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(閑話)6話 フェルナンドの軌跡

 フェルナンドが帝都の武闘大会で優勝した事により、状況は大きく変わっていく。

 フェルナンドの冒険者ランクが紅玉級に上がったからというのもある。

 一時期は最大30人の巨大パーティへと膨らみ、『銀の剣』というパーティ名をつけられた。

 これはシュテファンが黄玉級となってヘレントルに戻る前の事だった。

 フェルナンドの強さに多くの者が憧れた。

 強くなりたい、名誉を得たい、彼に付いて行けば名誉が約束されている。

 だが、それが叶うのは本物の猛者だけだと理解するのは早かった。


 だが、銀の剣の立ち位置はフェルナンドの親衛隊に近い部分があり、過酷なダンジョン探索でパーティメンバーは辞めたり死んだりしていく。

 立ち上げたパーティリーダーは魔物に殺されていなくなっており、銀の剣自体のリーダーの移り変わりも大きい。

 シュテファン合流時点から3ヶ月ほどで、リーダーはシュテファンに代わった。フェルナンドは気難しいわけではないが、あまりにも考え方の物差しが違いすぎた。フェルナンドに付いていく事を考慮した冒険準備をするような頭のいい人間がいなかったのだ。それほど頭の周りがいいなら冒険者などにならないからだ。様々な想定を元にした準備をする能力はを簡単に身につくものでもなく、長くともにいて彼の考えを理解できるシュテファンは最も有能だったのだ。


 紆余曲折あり、パーティメンバーは短期間で変化が起きた。最終的には少数精鋭へと変わっていくのだが。


 銀の剣の初期にユーディットは仲間になった。フェルナンドに憧れ巨大パーティとなる銀の剣に加入し、そこから生き残った武装神官だ。それ以外は死んだり引退したり、他の攻略者パーティに移籍したり様々だ。

 大規模パーティの最盛期に、ヴィンフリート・フォン・ローゼンブルクが仲間になった。冒険者の女を寝取ったという事で他の冒険者パーティにリンチされていた。そんな所をシュテファンが助けた事が切欠となり、仲間になったのだった。

 多くの失敗を経て中規模にまで人数が減った頃、ミロンというエルフの賢者が仲間になった。義理の孫であるヴィンフリートの様子を見に来ただけだった。だが、かつてフェルナンドが獣人ながら人化の法を身に着けようとしていた男だと知り、興味を持ち同行する事にした。

 重戦士がついていけなくなったと辞めてついに5人にまで減った頃、モーガンが最後の1人として仲間に加わる。モーガンの所属パーティがあまりに無計画すぎて喧嘩別れをしたらしく、過去に買い出しで、シュテファンと出会い、手際の良さに驚嘆したからだったとか。


 かくして武闘大会で優勝した事で紅玉級冒険者になったフェルナンドは、400年前の英雄である金剛級冒険者ミロン、そして10代にして黄玉級冒険者になった俊英たちが組んだ冒険者パーティは半年で32層から40層までたった半年で進むことになった。

