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最凶ヒヨコ伝説 ~裏切られた勇者はヒヨコに生まれ変わったので鳥生を謳歌します~  作者:
第1部6章 帝国東部領シュバルツシュタット ヒヨコ無双
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6章8話 ヒヨコが見守るイグッちゃんVS下っ端君

 日が暮れた頃、ステちゃんを宿に送ってからヒヨコはイグッちゃんと共にお外に出る。

 夜の街で遊ぶと思ったのに、何故かヒヨコは街の外でイグッちゃんと下っ端君が対峙しているのを見ていたのだった。


 シュバルツシュタットは夜になって暗くなっていた。

 街の中心部は明るいが出入り口付近は普通に暗めだ。街灯が明るい位だ。下っ端君が後から慌ててやって来て、門番さん達に何やら話しかけ説明をすると、門番さん達は通してくれる。

「ピヨピヨ~」

「ヒヨコ?」

 門番さん達はヒヨコに驚いた様だが仕方ない事だ。ヒヨコは有名(じん)だからな。

 サインは頼まれても書かんぞ?まだ格好いいサインの書き方は出来ていないのだ。だが、ヒヨコ程の有名(じん)となればパンピーたちがヒヨコのサインを欲しがると思うのだが、何故か誰もヒヨコにサインを頼んではくれない。

 何故だろう?

 山賊の親分は毎日部下達からサイン攻めにあって大変だと嘆いていたのに。



 するとイグッちゃんが手をひらひらさせながら下っ端君に声をかける。

「まあ、今回はハンデをやろう。もしも貴様が俺に傷一つでもつけられたら力を貸してやる。そして俺はこの姿で戦ってやる。ドラゴンにならないという大ハンデだ。何せこの夜だしドラゴンになって動けば近所迷惑だろうからな」

「ピヨピヨ(イグッちゃんにそんな気を遣う一面があった事こそがヒヨコにとって最大の驚きだ)」

「失礼なヒヨコだ」


 下っ端君は何か上等な感じの槍を持っていた。月夜の灯に照らされて、黄金に輝いている槍だった。移動中に持っていた赤黒い槍とは違うようだ。

 下っ端君は腰を落として構えつつイグッちゃんを見る。

「本当に傷をつけただけで助けてくれるっすよね?」

「ああ。俺に二言はない」

「ピヨヨッ!(嘘だ!)」

 自信たっぷりに言うイグッちゃんだが、ヒヨコは絶対に信用しないぞ。騙されてはならぬ、下っ端君。


「ただし、いつまでも戦うのは面倒だからな。制限時間は夜明けまでとさせて貰おう」

 イグッちゃんは空に指を差して口にする。

「この槍はドラゴン殺しと呼ばれたアダマンタイト製の武器っすよ。嘗めすぎじゃないっすか?」

「その代わり、生きて終われると思うなよ。来な、小僧」

 にやりと笑いクイックイッと人差し指を立てて自分の方へ来るよう促す。

「はあああっ」

 下っ端君はすさまじい速度でイグッちゃんとの距離を詰める。


 キンキンキンキンッ


 槍による四連撃をイグッちゃんの体に当たるが金属音が響きダメージは一切見えなかった。

「んなっ…硬い!?」

 まったく手ごたえがなく下っ端君は愕然とする。

「おいおい、折角こっちが守勢に回ってやったのに、もうこっちの攻めで良いのか?」


 イグッちゃんは槍が付きつけられているのに前に踏み込み下っ端君を押し返す。鋭い刃であるのに、一切傷さえもつかない。

 そして、イグッちゃんの拳が一閃する。


 ドゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ


 拳が振られた瞬間、拳を振った方向は大地が抉られ爆風が吹き荒れる。

 下っ端君は直撃こそ避けたものの吹っ飛んで転がっていた。うん、直撃していたら一撃で死んでいたな。今のイグッちゃんはグラキエス君のパワーアップバージョンだ。

 そしてイグッちゃんよ。近所迷惑を懸念してドラゴンの姿を辞めたというが、既に完全無欠の近所迷惑だぞ。

 ヒヨコは溜息をついて城門付近に下がると、背後には平服姿の山賊の親分がいた。この格好だと街中に山賊が現れたようにしか見えんぞ。大丈夫か、この町は!?

