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最凶ヒヨコ伝説 ~裏切られた勇者はヒヨコに生まれ変わったので鳥生を謳歌します~  作者:
第1部6章 帝国東部領シュバルツシュタット ヒヨコ無双
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6章1話 ヒヨコ屋敷の来客

 ピヨちゃんの庭に集う子供たちが、今日も無垢な笑顔で、朝の健康ダンスの為に背の高いアーチ看板をくぐり抜けていく。

 汚れたヒヨコを包むのは薄紅色の羽毛。頭のアホ毛は乱さないように、ご主人様のステちゃんを振り落とさないように、ゆっくり走るのがヒヨコの嗜み。

 ローゼンシュタット南商店街。

 ここはヒヨコの園。



 はてさて、新章『ピヨちゃんがみてる』が始まったようです。

 おや、違う?

 ヒヨコはついにステちゃんと姉弟の盃を交わして親分と子分になったと思ったんだが。山賊の親分さんは別にいたか。ピヨピヨ、間違い間違い勘違い。


『いや、元々、そんな過去はないのだ。それに、ここはステラの占い出店の前ではなく、ヒヨコ屋敷なのだ』

「ピヨピヨ(そう言えばそうだった。ここはマイヒヨコハウス)」


 このヒヨコハウスの主こそがこのヒヨコ。赤くて人並みの大きさを持つヒヨコのピヨちゃん。

 一緒に暮らすのは法的なヒヨコハウスの所有者であるステラ・ノーランドことステちゃん。金髪の狐耳と6本の狐の尻尾を持つ美少女である。美の少ない女ではないのであしからず。

 そして居候のトニトルテ。体長80センチくらいの黄金というか黄色い幼竜だ。きゅうきゅう鳴くのが特徴だ。ヒヨコのライバルでもある。

 そしてもう一匹の居候がグラキエス君。トニトルテの兄で普段は体長5メートルくらいはある大きな成竜だが、家に入らないので人化の法を使って体をトニトルテと同じ程度の体長80センチくらいの小ささで過ごしている。最初は60センチくらいだったのだが、妹より小さいのは悔しいらしい。態々調整する巧みさに拍手。


 そう、このヒヨコハウスはいつの間にか、人口比はヒヨコ1匹、妖狐族1人、ドラゴンが2匹という状況。


 ………!?


 居住人数はヒヨコ1、妖狐1、ドラゴン2?

 ヒヨコハウスではなくドラゴンハウスになっていないか!?


 するとカランコロンと呼び鈴の音が響く。

「ピヨッ?」

 ヒヨコはスクッと立ち上がり、お客さんのいる玄関へと向かう。

「ピヨピヨ~」

 ヒヨコが玄関のドアを開けると……

「よおっ!また来たぞ!」

「ピヨヨーッ!?(またドラゴンか!?)」

 そこにいたのは赤い髪をした背の高い美丈夫、人化の法で人間になった竜王イグニスことイグッちゃんだった。


 ヒヨコは諦めてリビングにイグッちゃんを通す。

「よお、遊びに来てやったぞ」

「きゅうきゅう(呼んでないのよね)」

「父ちゃん、ヒヨコ屋敷がドラゴン屋敷になっちゃうのだ」

「こ、こんにちは」

 素っ気ないトルテだが、グラキエス君はヒヨコの最も懸念している事を指摘する。さすがは心の友よ。ヒヨコ心を汲んでくれるのか?

 だが、ステちゃんはかなり緊張しているようだ。何せかつて殺されかけた相手だ。一応の和解はしている筈だが、やはり怖いものは怖いらしい。


「シュテファンに聞いたが、今度は出兵についていくそうだな」

 イグッちゃんはステちゃんを見て訪ねる。若干機嫌が悪そうだ。

「は、はい」

「今回の侵略してきた神、女神は悪神だとか呼んだんだっけか?それなりに頭がよく力任せのタイプじゃないようだからな。シュテファンからは大体聞いているが、無駄に命を散らせるマネはするなよ」