 ヘレントルの冒険者ギルドは銀の剣結成以降かつてない盛り上がりを見せていた。

 銀の剣の快進撃はヘレントルに大きい変化をもたらしていた。



***




帝暦494年 冬 ローゼンブルク帝国レーベンブルク公爵領ヘレントル


 銀の剣の6人が卓を囲んで話をしていた。

 シュテファンが得た情報を聞いてフェルナンドは首を捻る。

「帝国の第三騎士団が来ているって?」

「げっ」

 そんな情報に対して露骨に顔を歪めるのは種馬皇子という別称を持つヴィンフリートだった。

「攻略がスムーズになるならこちらとしてもありがたいんだがな。何を困る事がある?」

「だ、第三騎士団は姉上が所属している場所だ」

「私が皇太子殿下に連絡は取っているが、こいつは家出中だからなぁ」

 ミロンがヴィンフリートを一瞥して簡単に説明する。


「まあ、それは良いか。とは言え、計画では来年の4月が期限だ」

「何でそこまで焦る必要があるんですか?ゆっくりでも俺達ならいずれクリアは可能だと思うんですけど」

 シュテファンは訴えるが、フェルナンドは首を横に振る。

「俺は俺の事情で動いている。今はそうとしか言えない。口外する事も出来ない。それが嫌ならついてこなくても良い」

「また無茶を…。ちゃんとついていきますからね」

「まあ、シュテファンが考える仕事だからな。その目標に従ってどうにか計画を立ててくれよ」

 シュテファンは呆れるように師匠を見て、モーガンがゲラゲラ笑う。だが、シュテファンはモーガンの言葉に顔を引きつらせる。

「無茶振り過ぎる」

「理由なんて別に構わんさ」

 ミロンはフッと笑い手元に持つ弦楽器を奏でる。

「ミロンは高い理想でも文句は言わないのか?」

「400年前、鬼神王アルバ・ゴブリスと歩いた道程も過酷なものだった。無茶無謀なんて何度もあった。だがそれを乗り越えて今の平和な世界がある。俺はフェルナンドという一人の無名の英雄が何を成すのか、それを最後まで見届けたいだけだ。私は生きる事にさほど執着はしてないからな。ラファエラが心配ではあるが、あの子は皇太子殿下の子だ。私が心配する事もあるまい。ワクワクさせてくれる何かこそが、最も私にとっては生きる意味となる」

「師匠は生き急ぎ過ぎな気もしますけどね」

 シュテファンは何故そこまで急ぐのか理解が出来てなかった。無論、フェルナンドは一切説明をしていないからだ。敵は神の眷属だ。油断は許されない。この数年がたった一言で終わってしまうのは恐ろしい事だ。

「…まあ、仕方なかろう」

「仕方ない?」

「何があったか知らないが、フェルナンド、お前、魂が激しく削れている。恐らく寿命はかなり短いのだろう。俺の精霊眼じゃ分からないが、フェルナンドの神眼ならば寿命の程度は分かっているのか?」

「……まあ、それも一因ではあるな」

 フェルナンドは当時フローラへの負担を避けるために差し出した魂であったが、もう40年生きられるなら神々の乱立によるかつてない騒乱が起こっても娘を守る事は出来るだろう。

 だが、それでフローラを早く失うなど考えたくも無かった。でも、そのせいで彼女とは会えない状況に陥っている。

 こんなことを考えてると暗くなると思い、話の内容転換をしようと別の話題を持っていく。


「そう言えば、俺が出た武闘大会、2年前の前回優勝者が確かヴィンの姉じゃなかったか?」

 ふと思い出したようにフェルナンドは口にする。

「そうだよ。あの女は化物なんだ。10歳前半の頃に優勝してるし、強い上に傲慢で皇族だから誰も逆らえない。最近はアルトゥル兄上がケンプフェルトに行っちまったから抑え役もいなくて俺達は持て余しているんだ。俺は姉上から逃げる為にここに来たと言っても良い位だ」

「一日で追いかけて捕まるような場所に逃げるなよ」

 シュテファンは呆れたようにぼやく。大体、このヘレントルは帝都の東門から1日の距離にある。


「いつの間にか雑談会になっていたな。取り敢えず先にも説明したように準備は進めているし来週の遠征に向けて英気を養っておくように。師匠も、ちょっと修行するとか言って30層まで一人で行かないように」

 とシュテファンは周りに説明してからフェルナンドにくぎを刺してから終了させる。

「一応、このパーティはお前がリーダーなんだから師匠って辞めたらどうなんだ?他のメンバーも俺をフェルナンドと呼んでるしな。なんでリーダーだけが師匠呼びなのか不明なのだが」

「む」

「そう言えばそうだよな」

「とは言ってもですね。俺如きがおこがましいと言いますか」

「とはいえ、このメンバーで万一にも俺に勝てるとしたらお前しかいないだろうな。お前程賢く魔法も戦闘技術も優れている男は皆無だ。最近では俺よりも早いときた。なあ、疾風」

