6章20話 決戦へ
あとがき担当の女神です。
感想、誤字報告などありがとうございます!作者も励みになっています。
なんとついに評価者数がちょうどきっかり100人になりました。
ヒヨコ部門で年間4位、四半期2位、日間で偶に1位、『なろう』界隈において2021年にデビューしたヒヨコの中ではトップです!新ヒヨコ賞を受賞できるかもしれません。
そして、ヒヨコ部門総合10位に辿り着きました。主人公がヒヨコに限ると2位に!?
ちなみに主人公がヒヨコの1位はラストシンデレラさんの『ドラゴン転生!? どう見てもヒヨコじゃねーか! ~地上最強のヒヨコが異世界に爆誕~』です。
こちらの主人公の名前もピヨちゃんです。
やはりヒヨコの名前がピヨちゃんになるのは作者が違っていても運命の様です。最初の名付け親であるミーシャは間違えてはいなかったのですね。
獣王国は戦争での勝利をほぼ決めていた。
多くの犠牲を払ったが死兵になろうとなんだろうと、バカみたいに正面から戦う限りは負けたりはしない。
シュテファン達、元銀の剣のメンバー4人はベルグスラントとアルブム王国方面の西側で多くの獣人達と共に勝鬨を上げていた。
「兄上、いや皇帝陛下から連絡が入ったが向こうは影の魔物が100体ほど大量に発生したらしい。核がなく切っても切っても殺せないらしく魔法攻撃しか利かなかったそうだ。運が良かったな」
ヴィンフリートは手紙を読みながらぼやく。
「いや、元々こちら側は騎士団を動かして攻め込んでいたからな。その延長線の攻め方をしていたから、影の魔物を人間の軍に絡ませられなかったんだろう」
「とはいえ、向こうは酷いようだ。親衛隊、宮廷魔導士部隊、宮廷神官部隊、第2、第3、第4騎士団の総勢1万人を派遣し、2千人の死傷者が出ている」
「大雑把な戦況を整理しても……獣王国だって6000人以上の戦士が出て既に700人以上も倒れているからな。獣王国の人口を考慮すると存亡の危機に瀕するほどの被害だ。帝国史上では邪神戦争以来最悪の戦争だと言えるだろう」
シュテファンは首を横に振る。
「ふふふ、ミロンは残念がりそうね。折角時代の分かれ目になるような大戦争があるのに目撃できなかったんだから」
ユーディットは楽しそうに笑い、その言葉にモーガンやヴィンフリートも苦笑する。
邪神戦争のあらましを帝国に残したのは実はミロンである。好奇心旺盛な彼はその手の伝説を間近で見たいが為にやってきているとさえ言われている。
その内、ヘレントルダンジョンの伝説も書かれるかもしれないと思うと一同はぞっとしなくもない。
かつての伝説的英雄ゴブリンから鬼神王になった男の半生を描いているがかなりリアルに描かれており冗談みたいな真実がいくつもあり、ゴブリン王なのに生涯で童貞で終わっているとか酷い事実を描いていたそうだ。
「兄上はラファエラを総大将にして、ラルフや第3騎士団を使ってそのままアルブム王国に攻め込ませたようだ。守っていても勝てないという見積もりらしい。あと……ヒヨコが川に落ちてアルブム王国の方へ流されて行ったらしい」
「あの子はどこへ行くのだろう」
ヴィンフリートの報告に、シュテファンは遠くを見る。
相変わらず斜め方向へと転がるヒヨコだと呆れていた。若干慣れたものだが。
「海までながされて、実はペンギンだったに1票」
「桃と間違えられてヒヨコ肉にされたに1票」
「野生に帰ったに1票」
モーガン、ヴィンフリート、ユーディットの3者の予想に、シュテファンは思い切り溜息をつく。
「どれもありそうで怖いな」
すると、そこにマキシム・ベアードがやってくる。体中に傷を負っていた。
「シュテファン殿、獣王陛下が中央の戦線基地に集まってほしいとの事です」
「分かった」
「戦況はどうなっているか聞いているか?」
シュテファンが頷くと、モーガンはマキシムに訊ねる。
「各地方面に関して、犠牲は大きいものの勝利していると聞いている。貴殿の魔法によって要塞に溜め込んでいた糧秣が少なく向こうはほとんど飲まず食わずで戦っているようだ。アルブム方面の戦いは中央戦線以外は全部勝利している。ベルグスランド方面はかなりてこずっているようだが勝利したと聞いた」
「人間との戦いはこれまで、後は本丸に攻め込むのみか」
「行こうぜ、シュテファン」
「ああ」
マキシムが中央の作戦基地に向かい、4人はついていく。
***
そこには獣王であるガラハドがいた。
