(閑話)1話 フェルナンドの軌跡
いつの間にか600ポイントくらいだった筈が1000ポイントになってました。ビックリです。驚きです。
そして、ヒヨコ部門 日間1位(10/25)、週間1位(10/25)という快挙を成し遂げていました。
知らぬ間に、この日一番のヒヨコになっていたのです。ヒヨコの主役回じゃなかったのに!
武闘大会大会翌日、グレンは帝国から持ち出された相互安全条約の草案の説明をしていた。
周りにはマーサと元三勇士の2人とガラハド、そしてクラーク・リンクスターの5人も一緒にいる。
「特に問題は無さそうですな。気になる点は数点ほど、そこの意味、可能であれば言葉の書き換えと条件などを明示したいと思いますが」
グレンはいくつかのポイントを書き出し説明する。
「確かに必要ではありますが、これだと我らの負担が大きくなりますな。いくら従魔が使えても厳しい」
クラークは腕を組んで唸る。
「うむ。そこの代案だが………クラークよ、お前が考えよ」
「よろしいので?」
グレンはそこでクラークに考えるように指示を出す。
「獣王陛下に説明した後、帝国にも呑ませるよう交渉せよ。帝国は否とは言うまいが向こうにも向こうの意図があるかもしれぬ。そこら辺の調整はお前がしろ。ハッキリ言えば三勇士などといった面々は基本脳筋だから頭脳労働は苦手だ。ワシはその問題をクリフォード殿と共にアルトリウス陛下の覇業を支えていたのだ。とはいえもう歳だからな。獣王陛下にその知恵を今後授けて行かねばならぬ。独り立ちするまでには時間もかかろう。その間、お前がクリフォード殿らと共に支えねばならぬ。リンクスター家は命を繋いでいただいた獣王陛下に感謝し、恩義で持って返すよう心掛けさせよ」
「はっ」
クラークは畏まると、条約の草案の写しを受け取るとその場を去っていく。
「大丈夫なんですか?」
「大丈夫だろう?奴らは陛下の裁きによって生かされている。陛下への忠誠……は怪しいが、今後、重用されるとあれば喜んで尻尾を振るだろう」
「いえ、リンクスターではなく、帝国の条約案の事です」
マーサは祖父に訊ねる。
するとグレンは一気に渋い顔をする。
「帝国とまともにやり合おうなど考えられん。多くの獣王国民がこの帝国に流れていた事もあるが、獣王国の内情をよく理解している。将来的な事も含めてな。獣王国が透けて見える程考えられている。解せないのは、どこか無償で獣人族に手を差し伸べている点だ。他の貴族はそこがどうも皇帝との間に軋轢を生じさせている部分があるようでな。あの男が何を考えているか分からない」
「良い事じゃねえか」
オラシオは口にし、ウルフィードは頷く。が、グレンは首を横に振る。
「懐に獣人の宰相がいると聞いているから、そのせいかも知れないが、それだけでは考えられないという事だ。帝国ほどの大国が我らのような小国と対等に条約を結ぼうなどありえまい。裏があるのか、そこは上手く向こうの意図を探ってみたいものだな」
「獣人の帝国宰相か。そう言えば一度も見てないな。本当にいるのか?」
ウルフィードは首を傾げる。
するとオラシオは手を上げる。
「モーガンから聞いた話だが、アルブムからの逃亡奴隷で、弱小貴族の使用人として運よく拾われたらしい。才能を認められ学校に通わせてもらったらしく、そこで先代皇帝の右腕のような存在になったとか。差別に苦労はしたようだが、先代皇帝の皇太子時代に大きな政変が起こり、その時に現宰相補佐と共に辣腕を振るい反乱を起こした者を政と法の力で叩き潰し、先代皇帝を皇帝にのし上げたとか。戦争も起こさず、噂や情報だけで相手をひっかきまわして自滅させて、戦わずに帝国の主を挿げ替えさせた知の化物だとさ」
オラシオの言葉にガラハドは顔色を悪くさせる。