「ぷっ」

 全員が噴き出してしまう。トイレに誰よりも早く駆け込もうとした結果冒険者ギルドで疾風と呼ばれるようになった不名誉を思い出し笑ってしまう」

「フェルナンドという英雄もそうだが、若い世代が伸びていく姿を見るのも老人としては楽しいモノだからな」

 フェルナンドに続きミロンも笑う。

「じゃあ、会議はおしまいという事で、シュテファン。いつもの店に行こうぜ!いつもの店に!」

「いつもの店、連呼するな。今日はそういう気分じゃないんだよ」

 シッシッとシュテファンはシュテファンでヴィンフリートの誘いを袖にする。

「ああ、昨日会ったっていう綺麗な姉ちゃんが気になって、そこらの女を見ても下半身にこないらしい」

 モーガンがチクリとツッコミを入れる。

「子供じゃねえんだからそんな青春みたいなことを一人でするなよな」

 呆れるように腕を組んでボヤくヴィンフリート。

「じゃ、お前が惚れた女が出来たらどうするんだよ」

「取り敢えずどうやって口説き落とすかを、キープしている人妻を抱きながら考える」

「「「いつか刺されて死ね!」」」

 シュテファン、モーガン、ユーディットが一つになってツッコミを入れる。

 この男は種馬皇子の渾名に偽りのないろくでなしであったと誰もが心を一つにするのだった。




***




 それから1週間後の事だった。

 遠征前日にフェルナンドはたたき起こされる。

「フェルナンド!大変だ!シュテファンのバカが…」

 泊まっていた宿屋の一室のドアを叩いて叫ぶのはモーガンだった。


「何だってんだ」

 フェルナンドはまだ眠気を持った状態で体を起こし、服を着ながら灯をつけてドアを開ける。

「シュテファンが不味い事になった」

「どういう事だ」

 フェルナンドは何が起こったのかと首を捻る。

 話を聞きながら慌ててダンジョンに潜る準備をすることになる。


 事の発端はつい先日の事。

 どうやら帝国の皇女はかなり我儘な性格らしかった。無理やりにでもヴィンフリートを国に戻そうと腕力を使ってきたそうだ。

 2年前の武闘大会優勝者なだけあって、かなり強引なだけでなく武力に優れており、それに頼る性格だった。

 シュテファンが二人の間に入り、皇女は決闘で勝てたらとか言い出した。だが、シュテファンは見事に撃退したらしい。

 諦めきれない皇女は軍を動かしてダンジョン攻略に出た。

 ダンジョンが攻略されればバカな弟も戻ってくるだろうという話だそうだ。


 フェルナンドは着替えを終えてそのままダンジョンに潜る準備を終えて、宿を出発をする。

 真っ暗な闇夜を歩きながら状況の確認をする。

「その皇女様とやらは強いのか?」


 モーガンは真剣な顔で頷く。

「俺よりも武に長けた女だった。腕力は俺の方が上だがスピードや技術、武器の使い方が半端じゃない。傲慢になってしまう程には強い」

「単独の戦闘力で攻略が出来るなら俺はシュテファンやお前らに頼ってねえよ」

 フェルナンドは頭を掻きながら夜の街を歩く。

「その通りだ。俺もそれが分かったから銀の剣に入ったんだ」

 力だけでどうにかならないのがダンジョンだ。

 モーガンやフェルナンドは腕力自慢の脳筋獣人族ではあるが、馬鹿な訳ではないからこそ早い内に気付いている。

「ヴィンフリートも姉が自分のせいで死地に向かっている事を教えようとしていたが聞く耳持たなかった。軍を連れて40層を目標に向かったらしい」

 モーガンも困ったような表情で事情を説明する。

「それで、35層まで行ったものの、モンスターパレードを起こし崖に落ちたと」

 フェルナンドは溜息をつく。

 そこまで行ってしまう強さを褒めるべきか、無謀にもそこまで行ってしまった悪運を嘆くべきか。

 どちらにしてもシュテファンは一緒に落ちたという事だけは理解している。


「ヴィンとシュテファンは軍の後について不味かったら助けに入ろうとしていたようだが、手遅れだったらしく、モンスターパレードに巻き込まれて皇女が大穴に落ちちまった。シュテファンは助けに飛び込んだらしいが」