 ジロリとイグッちゃんはステちゃんを見る。

「そんな事はしませんよ。……父の過去を見ましたから」

「父?」

 イグッちゃんは首を捻る。


「母の為に人化の法を覚え、私の為に邪眼王を命を懸けて滅ぼした狐人です」

「邪眼王?ああ、6匹目の魔神の化身か」

「母の予知では、あのタイミングで倒せば最後の化身・悪魔王と今回出てきた神がバッティングする事がなく、我々は敵に集中できる、との事です」

「回りくどい事を。といいたいが、何度もフローラの言葉で致命的な状況を回避してきたからな。だが、お前が首を突っ込む必要もないのに、態々突っ込むのか?」

 イグッちゃんはちらりとステちゃんを見る。

 どこかあきれた様子だった。

「両親が命を懸けて守ったこの地を荒らされたくはありませんから。私には力こそないけど、出来る事があります」

 ステちゃんはきりりと真面目な面持ちでイグッちゃんに答える。

 だが、両親の守りたかったのはこの地よりもステちゃんだったんじゃないかなとは思わなくも無いのだが。



「ピヨピヨ(ヒヨコはお留守番か)」

「いや、行けよ。お前が行けよ。むしろお前だけ行けよ」

 イグッちゃんが酷いことを言う。

 たしかに勇者ヒヨコと言えば魔王を倒して然るべきだと思う。今回の敵は魔王ではなく世界に侵略してきた神様だけど。ヒヨコ神様にでもなれというのだろうか?


「きゅうきゅう!(アタシに任せると良いのよね!神だかヒヨコだか知らないけど、やっつけてやるのよね!)」

『いや、ヒヨコはやっつけちゃいけないのだ。でも僕も興味があるのだ』

 トルテとグラキエス君は何気に戦う気満々だった。

「そう言いだすと思ってお前たちを引き取りに来たんだ」

 イグニスはジロリと二匹のドラゴンを見下ろすイグッちゃん。

「きゅうきゅう(何を言うのよね!アタシがステラを守ってやるのよね。ミーシャ達も戦うのよね。アタシが戦わずして誰が戦うのよね?)」

『僕はトニトルテが心配なのだ』

 トルテは膨れて訴え、グラキエス君は心配そうに妹を見る。


 すると何故か屋敷がひんやりと冷たい空気にさらされる。突然天気が変わり帝都が暗雲に見舞われる。空は暗くなり、時にゴロゴロと雷鳴が轟いていた。

「きゅうっ!?」

『こ、これは』


 そして天候不順と同時に、ヒヨコの敷地に勝手に入ってくる人の気配が二つ。ヒヨコが感じた瞬間、ガシャゴンとかドアがぶっ壊されたような音が鳴り響く。

 ヒヨコハウスの玄関は大丈夫か!?

 そして二つの足音は徐々にリビングへと近づいてくる。ちょっとしたホラーだ。ヒヨコもトルテ程じゃないがホラーは苦手気味なのだが。


 ドガンッとリビングのドアを破壊する派手な音を立てて現れたのは二人の女だった。

 一人は長衣に帯をしたような服装の青い髪をした20代後半位の美女だ。

 もう一人は貴族のようなドレスを着た黄金の髪の10代後半位の人間の美少女だ。


「今すぐ帰って来るのです、子供達」

 いきなりヒヨコ屋敷を破壊してやってきたのは、やはり常識知らずのドラゴン。どうやらトルテとグラキエス君の母親のようだ。

 お前ら、ヒヨコ屋敷を勝手に壊さないでもらいたい。


『ダメなのか、ニクス母ちゃん?』

 グラキエス君はコテンと首を傾げ、奥の青い髪の美女に問う。

 だが、答えたのは金髪の美少女だった。


「ええ。そもそも、魔王の手のものに捕まった事がある貴方が言う事なのですか?」

「きゅうきゅう(魔王なんて怖くないのよね。フリュガ母ちゃんは心配性なのよね)」

 トニトルテがきゅうきゅう鳴いてそっぽ向く。

「我が子が私に逆らうなど許されないのです」

 フリュガ母ちゃんと呼ばれた金髪美少女はワシッとトルテの頭をわしづかみにする。フリュガ母ちゃんから異様な気が発していた。

 パチンパチンと電気が弾ける。

 あ、この人、人化の法で人間になってるけど、間違いなくトルテの血縁だ。

「きゅ、きゅうきゅう(許して欲しいのよね、母ちゃん。ごめんなさいなのよね!)


