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最凶ヒヨコ伝説 ~裏切られた勇者はヒヨコに生まれ変わったので鳥生を謳歌します~  作者:
第1部5章 帝国首都ローゼンシュタット 燃えよヒヨコ
116/327

5章29話 玉座の乱

 最初は三人称。表彰式からヒヨコの一人称になります。

 と言いつつも、気づいたのですがヒヨコの場合一人称ではなく一鳥称?一羽称?とでも言うべきなのでしょうか?

 スヴェン・リューネブルク公爵ら反逆しようとした貴族達はエリアスと共に呼び出しを受け、衛兵たちによって玉座に連れてこられる。

 一度ラカトシュに脅され、自分の罪を自覚した貴族達は諦めて自分の足で来ている者が多いが、中には逃げ出した者もおり強制的に連れてこられている者もいる。

 そしてリューネブルク公爵邸に突入した衛兵たちはエリアスを捕らえていた。


「全く、これだけの人間が反旗を翻すとは父上の時代に好き勝手にやれた貴族の恩恵とはそこまで大きいのかね」

「それも致し方ないかと。新しく得る予定の物が得られなくなる我慢はできますが、与えられたものを奪われるのは我慢できませんからな」

「元は国政から離れる筈だった陛下が上に立っているからこそ、舐められているのもあるでしょう」

 呆れるアルトゥル皇帝は横にいる同輩の若きベンヤミン・フォン・メルシュタイン侯爵と腹心のギュンター・フォン・グロスクロイツ伯爵が左右に並んで彼らを見る。


 辺境伯代行という成り上がりの皇帝であっても、帝立の貴族学校を卒業しており、優秀な同世代の者達を屈服させていた。

 現在はその両翼によって政を進められている。その近くにはレーベンブルク公爵もおり、スヴェンらの派閥以上に巨大な派閥を形成されている。

 アルトゥルが皇帝になる際に、アルトゥルとを押したのは、誰であろう同年代だった学園に通う貴族の子弟達の親族だ。彼らはアルトゥルに皇帝として国を治めるだけの器があると自分の派閥のトップを説得していたからだ。

 アルトゥルは学園でも優秀な成績とは言えなかった。

 だが、大きいイベントを計画する上手さ、どう考えても不可能だと思うような計画さえ教師たちと交渉して落とす強かさ、それは得てして政治的手腕を見せていた。

 その功績を多く発案した者たちに譲って自分を小さく見せていた。これは当時の彼がエリアスのスペアだったからこそだ。


 立場を理解して卒なくこなし、やろうと思えば皇帝にだってなれる器があると、同世代の子供たちの心を服属させていたのだ。

 逆に言えば、偶然同世代の子供をいなかったり、その彼らを疎んじていたような親たちが反乱しようとした貴族となっている状況にある。


「スヴェンよ。何か反論はあるか?」

「私は陛下を見誤っていた。ヘギャイヤの裏の支配者フォーク家の実働部隊を持っていた事、ケンプフェルト辺境伯領でこれ程巨大な事業を成していた事、平民を育て大会で準決勝まで進ませたこと。それに恐らくは獣王国がガラハド殿によってまとめられ、何もかも白日の下にさらされている事でしょう。私が愚かだった。だが、この計画は私が主導したモノ。他の者達は私についてきただけの事。どうか私の首だけで事をお納めください」

 何もかも諦めた顔で公爵は反省の弁を述べて項垂れる。


「何を言う!国家反逆罪は三親等に渡り死罪と法に定められている!貴様風情の首一つで終わると思っているのか!」

 ベンヤミンが怒鳴りつける。

「しかも平民落ちしたエリアスを担ぎ上げる等、皇家そのものの判断に否を突き付ける事になる!先帝陛下を蔑ろにさえしている!」

「アルトゥル陛下は先帝陛下が責任を取って辞めたからこそ、ここに立っているのだぞ!」

 アルトゥル派の貴族達は怒鳴りながら反乱貴族達を糾弾する。

「アルトゥル陛下は家族思いのお方だ。この場にエリアス様をあげようとすれば、陛下は愛する弟であるエリアス様をも殺さねばならなくなる。陛下が多くの政策の種をケンプフェルトで温めてきたのは一重にエリアス様の力を上げるためだ。それをすべて蔑ろにしたこいつらを生かすなど、私はそれこそが耐えがたい」

