6章11話 ながされてヒヨコ
むかし、むかし、ある所に、お父さんとお母さんがいました。
毎朝、お父さんはしば刈りにお母さんは川へ洗濯に行きました。
ある日、お母さんが川でせっせと洗濯をしていると、川上から大きな桃色の何かが、
どんぶらこっこ ぴっよっよ。どんぶらこっこ ぴっよっよ。
と流れてきました。
「おやおや、これは見事な桃色のヒヨコだこと。……怪しいから見なかった事にしましょう」
「ピヨヨーッ!(そこは拾えよ!)」
バシャッ!
ヒヨコは激怒して立ち上がると、何と既に足の着く水場だった事に気付いたのです。もう流される必要はありません。
めでたしめでたし。
桃ピヨー ~完~
***
「ピヨピヨ(ほぼ丸一日流されてしまった)」
まさかこんなに流されるとは思わなかったぞ。ステちゃんもさぞ心配しているだろう。
はてさて、ここはどこ?ヒヨコはピヨだな。
うむうむ、記憶喪失にはなってはいないぞ?
場所が分からないだけ。ま、迷子でもないぞ?上流に向かえば良いだけだからな。
チラリと川の上流の方を見る。険しい山岳地帯や森が見える。
流されすぎてどうしよう。
とはいえ、折角流されるなら女だらけのハーレム島に辿り着いても良かったのに。そして可愛い女の子に釣られてみたり、島中の女の子に追い回されてみたりするのがお約束ではなかろうか?全然カモンだぞ?新章・『ながされてヒヨコ島』はいつ始まるのだ!?
周りを見ると洗濯をしているお母さんが一人。
「ピヨピヨ~!(こんにちはー。ここどこですか?)」
「フルシュドルフ親善大使ピヨちゃん?」
「ピヨピヨ(おお、ヒヨコの名前はそんなにグローバルだったのか!?)」
バサッと翼をひろげてから、胸をドンとたたく。
胸には『フルシュドルフ親善大使ピヨちゃん』とあった。
ああ、そういう事か。がっかり。
おや、何だか目の前のお母さんは嫌そうな顔をしている。水が飛び散ってしまったからか。すまんすまん。
「旅芸人が落としたのかしら?」
「ピヨピヨ(ヒヨコの主人は旅芸人ではなく占師です。むしろヒヨコが旅芸人です)」
職業:貨物 → 旅芸人(NEW!)
おお、職業欄が旅芸人に変わっちゃったよ!
芸をして稼げというのか!?
っていうか、知らない間にまた貨物にされていた!?
おのれ、山賊の親分めが!女神のバカが確信犯で俺の職業を貨物にしたではないか!
「でもすまないねぇ。ウチも流石にそんな大きい捨てヒヨコを飼う余裕はないんだよ。ウチの村は貧乏だから」
ちょっと待っていただこう。捨てヒヨコではないぞ。捨てられたわけではなく落ちたのだ。
まあ、確かに言われてみればステちゃんのヒヨコだからステヒヨコと言っても過言ではないが。
……んんん?もしかして洗濯のお母さんはヒヨコを飼ってくれるつもりだったのか?
「ピヨピヨ(いえいえ、ヒヨコは自活できますので)」
ヒヨコは川を見ると魚が泳いでいるのが見える。気配を消して抜き足差し足ヒヨコ足。
…………からの~
ヒヨコ返し!
「ピヨピヨピヨッ」
嘴で魚を下からすくい上げて3匹の鱒?のような魚を川の外にはじき出す。
「おおっ。凄いのね、ピヨちゃん」
「ピヨピヨ(狩りならヒヨコにお任せあれ)」
「こんな魚を貰って悪いねぇ」
「ピヨヨ!?(いや、ヒヨコの食事だよ!)」
「助かるよ~。息子がいた頃は……食事に困る事は無かったんだけどねぇ」
お母さんは溜息をつく
「ピヨヨ?(息子?息子は旅立ったのか?)」
それにしてもなんという強引なお母さんだろう。だが、そんな強引さがどこか懐かしく感じる。ヒヨコ、そんなのを懐かしむって大丈夫か?トルテに強引に振り回されて酷い目にあっていたからだろうか?
