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最凶ヒヨコ伝説 ~裏切られた勇者はヒヨコに生まれ変わったので鳥生を謳歌します~  作者:
第1部5章 帝国首都ローゼンシュタット 燃えよヒヨコ
113/327

5章25話 魔導列車

 武闘大会決勝当日がやって来た。同時にローゼンブルク帝国の帝都ローゼンシュタットでは祭りが行われる。

 朝8時から開始の合図として、ローゼンシュタット中で音楽が流れ、ヒヨコが踊るのだ。魔導放送にて空にヒヨコが踊る姿が映し出される。

 多くの観衆がいる最も大きい舞台でヒヨコが踊り、バックダンサーにトルテとシロ、そしてグラキエス君の3匹が華麗に踊っていた。


 この後、歌姫やアイドルみたいな存在が出て来て歌って踊るらしい。ヒヨコはトップバッターという訳だ。凄いだろう。朝の元気体操だったから丁度いいというのもあるが、帝都ではヒヨコを知らぬ者はいなくなったと言っても過言ではないだろう。

 歌姫たちやアイドル達の先に……………………


 ……はっ!?まさかヒヨコは前座か!?


 ヒヨコは最後の決めポーズをとっている時に、そんな事実に気付くのだった。

 くうっ、山賊の親分め!良いようにヒヨコを使いおって!いつか目にもの見せてやる!


 ヒヨコ達は踊り終えて、舞台袖に入ると、今度は綺麗なお姉さん達が代わりに出て行く。

 ヒヨコ的にはバックダンサーはさっきの皆さんが良かった。何故ヒヨコの後にはヒヨコを食料としか思ってない連中ばかり……


「はいはい、ヒヨコ君次のスケジュールだけどねー」

「ピヨッ!(おいこら、腹黒補佐さん!シレッと出て来てヒヨコのマネージャー面するな!)」

 舞台袖で待ち構えていたのは腹黒補佐さんだった。

「すまないね。本来ならばステラ君の仕事なんだけど」

「ピヨッ!(おいこら、腹黒補佐さん!シレッとステちゃんをヒヨコのマネージャーにするな!)」

 ステちゃんは昨夜から何だか忙しく獣王国の方に行ったきりだ。若い娘が朝帰りなんて感心しませんよ、プンプン。

 シロは来たけどミーシャは来ないしどうなっているのだ?

「反抗期なのかなぁ」

 腹黒補佐さんはヒヨコのアホ毛を撫でながら何か見当違いな事をぼやく。

「きゅうきゅう(昨日の夜は兄ちゃんとアタシでヒヨコの家に泊ってジャーキーパーティーしてたのよね。ステラがいなくて寂しかったのよね、きっと)」

「ピヨッ!(おいこら、トルテ!ヒヨコが寂しんぼみたいに言うな!)」

 ヒヨコが憤懣やるかたなしといった感じだが、トルテと町長さんは全然相手にしてくれない。

『でもお化け屋敷と聞いてワクワクしてたのに、普通に綺麗なおうちでガッカリなのだ』

 グラキエス君はつまらなそうにぼやく。

「ピヨピヨ(お化け屋敷なんかじゃないと言っているのにステちゃんもトルテも酷い言い方だったから勘違いしている。あそこはお化け屋敷でなくヒヨコ屋敷なのだ)」

 ヒヨコはその件についても憤慨している。

 ヒヨコの周りに人(竜?)が増えるほどにヒヨコのピヨラルキーが下がっているような気がする。


※ピヨラルキー × → ヒエラルキー ◎


「この後、ヒヨコ君には祭りのメインでもある中央馬車センターの南に新しくできた施設に行ってもらう」

「ピヨヨ?(新しくできた施設?)」

「山賊の親分が………ではなくウチの皇帝陛下が辺境伯代行時代から進めていたプロジェクトがついに完成してね。私も10年近くずっと資金援助をしていたんだ。捨てるくらいの気持ちで辺境伯領に渡していたんだが、まさか回収可能になるとは思ってもいなかった」

 どこか遠い目でぼやく腹黒宰相さん。10年も資金援助していたという事だから思い入れもあるのだろう。だが、山賊の親分と間違えてはいかんぞ腹黒補佐さんや。

「ピヨピヨ(そんな凄いのか?ヒヨコ、気になります)」

「皇帝陛下にも聞いたが、ヒヨコ君も手伝っていたのだろう?」


 ピヨピヨ?はてさて、どこで手伝っていたのだろう?

