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1章10話 天啓を受けるヒヨコ

 ふわふわとたゆたう感覚に身をゆだねていた俺は、温かい光のまぶしさに目を開ける。広がる世界は真っ白だった。まるで雲の上に寝ていたような感覚だ。


 真っ白な世界にいた俺に透き通るような美しい声が語り掛けて来る。


「おお、勇者よ。死んでしまうとは情けない」

「ピヨッ!?」

 俺は目を覚まして、起き上がると、目の前には女の人がいた。

 とても美しく神々しい雰囲気を纏った女性だった。

 後光がさして輝く白銀の髪がまぶしい。

 純白の服装は清らかさを感じさせるものだった。

 しかも背には白い翼が生えている。


「ピヨヨ、ピヨヨピヨピヨピヨピヨヨ?(まさか、死んでしまったのか?)」

 何となく天国って感じの場所だ。もしもしなくても天国なのか?さっきまで獣人族の集落にいた筈なのに。

 俺はあまりの事にがっくりと項垂れる。


 だが、そこで気付くが、目の前の美女は誰なのだろうか?翼がついている所、仲間のような気がする。もしかして……


「ピヨピヨピヨヨピヨーピヨヨ!?(アンタが俺の母ちゃんか!?)」

「だれが母ちゃんですか。まったく、貴方は」

 そんな美しい女性は手に持っている辞書みたいに分厚い本で俺のヒヨコ頭を叩く。


「ピヨピヨ?ピヨピヨピヨ、ピヨピヨピヨピヨピヨ!(ぶったね?父ちゃんにもぶたれたことないのに!)」

 父ちゃんにはぶたれた事ないけど母ちゃんがぶった!


「大体、何でピヨピヨ言ってるんですか。ここではちゃんと喋れる筈ですよ」

 目の前の美女は何故か呆れた様子で俺を見ていた。しかも、彼女が言うにはなんと声が出るらしい。

 俺はヒヨコなのに、そんな奇蹟があり得るのか?


「ピヨ?………あーあーあー。本当だ。ちゃんと喋れる。でも声がヒヨコボイスで可愛くなってるんですけど。もっとダンディで『喜べ、少年。君の望みはようやく叶う』みたいな感じの格好良くて深い感じのセリフを吐くのがルークスタンダードだった筈。なのにどういう事?っていうか、ここは誰、あなたはどこ?」

 俺は困惑でいっぱいで、取り敢えずよく分からない状況を訊ねてみる。

 何故か目の前の美女は複雑そうな顔をして眉間を揉んでいた。

 あれ?俺は何か変なことを言っただろうか?いや、一切そんな変な事は言っていない筈だ!

 暫くして、目の前の美女は盛大に溜息を吐いてから、気を取り直した様子で俺の方を見る。


「勇者の頃からダンディな声は皆無だったとは思いますが……。まあいいでしょう。私は女神、そしてここは天界、彷徨える魂を次の世界へ送り込む場所です」

「そうか。俺はまた死んだのか。鳥生、短かったな、くすん」

 ヒヨコの人生があまりに短く、とても悲しい。意外と気に入っていたのに。


「いえ、別に死んでませんよ。単純に貴方の魂が微妙に抜けて彷徨っていただけで」

「生きてるの?」

「ええ、生きてます」

「さっき死んだって言ってなかった?」

「神様ジョークです」

「でもここって天国でしょ?」

「まあ、察しの通り、人間の言い方で言う所の天国……みたいな場所ですが、別に死んではいません。ふわふわうろついていたので捕まえてこちらに呼んだだけです。用事があったので」

「昇天したのに死んでない?………何だろう、この自称女神様が怪しすぎる」

 俺は訝しむように神を名乗ってしまう相手を見上げる。

 大体、自分で神とか言っちゃう辺りがあやしい。

 前世において美人と神職は信用してはならないと言う教訓を得たのだ。主に聖女とか。思えば女神なんて聖女のパワーアップバージョンではないか。怪しさ倍増である。


「相変わらず失礼ですね」

 自称女神は半眼で俺を睨みながら呆れるようにぼやく。というか、はじめましての筈なのに、何で会った事があるような口ぶりなんだろう。そして人の心を勝手に読まないでもらいたい。