ガラハドも、帝国でそのような事が起こったという事は父からも聞いていた。暴力なんて無くても世界を変えられる証明をした獣人がいるらしいと。政治を整える事に苦心していた父は世の中にはとんでもないのがいるのだと語っていた事があった。
まさか現在の帝国首脳部もそれだとは思わなかった。
しかもそのメンバーの一人が武闘大会でヒヨコと戦っていた時に割り込んで自分を抑え込んだ男だという。
「丁度フローラ様が亡くなった後だった。父上はもしも帝国を敵に回し獣王国で同じことが起こされたら手に負えないと嘆いていた。そのような才気ある者を重用できるような国の風土ではない事で、それほどの人材を外に出していたと」
「とはいえ、そんな人材放出はアルトリウス様の生前の話でしょう?」
「まあ、恐らくは私が政権を取っていた時代でしょうな。民を獣王から守るのに忙しくしていた時代だからの。これまではクソみたいな獣王ばかりだったから」
グレンは反吐が出ると言わんばかりの顔をする。その時代をほとんど知らないものばかりなので今一ピンとこない。
ここにいる多くがアルトリウス政権での豊かさを知っており、名家の出であるから苦労などある筈もない。
「そんなにクソみたいな獣王だったのか?」
不思議そうに首を捻るウルフィードとオラシオの二人。
「アルトリウス様以前の政権を知っている弱い獣人からすれば、アルトリウス様が何故あれほど獣人の下々に愛されていたか分かるだろう。これまで巫女姫様が戴かれていた理由もだ。弱い民族は奴隷そのものよ。人間の国で奴隷になるのも獣王国で奴隷になるのも大差はあるまい。後者は巫女姫様が手を貸してくれるからどうにか救われていたが、それでも巫女姫様の手が届かない事がある。たった一人で広大な獣王国全土を見るには困難だからな」
「む……」
「アルトリウス様はそれをよく理解しておいでだった」
グレンは懐かしむように目を細めて頷く。
「逆に聞きたんだけどお祖父様とてリンクスター一族、上位種族でしょう?何でそのような事をご存じで?」
不思議そうにマーサは首を傾げる。
「ワシとて大差はない。リンクスターの在り方を変えたくても変えられなかった。主導権を握っても息子たちはワシのやり方を真似るだけで欲望に任せてろくでもない事ばかりよ。ワシは生まれた当時、従魔の才能が一切なかったからの」
「え」
マーサは驚きの声を上げてしまう。
グレンは史上稀にみるリンクスターの天才と謳われた存在だ。近年ではミーシャやエミリオがいる為に霞んでいるが、それまでは獣王を挿げ替える事もできる従魔の王として獣王国の裏の頂点と恐れられていた程だ。
「才能のない者にとってあの家は居辛い。当主の直系でも奴隷のように酷使される。10の時に当主の息子の持つ従魔の餌にされかけてな。死に物狂いで落ち延び、普通の民として生きてきたのよ。我らが半年前まで住んでいたあの集落じゃ。とはいえそこでは獣王に搾取されて生きていくだけよ。アルブムとの戦火に巻き込まれればそのまま見殺しなんて当然。何も知らずに人間に襲われる事も多くあった。巫女姫様に救われた事など2度や3度の話ではない。我らの忠義は獣王よりも巫女姫様にあった。恵まれない地で嫌というほど味わっていたからの」
グレンの過去を聞いてマーサは当時の事情を知らないが、そういう家風だとは察していただけに、自分も家を出ねば何をされていたかなど考える事も恐ろしかった。
「まさか私を家から追い出したのは……」
「あの家では生き辛かろう?」
「待ってください。では私があの村に行きついたのは、偶然、親切な行商人に案内された先だったのではなく………お祖父様の手引きだったのですか?」
「まさか今の今まで気づかなかったお前さんの脳筋振りにはビックリだが」
グレンはカカカカと笑い、マーサは羞恥を感じて俯いてしまう。
リンクスターの当主であり、いつか見返してやろうとしていた相手は、実は自分を保護するために裏で手を回していたなどとは思いもしなかった。