 親衛隊の皆さんと一緒に修行と称していろんなお仕事のお手伝いをさせられていたので、どれがヒヨコの関わった事か、まったく覚えがない。

 さあ問題。ヒヨコの修行でどこら辺がプロジェクトのお手伝いだったのでしょう?正解はCMの後で。


 ……………ピヨピヨリ。CMってなんじゃらほい?

 ヒヨコはコテンと首をかしげる。


※CMとはコマーシャルメッセージです。え?聞きたいのはそこじゃない?あと、CMには入りません。




***




 中央馬車センターは東西南へと街道が伸びていて、ステちゃんが占い露店をやっている商店街の端の方に位置している。

 そして、南方向に進む街道のすぐ横に通っている道が工事中となっていた。確かイグッちゃんの空けた穴にそのまま道を繋げていた筈だ。

 工事中になっている場所は確かにヒヨコがお手伝いした場所だ。鉄のレールを敷いていた覚えがある。おかげでヒヨコの運送スキルが高まってしまったのだ。

 街道の横に何か作るのかな?


 ヒヨコはステちゃんと合流する。ステちゃんは獣王国の会合にお呼ばれされていたらしい。

 そしていつもの様にトルテを頭に乗せて、ヒヨコは大人しくいい子にしていた。本当だぞ?


「どんな催しか全く聞いてないんだよね」

 ステちゃんは予知スキルがあるから見ようと思えば見える癖に、敢えて見ない事でこれから起こるサプライズを楽しもうとしているようだ。

「ピヨピヨ(ヒヨコも聞いてないぞ。勿体ぶりおって腹黒補佐さんめ)



「開帳!」

 兵隊さん達が声を掛け合い木の板で覆われていた場所を開いていく。

 広くなった街道の中央には石の塊のような固い足元が出来ていて、そこに2本のレールが敷いてある。確かに何やらドロドロしたのを敷いてその上にレールを置いていた覚えがある。固まるのに時間がかかると言っていたが固まったのだろうか?

 魔法でなんちゃらとか言っていた覚えがあるな。


 すると、イグッちゃんがぶち空けた改修中の穴から何かがやってくる。


 でっかいおうちのようにも見えるが長く続いている。壁にしては大きい。


 よく分からない大きい建物が、近づくことで徐々にその姿が大きく見えるようになる。

 ゴトンゴトンと大きな箱がゆっくりと近づいてくる。横には入口が付いているようだ。

 それがヒヨコ達のいる場所に辿り着く。すると横についている入口が開く。中は大きい倉庫のようになっていた。


 大人も子供もなんだなんだと驚きの顔であった。

 すると建物の高い場所にいる山賊皇帝さんが出てくる。


『ローゼンブルク皇帝アルトゥルだ。皆に紹介したいのは、私が辺境伯代行時代にこちらにいるヨーゼフ・ルーデンドルフ殿とヴィリー・フォン・ゼーバッハ男爵により開発された魔導列車だ。これは古代文明には存在したと言われるものだが、これまで、再現する事が出来なかった。9年前に、ヨーゼフ殿とヴィリー男爵、それにヒューゲル宰相補佐により魔導機関を開発。それによってヨーゼフ殿とヴィリー男爵は今の技術水準で可能なレベルで魔導列車の開発を遂げたのだ。見ての通りレールを敷くことでこの魔導列車はレール上を移動するのだが、この巨大な列車によりスレイプニルの馬車の倍の速度で、しかも休まず移動し、1000倍以上もの荷や人を運んで移動できる。これまで不可能だった海産物や北部の北国果実を腐らずに帝都に運ぶことも可能だ』