 ずっと共に腹心として離れる事無く一緒に居たギュンターは怒りを堪えるように口にし、涙を流す。

 その言葉に罵る貴族達も口をつぐむ。アルトゥルの持ってきた手札の一つ魔導列車はエリアスの治世で必要だったのだ。

 先々帝時代に皇帝は皇太子を決めたものの、皇太子は非常に真面目な男だった為、第二皇子が貴族達に賄賂をばらまき上手く集めてクーデターを成功させた。

 更には先々帝を殺し、皇太子をも退けて帝位についてしまう。

 だが第二皇子は邪魔な皇族を殺し、貴族達は主導権争いで滅ぼし合い、内乱状態の貴族達は不要な税をむしり取り、国民が立ち上がり戴冠式前に第二皇子を糾弾した。

 ズタボロになった帝国を最終的に治めたのは逃亡していた皇太子、つまり先帝である。

 先帝は貴族達を執り成し、どうにか帝国の威信を取り戻す様に苦心したが、貴族が一度大きい力を持ってしまった為に押さえつけが厳しかった。

 再び帝の権威を高めるには貴族達が尻尾を振りたがるような武器が必要だった。魔導列車は実に最適な武器だった。何処に線路を通すかで経済活動の拠点がかわり莫大な利益を生み出す。主導権を皇族に持っていくには必要な武器だったのだ。それを本来はエリアスに譲るつもりだった。

 エリアスは良くも悪くも先帝に似て弱い男だった。兄としては過ちを犯さないようにエリアスに助けを与えたかった。


「エリアス」

「兄上。い、いえ、陛下」

 アルトゥルはエリアスを呼び、エリアスは衛兵に連れられて前に出て、膝をついて畏まる。

「アルブム王国やベルグスランド聖王国に行っていたという情報を聞いていた」

 アルトゥルにどうなんだと聞かれてエリアスは黙ってしまう。

 言葉を選んでいるようだった。考えすぎて言葉が出ないという様子だった。

「すまぬな。恐らくは制約があるのだろう。喋らなくても良い。合っているなら頷き、間違っていたなら首を横に振れ。アルブムに行っていたのだろう?」

 アルトゥルの問いにエリアスは頷く。

 それはアルブムからの使者という形で紛れて来ていたからスヴェンも知っていた。

「戻ってきたのは帝国を抑える為。…時間稼ぎか?」

 アルトゥルの問いにエリアスは悩み、そこでハッと気付き首を縦に振る。

「俺を殺しエリアスを担ぎ上げる。国が荒れればアルブムやベルグスランドに兵を出せない。獣王国を抑え込んでしまえば勝てるとおもったか。なるほどな。時間が経てば帝国を倒せるようになると思っていると考えていいのだな?」

 アルトゥルの問いにエリアスは首を大きく縦に振る。

 その言葉にこの場にいる貴族達がざわつく。

「アルブムは強力な力を手に入れてベルグスランドを併合した。聖光教会への改修やオロールの崩壊はその隠し蓑だろう?」

 アルトゥルの質問にエリアスは頷く。

 アルトゥルは女神からの情報から深く考察した結果であるため核心に迫っていた。

 逆によく分かってなかった貴族達はアルトゥルが恐ろしく情報通に見える。ここまで見識の広い方だったのか、かのヒューゲル・フォン・ローゼンハイム公爵がいるからか、などと想像を膨らませる。