30を目前にして知らされるとは恥じる気持ちでいっぱいだった。
「とはいえ、ワシがリンクスターを掌握するには非常に時間がかかったのは事実よ。利があれば奴らもワシにこびていたが、無ければ暗殺など日常茶飯事だったからな。我らは魔物の事故に見せる手段などいくらでもあった。かつてワシはリンクスター当主家族を従魔によって滅ぼしたが為に、ワシが頂点に立っても遺族たちが中々簡単には受け入れられなかった。恨み辛みというのは残るものだ。その点、今代の獣王陛下の見事な裁きにワシも安心している」
グレンはウムウムと頷いて笑顔を見せる。
殺して恨みを買うより生かして恩を売る事をしたガラハドに評価をしたのだ。
だが、逆を考えれば、グレンは自分が悪役を買って出て、ガラハドに悪意を向けさせないようにしたとも取れる。何せ、あの場でグレンは皆殺しにするべきだと訴えていたのだから。
「俺は父上ならこうするだろうと思った事をやっただけで……」
「今はそれでよいのです。実務を知り、理解していけば、よりよい方法を考える事が出来るでしょう。何せ獣王陛下は殿下の言うような事をやらせようとしてリンクスターの掌握に手間取っておりましたからな。帝国皇帝や貴族達はその手の技術に長けているでしょうし、この国は参考になる者が多くあります。ここにいられるのも残り短い時間ですが学べるものは学ぶのが良いでしょうな」
「うん」
ガラハドは頷く。ガラハドもまた父の右腕がじいやならば左腕だったグレンを信頼していた。自分なんかよりも遥かに多くの物を知っている男だからだ。
「とはいえ、私もこれで肩の荷を卸せたわ。狙い通りしっかりと獣王を擁立できて、帝国との条約を結び、お祖父様を現場に戻せたし。殿下がここまで成長してくれるのは想定外でしたが」
マーサは溜息をついて自分の肩を叩く。
「ま、そうだな。俺達も同じだ」
「ああ、そうだな」
ウルフィードとオラシオも笑い合う。
「とはいえ、アルブム侵攻はいつ起きてもおかしくないのだがな?」
「それこそ、今までと違い立場に関係なく戦場で戦える」
「俺達が死んでもアルトリウス様の教えを継いでくださる方が獣王に立ったのだ。本来の戦士に戻れるというモノよ」
グレンの諫言を二人は笑って流す。
「とはいえ、獣王陛下には以前もお伝えしたがこの先に待っているのは戦争よ。準備はできておるか?」
「戦争の準備はクリフォードがしてくれていると思うけど……相手は侵略してくる神……か」
どれほどの相手かと脅威を感じていた。だが、不思議と心は乱れない。覚悟はしていた事だ。
「帝国が強者を王にしない理由が分かった気がする。敵の事、政の事、戦に勝てば国が収まるものではないと分かっているからこそ、彼らは分担しているのでろうな。何よりも……戦のあとの方が大変なのが父が亡くなった後の我が国を見てよく分かった」
ガラハドは今自分の立場になって、父の苦悩を理解する。
獣王国が一つにまとまっている時、ノックが鳴り響く。
誰もが誰だろうかと首を捻るのだった。
***
その部屋にやって来たのはヒューゲル公爵、モーガン、ヴィンフリート、ユーディットの4人だった。
オラシオは驚いたように声を上げる。
「モーガンにヒューゲル殿。あと皇弟殿下に猪鬼達の怪我を治してくださった治癒師殿ではないか」
「何か御用で?」
獣王国の一同は4人を迎え入れる。
「ふむ、実は皆様に聞きたい事があったのでな」
モーガンは周りを見渡して訊ねる。
「聞きたい事?」
するとヒューゲルが前に出る。
「かつて冒険者をしていた頃、私には駆け出しの頃から色々と教えてくださった師匠がいたのです。獣人族の」
「貴殿のような者に獣人族の師匠が?」
ガラハドは目を丸くする。
帝国の強さを知ったつもりだが、これほどの戦士が大会にも出ずに政治をしているというのだから驚きでもあった。その師匠が獣人?