ガラハドの執事であるクリフォード・テイラー、相談役のグレン・リンクスターもその横に並ぶ。他にもそれぞれ民族の最高指導者とその副官や精鋭が存在していた。
マーレの神官兵、リンクスター一族の代表と副代表、マーサとミーシャの親子もいる。
そこにマキシムが連れてきた銀の剣の4人が加わる。
「爺や。戦況報告を頼む」
ガラハドはクリフォードの方に目を向ける。
「はっ。ベルグスランド方面は獅子人族と豹人族、猟犬人族の部隊の総勢1200名を派遣、ベルグスランド2万に対し9千を壊滅し撤退しました。こちらの被害は150名になってます」
さらりと話されるがシュテファン、ユーディット、ヴィンフリートの三人は顔を見合わせて獣王国の戦闘力の高さに閉口してしまう。
一人で5人分の仕事をするとは言われているが、聞いた限りでは10人分以上の仕事をしている。獣人と言う強い肉体と、この魔物が多く生存する地という過酷な環境で育っていて、この森を熟知しているからか、一人一人の戦士が帝国の戦士の質を遥かに凌駕している。
だが、その理由は戦略なくアルブムが突っ込んでくるからだ。途中で魔物とエンカウントして死ぬケースも多いらしい。序盤は大きく戦線を大きく広げていた点もある。
「ベルグスランドは正規兵10000人程度だから、普通なら戦争なんて出来ない程のダメージだな、普通なら。まさか全員臨時の農民兵とも思えないし」
「いや、奴らもアルブム同様死兵のように狂ったように突撃していたな。だが、部隊によってまばらで全員が全員と言う感じではなかったが」
獅子人族の代表として来ているロバートが進言する。
「全員にまで魅了を掛けられなかったという事か」
不思議そうに首を捻るのはガラハドだった。
「支配したのは今年に入ってからだ去年から念入りに支配しているアルブムと、今年から支配下に置いたベルグスランドでは異なるという事だろう」
シュテファンが当然のことのように説明して周りを納得させる。
「?そういえばオラシオ殿はどうした?」
獅子王は未だオラシオだったはずだと全員がふと思い出す。
確かに代表はロバートだったが、未だ王はオラシオと言う状況だ。次世代に政権を渡しても未だ元三勇士の1人として絶大な戦闘力を有している。
「叔父上は戦場で重傷を負ってしまい……」
ロバートは悔し気な顔をして俯く。
するとフォローするようにマーレ共和国から派遣されている神官代表が挙手する。
「大慌てで回復に向かい助けに行っております。右腕が吹き飛ぶ怪我だった為、今もまだ治療中です」
全員が言葉を失う。
「まさか大魔法をぶつける為に兵士達を捨て駒にし、叔父上が仲間を庇い…………。悪神とか言ったが、奴ら人間を使い捨てにしている」
ロバートは屈辱に歯噛みする。
「南西部はベルグスランド軍1万,アルブム王国軍5000が進軍しており、こちらには兎人族と猫人族、帝国からシュテファン殿ら合計1000名が参戦。被害は50名程度で全滅させたと」
その報告におおおおと驚く声が上がる。
「まあ、シュテファンは2~3日に一度しか撃てないような、膨大な魔法力を使用する対軍魔法、対人魔法、対拠点魔法の3つがある。軍部が利用しないよう帝国は秘中の秘として皇帝以外にほとんど知らない秘密兵器を持っているからな」
「人を兵器とか言うな」
ヴィンフリートの言葉にシュテファンは肩をすくめる。
「その様な人材を貸していただき、帝国には感謝しかないな」
ガラハドは苦笑気味に口にする。
「ここが主戦場になるのは分かっていた事です。陛下も私もそれを見越してですし、陛下は何よりこの戦争を自国や獣王国だけの話だとは思っていません。邪神戦争以来の世界大戦になる可能性を想定しています。それをこの二国内で治めたいと思っているのです」
「帝国はもうアルブムへ進軍を進めるそうです。かなり危険な敵と接敵し、守っていては滅ぼされるとの判断だったそうです」
シュテファンとヴィンフリートは帝国の状況を軽く説明する。
「そうか」
「して、その大魔法、次にいつくらい使えそうか?」
「戦争の状況にもよりますね。出来るだけ魔力回復に努めてますが、戦闘状況によっては別の魔法を使って魔力消費はしていますから。回復魔法で負傷者を治療するケースが多い」
シュテファンの言葉に兎人族のトップが
「そのお陰で我らの被害が非常に少なかった点があります」