 アルトゥルからすればカンニングペーパーを貰っているからであるが。

「だが、そう簡単にアルブムが大きい力を手に入れたとは思えない。勇者も死んでるしな」

 アルトゥルは口にしてから、あまり貴族達に恐怖を与えるような事は言いたくなかった為にこれ以上の事を口にはしなかった。

 相手は400年前の邪神の再来であるなどと。

 エリアスはそれが何なのかをアルトゥルが悩んでいると感じて、このままでは帝国はどこまで兵力を集めるべきか判断に誤ると感じる。

 だが口にすれば自分は死ぬ。それは感覚的に理解していた。レオナルドの形をした化物が自分の体の中に忌々しい何かを入れていたのを知っているからだ。

 それでも、唯一、自分を支えようとしてくれていた兄が帝国を路頭に迷わせるなど出来ないと判断する。

「陛下、お聞きください。アルブムは400年前の邪神と同じ方法で悪神を呼び出しこの世界を手に入れようと………」

 エリアスは口にした途中で自分の首を自分で締め付ける。

「いかん!衛兵!エリアスの自殺を止めろ!」

 アルトゥルは叫び、衛兵はエリアスの手を止めようとするが凄まじい力で反抗し、止める事が出来ない。メキメキとエリアスは自分の手で自分の首を締めあげる。


「こ……こたび…の……敵は………か……神です。……あ、兄上……ど………うか……ご………武…運を……あ……兄上………申し訳………あり………」


 バキンッ


 エリアスは自らの腕で自らの首がへし折るとそのまま糸が切れた人形のように地面にぐしゃりと倒れる。

 あまりの壮絶な死に方に反乱貴族達は恐怖さえ感じさせる。

 だが、それは序曲にさえ過ぎなかった。


 エリアスの死体から凶悪な黒い闇が吹き荒れエリアスの死体は死神のような存在へとなり替わる。

 近くにいる貴族は逃げようとするが捕縛され、あっさりとをそれは食らいつく。

「ぎゃああああああああああっ!」

「誰か、お助けを!う、うあああああああああっ!」

 黒い闇が次々と貴族達を食らいつくす。必死に逃げるのはエリアスの周りにいた反乱貴族達。

 皇帝派だた貴族達は直に逃げられる場所にいたのでポーラが即座に現れた彼らを退避させる。


『皇帝アルトゥル、死んでもらう』

 貴族達を食らった化物は見た事のない魔物だった。闇を纏い巨大な鎌を持ち、体から黒い靄をもって敵を捕獲する。


「皇帝陛下をお守りしろ!貴族達もだ!陛下は私の後へ!」

 ギュンターは衛兵に指示を出しながら前に出てレイピアを握る。いつの間にか現れるラカトシュとラルフは化物の両脇で武器を構える。


 2人は化物に襲い掛かるがラカトシュの持つ短剣は闇に食われて解けたように刃を失う。ラルフの槍も同じありさまだ。


「物理攻撃が効かない!?」

 ギュンターは目を見張らせて敵を見る。

『くくくくくく。これが貴様の手勢か?我はネビュロス様の配下イポス。我らの存在に気付かれたのなれば致し方なし、皆殺しにさせて貰う』

 物理の利かない化物が一気に闇をまき散らして皇帝へと襲い掛かる。

 ラカトシュは防御不可能と考え、アルトゥルを抱えて側方へと大きく飛ぶ。アルトゥルのいた玉座はえぐり取られたように消え去っていた。

「ちぃ!化物が!貴族達を避難させろ!」

 アルトゥルが叫び衛兵達も慌てて退避行動に動く。

 すると遠くから女性の声が響く。

「<空気槍(ウインドランス)>!」

 凶悪な真空の刃を螺旋に捩じり込んだ槍がイポスと名乗る化物に直撃する。


「兄上、大丈夫ですか!」

「ラファエラ」

 黒いローブに黒い三角帽子、権威の象徴たる宮廷魔導士を示す勲章を胸に、白銀の髪を靡かせて現れたのは皇帝の妹ラファエラ・フォン・ローゼンブルクだった。

「エリアスは?」