 そしてお忍びなのか、お忍びでないのかさっぱり分からない。門番さん達が畏まっているが、護衛がいないという事だ。むむむ、闇に紛れてヒヨコをコキ使っていた肌の浅黒い小父さんがいた。

 しかし、ギュンター君がいないぞ?ああ、ギュンター君はまた除け者か。そして後で泣き言を言いながら何やってんですか陛下―って現れるに違いない。

 苦労性の我が友ギュンター君に幸あれ。


「うおおおおおおおおおおおっ」

 下っ端君は槍を握りイグッちゃんへと襲い掛かる。超連撃を仕掛けるがイグッちゃんは魔力を体に回し体を硬化させているようにも見える。

 ギギギギギギッ

 激しい金属音が響き続けるがイグッちゃんには傷どころかダメージも入っていない。


「そうそう、ヒヨコよ。折角だからレクチャーしてやろう。竜族は基本的に固い鱗があるが鱗よりも体が硬いのだ。魔力を防御力に回す事で高い防御能力を得る事が出来るのだ。我らは体の重さの割には翼が小さい。翼はバランスをとるだけで実際には魔力で飛んでいるのだ。それらは全て先天的に身に着けていく。幼竜から成竜へ、成竜から老竜へ、老竜から古竜へと生まれ変わる度に強靭な魔力を体で固めて行く事になる。女神のシステムで言えば肉体硬化という。俺はこの肉体硬化を、従来でもレベル3,意識があればレベル5を保持できる。つまり、俺を傷つけるには、常にそれ以上の攻撃力か、守勢に回して精神力が切れるまで攻撃しなければならぬという事」

 イグッちゃんよ。ヒヨコに説明しているようではあるが、ヒヨコには態々下っ端君に自分の攻略法を教えているようにも見えるぞ。


 いや、だが待てよ。ヒヨコが身体硬化を覚えれば、子供達にぺちぺち叩かれるマスコット人形的な扱いを受けても痛くないという事か!?ナイスアドバイスだ、イグッちゃん!

 そう言えば後輩君も腕力強化だとか脚力強化だかそんな感じのがあった気がする。

 だが、ヒヨコには存在しなかった。それがヒヨコにはない。つまりヒヨコが覚えればさらに強くなることも可能。スーパーヒヨコになって次作『最凶ヒヨコ伝説Z』が始まる未来もあり得るという事か!


※はじまりません。



「つああああああああっ」

 下っ端君は飽きずに槍で攻撃をし続ける。時に切ったり薙いだりするし、目を狙ったりもするが、イグッちゃんには一切効かない。

 イグッちゃんは下っ端君が一瞬でも攻撃の手を緩めると、守勢から攻勢へと移行する。


 拳を振るう事だけで大地が抉れるような超攻撃を仕掛ける。

 一振りで地平まで届くような凶悪な攻撃だが下っ端君は辛うじてかわす。


「ほう?そっちに避けて良いのか?」

 イグッちゃんはにやりと笑い、拳を握る。

「え?」

 下っ端君は気付いていないようだ。避けた方向が町側である事。そして下っ端君の背後は町の城壁がある事。

 イグッちゃんはさらに攻撃を仕掛ける。

 イグッちゃんの振る拳で街の城壁の一部が50メートルほどぶち壊されて崩れ堕ちていく。

 避けた下っ端君はそのあり様を見て真っ青になる。


 下っ端君は慌てて町とは逆方向へと走る。


「ピヨヨッ!(バカ、下っ端君!逃げるんじゃない!街を背負わず詰めろ!イグッちゃんに対して守勢に回ったら終わるぞ!)」

「ほらほら、ヒヨコが言ってるぞ?守勢に回ったら終わるとな」

 もはや長距離大砲を相手に逃げ回る様相に入る。下っ端君は折角攻めていたのに守りに入ったため、イグッちゃんの拳を振るだけで一撃で死ぬような遠距離攻撃が次々と襲い掛かる。

「ヒヨコなんかに言われたくないっすよ!」

「そうか?あいつはもっと弱い頃、今のお前なんぞよりも遥かに弱かったが、ドラゴンの姿をした俺に対して巫女姫を守りながら一撃を入れて悶絶させたぞ。貴様に足りないのは実力ではない。勇気だ!」

