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最凶ヒヨコ伝説 ~裏切られた勇者はヒヨコに生まれ変わったので鳥生を謳歌します~  作者:
第1部6章 帝国東部領シュバルツシュタット ヒヨコ無双
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6章15話 ケンプフェルト防衛戦

 ケンプフェルト辺境伯領シュバルツシュタットは戦場となっていた。


 帝国親衛隊を含めた騎士団達が皆が魔剣の類を持って、大量に現れたケルベロスの形をした影の魔物を相手に戦っていた。

 倒せない上に効いているようにも見えない状況だった。攻撃すればちょっとは怯むという程度で見た目には全く何も反映されていないからだ。

 向こうが攻撃をすれば絶大な威力であるが、こちらが攻撃をしてもまるで手応えが無い。

 攻撃しても攻撃してもキリがないほどのだった為、帝国騎士団の士気にも影響が出る。

 体長10メートル近い巨大なケルベロスの形をした影の魔物の軍勢の勢いはすさまじかった。しかも攻撃しても効いているように見えないのだから仕方がない。

 少しはダメージを与えているのだという実感が欲しい、それが戦場で戦う指揮官たちの想いだった。


 そんな中、前線で戦っていたポーラが大量の血を流して地面に倒れる。

 慌てて近くにいた同じ青犬(シアン)族の仲間が後ろに引っ張り他のものがその穴埋めに入る。


「大丈夫か、ポーラ」

「ぐっ……私の事は放っておけ!皆、この町にあの魔物を通すな!我らを拾って頂いた陛下に恩を返せるときは今だぞ!」

「はっ!」

「皆、お嬢が戦線離脱している間、どうにか持ち応えろよ!」

「おおおっ」


 神官たちも中衛にまで上がって、倒れた戦士たちを引き摺りながら後方に運び回復魔法をかける。ほとんどなりふり構っていない状況だった。


 皇帝直属親衛隊四天王の内の3人は皇帝アルトゥルに拾われた者達である。その忠誠心は戦場の最後方にアルトゥルが立つ事で士気が下がったりはしないが故に、戦線をどうにか持ち応えていた。

 特にポーラやラカトシュは自分の家族や部族さえも救ってくれた恩人でもある。加えてラルフはアルトゥルの従妹の婚約者でもあり、ゴミ溜めの底辺から貴族の地位まで与えられていた。