まあ、魚を奪われたままなのは癪だから、ちょっとだけついていくか。
洗濯のお母さんは、洗濯を終えると洗濯物を籠に入れて背負ってさびれた農村の方へと向かうので、ヒヨコもそれに倣いついていく。
それはもう、親鳥に付き従う小鳥のように。
「ピ~ヨピヨッヨ ピ~ヨピヨッヨ ピヨピヨピヨピヨヨ ピ~ヨピヨッヨ ピ~ヨピヨッヨ ピヨピヨピヨヨ」
…………
「ピヨッ!?(あれ、ヒヨコ行進曲が流れているのに誰もついてこない?)」
ヒヨコは頭の上を見るとそこにはトルテがいなかった。トルテがいなければ音楽(ベートーベン作『トルコ行進曲』)がハモれない。
「ピヨヨ~!」
ヒヨコは愕然とする。きゅうきゅうついてきてくれなければ誰が歌ってくれるのか!?
ピヨドラバスターズは永きゅうに不滅ではなかったのか!?
今になって悲しくなってきたぞ?
「何だい、ピヨちゃん。ご主人様と別れて悲しいのかい?」
「ピヨピヨ(ご主人様と別れて悲しい訳じゃないが、今になって相棒との別れが寂しくなってきたのです)」
「まあ、自分で飯が食えるなら暫くうちに居たらいい。食事は出せないが寝床くらいはあるよ」
「ピヨピヨ~(それは素晴らしい。でも話がかみ合ってない。とは言え、一日中、水の上でパシャパシャしてたからヒヨコは少し疲れたので休ませてもらおう)」
ピヨピヨ、今日のお宅拝見。
今日は洗濯のお母さんのおうちにやってきました。
おうちは小高い丘の上にある大きい庭のある小さなおうちです。背の低い木の柵で囲まれているので庭の中も家の中も丸見え、もとい、開放的な土地の様です。
庭には大きな木がありました。何の木か見てみましょう。
ピヨピヨ
この木、何の木?気になる木?
ヒヨコは近づいてヂロヂロと見てみると、幹には何か傷がつけられていた。木刀か何かで叩かれた跡だろうか?ここはひとつ、ヒヨコも嘴を突き立てておくべきか?
若き頃のヒヨコも、毎日毎日、強くなるために木に嘴を突き立てたものだ。
…………いや、そんな記憶はないな。
ビシビシッと木に嘴を突き立てる。
「ピヨッ!?」
やるな、この木め!ヒヨコの嘴を受けてもびくともしないとは!
「ピヨッピヨッ」
何発か木に攻撃を仕掛けて見て、びくともしないのを確認すると諦めて家の縁側の上で丸くなる。
洗濯のお母さんは洗濯物を広い庭に干していた。ヒヨコはそんな姿をどこかで見たような気がして懐かしさを何故か感じつつ、うとうとと眠るのだった。
***
「おわぁ!」
男性の声でヒヨコは目が覚めた。
「ピヨヨ?(おや、こちらはどちらのお父さん?)」
「ああ、アンタ。帰って来たんだね?」
「どうしたんだ、お前。あんなヒヨコ、どこで狩ってきたんだ?」
「川で洗濯をしていたら、こう、どんぶらこっこ ピッヨッヨって感じで流れて来たのよ」
「桃だったらなぁ。桃色のヒヨコはちょっとなぁ。ちぃ」
お父さん、何気に舌打ちをする。
「ピヨピヨ(ヒヨコでは不満ですと?花よりヒヨコと言うではないですか。……いや、何か自ら喰われに行っているようで嫌だからやめておこう)」
ヒヨコは迂闊にも自分が食べられる方向性で話をしようとしていた事に気付くのだった。迂闊である。
とは言え、自ら気付いてしまうとはさすがヒヨコである。
どうやら今日のヒヨコは一味違うようだ。
………………いや、だから食う方向性ではないぞ?