「あのバカ、勝手に死ぬ女と共に落ちたのか?……まあ、アイツは甘いからな。とはいえ、今、シュテファンを失う訳にはいかない」

 抜けて勝手にやっても良いとは言いながらもどこかで信頼しているのがわかる口ぶりだった。

「あの大穴、どこに続いているか分からないだろう」

「ミロンは?」

「ヴィンは一人で36層から単身で半日で戻ってきて事情を説明してくれた。かなりの強行軍だ。今はミロンに回復をしてもらってる。」

「準備が微妙だが、アイツを救いに行くしかないだろう。後ろを固めずサッと行ってサッと帰ろう」



 2人がダンジョン前に辿り着くと、疲弊しているヴィンフリートがぐったりしていた。ミロンは回復魔法をかけているようだった。


「ヴィン。大丈夫か?」

「ふぇ、フェルナンド。すまねえ」

「謝罪は後だ。あのバカ弟子はどうした?最後の状況を教えろ」

「シュテファンは……モンスターパレードにぶつかり崖から落ちた姉貴を助ける為に一緒に落ちた」

「自分からか?となるとアイツは確か<空中浮遊エアロフロート>の魔法があるし落下から助けられると踏んだのだろう。死んではいまい」

 フェルナンドはそれだけで状況をある程度把握する。

 ミロンもその言葉には頷く。

「とはいえ、アイツは基本的に土魔法と補助魔法全振りだからな。才能ゆえに風魔法も覚えたが人を抱えて飛ぶほどの魔法技術はない筈だ」

「元々、あの大穴から落ちる案はあったが、深いし一度に全員で移動できるほどの魔法の使い手もいないし、落ちた後登れるかも分からないから避けていた点がある」

 ミロンとフェルナンドは立ち上がる。

 ちなみに、魔法の使い手がいないというよりは、その手の魔法が無いと言うのが正しい。

 風魔法を最高位まで極めてるミロンが辞めた方が良いと言う時点で彼らは諦めている。


「あ、あの、フェルナンドさん。早く救出に行きましょう」

「そうだな。移動しながら話そう。ヴィン、戻って休んでろ」

「いや、俺も行かせてくれ!姉貴をあのままにはしておけないし、シュテファンを誘ったのは俺だ」

 普段お茶らけているヴィンフリートだが責任を感じているようだ。

「かなりハイペースに行くからな。疲れたとは言わせないぞ」

「ああ!」

「行くぞ!」


 フェルナンドは早足で進み目の前に現れる相手を片っ端から叩き潰していく。

 ミロンはそれに着いていき、魔力の温存抜きで進み、攻撃魔法を連発する。

 次元の違う二人の戦闘を見て、金剛級紅玉級冒険者が本気を出すとここまで別格なのかとヴィンフリートやモーガンたちは驚いていた。

 たったの1日で35層の大穴に辿り着く。

 それぞれが回復ポーションを飲みながら息を付く。


「ミロンとフェルナンドが強いのは知っていた積りだけど、本気だとここまで違うのか」

「今までは足元をしっかりとしながら、万全で遥か奥にいる邪眼王の首を狙っているからな。疲れて負けましたでは話にならない。逆に言えばもしも期限ギリギリまでたどり着けなければ一人で突貫する積りだ。本来であれば……死ぬ前に妻に会いたいのだがな。恐らくもう厳しいだろう。」

 フェルナンドは生きて娘を支えたいからこそ、ギリギリまで堪えていた。余りにも敵は巨大すぎる。

 ダンジョンの強さは邪眼王の力そのものだ。このダンジョンをねじ伏せなければ邪眼王には勝てない。分かっているからこそ攻略という形に拘っていた。



 大穴を覗き込むフェルナンドは

「ミロン、風魔法で落ちて二人を引き上げられるか?」

 と尋ねる。

「そこまでの魔法は厳しいな。ダンジョンは空気がよどんでいるから風魔法の効きが悪いんだ。下手に使えば窒息する」

「そこから作れても、50階層が限界という予測だったしな」

「あの穴が45層までで止まっていれば良いが……」


「これまでの傾向からすれば5層おきにフロアボスが出るからな。このまま45層のフロアボスと戦う事になるのは避けたい」

「今回は攻略じゃないし、スキップして進もう」

「シュテファン一人なら逃げて戻ってくる事も可能だろうが、皇女がいると厄介だな」

「40層より奥は未知の階層だからな」

「この穴の方向をマッピングしながら進むぞ。ユーディット頼む」

「は、はい!」

 フェルナンドは歩き出し、全員が付いていく。




 半日もかけて40層のボスを殺し、満身創痍の中で未知の領域へと進む。

 40層を超えてからがらりと魔物の質が変わってくる。オルトロスやケルベロス、キメラ、キングサーベントといった化物がぞろぞろと徘徊している状況に一変する。弱い魔物は群れる事で同等以上の戦闘力を有する。代表的なものとしてはジャイアントビーの巨大な巣が存在しており、それが通行の邪魔となっているケースさえある。