 故にこその忠誠心は己の命を捧げる程でもある。


 激戦の中、駅舎のある方角から宮廷魔導士団が到着する。

 先頭を歩くのはかつて勇者と共に過ごした賢者ラファエルに扮していた宮廷魔導士筆頭ラファエラであった。

 皇帝アルトゥルの妹でもある彼女は国にとっても最後の切り札である。

 百を超える魔導士部隊がラファエラと宮廷魔導士長の二人を先頭に堂々と速足で戦場へと歩いて向かう。


「宮廷魔導士部隊!入り口付近の魔物は騎士団に任せ遠方で待ち構えている魔物へ照準を向けよ!」

 宮廷魔導士長が指示を出す。

「はっ!」

「炎系魔法部隊前へ!」

「<炸裂(バースト)>!」

「<火炎弾(バレットファイア)>!」

「<火炎槍(ファイアランス)>!」


 次々と魔法が空から降り注ぎ黒い魔物達に直撃していく。

 だが、ダメージが小さいのか直に黒い影が修復されていく。


「何と言うタフな…」

「効いていないのか?」

 宮廷魔導士部隊が悲鳴のような声を上げる。


「どうもあれは核のない魔法生物のようです。竜王陛下一行はあの黒い霧が消えるまで攻撃を続けていたと聞きました」

「ダメージはあったように見える。攻撃を食らった影の魔物より、食らっていない魔物の方大きい」

「なるほど。魔法が有効そうね。とすると威力の問題かしら」

 ラファエラはペロリと唇を舐めて獲物を見定める。


「ですが…それでは我らの魔力が続きません」

 宮廷魔導師たちはラファエラに対して顔を青くして首を横に振る。

 ラファエラの魔法技術が高くMPを抑えた大魔法を使うような真似は他の皆は出来ない。数回の魔法で終わりだ。MPポーションがあっても使いすぎれば効きが悪くなってくる。


「バレット系やランス系は魔剣攻撃と変わらないわ。バースト系に切り替えるわよ!使えないものは他の魔導士との共同魔法や補助を」

 ラファエラは魔導師の杖を掲げて魔力を集中させる。


 強力な炎の魔法を杖に集中させる。

 前線で巨大な影のケルベロスが城門前で守りを固めてる兵士達の奥、状況を見ていた影のケルベロスの群れの方へ巨大な魔法陣が描かれる。


「<爆発(エクスプロージョン)>!」

 ラファエラ渾身の炎系魔法LV7の一撃が放たれる。


 その瞬間、こちらの兵士がおらず魔物の群れがいる中央に大爆発が起こり、轟音が響き渡る。


 ついで巨大なキノコ雲が浮かび、その爆風は戦っている途中の兵士たちや陰のケルベロスたちが吹き飛びそうになり身を縮める。

 そこにいたケルベロスは魔法が直撃したようで、姿が霧散していた。周りの数匹いた影のケルベロスは体の一部を削られている状況で、体が見るからに小さくなっていた。

 ダメージが大きいか小さいかと言えば規模の割には思ったより大きくはないだろう。

 だが、それでも初めて目に見えるダメージを与えた為、兵士たちの士気は一転して上がる。

 たった一つの魔法で、戦場の流れが一転した。


 宮廷魔導士団は5人一組になり、高レベル魔導師を中心に大魔法を合同で使う。

「<爆発(エクスプロージョン)>!」

 遠い場所に待機しているケルベロスたちに対し、爆撃を叩きつける。

 轟音が響き渡り大地さえも震動するほどの威力ではあったが、兵士たちはこちらの反撃が始まったのだと理解する。突然の爆撃に、驚くも爆風を必死に耐えて、目の前の敵、影のケルベロス攻勢から身を守る。

 爆発魔法を食らった影のケルベロスはさらに1体が吹き飛んだ。

 だが、他の影のケルベロスたちも最初の一撃で警戒していた為、避けたようでダメージは小さいようだ。


 さらに宮廷魔導士長の指示により火魔法の苦手な10人組が揃ってエクスプロージョンを放つ為の儀式を開始する。

 火魔法LV7を持っていなくても多くの魔導士が集って同様の効果をもたらす事は可能だ。実際のレベルと、共同作業によってレベル外の儀式魔法を使う事が可能なのだから、当然のように一般的な魔法も使う事が出来るのだった。

 レベルによって使えるが、それは女神の恩恵によるものだった。だが、帝国はレベル頼みではなく、そのメカニズムを解明し、足りないものを補いながら段階を踏んで魔法を使う事が可能なのである。


「<爆発(エクスプロージョン)>!」


 騎士団が守っている後方のまだまだ影のケルベロスがたくさんいるあたりが大爆発を起こす。

 大きいキノコ雲が浮かび、ケルベロス達が吹き飛んでいく。膨大な数があった影のケルベロスの群れは小さくなっていくように見えるのだった。


 戦場が一変する。


 とはいえ、次々と大魔法を使えるほどの魔法力はない。

 影のケルベロスを倒していく宮廷魔導士団であるが、彼らの消耗も大きい。


 だが無駄な抵抗なのではないか?と感じていた彼ら騎士団にとって魔法攻撃が有効という事も分かり、俄然士気は上がる。勝てない訳じゃないと理解したからだ。

 自然と宮廷魔導士を守り彼らは必死に少しずつ削って行けば乗り切れるのだと心を持ち直す。

 宮廷魔導士と言えど、莫大なMPを使うこの魔法を連発するのは多くの人がいても厳しい。騎士団達が守り剣で小さいながらも削りつつ大魔法で騎士団から離れた魔物を徐々に削っていくのだった。