 いや、人ではなくヒヨコだが。


「ピヨ?」

 俺はこの女神が何で悩んでいるのかよく分からないので首を傾げる。


「こほん、まあいいでしょう。しゅん……ではなく、貴方に話す事があります。その為に浮かんでる貴方を捕まえたのですから」

 女神は咳払い一つで気を取り直すのだが、あまりにも意味ありげな様子に、俺的には全然良くはないのではあるが。


 ここはひとつ、ヒヨコペックによる攻撃で額でも突いてやろうか?

 ギラリと瞳を輝かすと、女神は俺の行動パターンを読んでいるかのように距離を取る。巧みなステップは拳闘術の使い手も真っ青である。

 おのれ、これが神のなせる業という奴か。


「今、世界は危機にあります」

「キキ?魔法少女っぽい名だな」

「魔界からやってきた悪魔王からの脅威が去ったのも束の間の事でした」

 おお、俺の問いを速やかに流しやがった。


 ………ピヨピヨリ?何でキキが魔法少女っぽい名前だと思ったのだろう?

 ヒヨコ的には謎である。

 だが、俺は取り敢えず自称女神の話を全部聞いてあげる事にする。


「今、また、この世界に新しい脅威が生まれようとしています」

「だったら女神様がぶっ飛ばしたら?ビシッってピヨッ」

 いきなり俺は自称女神にぶっ飛ばされた。

 左のフリッカージャブだ。この伝説の勇者だったヒヨコが、たかがフリッカージャブを目視できないとは………。

 自称女神は右を顎のガードに、左をボディのガードに置きつつ死神の鎌のように揺らす。

 この女神、出来る!拳闘のレベルが高そうだな。まさか死神か!?


「女神は下界に手を出す事は出来ません」

「くう、俺には手を出すのに」

 しかも左の拳を鋭く鞭のようにしならせて急所のコメカミを叩いていた。絶対に拳闘経験者だ、この女神(アマ)


「ここは天界だから良いのです。そして勇者よ、いえ、ピヨちゃんよ、貴方に使命を授けます」

「殴られた上で使命とかなんなんだよぉ。しかもピヨちゃん呼ばわり!?大体、もう勇者じゃないし。いい加減にしないとピヨピヨするぞ、この野郎」

 といいながらも殴られるのが怖いので距離を取る。若干、腰が引けているのはヒヨコの仕様だ。べ、別に怖い訳じゃないんだからね!


「良いから聞きなさい。痛くしないから」

「でも下界に戻ったら痛くされるんでしょ?」

「大丈夫、貴方の存在の方が痛いから」

「そっかー、それなら安全安心ってそんな訳あるかい!」

「何度ここに来ても見事なノリ突っ込みをしてくれて私も安心です」

「何度も来てないよ。どこの誰と勘違いしてるの!?」


 ハッ

 そういえば自称女神という事はこの天界で長いのだろう。……見た目は10代後半のお姉ちゃんに見えるけど、中身は1000歳位のお祖母ちゃんなのかもしれない。既に痴呆症が発生していてもおかしくはない。


 痴呆症の女神


 プークスクス。そうかそういう事か。俺は全てを納得した。


「何か失礼な事を思ってませんか?」

「ピッ……ピヨピヨピヨ」

 俺は慌てて左右に手羽先を振って否定する。

「あやしい。……まあ、良いでしょう。折角なので伝えておこうと思っただけです。まあ、そこに座りなさいな」

「ピヨ」

 俺は居住まいを正し、ピヨリと女神に向きあう。それにしてもあの世界はまた危機だったのか。知らなかった。


「まず、説明をしましょう。貴方も前世の時に知識として知っているでしょう、かつて魔神がいた時代に、帝国が召喚魔法によって勇者シュンスケがこの世界に召喚された事。そして竜王やエルフの王、巫女姫らを伴い、魔神を倒したのは有名だと思いますが」