「あんまり美味しくなさそうだしなぁ」
「ピヨピヨ(だから食う方向性は辞めてもらいたい。そうそう、ヒヨコは日々、皆々様から食えない奴だと言われておりますので。食えないヒヨコだよ?)」
「ちょっと位、家においてあげれば良いんじゃない?何かついてきちゃったし」
「ペットか。まあ、家は寂しくなっちまったしなぁ」
お父さんはヒヨコの頭をワシワシと撫でながら。ヒヨコは頭を撫でられるのを堪能するのだった。
悪くない撫でテクである。
「ピヨピヨ(泊めて貰えるならば、ここはいつもの穴場でホロホロチョウを取って来て進呈してあげようではないか。ヒヨコの狩りの凄さを見て恐れ戦き腰を抜かしてしまうが良い。ヒヨコの狩りの上手さをご堪能あれ。)」
ヒヨコはスタッと立ち上がる。
身振り手振りで狩りに行ってくると伝えてみる。ヒヨコの偉大さが伝わるかと思ったのだが…
「いや、別に踊りで和ましてくれなくても良いんだぞ?」
「ピッヨーヨッ!(ちっげーよ!)」
くそっ、ヒヨコの言葉がこのお父さんとお母さんたちに伝わらない。まあ、ホロホロチョウはまた明日という事にしよう。
結局、この日はこの一家の食卓に入り食事をするのだった。
誰かヒヨコの言葉を感じてください。和やかな食卓でピヨピヨとしか喋れないのは厳しい。
やはり、あれか!ヒヨコ言語、もとい念話をもう1レベル上げてどうにか人に伝わるようにすべきだな。『念話レベル4へ上げよう』のミッション発動だ!
***
ヒヨコの朝は早い。
まだ日差しが山間からまで出てくる前の頃、ヒヨコは青みがかる空を仰ぎつつフルシュドルフダンスを一踊りしてから、いつもの狩場へと向かう。
久しぶりにやって来た狩場は魔物の気配が感じられる。最近来てなかったから増えたのだろうか?お目当ての鳥さんはどこかな?
ちゅんちゅんと大雀が3羽ほど見つかるが、残念ながら奴らはまだまだ子供だ。今狩っては将来増えないから今日の所は許してやろう。
自然に優しいヒヨコに感謝するが良い。
ヒヨコにエコマークを付けてくれても良いのだぞ?
ファンファーレと共にヒヨコの神眼に映し出されたのはヒヨコの名前:ピヨの横に1を包み込む△記号だった。おお、エコマークか?って、エコマークじゃなくてPETマークじゃねえか!誰がペットボトルだ!
すると次の瞬間、1を包む△マークが消えて『職業:旅芸人→愛玩動物』へと戻ってしまう。
だから、誰が愛玩動物か!?
いや、上手い事言えとか言ってないんだけど。ヒヨコは女神様と誰も見ていない場所で漫才をしたいわけでは無いのだが?
はっ!
これが旅芸人の宿命なのか!?
いや、そもそもエコマークとかペットボトルって何だよ!?
ピヨピヨ、ヒヨコの記憶にはそのような言葉は一切ありません。政治家の真似ではなく本当だぞ?
時にヒヨコはおかしな記憶が舞い込んでくる。どういう事だろうか?
やはり悪いのは女神か。悪神の次は女神か!奴こそがラスボスと見たね! 最後に立ち塞がるのは女神だ。悪役女神は割とテンプレだしな。ついにヒヨコの勇者の成り上がりが始まろうとしていた。
※はじまりませんってば。
ヒヨコは踊って体があったまると、南へと走る。ヒヨコの速度ならばあっという間だ。荒野を駆け抜け、森林地帯を踏破し、山間を潜って……
あっという間に大雀ことジャイアントスパロウの群れの近くに辿り着く。
ちゅんちゅん
ヒヨコより一回り小さい雀がいた。まあ、人間を襲えるレベルの大きさである。そんな大きいなのっぽの雀くんであるが、実は美味しいのだ(ヒヨコ社調べ)。
ただ問題はこの雀くん、なんと群れを成して襲ってくるのだ。
ですがご安心を(誰に言っているのだろう?)。
この大雀は人間を好んで襲ったりは致しません。比較的小さい獲物を狙うのが特徴です。いくら体が大きくても1メートルちょっとの鳥なのだからヒヨコからすれば小物よ、小物。
でも、群れを組んでいる時は違ったりするのが、この大雀の特徴。心が大きくなっているのかもしれないね。そうなると大雀君達は人間なんかに遅れは取ったりはしないのだ。
群れを組んでいる時は近づかないのが吉らしい。冒険者ギルドの魔物辞典に書いてあったしね。
では群れを形成しているようなので、何羽いるのでしょうか数えてみよう。
雀が一羽、雀が二羽、雀が三羽……雀が四羽………す…雀がよん……………zzz
ハッ!?眠くなってきたぞ?