 その言葉に民衆はどよめく。

『最大速度は現状ではスレイプニルの馬車の二倍程度であるが、実際の速度は10倍以上もの速度で動くことが可能であり、魔物がレール上でいると事故の恐れがある為に速度を控えている。帝都でも人間が飛び出したら、まあ、急に止まれぬから危険だな。将来的には安全性を確保しながら速度を徐々に高くしていき、ケンプフェルトと帝都の間だけでなく帝国の端から端まで、理論的には1日で移動可能にする画期的な移動手段だ』

 その言葉に、まるで聞いた事もない移動手段でどよめきから驚愕の声が漏れてくる。


 参加していた獣王国の者達も帝国がとんでもないものを作っていた事に驚いていた。

 街道計画は聞いていたがこんなもので移動しようというのだから。この移動手段を確立させれば、従魔士がいなくても獣王国と帝国の間を1日で移動できてしまう。


『これにより我ら帝国は大きく変わる。これまで古代遺跡から発掘された魔導船を元に船の移動を大きく進歩させたが、これからは陸の移動も変わる。この推進機関は他のものにも応用され、やがては帝国中の街道が整備され、何週間もかけていた移動が1~2日で済むようになる。西で飢饉が起これば東から西へ大量物資を動かす事も可能だ』

 ウオオオオオオオオオオオオオッと民衆もその凄さに声を荒げて盛り上がる。




***




『次に叙勲式を行います』

 と女性のアナウンスが入る。

『シュテファン・フォン・ヒューゲル男爵、アドルフ・フォン・ケンプフェルト辺境伯も前へお願いします』

 だが、その放送を聞くたびに誰もが首を傾げてはいた。先には平民のヨーゼフが先に呼ばれゼーバッハ卿が後に呼ばれている。更には今回もケンプフェルト辺境伯が後に呼ばれ蔑ろにされていた。どういう事だと参列している貴族達が首をかしげていた。

 それはスヴェン・リューネブルク公爵も同じだった。


「おかしくお思いですか?」

 そこに話しかけてきたのはレーベンブルク公爵だった。たった二つの公爵家で唯一同格の相手から声を掛けられて顔をしかめさせる。

「そう言えばレーベンブルク公爵はヒューゲル男爵と懇意にされていましたな」

「何せ我がヘレントルダンジョンの攻略者ですからな。今までは貴族達の圧力で多くの功績を蔑ろにされておりましたが……アルトゥル陛下は魔導機関とあの魔導列車により大きく経済を動かせるようになったとお考えです。国土を広げずとも景気を上げられるようになったので、遠慮などするつもりがないようです」

「む。………なるほど」

「ヒューゲル男爵にはダンジョン攻略時代から知人であったので、その当時より列車の構想は聞いていました。莫大な資金援助をし続けていたらしいですな。私でもさすがに尻込む金額でしたが」

「そこまで資金運用に優れていたのか?あの男は」

 スヴェンは驚いた顔でレーベンブルク公爵を見る。

「ええ。アルトゥル陛下とは古くからの付き合いでした。口座はケンプフェルトの実業家という形で資金運用していたのであまり知られておりませんが。エレオノーラ殿下は個人として好んでおり、彼のダンジョンで受けた呪いを解くべく奔走しておりました。婚姻がなったのはその呪いが解けた為と聞いております」

「だが男爵が公爵家に婿入りなど…」

「あの列車の所有権、大規模投資をし続けてきた男爵のものですぞ」

「!?……ほ、本当か?」

「アルトゥル陛下を含めケンプフェルト辺境伯家が計画を動かし、その為の支援金をヒューゲル男爵が行っていました。エレオノーラ殿下との結婚により公爵を与える口実を与え、皇家はそれらすべてを召し上げたのです」

「……確かにあれ程のモノを運用する権限を持つならば……我らでさえ媚を売るだろう。エレオノーラ殿下との婚姻は男爵が公爵になるとはふざけた話だと思っていたが、それほどの隠し玉があったという事か!」