「駆け出し時代に知識や技能、駆け引き、集団活動、あらゆるものを教えてくださった師匠です。我等4人の冒険者時代の仲間で、我らを導いてくださった恩人でもあります」
「なるほど」
ウルフィードは若干驚きながらも頷く。ウルフィードもモーガンの強さはよく知っている。面識は少ないが腕力でオラシオに引けを取らない猛者だという時点で、言わずとも察する事が出来るというものだ。
何よりマーサと同年代と未だ若い。
「まあ、我らの最後の冒険の時に亡くなってしまったのですが。もしも師匠、フェルナンドが命を捨てて邪眼王を抑えなければ我らは全滅していたでしょう。後に我らは邪眼王を倒した功績で多くの物を得ましたが、全てはフェルナンドのお陰なのです」
「ああ、モーガンが以前、聞いていた奴か。フェルナンドという男を知らないかと聞いていたが…」
オラシオはポムと手を打つ。
「そう、それです」
モーガンは頷く。
「我らにとっては恩人で、遺体も残らなかったのですが、指輪を遺品として残していたので、せめて亡くなっているらしい奥さんの墓の隣に墓を作って入れてやりたいと思っていて」
ヒューゲルがポケットから指輪を取り出す。ミスリル銀に魔石のついたシンプルだがかなり高価な指輪だった。
「なるほど」
全員が全員を見合わせる。
「とはいえ、強者の中ではこの中では俺が最古参だしな。獣王戦に出ていたとしたら知らない筈もないが……、貴殿らのような強者を導くような狐人族などがいたら覚えがありそうなのだがな」
オラシオは首を横に振る。
「俺も聞いた事が無い」
「私もありませんね。どのくらいの年齢でしょうか?」
ウルフィードやマーサも首を横に振る。
「生きていれば30代半ばくらいか?」
ヴィンフリートが年齢を計算して口にする。
「俺のちょっと下くらいだろう?同年代でそこまでの武人がいたら知らない筈がないが……狐人族は基本的に弱いからな。強い狐人族だったら年代に関係なく出てきそうだが」
ウルフィードは首を捻る。
「ちょっと待て。思い辺りがあるな。狐人族のフェルナンドだろう?」
そこでグレンが訊ねる。
「知ってるのか?」
オラシオは不思議そうに尋ねる。
「アルトリウス様が獣王になる前だからな。公に出たのは一度だけだし、当時の獣王はその火消しに夢中だったから知られてないのは仕方ないかもしれないが」
グレンはどこか忌々しそうに口にする。
「火消し?」
「おいおい、祖父さん。俺の年下だぞ?その頃、俺はまだガキなんだが、どう考えても獣王戦なんて出るのは無理だぞ」
首を捻る一同にウルフィードは待ったをかける。
グレンは真面目な顔をして
「知らぬのは無理もない。そのガキが一時期獣王の地位を貶めたんだ。アルトリウス様が獣王になる3年ほど前に獣王戦が行われていてな。決勝でアルトリウス様を倒し、獣王挑戦権を得たのが10歳ほどの子供だったのだ」
その言葉にオラシオとウルフィードは絶句する。その頃の彼らは獣王戦に関わってなかった為、知らなかったのだ。
「でも獣王になれなかったとしても三勇士だったんだろう?だったら俺達だって知っていてもおかしくは……」
ウルフィードはそこでふと疑問を持って訪ねる。
「獣王との決闘中に、当時の獣王陛下を圧倒し、弱すぎると侮蔑するように言い残して、獣王や三勇士の権利も捨てて去ったのだ。その為に、獣王の権威は地に落ち、治世は収まらなくなった。普段は約5年おきなのに3年で獣王選定戦が行われアルトリウス様が荒れた獣王国をどうにか治めたのはその為よ」
グレンは苦々しく口にする。
「そう言えば父上は一度だけ負けたことがあると聞いた事があったな」
ガラハドはふと思い出したようにぼやく。
「フェルナンドらしい逸話ね。何か当時を想像つきそう」
ユーディットは苦笑してしまう。
「そう言えばフェルナンドの奴、『獣王なんて大した事ないぜ。子供の頃にボコボコにした事がある』とか嘘だか本当だか分からない話を吹いていたな。…………当時は、子供のころの獣王をフェルナンドが大人げなくボコボコにしたのかと思っていたが……、本当に子供のフェルナンドが大人の獣王をボコボコにしてたのか!?」