 グハハハハッと笑いながら攻撃を次々としかける。距離が開いてしまい下っ端君は攻撃さえ出来なくなってしまう。


 だが、下っ端君よ。ヒヨコとてイグッちゃんに傷をつけた事は無いのだよ。それこそ、隕石が落ちて来て直撃でもしない限り難しいと思うが、それも天文学的な数字だ。まず起こりえない話だ。


「くっ…ヒヨコに出来て俺に出来ない筈がないっす!」

 下っ端君は開いた距離を縮めようと走りながら前に出る。

 必死にイグッちゃんの距離を詰めようとするがイグッちゃんの拳の延長線上に入ってしまい下っ端君は遂に衝撃波にぶっ飛ばされてしまう。

 宙に舞い地面に叩きつけられゴロゴロと転がる。

 倒れた下っ端君はピクリともしない。


 ピヨピヨ、下っ端君は死んでしまったか。残念無念。

 イグッちゃんはコキッコキッと首を回しながら下っ端君の方へと歩いて行く。かなりの手加減だったな。ヒヨコと戦った時は軽く吐くだけで山には穴が開き森は燃え足元はマグマだまりは出来るわでめっちゃ大変だったのに。余波だけで死にそうだったんだが。というかヒヨコの体が軽いからむしろ風に吹っ飛ばされたお陰でダメージが少なかったと思われる。

 人間の体だったら多分攻撃をかわしても爆風で吹き飛んで骨が折れていただろう。


 だが、倒れている下っ端君がピクリと動く。おや、生きていたか。


「くっ……」

「ヒヨコ。回復魔法をかけてやれ」

「ピヨヨッ!(あいあいさー)」

 ヒヨコはピヨピヨと下っ端君に近づき、<治癒(ヒール)>をかけて怪我を治してあげる。そしてお邪魔虫は即座に門前へと戻るのだった。


「で、どうする?小僧」

「やるっす」

「このまま俺とやる方がリスキーな気もするがなぁ」

「そんなのはわかってるっす。俺が守りたいのは全部っすよ。俺一人の手じゃ届かない。眷属とだって戦えるし、やれって言うなら悪神とだって戦って見せるっす。でもあの眷属の群れが現れた時、俺一人じゃどうにもならないっす。俺が10人も20人もいるなら良いっす。そんなの不可能だって分かってるっす。陛下みたいな力があれば全部守れるじゃないっすか。俺はその力が欲しいっすよ」