 ラファエラの問いにアルトゥルは渋い顔をする。その顔だけでラファエラにはどういう事かある程度理解する。

 長兄は家族に甘いのはラファエラも良く知っていた。ラファエラやヴィンフリートだって呆れるような暴挙をしたエリアスには閉口していたが、アルトゥルはそうじゃなかった。

 だがその末弟は恐らくあの化物に殺されたのだろう。

 最後の最期まで哀れな弟だとラファエラは苦々しい顔で魔物を見る。


「奴には物理が効かない」

「魔法生命体?」

「分からん。神の眷属らしい」

「ちっ。ここにそれを突っ込ませてくるの?明日は武闘大会の表彰式だってのに!」

 ラファエラは舌打ちをしつつ風魔法で防御障壁を張る。


『人間など我等からすれば家畜と同じよ!』

 イポスが睨むだけでラファエラの張った障壁が木っ端微塵に破砕される。

「帝城で仕掛けてくるとはな。愚かな傀儡が」

 ヴィンフリートとヒューゲルもいる。モーガンとユーディットもそこに駆け付けていた。


「<火炎剣(ファイアソード)>!」

 炎の剣を出してヴィンフリートはイポスに切りかかる。

『ちいっ!』

 イポスは攻撃を払おうとするが簡単にはいなせない。魔法攻撃によりダメージを受ける。

「<風壁(ウインドシールド)>!」

 ヒューゲルが魔法障壁を複数展開する。風系魔法レベル1に値する小規模魔法を幾重にも重ねてイポスを包み込むように大量に使って黒い闇を防ぐ。壊されても次々と小さい障壁が黒い闇の侵攻を食い止める。


「こちとら、お前らと同類を屠った事がある英雄様だ。簡単にいかせるかよ!」

 ヴィンフリートは炎の剣を持ってイポスを切り裂きダメージを与えていく。

『くそっ人間如きが調子に乗りおって!』

 イポスは黒い闇を解き放つがヒューゲルの魔法障壁が次々と壊されても、それと同様に次々と障壁が生まれて闇をその場に留める。

『舐めるな!人間が!』

 イポスが鎌を振るうと障壁は全て叩き壊される。

「ヴィン!モーガン!ユーディット!」

 ヒューゲルが指示を出すモーガンが

「<火炎斧(ファイアーアックス)>!」

「<聖光防御壁(プロテクトメンブレン)>!」

 ヴィンフリートはファイアソードの派生形ファイアアックスの魔法で炎の斧を作り出し、ユーディットは神聖魔法の防御障壁をモーガンの体にまとわせる。


「うおおおおおおおおおおおおおっ!」

 神聖魔法の防御障壁はしっかりと機能をして黒い闇につ生まれながらもモーガンは進み、イポスはまずいと感じて防御をしようとするがお構いなしに体を叩き斬る。


 だが、イポスは恐るべき速度で体を修復していく。

『くそ、こうなったら………』

「皆、そいつを足止めしろ!逃げる気だぞ!」

 態と相手の狙いを口にする。悪神の尖兵であるが故に、分が悪い状況からの離脱を、逃げるという言葉によって無理やりにでもそこに留まらせようとする。

『人間如きが、我らの供物風情が舐めるな!』

 全てを吹き飛ばす闇の圧力によって障壁も何もかも吹き飛びかき消される。その場にいた人間、全員が吹き飛び壁にぶつかって倒れる。

「ゴホッ………ゴホッ……何て化物だ」

 地面に倒れてしまうアルトゥルは咽ながらも死んではいなかった。

 辛うじて立っているのはモーガン、ヒューゲル、ヴィンフリート。ユーディットの4人。やばさを感じて咄嗟に伏せたからだ。ラファエラやラカトシュ、ラルフも壁に打ち付けて倒れていた。ギュンターはアルトゥルの前に立っていた為、かなり厳しそうな状況でもある。


『ちい、小うるさい子虫共が。まだ我に歯向かうとはな』

「何度も何度も犠牲を出して溜まるかクソッタレが!犠牲はもうフェルナンド1人で十分なんだよ!これ以上、てめえらみたいな連中にやる供物はねえ!モーガン、ヴィン!ユーディットに合わせろ」