 女神は子供に説明するような話を始める。


 俺はそんな言葉に勇者ルーク時代の事を思い出す。勇者となった際に王国に呼び出されて一般教養として無理矢理詰め込まれた話にそんな話があった気がする。

 まあ、その話は割と有名でうちの村でも聞いた事があった。おとぎ話の類であるが。

 異世界から召喚された勇者が竜王、エルフの女王、巫女姫を伴い魔王を討ち滅ぼしたとかなんとか。で、世界中にダンジョンは魔神の眷属が逃げたものだとか。

 様々な文明を伝え、世界の文明を100年早く進めた人だとか。


 とは言え、異世界の魔神を倒す為に異世界から勇者を呼ぶとか毒には毒をもって制すといった感じのやり方はどうかと思うが、当時はすさまじく危ない状況だったらしい。


「女神様が防ぐ事って出来なかったんですか?」

「精神世界のエネルギーは魔力、つまり魂の力で出来ています。この異世界召喚というのは大量の魔力を利用して、世界を守る為に作った私の結界に穴をあけて行われるのです。魔神は我々神々の中でも他者の世界を滅ぼし魔力を奪うと言う盗賊のような輩でして、私の管理するこの世界に穴をあけて降臨したのです。まあ、いわば私の別荘に泥棒が勝手に入り込んできたような印象ですね」

 なるほど、泥棒対策はしていても泥棒が入ってきたら、どうにかしろと言われても困るわな。

 神様視点ではそういうレベルの話なのか。


「とはいえ、魔神も私の世界に入ったからには同じ住民です。私まで受肉してこの世界に干渉する訳にもいきませんからね。そこで、異世界の友神(ゆうじん)と相談し、魔神よりも強い魂を持つ存在を、魔神の開けた穴を利用して私が呼び込んだのが勇者シュンスケだったのです」


 おお、明かされる神様同志の熾烈な戦い。

 勇者シュンスケ、どんだけ凄かったの?神レベルか?

 俺が感心している中でも、女神の話は続く。


「やがてシュンスケは魔神を打倒して世界を平和にしたのですが……魔神はかなり曲者でした」

 曲者?そりゃ神だから頭もよいのだろう。倒したのにまだ続きがあるのか?


「魔神は7体の眷属をこの世界に連れてきており、また自分の一部をあの世界で万一殺されても大丈夫なように二つある神格の内、一つを私の結界の外に待機させていたのです」


 よく分からんが、つまり魔神は殺されていても再び侵攻可能な状態を整えていたという事でOK?


「魔神が滅んだ数十年後、邪神召喚の儀式があったと思います」


 女神の話で思い出すのは邪王戦役だ。

 アルブム王国の前身であるカルロス王国が邪神召喚の儀式をして再び世界を乱したという話だった。それを討ったのがアルブム王国を建てたのがカルロス王国の貴族でありアルブム王国初代国王だとか。

 勇者として帝国に行ったとき、帝国の伝承とアルブム王国の伝承には大きい違いがある事が分かったが。

 王国では貴族連合が邪神を滅ぼしアルブム王国を新しく作ったと言われている。

 帝国ではアルバ・ゴブリスという北部の初代鬼人領の領主が征伐に出たといわれている。

 未だ存命であるエルフ族の賢者はアルバ・ゴブリスや巫女姫、竜王、大魔獣イナバと共に戦い、滅んだ後はアルバの名を冠してアルブム王国という名の国を王国貴族が興したとされている。