と、シュテファンの回復魔法で救われていた事を進言する。
「じゃあ、当てにはしない方が良いか」
ガラハドは腕を組んで考え込むように唸る。
すると報告をまとめていたクリフォードはコホンと咳をして
「次いで南東部方面ですが狼人族、大犬人族、犬鬼族、他勇士一同の総勢1500名が対応、対してアルブム軍は1万。こちらも……全滅させました」
「全員がバカみたいに特攻してくるだけだから倒しやすいと言えば倒しやすかったが、そのせいでこちらも犠牲は大きかった。勇者のような理不尽な奴はいなかったけどな」
ウルフィードは説明しているが、体中に傷がある。激戦だったことが窺われる。
「こちらの被害は120名が死亡、重傷者が300人ほどいます」
「魔導師が多かったのか、後半は前線が一人に組み付いて逃げられ無くしてから、遠距離から魔法による攻撃だ。全員がそういう戦略をとったせいで全滅させるしか方法がなかった」
ウルフィードは苦々しく口にする。
「今までのアルブム王国は被害を少なくしてこちらを侵攻するではなく、利だけをかすめて逃げるという戦いだった。今回は明らかにおかしい。巫女姫様が神降ろしをして、帝国皇帝に伝えたという悪神の影響が大きいのだろう」
「そして最後に南側ですが、虎人族、山猫人族、熊人族、猪鬼族を含む中央部隊2500ですが、相手をかなり叩き込んだのですが、抑えきれておりません」
「敵兵は2万に対して半数以上を壊滅させましたが……………1人化物みたいな人間がいるとの事です」
クリフォードの言葉に、苦々しく呻くのはガラハドだった。
「他の戦場は勝利確定している。精鋭をその化物みたいな人間につぎ込むべきだろう。恐らくは悪神の眷属が乗り移っている可能性が高い」
シュテファンはガラハドに視線を向ける。
マキシムやロバート、ウルフィード、マーサといった筆頭格の戦士たちも頷く。
「魅了自体は悪神のものだろうから、そこを叩いて戦争が終わるとは思えないが、それさえ倒せばこの戦争はある程度終わるだろう」
モーガンも頷きながら推測できることを進言する。
「でも、戦争の終りは悪神との決戦の始まりでもあるんだよね」
ガラハドは苦々しい顔で口にする。これだけやっているのに前哨戦でしかないという状況が厳しさを物語っている。
「……覚悟を決めなくてはな」
シュテファンの言葉に全員が頷く。
「精鋭で持って、まず南部中央にいる悪神の眷属を倒す。考えるのはそれからにしよう」
ガラハドは立ち上がる。
「装備もある程度は帝国から持ってきている。魔法武器や魔法防具の類だ。万一の時の為に、持っていて欲しい」
シュテファンが言い、モーガンがいくつかの武器を地面に並べる。
「敵に通じない可能性もあるからな。ありがたく頂くが、良いのか?」
ウルフィードは帝国にとっては重要なものでもあるのではないかと言う懸念を持つ。
「ローゼンハイム公爵から獣王国への献上品だと思って欲しい。帝国は獣王国に何かを施す、みたいな事は是としていないし、互いの立場を考えても否定的な考えだ。だが、我々としては貴殿らの活躍に命が掛かっているからな」
「まったくその通りだ。ありがたい」
戦場で生きている獣王国の面々は苦笑する。
銀の剣の4人、ガラハド、ロバート、ウルフィード、マーサ、マキシムらを中心に48人の精鋭部隊が選出されて、中央戦線に戦争のくさびを打ちに向かう。同じ数だけの従魔を
残りはカッチェスターの守りと他の地域の警戒に入る。普通なら終わっている戦争も最後の1人まで戦うような状況に警戒は緩められなかった。
「俺も行くぜ」
そこにオラシオが現れる。
「お、おいおい、大丈夫なのかよ?」
ウルフィードは呆れたようにオラシオを見る。
「叔父貴。無茶はするな」
ロバートも心配げに獅子王である叔父を見る。
「何、確かに回復したばかりだが、この戦いを逃すわけにはいかん」
「無茶されても困るんだが。まだ獣王決定戦で俺はアンタと戦ってないんだ。アンタとウルフィードとマーサさんを倒して初めて真の獣王と呼べるんだからな」
「くははは、怖い怖い。今代の獣王は獣王になったのに、まだ守る気も無いってのか?」
「親父は政権が安定しないから獣王決定戦をもう一度開いたと聞いていたけど」
「………当時は獣王の権威が失墜してしまっていましたからなぁ」
グレンが呆れたように溜息をつく。
一同は装備の点検など準備をしながら雑談をする。