 スヴェンはヒューゲルの恐ろしさを今になって感じる。レーベンブルクは情報を掴んでいた。

 いや、資金援助に関しては手を貸していたのだろう。

 既にあの路線をレーベンブルクの領都ヘレントルに通す算段は付いている可能性が高い。

 知っていればヒューゲルに近親の娘を嫁に差し出すくらいはしていたかもしれないしレーベンブルクも恐らくはそれを企んでいた可能性が高い。

 だが、それが出来なかったのはエレオノーラという強力な壁があったからだ。反乱鎮圧どころかダンジョン攻略以前から、皇族はヒューゲルを囲い込んでいたことになる。


「アルトゥル陛下は恐ろしい人ですな。この手柄、元々はエリアス殿下が皇帝になるならそのまま渡すつもりだったそうです。エリアス殿下はどうにも貴族の傀儡になる恐れがあったから、皇帝の権威を上げる為に必要だと考えていたそうだ。エリアス殿下の失脚により、皇帝の権威復活をヒューゲル公爵と企んだようです」

 スヴェンは今更ながらに顔を真っ青にさせる。

「アルトゥル陛下はかなり宮廷で好き勝手にやってますが、それも新しい利権が生まれ、それを好きにできるからこそ余裕があるのでしょう。あまり先走らない方がよろしいかと。不興を買えば弾かれますから。今回の獣王国との講和もあの列車をベルグスランドとアルブムの間を通し獣王国につなげる為だとか。獣王国の大量の資源を一度に帝都に運ぶために貨物列車を通したいそうです」

 既に先走ってしまったスヴェンは愕然とする。アルトゥルがバカではないとは知っていた。好き勝手にやりすぎているのはおかしいとも思っていた。だが、余りにも要望を飲まず、下の貴族達の突き上げに乗って暗殺を企んだ。獣王国との決裂を狙って。

 こんな裏があるという情報が握っていれば媚びへつらっていただろう。今更謝ってももう遅いとしか言いようがない。




***




『ヨーゼフ・ルーデンドルフ殿。魔導機関及び魔導列車の発明の貢献により一等勲章に加え子爵位を与える』

 山賊の親分がヨーゼフと呼ばれた人に勲章をかけてあげて、盛大な拍手が起こる。ヨーゼフと呼ばれた人はアルトゥルと同年代と位に見えるが、ひょろっとして不健康そうな感じだ。

『ヴィリー・フォン・ゼーバッハ男爵。魔導列車発明の貢献により一等勲章に加え名誉子爵位を与える』

 同じように山賊の親分が今度はヴィリーと呼ばれた貴族さんに勲章を与える。

 随分と歳が高めのお祖父さんにも見える。何故、一代限りの名誉子爵?そう言えば下っ端君も同じ苗字だったな。もしかしてご隠居さんか?

『アドルフ・フォン・ケンプフェルト辺境伯。魔導列車の運用に多大な貢献をした事により二等勲章に加え新たに伯爵と子爵の任命権を与える』

 山賊の親分は辺境伯さんに勲章を与えようとするが、なんだかこそばゆそうな顔をしていた。

 そう言えば山賊の親分は元ケンプフェルト辺境伯代行で、ケンプフェルト辺境伯のお姫様の子供だったのだ。元はといえ、親戚で部下のような立場だった筈。まさか立場が逆になるとは当人たちも思わなかったろう。


『そしてシュテファン・ヒューゲル男爵。魔導機関の発明、魔導列車の開発資金提供および魔導列車の運用権を皇帝へ献上、また祖父、父の代より有耶無耶にされていたがヘギャイヤ東部騒乱による帝国侵攻を阻止、ヘレントルにおけるエレオノーラ救出、竜王国との交渉と人権宣言の確立、………』

 喋っている途中で顔をしかめさせて山賊の親分が紙ぺら見る。カンニングシートと見た。

『って、多すぎるだろ!覚えられるか!親父も爺も何してきたんだ!こんなに勲功溜めて!発表できない?貴族に疎まれる?エレオノーラと結婚したからって、今になって俺に全部押し付ける気か!?全部、これ、俺と会ってからの事だろう?何でこんなに蔑ろにされてるの?』