 なんとフリュガ母ちゃんに捕まれた瞬間、意地っ張りなトルテが明らかに狼狽し泣いて謝りだす。イグニス一家のヒエラルキーにおいて、母が高くイグニスが最も低いとは聞いてはいたが、どうも子供達はそれが顕著なようだ。


 無言の圧で子供たちを見下ろす青髪の美女とトルテの頭を掴んで見下ろすフリュガ母ちゃんを見てヒヨコはイグッちゃんの方へ視線を向ける。


「ピヨピヨ(まさかとは思うが、あれがトルテとグラキエス君の母ちゃんか?)」

「まさかと言うより、その通りだ」

 イグッちゃんはヒヨコの問いに答える。

 やはり人化の法で人化したドラゴンだったか。

「綺麗な方たちですね」

 ステラは正直な感想を口にする。

「?…人間の美醜はよく分からんが、美しい竜ではあるな。」

 イグッちゃんの言葉にヒヨコとステちゃんは互いに見合ってから人化の法で人の姿になってるドラゴンを見る。

 そう言えば本体はドラゴンだと思い出す。人型は仮初めの姿だ。トルテとグラキエス君の大人バージョンみたいな感じだろうか?


「シュンスケが名付けた『大北海大陸』という大陸が丁度この星の裏にあるんだが、そこはいくつかの地域で別れているんだ。北部の方で信仰されている幻獣があの青髪の女でグラキエスの母ニクスだ。竜王戦争時代の唯一の生き残りで、俺と同じ古龍だ。ドラゴンでそこまで成長するのはかなり稀だな。もう一人の金髪の女がフリュガだ。大陸中央の山のふもとに住んでいる老竜で、付近の国々で信仰されている幻獣でもある。まあ、どっちも竜の女王で、宗教でまつられている存在といった所か」

「ピヨ~(ウチのステちゃんもそんな感じだぞ)」

 獣王国の人達は悉く平伏すのだ。大陸の東にある大きな山の麓に住んでいた妖狐らしい。ウチのステちゃんは普通のステちゃんではなく、どうやら凄いステちゃんだったのだ!


「まあ、似たようなものだな。巫女姫と違って戦闘能力が著しく高いというのもがあるが。むしろ、グラキエスやトニトルテがステラの立場に近い。まあ、俺はお前たちが勝手に親交を厚くするのは構わんのだが、妻たちはこの大陸が胡散臭い状況になってきてそろそろ出て行こうと考えている訳だ」

「そ、そう…ですか。」

 ステちゃんはふと寂しそうに口にする。

 思えば去年の秋ごろにヒヨコが拾われてからほぼ同時期に、共に暮らしたのがトルテである。かれこれ半年以上の月日をヒヨコとトルテと共に過ごしてきた。

 ステちゃん的には寂しいのだろう。

 特に女同士だからヒヨコには分からない何かがあるのだろう。


「きゅう~」

 トルテはフリュガから逃れて、トテトテと走り、ステラにしがみつきステラを盾にして母親に対して反論を求める。

 ステラは困った顔をしてから、妥協案を探ろうとする。

「まあ、確かにお母様からすれば戦場の近くまで行かせるのは嫌ですよね。お気持ちは分かります。とはいえ今すぐ行く訳でもありませんし」

「既に戦端は開かれているのです。帝国は侵略してきた神の眷属とは既に戦ったとも聞いているのです。つまりは、ここがいつ戦場になるとも限らないのです。神がこの地に現れる際には受肉している以上直接移動しなければならないでしょう。ですが、従来、神を名乗る者は位置なんてものは何の距離にもならないのです。少なくとも大北海大陸は魔神到来時に女神が大結界を張って魔神進行を防いでいます。神を内側に招き入れてしまったこの大陸はともかく」