「ふむ。ならばもう終わりにしようか。貴様は自分の事を誰かに助けてもらおうという甘ちゃんだ。生きる価値無し。死んで後悔するなよ」

 イグッちゃんの空気が変わる。これまでは甘い感じであったが、殺意が滲み始める。


 その瞬間、イグッちゃんがものすごい勢いで下っ端君との距離を詰める。イグッちゃんは何気にスピードが速いのだ。今のヒヨコ程ではないがな。

 一瞬で詰められて下っ端君は殴られようとしていた。致死の攻撃力を持ったパンチである。

「くっ」

 だが、下っ端君はイグッちゃんの攻撃を流水で受け流そうとする。だが、イグッちゃんん拳が流水如きを軽く流せるはずもない。

 ダメージを受け流しきる事が出来ず、下っ端君は大きく吹き飛ばされる。

「ピヨヨ!(下っ端君よ。逃げるな!前に出ろ!イグッちゃん相手には攻撃以外に活路はないぞ!)」

 地面にゴロゴロ転がりながらも下っ端君も同じことを感じたのだろう。即座に立ち上がって前へと走る。

「うおおおおおおおおおおおおおおっ」

 高速の槍による攻撃にイグッちゃんは守りに入る。下っ端君は息を継がずに次々と攻撃を続ける。


 だが一拍呼吸をした瞬間、イグッちゃんは前に出て拳を振る。それは攻撃は流水で流しているにも拘らず、10メートルくらい吹き飛んでしまう。

「くっ」

 下っ端君はボロボロの体を起こしてイグッちゃんへと向かう。槍による攻撃で徹底してイグッちゃんに攻めさせないように攻撃をし続ける。

 それでもイグッちゃんは一定の威力より弱いと即座に攻撃に移り下っ端君を吹き飛ばす。

 下っ端君は流水で攻撃を流そうと頑張るが、流しても尚その威力は下っ端君に大きいダメージを与える。


 下っ端君は必死だ。下っ端君だと思っていたがどうも口ぶりからすると部下の為に戦っているようだ。下っ端君の下に下っ端君がいたという事実にヒヨコはビックリしていた。


「つああああああああっ!」

 下っ端君は槍の連撃を繰り出す。素早く、鋭く、必死になって、イグッちゃんへの攻撃の手を緩めずに攻撃をし続ける。

 だが、イグッちゃんは避けるのではなく敢えて受けていた。激しく金属音が響き続けるが、イグッちゃんの強靭な体には一切傷が入らない。

 その強靭さは比類なきものだ。そこでヒヨコは気付くのだがイグッちゃんは防御に力を回しているから腕力に力を回せていないのか?ドラゴンの鱗ではなく人間の肌だ。身体硬化による防御に魔力を回さないともしかしたら傷ついてしまう恐れがあるのかもしれない。


 ………………………本当にそうか?


 下っ端君は必死に攻撃を続ける。だが、それはイグッちゃんには届かない。ガードを固めたイグッちゃんに攻撃が通ると思う事自体が間違っているのだ。

 下っ端君はイグッちゃんの攻撃を単発に終わらせて攻撃をし続ける。イグッちゃんの攻撃一撃一撃が大爆発を起こし、大地を抉り世界の終りを感じさせるようなものだった。

 何度も下っ端君は転がされるが、必死に立ち上がりイグッちゃんに攻撃をさせないよう、息を付かせるような弱い攻撃を放たず、また強力な連撃に終始する。皮膚の薄い場所、魔力の弱い場所、そういった弱点と思しき場所を突いて突いて突きまくる。

 だが、イグッちゃんはダメージを一切通さない。


 一方的に下っ端君が攻めているように見えるがイグッちゃんは一切動じない。

 気付けばもう何時間も続けている。


 下っ端君はもはや体力が尽きつつあり、肩で息をしているが、そんなスキをイグッちゃんは見逃さず拳による爆撃を放つ。

 下っ端君は必死に受け流して直撃を避ける。だが、その威力は恐ろしく大きく吹き飛ばされ地面に転がる。

 それでも立ち上がってイグッちゃんへ立ち向かう。


「くそっくそっ!」

 下っ端君は必死に前へと出てイグッちゃんに攻撃を叩き込み続ける。

 怒涛の攻撃の乱舞を続ける下っ端君も息が完全に上がっている。


 ヒヨコはもう寝ていいですか?でもイグッちゃんがうっかり殺した場合、ヒヨコが即座に<治癒(ヒール)>をかけてやらないと下っ端君は死ぬからなぁ。イグッちゃんがヒヨコを持ち出したのはそのためだろう?


 ピヨピヨ、ヒヨコは歩くポーションじゃありませんよ?