 ヒューゲルは叫び魔法を練り上げ始める。

 聖なる加護で守れたヴィンフリートとモーガンは炎の剣と炎の斧を持ち、共にイポスと戦う。

「ちょこまかと、邪魔な子虫が!」


 ここまでタカられてもザコと侮るのが彼ら神の配下でもある。この程度のダメージでは滅びないという証拠なのだろう。

 ヒューゲル達も理解はしていた。

 だが、かつて邪眼王はこれ以上の化物だったのだ。当時は一人の犠牲によってどうにか討伐する事が出来た。そうでなければ誰一人生きて帰れなかっただろう。

 今回は最強の戦士も最強の魔法使いもいないが、ヒューゲル等には経験がある。それ以上の化物と戦った経験が。即座に対策を練り一個の生物のようにパーティが連帯する。


「<渦潮(メイルシュトローム)>!」

 ユーディットが解き放った魔法は膨大な水が空より滝のように降り注ぎ、渦となって凶悪な束縛魔法となりイポスを巻き込む。。

 ヴィンフリートやモーガンたちが足止めした事によってつくられた時間だった。メイルシュトローム、水魔法レベル7相当の大魔法だ。玉座の間だというのに膨大な水が集まり渦となってイポスの足場を止める。

 これは当時ユーディットも持たなかった魔法だった。

『この程度で我を殺せるとでも思ったか!』

 水を散らそうとするが水は闇をも飲み込みイポスを完全に動けなくさせる。

「皆、下がって!」

 ユーディットはヒューゲルが次の魔法に集中していると察して直にモーガンとヴィンフリートに指示を出す。

 ユーディットは額から大量の汗を流す。


『笑止な。貴様らにはとっておきの魔法でも足止め程度にしかならぬわ!お前らではこの私を真の意味で傷つける事など出来ぬ!その小娘の魔力が尽きた時が貴様らの最期と心得よ!』

 ユーディットの魔力は莫大な魔法を使って急速に落ち込んでいた。

 イポスは鎌を持ちゆらりと目に光をともす。

「クッ…あと、あと少し……あとは…根性―っ!」

 ユーディットは必死にメイルシュトロームの魔法でイポスを抑え込む。


『うおおおおおおおおおっ!』

 水をはじきイポスは鎌を振り上げ咆哮をあげる。

 魔力が反発しユーディットは大きく吹き飛ばされる。モーガンは慌ててそれを支える。

『貴様らのターンはこれで終わりだ!矮小なる女神にでも祈るが良い!』

 イポスは水を振り払いながら膨大な闇を再び放とうとする。


「<臨界重力(ブラックホール)>」


 ぼそりとヒューゲルが口にする。その刹那、イポスは体が動かなくなることに気付く。

『な、なんだ?何故動かぬ!?』

 イポスは自分の不調が理解できず慌てて周りを見て、誰が魔法をかけているか理解する。ヒューゲルに視線を向けると、ヒューゲルはにやりと唇を吊り上げて笑う。


「人間舐めるんじゃねえつったろが、このクソッタレがー!!」

 ヒューゲルらしからぬ汚い言葉を吐きつけてイポスに大魔法を叩き込む。

 神をも逃さぬ莫大な重力が、イポスを包み込み、イポスの体は歪み軋み潰れていく。


『や、やめろ!こんな、人間如きが………あ、ありえな…』

 黒く透けた球体がイポスを包み込み、徐々に小さくなっていく。必死に手足をばたつかせて外へと逃げようと手を伸ばすがその手さえも球体の外に伸ばす事もできず、自分の中へと潰れていく。

 最後は自分が侮っていた子虫のごとくぐちゃりと潰される。

 そして、黒い球体が消えると同時に大爆発が起こり何もかもが消え去っていた。


 静寂に包まれる中、衛兵の誰かしらがぼそりと呟く。

「勝ったのか?」

 その言葉を皮切りに生き残った面々は歓喜の声を上げる。


「疲れた」

「帝城でいきなり悪神の眷属だとかシャレにならねえよ。公爵派が何かするとまずいからって待機してたけどよ」

 ユーディットとモーガンはぐったりした感じでへたれこむ。

「8年前、いや、もう9年前か?あの頃は全然動けず、唯一戦えたフェルナンドが一人で抑え込んで、アイツが死ぬのを見る事しかなかっただけだが………、今回は動けたな」

「そうだな。……………俺達も少しは強くなったって事だろ?無駄に歳喰っちゃいねえよ。まあ、邪眼王はあのレベルじゃなかったけどな」

「そりゃそうだ」

 3人で苦笑しあう。


 既にヒューゲルは周りに指示を出して騒動の鎮圧に動いていた。


「あの頃は、フェルナンドとミロンくらいしかまともに戦えないで、俺らは足手まといだった。結果として、シュテファンの神殺魔法で邪眼王をフェルナンド諸共を殺させてしまったからな」