 今更ながら山賊の親分は開き直って呻く。

 それには国民もどっと笑う。厳粛さもない酷い叙勲式だと思ったからだ。だが、国民は近年の貴族の専横をよく知っている部分もあったので、その専横を明らかにしていた。

 皆がよく知る英雄の過去の功績を明確にすることで透明化するという事が明らかになった事で、良い皇帝陛下が上に立ったのだと感じるのだった。


『面倒くさいので、その他12件、皇帝及び宰相の極秘任務等々により時に単身で、時に銀の剣と共に我が国に貢献した事により薔薇勲章及びローゼンハイム公爵位を授ける。また3つの名誉伯爵位任命権を与える為、銀の剣のモーガン、ユーディット・ライゼンハイマー、それに亡きフェルナンドに授ける事』

「ありがたき幸せ」

 畏まるヒューゲルに、オオオオオッと民衆が拍手をして盛り上がる。

 薔薇勲章はこの国で最高位の勲章である。実はシュテファンは3つ目であるが、この30年さかのぼってもヘレントル迷宮攻略した銀の剣の面々位しか貰った事がない。皇帝救出時にシュテファンが貰い、そして今回だ。

 ちなみにミロンは既に帝国においては、年金こそ出ないが、エルフ領の貴族相当に当たり、皇族の家庭教師を務めた事もあり、他国の貴族待遇なので爵位は授与されていない。

 基本的に帝国は他国の長命種には爵位を与えない方針だから仕方ないのである。与えても民爵という貴族特権だけが貰えて年金などが一切ないという爵位を貰えるといった所だろう。


 一般的な市民たちは首を傾げる者もいる。

「でも何でそんなに溜まってるんだ?」

「後ろ盾のない一介の貴族子息だからな。元々家を追い出されていた平民らしい。前陛下の頃までは既得権益の強い貴族が強かった。彼の功績は貴族の失点になるものが多かったのだろう。蔑ろにされていたのではないか?」

「今だってそうじゃないか。」

「アルトゥル陛下はあの魔導列車という武器がある。アレをどこに通し、どこに駅を置くかで家の興亡が決まるだろう?」

「あっ!」

「あれはケンプフェルトで作られていたのだからアルトゥル陛下は知っていて、ずっと支援していた筈だ。もはや貴族達は陛下に逆らえん。此度の陛下は中々愉快なお方だが、頭は恐ろしく切れると見たね」

「確かに領地持ちの貴族達は迂闊に逆らえないな」

「恐れ多くも貴族達がアルトゥル陛下を排斥しようとしてもだ。ヒューゲル様、いやローゼンハイム公爵の手元に利権が戻るだけだろうよ。鍵は彼が持っている。だが、紅玉級冒険者でエレオノーラ様すら下した方を暗殺なんて出来るとでも思うか?詰みだよ、詰み。あの二方によって帝国は完全に経済で掌握された。その恩恵を受けるには貴族達が尻尾を振るしか出来ない。以前の帝国政府は、貴族達が勢力を強めていた。だが、再び皇帝陛下が勢力を強める事になるだろう」


 なるほどなるほど。腹黒補佐さん改め、腹黒公爵さんはとってもお偉い人になったようだ。まあ、ヒヨコを世に出したプロデューサーである。それはもう凄いに違いない。

 はっ、さっきの功績の中にヒヨコを世に出した功績が無かったぞ!?ヒヨコを侮るか、山賊の親分めっ!

 しかし功績を溜めればヒヨコでも貴族になれるのだろうか?

 素晴らしい。ヒヨコも頑張って貴族になってみたいものだ。きっと鳥貴族とか呼ばれるだろう。

 ヒヨコは燃えて来たぜ!やったるでー。まずはお昼ご飯を食べてから武闘大会で優勝だ!