「うおおおおおおおおっ!」

 下っ端君、渾身の突きがイグッちゃんの顔にさく裂しようとした瞬間、イグッちゃんは槍を右手の親指と人差し指で見事につまんで攻撃を抑える。


「しまっ」

 ついにイグッちゃんは下っ端君の攻撃を捉え、そして拳を一気に下っ端君へ叩き込もうと踏み込んでくる。

 下っ端君は槍を手放して距離を取ろうとするがもはや手遅れだった。

 だがイグッちゃんは拳を下っ端君の手前で止まる。


「……え?」

「時間終了だ」

「?」

 イグッちゃんは東の方を指差すと、いつの間にか地平から太陽の顔が見えて空が青みを差していた。


「あ…」

 下っ端君はガクリと膝をつく。

「まあ、貴様如きが俺に傷をつけるなどありえぬと思っていたから当然の結末だがな」

「ピヨピヨ(下っ端君ではやはり無理だったか)」

「俺は竜王陛下の協力を取り付けないと行けなかったのに」

 下っ端君はがっくりとうなだれる。

 そんな下っ端君を見下ろしながらイグッちゃんは溜息をつく。

「貴様はそれだけの力を持っていながらどうして他人を頼る。貴様は少々小賢しすぎるな」

「小賢しい?」

 下っ端君はイグッちゃんを見上げる。


「そうだ。少なくともドラゴンたる俺を悶絶させたヒヨコは、当時、お前よりも遥かに弱かった。少なくとも貴様には俺に傷つける可能性はあったのだ」

「!?」

「それほどの力があれば相手が誰であろうと万が一の奇蹟を起こせるかもしれない。多くの実力以上の強者を相手に勝利した者が真の勇者となる。貴様は何もかもさらけ出して死に物狂いで悪神達と戦ってみるが良い。中途に賢い奴は先が見えてしまい自分の常識範囲内でしか動けない。偉業を成した者達は、基本的にバカだ。大バカ者だ。」

「それは…」

「武闘大会を見せて貰ったが、あの幼い獣王よりお前の方が強いだろう。だが、お前がアイツに勝てる未来が見えない。それはあの幼い獣王がバカだからだ。勝利の為なら朽ちるまでやるだろう。あんなちっぽけな大会でも自身の誇りの為にな。貴様に足りないのは力じゃない」

「俺に足りないのは力じゃない?」

 理解できないという顔で下っ端君はイグッちゃんの言葉を復唱する。


「もっとバカになって負ける戦いでも最後まで勝てると思ってやるんだな。守りたい者を死に物狂いで守るつもりで戦え。お前の戦い方は暗殺者のやり方だ。戦士なのだろう?戦士なら戦士らしくぶっ倒れるその時まで前に出て刃を振るうのが務めであろう。もっと自分を信じてやるべきだな」

 イグッちゃんは自分の胸に親指を当ててニッと笑いかける。一晩中やんちゃしていた子とは思えんな。だが、良い事を言う。

「ピヨピヨ(そう、ヒヨコのように!)」

「いや、ヒヨコはちょっと信じしすぎて余裕こき過ぎだろ」

「ピヨピヨ(確かに最近はちょっと調子に乗っていたな。だが反省はしているのだぞ?)」

 イグッちゃんは嫌な事を思い出させる。


「まあ、達者でやりな。お前たちの骨くらいは拾っておいてやろう」

 カカカカと思ってもいない事を口にしてイグッちゃんは門の中に入る。ヒヨコはそこについていく。


 暫くすると山賊の親分がイグッちゃんに頭を下げて声をかけてくる。

「ご迷惑をおかけしました」

「苦労しているようだな」

「……いえ。胸を貸していただきありがとうございます。」

「俺は悪神をさほど脅威とは思わんが、お前らにとっては危険な敵だろう」

「魔神とは異なりますか?」

「魔神は女神が世界の脅威になると判断した敵だったからな。原因はそれ以前に俺が世界をぶっ壊したせいで人類が衰退したからなのだが女神の助言が必要な相手だったのもたしかだ。だが、その助言さえも魔神は徹底して潰しまわった。唯一神を下ろせる妖狐族の根絶やしと言う手を使ってな」

「今回、妖狐族の危険性を相手は把握していないようですが」

「そうだな。だが、女神はこの世界を一度見放そうとしていた節もあるから、お前らでどうにかすべきだろう。まあ、やればできる筈だというエールだと思ってやるしかないだろう」

「勇者シュンスケ様も言葉にして残しております。神に頼るべからずと」

「神に頼るのも俺に頼るのも同じだというのが、あの小僧は理解していないのだ」

「アレは元々暗殺者出身で、暗殺者に戦士になるための修行をさせられていたからどうしても戦士らしさが失われてしまう。イグニス殿が仰ったように戦士として戦えればきっと一皮むけるでしょう」


 部下を信じる山賊の親分。

 バカな下っ端君を腕力で抑え込んでくれたイグッちゃん。どっちも何だかんだと付き合う辺りがお人よしなのだろうとヒヨコは思う。


 ピヨピヨ、めでたしめでたし。




 ………ハッ!?ヒヨコの活躍は何処に!?


 朝日が昇る頃、同僚に駆け寄られる下っ端君とは明暗を分けるように、何もしていないヒヨコは一羽たたずむ。


 ヒヨコの活躍する順番はいつ来るのだろうか?

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