 フリュガはもう今すぐ囚われてもおかしくないと言う。

 それにはステラは何にも言えない立場である。

 両親の命を捧げられて保護されて生きてきた事実を知った今となっては、彼女たちの懸念は尤もな事だ。


「この大陸でも竜の領域、獣王国のホワイトマウンテン、エルフの世界樹の付近は神が干渉できないよう結界が張られているからな。あんな結界内に干渉できるのは女神だけだ。だからこそ我らはそこで大人しくしている。それ以外の場所に置くのは怖いのだよ。まあ、魔神という敵が、人類にとっては恐ろしすぎたというのもあるが」

「ピヨヨ~?(そうなのか?)」

「うむ。魔神も眷属の7柱も莫大な力を持っていた。俺と殺し合えば大陸が再び滅びかねない。百年以上かけて文明レベルほど千年近く下がったが、そこそこ復興した世界が再び滅びるのはシャレにならないからな。かつて未開地と呼ばれ、原始人しかいなかったこの大陸が今最も文明を栄えさせているという意味でもな。俺はその保護をする事を女神と約束して、この地に居座っているのだ」

「ピヨピヨ(イグッちゃんは破壊神か何かの類だと思っていたが、守護神的な何かだったのか!?)」

「ぬ、ぬう」

 ヒヨコの指摘にイグッちゃんは眉根を寄せて説明に困ったような顔で唸る。

 するとフリュガがジロリとこちらに視線を向けてくる。

「その男は700年前に竜王戦争の発端を作り大陸を海に沈め、世界を滅ぼしかけた元凶なのです。決して守護神なんて存在ではないのです。魔神のやろうとした事を既にやり尽くした破壊神なのですから」

「ピヨッ!?(ちょ、待てよ)」

 イケメンっぽい感じでその言葉にストップをかけてから、ヒヨコはジト目でイグッちゃんを見る。

 イグッちゃんは気まずそうに目をそらす。


「大陸を海に沈めた?」

 ステちゃんは開いた口がふさがらないという顔でイグッちゃんを見る。

「はい。その男はこの星で最も巨大で栄えたインジェンス大陸の大都市レグナムにて発生した竜王戦争の勝者です。ここの大陸はその頃はコロニア大陸と呼ばれ、かの大陸の犯罪奴隷として奴隷民ばかりが住む大地だったそうです」

「海に沈めるって?」

 ありえるのか?と訊ねんばかりにステちゃんは首をひねって金髪の少女、黄竜女王さんに訊ねる。

「大地を溶かす程の吐息で大陸を片っ端から消し飛ばしたそうです。そもそも500年前にこの大陸の北西部を消しているのですからその力は分かっているでしょう?それを20年かけて端から端までやらかした。ただそれだけの事です」

「クハハハハ、若気の至りだな」

 イグッちゃん、それは笑って許していい話ではないぞ?

 ヒヨコはジト目でイグッちゃんを見る。

「摩天楼のようにそびえるビルの群れも、空を飛び月へ向かう船も、世界中で通信可能な機器も、何もかも消し飛ばし、天上には破壊の粉塵が舞い100年程氷河期が訪れたと聞いています。大陸を吹き飛ばした後に砂塵が積もって他大陸の文明も全て滅んだとか。人類も99.9%以上死滅しています」

「ピヨピヨ(さすがイグッちゃん。ヒヨコの第一印象である破壊神と合致する!)」

「あれには事情があってだな。最初は我が子を殺され小国を吹き飛ばしてやったんだが、大陸中が俺を邪竜だとか言いやがって、降りかかる火の粉をすべて沈めて行っただけなのだ」

 降りかかる火の粉は沈めたりしないと思うぞ?振り払おうよ。


「邪竜に相応しい結末だと思うのです」

 フリュガは呆れたようにイグニスを見る。


「ピヨピヨ(そうか、この世界は世紀末だったのか)」

 発展途上の世界ではなく、一度輝かしい世界を生み出したがイグッちゃんが滅ぼした後だったのだ!どうりでヒャッハーとか言いそうな山賊の親分にそっくりな皇帝陛下がいると思ったわ。