いつの間にかたくさん増えていた。最初は3羽くらいだったのに。
これは群れをつくる事で相手を眠らせようという雀のテクニックなのか!?
ガサッとヒヨコはウトウトして物音を立ててしまう。
すると雀の群れがヒヨコを一斉に見る。グリンと首が回ってヒヨコには60の瞳がヒヨコを射す。
………60の瞳!?24じゃないの!?
ピヨピヨ、どうやらお邪魔のようだ。と言う事で、ヒヨコはこの場から退散させていただきます。
ちゅんちゅんちゅんちゅんちゅんちゅんちゅんちゅんちゅんちゅんちゅんちゅんちゅんちゅんちゅんちゅんちゅんちゅんちゅんちゅんちゅんちゅんちゅんちゅんちゅんちゅんちゅんちゅんちゅんちゅんちゅんちゅんちゅんちゅんちゅんちゅんちゅんちゅんちゅんちゅんちゅんちゅんちゅんちゅんちゅんちゅんちゅんちゅんちゅんちゅんちゅんちゅんちゅんちゅんちゅんちゅんちゅんちゅんちゅんちゅん
念話レベルが低い残念なヒヨコだがわかるぞ、奴らの考えている事が手に取る様に。
「ピヨッ!(美味そうなヒヨコ!)」
それだっ!と言わんばかりに雀の群れがヒヨコを襲う。
ヒヨコは回れ右をして颯爽と逃げ出すのだった。30匹は軽くいる大雀の群に追われるヒヨコ、大ピンチであった。普通ならば。
だが、残念だったな、大雀達よ。ヒヨコの脚力を見よ!貴様ら鳥風情ではこの脚力にはついてこれまい!
フハハハハ、バカな大雀よ!所詮は鳥だな。鳥頭だ。ヒヨコとは違うのだよ、ヒヨコとは!
ヒヨコの脚力に鳥風情がついてこれるはずもない!ヒヨコを捉えたかったらキメラ君でも連れてくるのだな!
すると空から物凄い数の大雀の群れがヒヨコを飛んで追いかけてくる。
「ピヨヨッ!?(ちょ、おい!?)」
空を飛ぶだと!?
卑怯じゃないか!大雀どもめ!鳥としての矜持がないとでもいうのか!空を飛ぶだなんて!
鳥が空を飛ぶとか絶対に………………………………いや、普通に飛ぶな、鳥は。
「ピヨヨーッ!」
ヒヨコは頭を抱えて嘆くのだった。
飛べぬはヒヨコばかりか。
***
それから1時間後、ヒヨコと雀くんたちの群れとの激闘は苛烈を極めた。
だが、ヒヨコはとっても強かったのだ。皆知っている通りだ。
ヒヨコは雀君達をピヨピヨしてやったら、雀君達は逃げ出した。ヒヨコは逃げる雀君達の一羽を狩り、どうにか獲物をゲットしたのだった。
………あれ?ヒヨコの獲物は雀君じゃなかったような?
「ピヨーッ!(しまった!)」
そうだった。ヒヨコの予定していた獲物はホロホロチョウだった。あの山間の先にある崖辺りにホロホロチョウ君がピヨピヨ飛んでいた筈なのに!
何でそこに行く前にヒヨコは雀なんて狩ってしまったのだ!
あいつらがヒヨコに絡んでくるから。偉大なピヨちゃんにチンピラ雀が絡んでくるからいかんのだ。明日は威厳をもって接して、奴らを退けよう。
今日は諦めて雀を持って帰るか。
ヒヨコは背中に大雀の死体を背負って元の来たグルー村へと帰るのだった。
ヒヨコは家に帰ると物置にあるロープを取り出して、雀を足から吊るして大きな木に縛り付けて吊るす。
毎度見るたびにヒヨコの手際の良さに感動する。
………手際?
手羽際では?
