヨピヨ【ヒヨコは即死耐性があるから死んだりはしない。これはヒヨコになってから身に着けた魔法だし。ただ、使うなら最後のトドメにならないと次がないから】」
「とすると、私の方が使い勝手は良いか。むしろヒヨコ君を魔力タンクとして使えれば…」
「ピヨピヨ【後輩君もいるし問題は奴をどこまで削れるかって話だ】」
ヒヨコはピヨピヨと移動して後衛で待機している残念皇女さんの方へ向かう。
「ピヨヨ~【残念皇女さん、残念皇女さん】」
「……って、残念皇女って私の事!?まだいうか!?っていうか、戦闘中に失礼な事を」
「ピヨピヨ【確か残念皇女さんは風魔法LV10があった筈。対神魔法を持っているよね?】」
「そんな魔法じゃないわよ。私の風魔法LV10はトルネードカッター。どちらかと言うと巨大な魔物を削り切る魔法だし。今回の敵を削る事は可能だと思うけど…」
「ピヨヨッ!?ピヨピヨ【!?……そうか、帝国に伝わってないのか。アルブム王国に伝わっている風魔法LV10は<虚無>。空気そのものをその場から排除して全てを無に帰す対神魔法だ。イメージを送るから受け取って】」
「……!?」
ヒヨコは念話によるイメージを残念皇女さんに送ると、それを受け取った残念皇女さんは驚きの顔をする。
「ピヨピヨ【ヒヨコは魔物だから、魔力は先輩君どころか残念皇女さんよりも高い。有効範囲は狭いが上手く削れて、敵が弱った時になら対神魔法が効くはずだ。腹黒公爵さんもその手の魔法持ちだ。皆であの悪神を削って、皆で倒そう。魔力不足になったらヒヨコの魔力を分けてもらえるよう腹黒公爵さんに言えば良い】」
ヒヨコの言葉に目を丸くする残念皇女さん。
「……今回は………、頼ってくれるの?」
「ピヨヨ~【先輩君は誰かが傷つくのが嫌だったし、先輩君の戦闘力そのものが必要としてなかった。だがヒヨコは見ての通り生まれたてのヒヨコだし、先輩君の強さの秘訣も記憶の中ではどうやって身に付けたかは分からなかった。先輩君は単独で勝てる戦闘能力があったけど、ヒヨコにはない。ならば同じ可能性のある存在が皆でやれば小さい可能性もちょっとは大きくなる。そうだろ?】」
「ええ。そうね。今度こそやってやるわ!」
残念皇女さんはギュッと杖を握りネビュロスを睨む。
今は前線が攻撃をしてネビュロスを抑え込んでいるがあくまでも人型を守っているだけに過ぎない。アレを潰してからが本番だ。
「オラアアアアアアアアアアアアッ!」
さらに後輩君が踏み込み赤い光線を避けながら拳でレオナルドの心臓を貫く。
「「「「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!」」」」
まるでたくさんの人間が同時に死んだかのような断末魔の叫びが響き渡る。
そして、レオナルドがこと切れたかのように倒れる。
やがて、大地が黒い血だまりが広がって行き、その肉片が血だまりの中にしみこんでいく。
『ク、クハハハハハハハッ!ありがとう、諸君。君たちのお陰で契約によって縛られていた肉から解放された!そして我がストックにあった人間達も死んでくれた。刮目せよ、我が力を!』
地面が黒い闇へと広がる。
いかん、魔法によって支配下に置いた城の構造が全てネビュロスに奪われた!
「全員城から飛び降りろ!崩れるぞ!」
それにいち早く察したのは腹黒公爵さんだった。
「必要ない!皆私の近くへ!」
残念皇女さんが即座に声を皆に掛ける。
慌てて周りがひいて残念皇女さんの近くによると
「<飛翔>!」
風魔法を使って全員を空に飛ばす。
人体を飛ばすレベル7の風魔法だ。そのまま皆で城から空を飛んで距離を取る。
「すげーな。魔法って。空も飛べるのかよ」
熊の人も感心したようにぼやく。
だが、そんな感心も吹き飛ぶ。
崩れて行く城を飲み込む血だまりのような黒い影が巨大な人型を作っていく。さらにアルブム王国中に散乱していた死体が空に浮かび吸収されていくのだった。
骸骨のような頭を持ち、骨で出来た肉体を守るような巨大な甲冑、黒い影のような巨大な翼が背中から生える。
城よりも巨大な死神が、己の背丈よりも巨大な死神の鎌を持って降臨する。
『さあ、前哨戦は終わりだ』
竜王よりも巨大な死神の降臨に誰もが息を呑む。
「ヒヨコ君が想定したのはこういう事か」
舌打ちをする腹黒公爵さん。魔力量を考えれば体の大きさがあの小さいものには見合わないのは分かっていた。
そう。ヒヨコは何でも知っている。ピヨピヨ。