「政権が安定しないって?」
シュテファンが首を傾げるとグレンは
「貴殿が質問してきた件の男、フェルナンド・ノーランドという狐人族の男がな。まあ、10歳ちょっとの子供だったんだが、アルトリウス様との激戦に勝利して獣王挑戦権を得て、獣王は即座に試合をするようにしてフェルナンドと戦い獣王決定戦をやったんだ。まあ傍目から見てもボロボロの子供を相手に万全の獣王が試合を吹っ掛ける等情けない話だ。だが、10歳くらいの子供にボコボコにされてな。弱すぎると呆れて試合放棄してしまったんだ」
というかつての話をする。それは獣王の威信が揺らいでも仕方ない。強さこそが全てだった筈だが獣王は弱かった、みたいな話になると多くの民が獣王を疑うようになっただろう。
「……師匠……」
子供の頃から破天荒だった師の持つ伝説にシュテファンは頭痛を堪えるようこめかみを抑える。
「獣王の権威は失墜した結果、アルトリウス様他、その時の№2~5当たりの強豪の権威が上がり混沌としてしまったんだ。その中でアルトリウス様が優勝したが、不満が多かったようで、再度、正々堂々、獣王がトーナメントの一番下に入って片っ端から倒したんだ。アルトリウス様が最強の獣王と呼ばれている理由は、家柄によるシードも獣王による挑戦者も待たず、ハンデなしで0から全員倒したから誰もが従う獣王になったんだ」
「アルトリウス様が残した伝説だな。俺もその頃に初めて出たが、まあ、負けた負けた。親父は獅子王としてシードで試合数も少なかったのに連戦で厳しいアルトリウス様に完敗していた。その為、その5年後に獣王挑戦者決定戦を開いたが、参加者が0だった。偉大だったんだよ、あの方は」
「ふん、親父にもいつか勝つし。小さい頃、父さんより強い獣王になるんだって、父さんに言ってやったんだもん。兄貴たちには笑われたけど、親父はなれるならなってみろと言ってくれたからね」
「むしろその位の気概が欲しかったのかもしれませんな。偉大過ぎて、獣王陛下を超えるだなんて言える人材自体がいませんでしたから。獣王陛下も嬉しかったかもしれません」
グレンはうんうんと頷く。
「っていうか、フェルナンドってそんなに強かったのかよ」
モーガンは呆れるようにぼやく。
「まあ、どこかいかれてはいたけどな。獣王国史上最強とも歌われた獣王に勝利した事があるとか……」
「その敗戦があったからこそ、アルトリウス様も強くなったのだと思いますな」
グレンの話をフーンと聞いていると、ふと思い出すのはシュテファンだった。
「あ」
「?」
シュテファンが思い出したように口にすると周りの視線がシュテファンに向かう。
「そう言えば巫女姫様と手紙のやり取りはしていたみたいで、弟分の子供が生まれそうだが、名前が決まらずに困っているとかなんとか。初代獣王ミカエル様にちなんでミーシャならどうだろう。男でも女でも使えるし丁度いいんじゃないか、とか言っていたけど……。あれってもしかしてマーサ殿の娘の名か?」
「………そう言えばあの人、尊敬する兄貴分からアドバイスを貰ったって言っていたわね」
マーサは思い出したようにうなずく。
「何気に、フェルナンドって無名だった割には獣王国にも爪痕を残しているのね」
「いや、帝国でも優勝してるだろ、武闘大会」
「その内、ステラ君の能力で知りえた過去を聞いて、フェルナンドの伝記でも書くかな。銀の剣の発足者として」
「そうだな。このままだとシュテファン如きのおまけみたいな歴史の残り方をしちまう」
シュテファンが思い立ったように口にすると、茶化す様にヴィンフリートが笑って突っ込む。
「全くだ。巫女姫殿の予言からすれば世界を救った存在でもあるのにな。よし、その為にも必ず勝利し、平和な時間を取り戻す」
「まあ、お前の場合は子供が生まれるしな。生きて帰らないといかん。というか、生かして返せなかったら、俺が姉上に殺されるからな」
「ははははっ!そうだな。仲間の生死が掛かっていたか」
「ミロンもフェルナンドもいないけど、昔の私達でもないわ。あれから10年もあれば自力で倒せるだろうとミロンやフェルナンドに太鼓判を押されていたものだわ。あれから約10年。彼らが節穴でなかった事を示しましょう」
銀の剣の4人は拳をぶつけ合い冒険者の頃のような無邪気な顔で笑い合う。
「さあ、行こう!」
ガラハドの掛け声に全員が武器を持ち立ち上がる。
全員が行軍を開始する。一路南へ。