まあ、いいや。ヒヨコのお仕事はここまでしかできない。
するとお父さんが家から出てくる。
「ピヨピヨ(おはよう!今日も良い朝だな。ヒヨコの朝だ。)」
「って、おおおおっ!雀が吊られてる!」
驚いてくれたようだな、お父さんよ。ヒヨコ的には解体をお願いしたいのでプリーズ?
ヒヨコは身振り手振りで説明すると、お父さんはグッとサムズアップし、キラリと白い歯を光らせて頷く。
ヒヨコがロープを取り出した物置から鉈を取り出して、まるで勇者が魔王に立ち向かうような後ろ姿で雀へと向かうお父さんの姿がお庭に見られるのだった。
「ふっ腕が鳴るぜ。息子がいなくなって以来、俺の解体術は伝説の彼方だったからな」
「ピヨピヨ(おお、伝説の解体屋さんでしたか!?)」
「まあ、見てな。俺の解体テクニックを」
鉈を持ったお父さんはヒヨコの右肩を掴む。
「まずはこうして手羽をだな」
ヒヨコは危機を察知して慌てて逃げようと頑張る。だががっつり肩を掴まれてしまっていた。
「ピヨヨーッ(待て、解体して欲しいのはヒヨコではなく雀だ!)」
ヒヨコは死を覚悟して涙をためて目を瞑る。痛くても大丈夫。回復魔法で元通りだ。
「あははは。冗談だ、冗談」
「ピヨピヨ(冗談だと?ヒヨコは冗談が大嫌いです。いつだって真面目に生きているというのに。過去にヒヨコが冗談を言った事があっただろうか?いや、無い)」
ヒヨコはお父さんを説教する。
「まあ、そんな涙目で怒るなよ。冗談の通じない奴だなぁ」
「ピヨピヨ(お前ら人間はヒヨコを見ると何故か食料だと勘違いするからな。ヒヨコはお冠ですぞ。アホ毛が天を衝きますぞ)」
ヒヨコの説教が功を奏してか、そんなこんなでお父さんはせっせとヒヨコの狩ってきた雀の解体を始める。
その後、ヒヨコは解体した雀肉をよそ様の家にお母さんを乗せておすそ分けに行く。
「悪いわね。じゃあ、うちもこれ」
田舎は基本的に物々交換である。お母さんが肉を持って行って、お隣の農家から野菜を貰う。
更にはヒヨコを渡して猟犬を貰う。
「ピヨヨッ!(って、ヒヨコを勝手にあげるな!)」
ピヨッとヒヨコは翼でなんでやねん風ツッコミをお母さんに入れる。
「あらあらウッカリしてたわ」
「ピヨピヨ(迂闊者か!?)」
あらあらうふふと笑うお母さん。
天然さんか?ヒヨコは何と言う場所に流れ着いたのだろうか?
「あらあら、そんなヒヨコじゃウチの子は上げられないわよ」
だが、相手の奥さんも酷いことを言う。
「ピヨヨ~(そしてヒヨコは犬以下か?)」
すると賢そうな猟犬が近くにやって来る。
物欲しげそうな犬だった。ハスキーって感じの黒い猟犬だ。
こんな犬コロがそんなに賢いのだろうか?ヒヨコがちょっと見てやろうじゃないか。
「ピヨッ!(お手!)」
ヒヨコは手羽を差し出して猟犬にお手をさせようとすると、ガブリと噛みついてくる。
「ピヨヨーッ!」
「ダメよ、そんな鳥を食べたら。お腹を壊すわ。せめて焼いてから」
農家の小母さんは犬を抑えてステイさせようとする。
「ピヨッ(村ぐるみでヒヨコを食い物にするつもりか!?)」
犬から離れてヒヨコはお母さんの背後に回り込む。
「クスクス、懐かしいわね。そう言えばあの子がいた頃もこんな事があったわね」
「そうね。うちの子がお手ってウチの犬に手を差し出したらカプッてやっちゃって。以来、あの子ってば犬嫌いになっちゃったのよね」
「そうそう」
ケラケラ笑うお母さんたち。ヒヨコにはさっぱりですが、どうやらお母さんの息子さんとやらは苦労しているようだ。この雑な扱いも明日ホロホロチョウを取ってくれば改善されるのではないだろうか?
ヒヨコはひそかに野心を燃やすのだった。