***




 ヒヨコとステちゃんとトルテとグラキエス君の4名は、コロシアムの方に向かっていた。

 すると腹黒公爵さんが剣聖皇女さんと一緒に移動中のようだった。馬車でパカパカと運ばれていた。

「ピヨピヨ~」

 ヒヨコは取り敢えず手を振って挨拶をする。

 ステちゃんは辞めなさいとか言ってヒヨコを抑え込む。すると馬車が止まる。

「巫女姫殿ではないか」

「皇女殿下」

 ステちゃんはかつてお客さんだった剣聖皇女さんをみて頭を下げる。

「今は皇女ではなく皇妹であるけどな。ヒヨコが手を振っていたので気付いた」

「ピヨ~(剣聖皇妹さんではゴロが悪い。ここはヒヨコが新しいあだ名をつけてあげよう!)」

「アホな事言ってないの」

 ペチリとステちゃんがヒヨコの頭を叩く。ピヨピヨとヒヨコは叩かれた頭を翼で撫でる。

 ステちゃんは酷いな。ヒヨコにはもっと優しくしてほしい

「何を言っているのだ?」

「ヒヨコ君は大体他人を呼ぶとき渾名を勝手につけていてね。人の事を腹黒補佐さんだとか呼ぶんだ。酷い話だろう?」

「ピヨ!(腹黒公爵さんにクラスチェンジしたぞ)」

 ヒヨコは腹黒公爵さんをフォローする。

 プッと噴き出すステちゃん。

 腹黒公爵さんはげんなり顔である。良いあだ名だと思ったのに。存外格好いいではないか。ヒヨコなんて桃色ピヨちゃんとかそんな感じだぞ。酷いじゃないか。

 ヒヨコは腹黒公爵さん達と立ち話をしていると護衛の1人に見覚えがあった。

「ピヨピヨ(元冒険者のおっちゃんじゃないか。ついに仕事にありつけたのか?よかったな)」

 ヒヨコは護衛として馬車の横に立っているおっちゃんに翼を広げて肩を叩いてやる。

「ああ、覚えていたか、ヒヨコ君」

「ピヨピヨ(ステちゃんもトルテも覚えていなかったがヒヨコは覚えていたのだ。一緒にダンジョンに入った仲間ではないか)」

「ははは。パウル、ヒヨコ君は覚えていたそうだよ」

「まあ、そのヒヨコに負けてるから複雑なのですが」

「そうだ、コロシアムに早めに向かうのだろう?ステラ君に相談があるのだがちょっと良いかい?」

「はあ…」

「公爵の馬車は大きくてね。ささ、乗った乗った。ヒヨコ君達も」


 何だか今日は腹黒公爵さんに振り回されっぱなしだな。




***




 ステラはコロシアムに辿り着くとヒヨコたちと別れ、ヒューゲル=ローゼンハイム公爵と皇妹殿下と一緒にコロシアムの貴族がいるような区画に入り、皇帝陛下用の観覧室へと辿り着く。

 そこには本日、あちこちで見かけた皇帝陛下が椅子に座って書類を書いていた。

「よう、すまないな、巫女姫殿」

「いえ、どうしたのですか?」

「ちょっと相談に乗ってくれ。いつもの占い程度の気持ちで構わない」

「はあ」

 ステラは困ったように皇帝陛下を見る。


「武闘大会の決勝なんだが」

 皇帝陛下は真面目な顔でステラを見る。

「ぶっちゃけカードがしょぼくね?」


 ………………………


 生後1年満たずのヒヨコ VS 虎人族の少年11歳


 言われてみるとしょぼいタイトルカードだとステラも頷く。

 ヒヨコは強豪を軽々と倒し、ガラハドは立派に暫定獣王として皆に認められる程の器を示したのだ。

 好カードなのだが、当の争う二人は弱そう。準決勝で逆側が勝てば人族最強VS獣人族最強というタイトルになり盛り上がっただろう。

 だが、勝ちあがったのは色物対決のようだ。


「こう、何かこの対決が盛り上がるような何か良い手は無いだろうか?試合を見ていた身としては良い戦いだとは思う。ヒヨコも暫定獣王もどちらも将来性ある若さと実力を兼ね備えている。だが、大衆にはそれが分からんのだ。分かりやすい強さというのがあるだろう?」