 あまりに違う歴史に驚いたものだ。王国の伝承の方が分かりやすいし正しく伝えてそうだが、未だ存命のエルフの賢者が伝えているとなると帝国の方が信憑性はかなり高い。


「その邪神召喚により魔神はこの世界に降りて、自身の眷属の体を乗っ取り再侵攻を始めました。邪神もそうですし、他の6体もそうです。悪魔王は最後の1体と言う事です」

「え、悪魔王って魔神の生まれ変わり……みたいな奴だったの?」

 悪魔王は魔神の最後の1体だったという説明に俺は驚きの声を思わず上げてしまう。


「ええ。勇者ルーク、つまり前世の貴方によって500年越しの魔神の野望はやっと終わったのです」

「めでたしめでたし。何だ、俺、王国に利用されただけのポンコツ勇者だと思ってたけど、ちゃんと世界の為になってたんですね」

「ええ。さすがはかつて…………。しかし、今はまだ世界の危機にあります。その問題は悪魔王の遺産です」

「遺産相続でも起こったの?」


 悪魔王の遺産は息子である俺のモノだ。

 いやいや、叔母である私のだ。

 私は悪魔王の従妹だ。

 私は悪魔王の隠し子だ。

 私は悪魔王のお祖父ちゃんの孫の従兄弟の友達の兄だ。

 そんなよく分からない人たちが遺産分配に紛れ込んできて大変なことになっている。

 そして巻き起こる殺人事件。次々と殺されていく遺産相続候補たち。

 犯人は貴方ですよ、ヒヨコさん!

 ピヨヨヨーン!なんて事だ!探偵さん、依頼者であるヒヨコはそんな事はしない。ヒヨコ、嘘つかない。でも悪魔王を殺したのは私です。

 そんなストーリーが開幕してしまうのだろうか?………恐ろしい、遺産相続恐ろしい。


「何か、全然違う感じの事を想像しているようですが。忘れているようですね。貴方が悪魔王を滅ぼした後、王国軍は悪魔王の城を占拠し、あらゆる文献を奪って王国にもたらしたのを」

 ジト目で俺を見る女神。どうやら違うらしい。

 良かった。犯人は俺じゃなかった。


「ああ、盗賊みたいで嫌だったから、見ないようにして王国に戻ったんだよ。その文献に問題でも?」

「はい。あの文献の中にはかつて世界の結界に穴をあけて魔神を呼び込む魔法の文献がありました。そして、王国は今、その文献を使い、この世界で最も巨大な帝国を倒す為に異世界の神を呼び込もうとしています」

「え」

 マジですか?

 っていうか、王国ってば何してくれてるの?


「彼らは未熟でそれを行なう意味を知らない。己の利益のために世界を滅ぼす魔法を使おうとしているのです」

「天罰とか下せないんですか?」

「元々、神とは知的生命体による想いの欠片から構成された精神生命体であり、この世界の守護者となったものです。万人の想いから出来ているので知的生命体の知ることは全て知っています。ですが、知的生命体の害になる事は出来ません」

「と、言う事は。役立たずな傍観者という事かって…ピヨッ」


 いきなり腰の入ったブローが俺の右脇腹を突き上げ内臓をダイレクトに叩いてくる。

 脚にきたヒヨコはガクガクと震え千鳥足になり………


 ………あれ、どちらかというとパワーアップしているような?

 でも、カクリと座り込んでしまう。


「殴りますよ?」

「もう殴ってるし。おかしいな、知的生命体の害になる事は出来ない筈なのに」

「ヒヨコは知的じゃありませんから」

「知的生命体として呼び出しておいてその言いざま。何て神なんだ。ジーザス、神は死んだ」

 俺は酷い神に呼ばれた哀れなヒヨコだった。


「正直に言えば神たる私は貴方達人間の一人一人の死はどうでも良いですし、種族なんて小さい括りもどうでも良いのです。ドラゴンが世界を滅ぼしてドラゴンの世界を作っても構いません。人類が他の種族を奴隷にしても、ドワーフがエルフと仲良くなってもどうでも良い事です。私は知的生命体が生き延びる事こそが重要なのです」