 43層を通過した頃、ガチャガチャと戦いの音が聞こえてくる。

「ん、シュテファンの匂いだ」

 匂いを嗅ぎつけて走りだすフェルナンドにヴィンは感嘆する。

「さすが獣人だな」


 フェルナンドが先に進む。

 ミロン以外のメンバーはかなり衰弱していた。改めてこの二人の化物具合を思い知っていた所だ。


 5人が到達した場所は暗がりになっており影騎士の集団をたった一人で壁を背にして戦っていた。


「ミロン!」

「分かっている!<火炎槍(ファイアランス)>!」

 ミロンは魔法を使って影騎士たちを5本の炎の槍を飛ばして吹き飛ばす。だが、それでも簡単には死なない。この層は魔物の質は強いだけでなくそのもののレベルが高いようだ。


「姉上!」

 ボロボロのエレオノーラを見てヴィンフリートは叫ぶ。

「人を気遣う暇はないぞ!」

 ミロンが口にし、フェルナンドが走ってドラゴンの牙から出来たナックルをつけて影騎士たちとの戦いとなる。

「シュテファン、まだ動けるか!?皇女を連れてユーディットの所まで下がれ!ミロン、後方を切り開け!このまま殿(しんがり)は俺が務める!」

 フェルナンドは叫び、たった一人で影騎士たちを受け持つ。陰から次々と湧いてくる影騎士達。その戦闘力は高いだけでなく量が終わりを知らない状況にあった。

 だが、その物量に対してフェルナンドは全て一撃で殺し叩き潰していく。

 その姿は目の前のの魔物よりも魔物的だったという。




***




 それから数日をかけてフェルナンド達はステファン達と共にヘレントルの街へと帰還した。

 さすがに帝国の第三騎士団の中のリーダーの1人でもあり、皇女という身分にも拘らず、独断で騎士団をヘレントルダンジョンに潜らせたのは問題だったようだ。

 父である皇太子殿下直々に迎えに来ていた。


 内々であるが皇太子殿下は自ら銀の剣のメンバーに頭を下げ娘の愚行を謝罪と助けてくれたことの感謝を述べる。

 エレオノーラも謝罪をして、騎士団と共に皇太子殿下に引き連れられて、その場を去る事に

なるのだった。

 ヴィンフリートはミロンが見ているという事で蹴りが付いた。


「ねえねえ、あのお姫様と妙に距離感が近くなってたんだけど、ダンジョンで何があったの?」

 ユーディットはニヤニヤと笑いながらシュテファンに訊ねる。

「別に何もねえよ!」

 シュテファンは煩いパーティの女(ユーディット)を追い払う。

「長い時間を生きている身から言わせてもらうと、戦場の中での恋というのは長続きしないと思うぞ?」

「ああ、そういう話はよく聞くな」

 ミロンとフェルナンドも頷き合う。

「べ、別にそんなんじゃねえし!」

「姉上は自分より強い男としか婚姻しないと言っていたしな。フェルナンドかミロン位だが、ミロンはエルフで人間とは子供が生めないし、フェルナンドは自称妻子持ちだしな」

「自称ってなんだよ、自称って。俺は妻と子の為に命を覚悟でこの地に来ているのに」

 フェルナンドは不服そうな顔をする。

 モーガンはふと疑問に思い尋ねてくる。

「逆に聞きたいんだが何の為に邪眼王に挑むんだ?」

「前にも言ったが、娘の為、としか言えないな。俺の敵はどこで耳を潜めているかも分からない。とはいえ、俺の妻は出来た女だ。その内、皆も知ることになるだろう」


 その時に俺が生きているかは知らないが、という言葉だけを飲み込む。

 あれから6年が経過している。この冒険を成し遂げても、自分にはあと14年程度の寿命しか残っていない。いや、もっと少ないかもしれない。人類は80年というが80年も生きる方が稀だ。40~60年で終わる事の方が多い。


「ミロンは分かるか?」

 周りはちらりとフェルナンドからミロンへと視線を移動させる。


「ああ。おおよそ見当はついている。そしてフェルナンドが口外できないというのも理由が想像つく。そしてそれは正しい。私もお前の敵とは長い付き合いだからな。フェルナンドの目から見ても、俺がその手の専門家なのはわかると思うが」

 400年生きる賢者、しかも邪神討伐者の称号持ちという時点でフェルナンドにとって為すべきことの先人である事は確かだ。


「ああ」

「何を聞いても答えられないし、答えるべきではない。だが、その喋れない事を喋った瞬間、フェルナンドのやろうとしている事が台無しになる可能性が高いのは理解している。私のような凡俗では成し遂げる事が出来ない事だが、成し遂げようとする者を支えた事がある。若者たちの疑問は尤もだが、その疑問は飲み込めないならフェルナンドと共に行くべきではない。お前たちの理とは全く別の意味があるからな。そんなもので死ぬことも無い」

 ミロンは若者たちを見る。

「俺は師匠についていきますよ。何度も言っている事でしょ」

「そうだったな」

 苦笑するフェルナンド。


「まあ、折角穴に落ちて48層までの道が発覚したんだ。あともう少しだろう?ここでリタイヤなんてもったいなくて誰もしないだろうさ」

 カカカカと笑う男達。

「わ、私はフェルナンド様と共に最後まで一緒にいますからね」

 ユーディットがフェルナンドへ熱い視線を向けるが、

「いや、最後は妻の元に行く予定だからついてこられると迷惑なのだが」

 フェルナンドはすげなく断る。

「アハハハハハハハ」

 周りは笑う。


 怪我の功名とも言うべき、シュテファンが谷底におちた事により48層までの道が明らかになる。

 攻略推定期限4か月前の事であった。

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