「シュテファンが一番つらかったろ。何もかも教わって来たのに、最後の最後で役に立てず、自分の魔法で師匠を殺すしか手が打てなくなったんだもの」

「さあな。だが、あの日の経験があるから、俺達は生きてるし、ここでも生き残れたんだ。少なくともフェルナンドの奥さんや娘さんがどこにいるかは知らないけど、その人達の為にも悪神なんぞに負けてたまるかよ」



 アルトゥルは声を張り上げて周りに指示を出す。

「生きているのは全員集めろ。どれほど被害が出た?」

「衛兵の死者5名、重傷者11名、反乱貴族の死者9名、重傷者2名。その他死者0名、重傷者2名、また軽傷者多数!」

「軽傷者の数は分かってるよ。俺も骨折れてるし。ゴホッゴホッ」

 口から血を吐いて何もなかったかのように笑う皇帝に周りの生き残った衛兵たちは

「ここにも重傷者一名!」

 と慌てだす。


 平然と指示を出していたので大した事ないのかと思って見逃していた一同は大慌てである。


 貴族達は怯えたような目で今しがた血を吐いている皇帝を見上げる。

 だが皇帝は平然とした顔で反乱貴族達を見下ろす。

「お前たちの大半が戦争を嫌がっての謀反だというのも分かっている。だが、この通りだ。敵はこちらに攻めてくる。時間をかけて敵の態勢を整えさせる事こそが愚策だ。そして今回、我らはエリアスを殺し敵の尖兵を駆逐した。恐らく敵も気付いているだろう。戦争は回避できない!王族、貴族がどうして権力者として立っているのか?民を守るためだ!今は既に戦時である!貴様らの首を取る暇などない!命を懸けてこの国を守って見せよ!それが出来ないのであれば申し出ろ!貴族を辞めさせてやる!」

 反乱貴族達は頭を下げて従う事を誓うのだった。




***




 午後になると、ヒヨコ達は表彰式が行われるのでそれに参加をする。

 何かお城で凄い大変な事があったらしいが山賊の親分は普通に参加していた。


 呼ばれているメンバーは8人。

 ベスト8に辿り着いた人達は入賞者として盾が贈呈される事になっている

 同様に、ベスト4に辿り着いた者達は盾に加えて銅メダルが贈呈される。

 準優勝者、つまりヒヨコには盾に加えて銀メダルが贈呈されるのだ。

 そして優勝者の後輩君には盾に加えて優勝トロフィーと金メダル、そして金貨1000枚が贈呈される。無論、金貨1000枚は重いので、渡されるのは金貨1000枚分のチケットであるが。


 そんな表彰式において、ヒヨコと竜人姿のグラキエス君は首から紐をつけて大きなカードをぶら提げていた。


 そのカードには『反省中』と書いてある。


 表彰者入場段階から、表彰会場であるコロシアムを笑いの渦に巻き込んでいた。

 ちなみに反省中のカードはステちゃんからの考案で、グラキエス君も甘んじて受け入れていた。魔物やドラゴンは理性の利かない化物だと思われたくはないからである。

 腹黒公爵さんがバカ笑いして採用した辺り、ヒヨコ達で遊んでいるような気がするのは気のせいだろうか?