 自称女神はきっぱりと悪魔のようなことを言う。酷い女神だ。信仰している神官たちに謝れ。女神教徒と聖光教徒に謝って来い。


「誰かの味方って訳じゃないのね。なるほど、どうりで神託スキルが竜王や他の猛者達なんかにもあった筈だ。真の勇者もあちこちにいたし」

 俺の記憶では獣王アルトリウス、それに獣王傘下の三勇士にも真の勇者の称号を持つ者がいたのを覚えている。たしかエミリオと言った筈だ。


「勇者というのは一定の功罪を得た後に得られただけの事です。例えば真の勇者というのは別に英雄になるものに与えられる称号ではありません」

「そうなの?」

 俺は英雄になるものとして王国に呼び出されたのだが。違うなら違うと説明してやってくれ。俺はあんな国に尽くすつもりはなかったのだが。


「ええ。命を賭して己のステータスより高い複数の敵に立ち向かい勝利した者のみに与えられる称号。そして向こう見ずなお馬鹿さんに神眼スキルを与える事で相手と自分の能力差を考慮しなさいという特別処置なのです」


「がーん。真の勇者って真の愚者と良い勝負してる侮蔑称号だったのか!」

 ヒヨコは両の手羽先で頭を抱える。あまりのショックに涙が出そう。


「勇者には身の程を知らせる神眼と神託を、愚者にはアホな行動に気付けるよう野生の勘を与えてます。因みにどちらにも即死耐性LV10も付与されます」

「選ばれし者ではなく、まさかのダメダメな者への救済スキルだったとは。」

 ピヨリと俺は両手羽先を地面について項垂れる。まさか前世と今世で二度もお馬鹿さん称号を手に入れるなんて。ダブルおバカさん状態。

 事実、心当たりが大いに存在している。バジリスクの肉は猛毒なのにパクパクと何も考えずに食い散らかしてしまったのは拙かった。

 肉は不味くはなかったけど。


「元々、この世界に存在するスキルやレベルとは、知的生命体が魔物に屈しない為に願い、私が結界同様に生み出した世界の理です。スキルやレベルのように功罪を重ねる事で世界の恩恵を高め、魔物から身を守っているのです。スキルやレベルが無ければ魔物なんかに人間が勝てる筈もありませんから」

「そんな魔物がいる世界で人間はどうやって生きてきたのさ」

「そもそも、500年前、魔神がこの地に訪れた時に動物を魔物に変異させたものです。おかげで生態系が崩れて人類は滅亡しかけたのです。スキルやレベルを作ったのも500年前に由来します。そもそも獅子や鷹が獣や鳥の王などと誰が言い出したのですか?今の時代の獅子や鷹など魔物の獲物でしかないではないですか」

「言われて見ればそうだった!」

 当然と思っていた概念が覆された気分だった。鷹やライオンは強いというが、ぶっちゃけグリフォンやバジリスクと比べると超ザコである。というか保護されないと生きていけない生物でさえある。


「………今では当たり前なものが実は500年前に神様によって作られたものだったなんて。でもまた危機になるとか、もう駄目なんじゃないのかな?」

「この500年、シュンスケの魂をこちらに動かして世界の平穏を保たせている間に私は世界の結界を強化しました。悪魔王を消し、魔神のかけらを全て駆逐している状況にあります。もう少しという所で、王国の騒動です。愚かな人間達には困った事です。まさか、窮地に呼び出すのではなく、己の私腹を肥やす為に呼び出そうなどとは」

「なるほど」

 知っていればルークの頃に気を付けて行動出来たのに。これは女神の怠慢だな。うん。それにしても王国は何を考えているのだろう?

 そもそもどうやって王国の暴挙を止めようと言うのだろうか?その穴をあけるにはどれ程の魔力が必要なのかが不明だ。


「王国は獣人達を攫い10万人の生贄をもってこの世界に再び穴をあけようとしているのです」

「なっ!?」

 女神から放たれた言葉はあまりにも人倫を無視した言葉だった。思えば勇者時代、魔王軍は人間から10万人の人間を生贄に集めようとしていた。

 悪魔王は穴をあけようとしていたのが明白である。


 だが、勇者を殺し、王国がそれをやるのか?