「きゅうきゅう(父ちゃんはダメダメなのよね)」

「魔神到来って、既に竜王様が滅ぼした後だったとか…………女神様の過剰な加護はそのせいか」

「女神からは『いい加減、神になってこの世界から消えてくれないか。エルフの女王には話を通してある。良い世界をプレゼントしても良い』と言われているからなぁ」

 ダメダメな竜王に一同が呆れたような視線を向けられる。神様公認の困ったちゃんだったのか。しかも神様にスカウトされている。半分は厄介払いにも見えるが。


 魔神や悪神なんて可愛いものだった。目の前のドラゴンが一番厄介じゃないか。勇者ヒヨコはまずこのドラゴンを倒すところから始めるべきでは?


「きゅうきゅう(それはともかく、まだここで遊びたいのよね。父ちゃんなんてどうでも良いのよね)」

「……グラキエスがフラッといなくなった瞬間、魔神にあっさりと囚われ、アホ男が魔神に利用されたのは忘れている訳ではないでしょう?」

「ピヨピヨ(ヒヨコ屋敷に滞在する分には問題ないと思うのだが、ダメなのか?)」

「ダメです」

 フリュガはにべもない。


「ピヨヨ?(でもグラキエス君は解き放ったのは問題ないからと聞いたが)」

「それは我々が新たなる侵略神の存在に気付いていなかったからなのです。竜の領域の山間部が結界だったからこそ、我らは安心して子供を産み育てていたのです。この大陸は我らを利用しようとする愚かな人間はいないですから」

「大北海大陸は精霊信仰で、ニクスは氷の化身、フリュガは雷の化身としてそれぞれの国で祀られている。無論、その子供とあればグラキエスやトニトルテも祀られるだろう。だが、逆に言えば敵対国から狙われる可能性もある。この大陸に来たのは安全の為でもある。シュテファンとドラゴンの人権宣言を飲んだのも子供たちを守るためだ。さらに悪魔王がまさか俺を恐れもせずに子供をさらうとも思っていなかったが。そのせいで嫁たちは少し神経質なんだ。トニトルテも人間が多少徒党を組んでくる程度なら撃退できるほどには強くなっているし、戻り時だと思ったのだろう」

「ピヨヨ(ついに崇め奉られる時が来てしまったな、トルテ。これが年貢の納め時という事か!?)」

「きゅうきゅう(ステラ、守ってほしいのよね。まだ帝国で食べてないのがたくさんあるのよね。あの列車っていうのにも乗ってみたいのよね)」

 トルテはステちゃんにしがみ付いて保護を頼む。

 とはいえ、ステちゃんにどうにか出来る話ではない。腕力でどうにかなる相手でもなく、イグッちゃんもヒヨコも頼りにならないぞ?


 ステちゃんはトルテの頭を撫でてからフリュガを見上げる。

「とはいえ、ここで帰らなくても、いつかは帰られるのですよね」

「無論なのです。ニクス姐様やイグニスのような古龍に至れる可能性を持つドラゴンは未だに存在しないのです。年を取ればなれるものではなく、両親が古龍に至れる強固な魂をもって初めてなれる事が分かっているのです。グラキエスのような700年ぶりに生まれた古龍へ至れる可能性を持つドラゴンやトニトルテのような突然変異は極めて珍しく、我らは守らねばならないのです」

 まあ、ヒヨコもうっすら気付いていたが、トルテはドラゴンでも別格のようだ。そりゃな、雷を吐いたりする上、巨大蚯蚓と共に戦う幼竜などありえない。


 え、大きいヒヨコもあり得ないって?それはそれ、ピヨはピヨという事で。


 自称お姫様なのだが、恐らく次期女王的なお姫様なのだろう。

 だが、さすがにおかんは怖いようだ。


「それではトニトルテは魔導列車に乗りたがっていたので、帰る前に列車に乗せて貰ってはいかがですか?私は戦場に向かう途中に列車に乗って移動します。まさか侵略してくる神もこのまま放っておけば大陸を離れるドラゴンに喧嘩を売るような愚か者ではないでしょう。ましてやお三方を敵に回すような愚かな事をすれば自分がどうなるか分かっている筈。お三方もご一緒に暫くここで過ごして、列車に乗ってからお帰りになっては?その間はこの家……に泊めちゃっていいよね?」