思い切り引き攣るモーガン。
言葉が微妙に食い違って伝わっていた事に気付かされる。
だが、年齢を換算するなら20歳前後のアルトリウスや当時の獣王を子供の頃にボコボコにした事になる。もしもそれを知っていたらフェルナンドなんて呼べたものじゃなかった。フェルナンド様とか下手に出ていただろう。
「フェルナンドの奥方の居場所は分かりませんか?」
「それがのう、あれ以来全く表に出た事が無いのだ。後に鬼人の領域で鬼人王に挑んで勝利したとか、帝国で活躍したとかいう噂は聞いたがな………いや、そう言えば…」
ポムと手を打つグレン。
何かを思いついた様だ。
「巫女姫様に聞いてみた方が良いかもしれぬ」
「ステラ君が知っているかもしれないと?」
「うむ。偶にホワイトマウンテンにやってきて、エミリオに武術や従魔術を教えてくれたという男が、確かフェルナンドという男だと聞いていた。過去として忘れ去られた頃だったからな。よくよく考えればエミリオほどの猛者を育てられるフェルナンドなる男がそこらに転がっているとも思えぬ。エミリオは巫女姫様の養子ですからな」
「うえっ……死者の過去を知りたいからステラ君には聞いても意味がないと思っていたけど、そこで巡り巡ってステラ君に回るのか」
「巫女姫様とは懇意にされているのだろう?何を悩む必要がある?」
「いや、彼女はただでさえ責任感が強く他者の不幸が見えてしまえば、危なっかしく走り回るからね。余りこちらの悩みを言いたくはないんだ。分からなければ落ち込むだろうしね。今はヒヨコ君やトニトルテ君が一緒にいて楽しそうに暮らしてはいるけど……」
腕を組みう~むと悩むヒューゲルの姿に獣人達はちょっとだけ驚いた表情をする。
そんなヒューゲルの姿を見て、グレンは巫女姫様を利用できる立場にありながら、気を遣える者が果たして獣王国にいるのだろうかと考えてしまう。
「お主は巫女姫様を利用しようとは思わないのか?」
「あの力は便利だが不確かだ。竜王陛下にはまず効かないし、ヒヨコ君も予知の不安要素になっている。私が相手をして困るのはそういう手合いだからね。そうあるよう師匠に教わってきた。予知能力なんてなくても予知を覆す力を持ち、予知を必要とせずとも頭を使い、人を使い、足を使い、力を使って描く未来を切り開けば、予知なんて無くても問題ないのだと」
ヒューゲルは師匠から教わったことを説明する。
「そいつ、本当に獣人族か?」
「まあ、オークの変わり者と言われた俺が言うのもなんだが、変わった男ではあったな」
ウルフィードが目を細めて変わり者の師匠なのかと突っ込み、モーガンは笑って肯定する。
「まあ、取り敢えず情報としては分かった。ステラ君に聞いてみよう」
ヒューゲルは腕を組み溜息と共に頷く。
「ヒューゲル。軽い感じで聞けばいいだろう?彼女もウチのパーティは知っているだろうし」
「まあ、そうだが、彼女は敏いからな。占師業をすることで人間をよく分かってきている。というかこの件はモーガンに託していたが、全く進展が無かったのだが。もう8年だぞ」
「………俺にもいろいろあるんだよ。獣王国に戻る時は、大概がスクランブル状態でフェルナンドの事を聞く暇もないというかそんな空気じゃないというか」
「空気を読まないオーク族がそんなだからお前はオークにもてないんだ!」
「うるせえよ、この種馬が!」
ヴィンフリートがモーガンを指差し、モーガンは涙目で叫ぶのだった。
ヒューゲル達が去って行き、苦笑するオラシオやウルフィードの二人。
「モーガンは俺に匹敵する力を持ってるが、対等に並ぶ奴らがいるんだから、帝国の底力とはグレンの爺さんが言うように侮れねえよな」
「個の力に拠らないというのが素晴らしい考えではあるが、この国は人が多くいるから、頻繁に逸材が当然のように出てくるのだ。その中にはこの国におちた獣人族もしかりよ。モーガンは獣王国を出てオークロードに到達したのだからな。ワシは帝国の大きさを皆に知ってもらいたかったのよ。」
「……確かに、大きいですね。個としての力は負けてはいないと思うけど…………俺達は組織として変わらないといけない。そう思います」
ガラハドはグレンの言葉にうなずく。