 だが、回復に時間のかかる宮廷魔導士たちの様子を見て、あからさまな長期戦を早くも予想されていた。




***





 影のケルベロスとの戦いは三日三晩続いた。

 死なずに生き残った重傷者は後方に運ばれ回復すれば再び戦いに入るような状況が続く。


 敵は疲れを知らず、影の魔物は夜にこそ真価を発揮する。城門は松明をたき宮廷魔導士たちにも大きい被害を出し始める。

 宮廷魔導士たちを狙い始め、それを守るために騎士団が奮闘する。

 被害は激しくなってくる。敵が軍隊であれば全滅と呼べる被害を与えているが、敵は延々と戦い続ける影の魔物だ。


 死にかけた騎士の中には自らを囮にして複数を屠ろうとケルベロスのターゲットになり自分を標的に<爆発(エクスプロージョン)>魔法を使わせたりと、騎士たちも死兵となって戦う。

 仲間の死に怒りや悔しさがばねとなり相手が引かない以上皆殺しにするという覚悟で戦い続けていた。


 それでもどうにか4日目の夕方になった頃には、総勢112匹の影の魔物を殲滅し尽くし、どうにか休憩を取る事が出来た。

 無論、それによって出た被害は非常に大きい。


 ステラは厳しい場所へ積極的に回って回復魔法で応急処置をし、本職の神官たちに引き渡す。死の運命を見渡す事の出来るステラは救急救護だけでかなりの戦力になっていた。


 文官側でもあるギュンターも神聖魔法はかなり高レベルの使い手なので、神官たちと共に駆け回っていた。彼は力があるからこそより最前線に出て致命傷の仲間を助けることができていた。



「はあはあ……」

 ステラも流石に合計数時間程度の仮眠をしただけで、延々と人助けの為に走り回っていたので、グッタリしていた。

 野戦病院では未だに多くの神官が回復魔法をかけている。

 ステラはそれに加えて戦場でも駆け回っていたので疲れ切っていた。

 魔力よりも体力的な部分が大きい。


「助かります、ステラ殿。多くの者達が死地を救われたと感謝しておりましたよ」

「予知で死を予知した人を助けられる方から順番ずつ当たっていただけですから。私に魔力や体力があれば、もっと多くの人を救えたのですが」

 ギュンターに頭を下げられてしまうが、ステラとしては納得が行っていなかった。ただ、予知に従い最善を尽くしたに過ぎない。


 ステラは魔法力が高くMPも人間と比べれば群を抜いている。

 だが神聖魔法自体は軽いヒールや解毒くらいしか出来ないので、高レベルの神聖魔法の使い手であるギュンターを含む神聖魔法の使い手が重傷患者を助ける事が出来たのだ。

 だが、ステラは前線で立ち回っていたので、致命傷になっても素早く応急処置で傷を治して後方に運んでいた為、相当数の人が救われている。


「なに、出来る事をやるだけです。やる義務さえないのに働いてもらって助かります」

「こちらの我儘を聞いてもらっていますから。本来であれば、私はヒヨコを運ぶだけの係なのですが、当のヒヨコがどっか行っちゃうし」

 ヒヨコが一羽いればあの軍勢は敵ではなかった。


 恐ろしい事にそれほどヒヨコのブレスはあの魔物に対して有効だったのだ。

 <爆発(エクスプロージョン)>の魔法に匹敵するボンバーブレスを溜めずに数十連発が可能なヒヨコは単独であの影の魔物を打ち滅ぼせる力があったのだと今更ながらに感じさせる。

 実際、この戦闘で宮廷魔導士たちは200人もの集団でやって来て、200発ほどのエクスプロージョンを打つのに3日以上かけている。


「まあ、元々陛下はヒヨコを頭数に入れておりませんでしたから。いくらヒヨコが人並みに賢くてもあれは計算できないでしょう?」

「まあ、それもそうですが…」

 むしろヒヨコは予知を使っても計算できない不安分子でもある。アルトゥルはそういう事も含めて計算している辺り、誰にも頼らない帝国の強さを裏付けているようにさえ感じさせるものだった。この世界の文明で頭一つ抜けているのが理解できるとステラも納得する。


「陛下は今、皆に慰労をしております。それが終わり次第会議になりますので是非ステラ殿も来ていただきたい」

「分かりました」

 ステラは立ち上がり、ギュンターと共に陣幕の方へと向かう。

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