 倒すべき悪魔王と同じ所業を王国がするなんてあまりにも救われない話だ。

 いや、勇者を殺し、獣人達に襲撃をしようとしていた事実を思うと、彼らはそれをする気があるのだろう。

 これでは悪を滅ぼして悪が栄えるのと同義ではないか。


 何故だ!?


 王国と帝国は国力に圧倒的な差があった。だが、魔王を倒した勇者によって大きいアドバンテージを得られる予定だったのだろう。だけど俺は戦争をする気なんてない。

 王国はアドバンテージを手に入れられなかった。

 勇者自身が帝国とも仲良くやっていたし、獣人達と勝手に不可侵同盟を受け入れたりした為に国力を増す事が出来なかったからだ。

 魔王から獣人族を解放する、そういう形で落とし前をつけた俺は、これを機に他国から領土や労働力を奪おうとしていた王国にとって邪魔だったという事だろう。


「彼らが奴隷にするというのは嘘、獣人達を攫い集め、生贄として召喚術に使う積もりなのです。元々労働力として集めるつもりだった為、軍人たちのほとんどは知らない事です」

「つまり、俺に獣人達を守れと?」

「まあ、生贄にされる前に絶滅させるというのもありですが、手法を知る側を叩く方が好ましいでしょうね。他の種族をターゲットにされても困りますし」

「っていうか、女神じゃなくて邪神とかじゃないよね。発想が怖いんですけど」

 穴さえ開けられなければどうでも良いみたいな発想はどうかと思う。


「失礼ですね。…………知的生命体同志の争いならばそう簡単に滅んだりしません。私は彼らの覇権に興味はない。誰が勝とうが誰が負けようが、どの種族が栄えようが構わない。どんな過ちを犯してもやがて未来に繋がり、あるべき世界を作り出すでしょう。ですがかつての魔神アドモス、邪神メビウス、悪魔王ベルファゴスのように知的生命体どころか世界そのものを破壊する行為に対しては決して許す事はありません。獣人族が絶滅するだけで魔神を呼ぶことを避けられるなら人口や発展を考慮すればむしろプラスなのですよ。無論、獣人がいなくなれば他国や邪魔な貴族の領地などに刃が向くのでしょうけど」


「ぬう、なるほど。それにしても、まさか獣人族の人さらいの裏にそんな暗躍があるなんて。どうにか王国を止めなければ」

 俺がいない間に王国は何をやってくれているのだろうか?

 思えば王国に対して不信以外ないのだが。俺が勇者と分かった途端に王都に連行し、魔王軍との戦争に送り出したのだ。そして、帰ってきたら処刑である。

 聖女や教会もグルなのだろう。もはや信用できるはずもない。


「折角、勇者ルークが何代にも渡って憂いを絶ってくれたと言うのに。あの腐れ王国は全くもう」

「何代にも渡ってって俺の村の父さんも死んだ祖父ちゃんも別に普通の人だったけど」

「いえ、別にそういう話ではありませんが。まあ、とにかく頼みましたよ、ピヨちゃん」

「ピヨちゃん言うなや!」

 俺は女神に突っ込みを入れようと嘴で襲い掛かるが、女神は気にした素振りもなく、俺の頭をワシッと掴むと足元に突然穴をあけて、俺を下界へと放り投げるのだった。


「さあ、行くのです!聖鳥ピヨよ!そして王国の野望を打ち砕くのです!」

「ピヨピヨヨピヨー!(意味わかんねー!)」


 なんという暴力女だ!

 いつか絶対にぎゃふんと言わせてやる。

 この駄女神め、覚えていろ~。


 俺は重力に引かれて落下していく感覚に襲われて、夢から覚めるように起床するのを感じる。


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