 ヒヨコに聞いてくるとはステちゃん、分かっているな?そう、ここはマイヒヨコハウス。ヒヨコ屋敷の主であるヒヨコに聞いてくるとは良い事だ。


「ピヨピヨ(ドアを壊さなければ良いぞ?)」

 全員が出入り口を見る。ぶらーんと垂れ下がった扉が悲し気にぶら下がっていた。

「仕方ないな。文明の利器に疎いんだ、ウチの女どもは」

 イグニスは溜息をついてから指をタクトのように振ると錬金術の力なのかドアが綺麗に直ってしまう。

「ピヨピヨ(おお、さすがイグッちゃん。ちなみに玄関も頼むぞ)」

「文明の利器って……ありふれたどこにでもあるドアなんですけど」

「ピヨピヨ(そうだ、どこでもドアなんだぞ、ドラちゃん達よ)」

 何か違うような気がするがどこでもドアは文明の利器ではないぞ?


 するとグラキエス君がヒヨコの翼を揺さぶる。

『ニクス母ちゃんは大陸の半分が滅んで文明が失われた頃に生まれているから、そこら辺が疎いのだ。ドアは回したり押したり引っ張ったり横にスライドしたり鍵が掛かってたりするから、扱いが分かりにくいらしいのだ。どうせ引っ張り壊しても怒る人がいないから開き直って壊しているのだ。ちょっとは良心が痛んでいるのだけど、竜の女王だから決してまずいと思っていても顔には出さないのだ。なので僕が代わりの謝るのだ』

 ニクスと呼ばれた青髪の美人さんはグラキエス君の頭を無言でペシリと叩く。

「あの、ニクス姐さま。どうでしょう、巫女姫がこう言っていますけど……」

 フリュガ母ちゃんとやらは困った様子でニクス母ちゃんを見る。


 そう言えばさっきから先頭を歩いて破壊してきた豪快お母ちゃんの割には、一言もしゃべっていなかったな、グラキエス君の母ちゃんは。

 全員の視線がニクス母ちゃんに視線が向かう。


『良いでしょう』

 たった一言でドラゴン達はホッとしたような表情になる。ヒエラルキーが最も高いのはどうやらこのお母さんらしい。

 ニクス母ちゃんはトルテの前に立つとトルテはビクビクした様子でステちゃんにしがみ付いて頭を下に向けていた。そんなに怖いか?


『色々大変だったとは聞いていますが、よい出会いがあったのでしょう。別れの時まで、帝都の知り合いに挨拶はしておきなさい』

「きゅうきゅう(分かったのよね)」

 トルテは寂し気にうなずく。

 しかし、結局口にしたのは念話とはこれ如何に。もしかしてニクス母ちゃんは喋れないのか?

 ヒヨコが首を傾げているとその疑問が顔に出ていたのか、イグッちゃんが教えてくれる。


「ニクスは冷気が強すぎて言葉を発するだけでこの部屋が冷凍庫みたいになるからな。元々ニクスが住んでる土地は寒い場所なのだが、ニクスが普通に暮らしても問題ないからだ。俺くらい力をコントロールできれば問題ないが、まだそこまでの域には達して…」


 メキメキ


 するとニクス母ちゃんはいきなりイグッちゃんの頭を掴み握りしめる。

『そう、力が制御できないから夫の頭を撫でようとするとうっかり壊してしまうかもしれない』


 あ、この人、一番やばいタイプの人だ。イグッちゃんはグハハハハとか笑ってごまかしているけど額から若干汗が流れていた。

 ヒヨコは自重しようと心に決めるのだった。


 そんなこんなで短期間ではあるが、ヒヨコ屋敷にドラゴン一家が滞在する事になった。

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