 ステラは腕組みしてうーんと考える。

 ステラからすればヒヨコは困った存在だ。だが、こと戦闘能力はステータスやスキル以上に優れている。竜王陛下が痛い目にあったのもその思い切りの良さと意外性から来ているのだと思われる。ステータスよりもスキルの意外性がとても面白いのだが……。

 対するガラハドは獣王として強者たちに認められたが為に称号に新しく『獣王』の称号がついた。恐らく当人も理由は分からないだろう。

 母から聞いた話では獣王とは獣王国において半数以上の獣人達が認めた証拠なのだという。一度でも認められれば着くので、稀に4~5人が獣王になる事もあるらしい。

 称号は消えないからだ。半数も獣人は来ていないし認めていないので、今回率いた勢力が過半数を支配しているだろう事が分かる。

 それ程、ガラハドははっきりとした武勇を示したと言えるかもしれない。

 皆が神眼を持っていれば彼らが凄い事は一目瞭然なのだが……



「…ああ、確か女神教会には神眼の鏡なるモノがあるとか聞きましたが」

「あるな。教会だけでなく、帝国にも独自にある。500年前に勇者殿がスキルをモノに移せないかと苦心した事があり、その成果の一つだ。ただ手法等が残されておらず、この鏡も年々数が減っている。アルブムにあったものもオロールが回収したそうだが、その前の戦争で失われたらしいからな。女神教とは別に我が国は国宝庫に5枚、それに各地方に小さいのが15枚ほどあったか?女神教のモノとは別に我が国に伝わるものが多くある」

「それを皆に見せれば彼らの優れた能力が明確になるでしょう」

「うーん、だけどなぁ。あれ、姿見程度のものだからな。皆に見えるかというと近づかないといけないし…」

 腕を組んでうーんうーんと考える皇帝陛下にシュテファンは

「ならば魔導放送の装置にレンズを取り付けて大きく見せれば良いでしょう。最近の冒険者ギルドではあれを情報拡散に使ってますし、俺が帝都の情報を遠くから得ていたのもそれを利用していただけですし」

 と指摘する。


「おお、その手があったか。とはいえ、神眼の鏡に余計なものを付けたら神官共に怒られそうだがな」

「かつて勇者の言葉にある様に、神を信じるのは良い。実際にいるし、我らは女神のお陰で生きられている。だが、恩恵なんて与えてくれないのだから宗教にする必要などないし、信じても救われないだろうとの事。神官共など無視すれば良い」

「一応、俺の嫁、オロールの大貴族出身なんだが…」

 シュテファンの言葉に皇帝陛下は引き攣りながら呻く。

 とはいえ、オロール自体が既に滅んでいる。ケンプフェルトに大量の難民が流れて大変なのは皇帝陛下自身がよく知っていた。戦争が終わってかなりの日数が立ったはずだが未だにその残処理があるのだ。

 そんな忌憚ない意見を言い合うシュテファンと皇帝陛下を見てステラは首を捻る。


「あの、お二人は仲が良いのですか?家臣というより友達みたいな感じがするのですけど」

「ああ、俺が10代の頃だな。師匠と二人でダンジョンに挑んでいたがどうにも厳しくてな。仲間を得るにも位が低くて上手くいかない。そこで俺も黄玉級冒険者になるべくケンプフェルト領に冒険者として任務に来ていたんだ。何でもケンプフェルトで山賊が発生してオロールの商人の邪魔をいると。で発生した山賊を退治しようとしたら返り討ちにあったんだが、その山賊の親分がこれ」