 やらかしたヒヨコとグラキエス君は反省中なので記念品を貰っても喜んだりはしないのだ。だが、帝都ではどうも受けが良かったらしい。


『今大会は実に良い戦いであった。魔物やドラゴンをも含めて帝国が獣王国が互いに競い合った。残念ながら我が帝国は中々上位に食い込めなかったが、我が国の国民がベスト4に1人と1匹が食い込んだことを誇りに思う』

 そんな山賊の親分の台詞にコロシアムの観衆たちの脳裏にラルフとヒヨコを思い浮かべ、あれって国民?という思いが首を傾げさせ思わず皆で笑ってしまう。


『優勝者であるガラハド殿は獣王国で暫定的に獣王になられた。そしてこの場にいる多くの獣人達にその力を認められ暫定獣王として我らと条約を結ぶことになるだろう。今回の戦いで不屈の闘志を見せ、獣人達だけでなく観衆たちにも感動を与えたガラハド殿には敬意を表したい』

 コロシアムに詰め掛ける民衆は拍手をし、この地に来ていた獣人達は大きく盛り上がる。


『あと、気付いていると思うが若干反省中の子供たちがいる。魔物とドラゴンであるが、彼らは未だ0歳と7歳という子供だ。試合を見ている者達は分かっていると思うが、見ていない者達は魔物故、ドラゴン故に暴れたのたろうと思う事があるかもしれないが、決してそうではないと思って欲しい。それに、彼らは過ぎたる力を持っていても子供なのだ。ピヨは未だ0歳、グラキエスは7歳。人間の子供ならここまで理性的に振舞えるのか?それほど理知的な存在なのだと理解してもらいたい。反省中のカードを首にかけてこのような大衆の前に出るという羞恥にも耐えてこの場に来ている。帝都民には大人の心で彼らを受け入れてあげて欲しい』


 長々しいヒヨコ達のフォローに山賊の親分が反則したのは理性がないのではなく子供だからだという事を入念に説明していた。帝都で人気のピヨちゃんに傷つくのを避けたのか?

 山賊の親分、恐ろしい子!


 ヒヨコが劇画タッチで山賊の親分を見ていると、山賊の親分は話を変える。


『現在、我が帝国と獣王国の中では安全保障を基本とした条約を締結しようとしているのは大衆も知っているだろう』

 政治の話に切り替わった。知っている民衆はどよめく。


『これは我が国がアルブム王国とベルグスランド聖王国との戦争になるのではないかと危惧している者も多いと認識している。有識ある貴族達は愛国者故に私を殺してでも獣王国との条約を止め、戦争への加担を止めようとする者達もいた』

 その言葉に民は動揺が走る。暗殺者がいたのかと、皇帝を殺そうとしたのか?とんでもない事をする貴族がいたのだと民衆は不安以上に不敬ささえも感じる。


『俺としても戦争は回避する気ではあるが、降りかかる火の粉は払わねばならない。アルブム王国は400年前の邪神戦争の時のようにこの世界に邪神の類を呼び出した。これは事実だ』

 山賊親分は突然何やら女神の言った事を公開しだした。


 良いのか?そんな事を言っちゃって?


『アルブム王国は邪悪な神、悪神と称しよう。奴らは悪神の力を得るために獣王国を生贄にして力を高めようとしている。アルブム王国は獣人を生贄にすることに忌避感がないからだ』

 そう言うと帝都民の中からふざけるなっ!俺たちの同胞に何て事を!という自主的な声が漏れ始め、どよめく。帝都民の中には元獣王国民もいるからである。

『獣王国が生贄にされた後、力をつけたアルブム王国、否、悪神はどこを贄とすると思う?我らは戦わなければならない!力をつけさせる前に、我々は獣王国と共に戦う!これは帝国が生きる為である!』

 民は拳を振り上げてその勢いに乗りかかる。


 何だか凄い事になったが、残念ながらこのヒヨコさんはまったくこのノリについていけなかったのだ。

 戦争があるんだー、へーって感じである。まさか戦勝の前祝としてヒヨコの焼き鳥とかしないよね?そうでないならどうぞどうぞって感じだ。


 山賊の親分は扇動家だな。


 ヒヨコはそう思って他人の振りをする。

 母ちゃん、ではなく女神はヒヨコになんとかしろって言ってたけどヒヨコは面倒ごとに首を突っ込まないのだ。だって家でゴロゴロしたいのだ。折角家が出来たのだから。

 帝都民だってヒヨコの居ない朝は寂しかろう。


 ヒヨコの明日はどっちだ?

 フルシュドルフダンスに決まっていよう。ピーヨピヨピヨ。

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