「え、山賊の親分だったんですか?」

 ステラは目を丸くして皇帝陛下を見る。言われなくてもヒヨコが言うように山賊の親分にしか見えなかった。


「商人を装ってオロールの商人が人身売買を行なっていたんだ。帝国には関がないからな。だが、人身売買は我が国では違法だ。巡回してもやり口が上手くてな、貴族の馬車を偽装したり、実際に貴族が裏にいたりするんだ。代行の立場でそいつらをひっとらえる訳にもいかない。間違えれば国際問題だ。だから山賊の振りをして怪しい馬車を襲撃する。親衛隊でもラカトシュやポーラを始め古参の連中は一緒に山賊してた仲間だ」

 カカカカカと笑うアルトゥル皇帝にステラも若干引き気味だった。


「ラカトシュは当時から今と同等の強さがあったが、当時の俺はまだまだ弱くてな。そりゃもう酷い目にあった。師匠がいなかったら死んでたな」

「お前の師匠がおかしいんだよ。ラカトシュ達を一人で制したじゃねえか。こっちほぼ誰一人大けがを負わされる事なく壊滅されたし」

「師匠は真の勇者と賢者の称号持ちだし、実際に相応の実力と功績があるからな」

 自分の師匠を誇る様に語るシュテファンはまるで憧れの英雄を誇る子供のような目をしていた。


「そう言えばメルシュタイン侯爵領で同窓会をしたと聞いていましたけど、見かけませんでしたが…」

 そんな話をしているとステラは不思議そうに首を傾げる。


「既に亡くなったいたからね。邪眼王との決戦で己の命を捨てて。そこまでする理由は分からないが、娘が生きるには邪眼王を殺さねばならぬ、という話をしていた。ミロンは察していたが、俺達はよく分からんかった。最後は俺が魂ごと崩壊させる重力臨界(ブラックホール)の魔法で邪眼王を抑え込んだ師匠ごと殺した。悔しいが、奴は強くてそれしか方法が無かったんだ。俺達は大偉業を成し遂げたが、悔しくて悲しくて溜まらなかった。だからあの段階でパーティは解散となったんだ」

「そう、なんですか……。すいません、余計な事を」

「いや、構わないよ。というか獣王国出身でね、ある程度落ち着いて機会があれば聞こうと思ってたんだ。せめて形見の品を生きているなら娘さんに渡したかったから」


「そういう事ならオラシオ様やウルフィード様辺りにお聞きになれば良いのでは?ローゼンハイム様の師匠なら年代的にはその辺の方々が詳しいと思います。話を聞く限り、強そうですし、彼らが知らない筈もないと思います」

「ん……それもそうだな、そうしよう。というかモーガン、ちゃんと聞いてくれてないのだろうか?」


 うんうんと頷くヒューゲルに皇帝陛下は腕を組んでむうと唸る。

「占い師が占わないで、俺達の悩みを解決させるのはどうなんだ?」

 苦笑気味に尋ねてくるのは皇帝陛下だった。


「いや、普段は占いって言いつつも占いっぽい事をやりながら、実際には情報を聞き出して予知の力を使う事もありますけど、大体人生相談みたいなものなので予知なんて使う事も少ないですよ?」

「そ、そういうものか?」

「確かに必要な事もありますが、どちらかと言えば背中を押して欲しいから来る人も多いです。未来を見て成せば成るなら背中を押してあげる。それだけですね」

 ステラは苦笑気味に予知をすることも少なくなっているという。

「何か、たくましくなってるよね、ステラ君も」

 シュテファンはフルシュドルフにいた頃のステラが多くの客を持ち対応し続けて行った結果、非常に頼もしさとたくましさを感じる占い師になったものだと感心する。


「話しは戻りますけど、陛下とローゼンハイム様は10年来の知り合いって事ですか?」

「というか、何気に付き合い自体は冒険者パーティの皆やエレン達よりも長いからな」

「そう言えばそうだな」


 シュテファンは皇族とこんなに長く付き合いが続き、まさか義理の兄弟になるとは思いもしなかったと苦笑する。

 付き従った師匠はあらゆる名誉も何もかも手に入れる事もなくこの世を去ったのにだ。


 人生とはままならぬもの、それは予知スキルがあるステラでさえも、どうにもならないのだから仕方がない事ではあった。

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