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最凶ヒヨコ伝説 ~裏切られた勇者はヒヨコに生まれ変わったので鳥生を謳歌します~  作者:
第1部5章 帝国首都ローゼンシュタット 燃えよヒヨコ
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5章18話 リンクスターの陰謀

 時はさかのぼりヒヨコとグラキエスの戦いが始まる前の頃。


 ミーシャは一人でシロを連れてコロシアム付近を散歩していた。

「ピヨちゃんもお母さんも試合で暇だなぁ」

「なうー」

「シロは一緒にいてくれるの?ありがとう」

「にゃん」

 シロはシュタッとミーシャの肩に乗り頬ずりする。ミーシャはヒヨコが消えて以来いつも自分と一緒にいてくれる相棒(シロ)を撫でながら楽し気に微笑えむ。

 ミーシャはどこに行こうかと考えながら、これから戦いでも普通に遊んでそうなヒヨコなら構ってくれるだろう考えて、ヒヨコの所に行こうと思いつく。ステちゃんもいるし丁度良いと。

 母は獣王国の事で忙しそうだからあんまり構ってもらうのは申し訳ないと思い、ちょっとだけ遠慮していた。


「どこだろー?庭で遊んでる事が多いけど、ピヨちゃんの控室かなぁ?」

 ミーシャは選手控室の方へと向かう。

 武闘場本選の舞台となっているコロシアムの選手控室へと向かっていると、そこで猫人族の青年がミーシャに近づいてくる。

「おっと、申し訳ない。マーサ様の娘ですね?」

「えーと、どちら様ですかー?」

「フーッ!」

 途端にシロはいきり立ち襲う構えになる。

 ミーシャは見知らぬお兄さんを襲わないように、両手でシロ抱え込んで抑える。 

「いえ、マーサ様がお探しでした。私はミーシャ様をお連れするように言われてきました」

「お母さんが?」

 何だろうとミーシャは首を捻る。

 よく分からないが、取り敢えず聞いてみれば良いやと軽い気持ちで頷く。


「お兄さんはどちら様ですか?」

「ああ、獣王国政府に勤めている者です。マーサ様とは政府の仕事で顔を合わせていました」

「そっかー」

 コロシアムの中にある一室に通される。

 そこには熊人族の男とたくさんの猫人族の男達がいた。

「?」

 ミーシャが部屋に入って首を捻る。


 はて、母はどこだろう、と。


 するとバタンとドアが締められてガチャリと部屋の外から鍵が掛けられる。

「ようこそ、ミーシャ」

「?………お母さんは?」

「悪いがお母さんは来ないよ。僕は君の従兄でね。君には悪いがここで暫く黙って居座っていて欲しい。僕たちの望みが叶うまでな」

 猫人族の男はにやりと笑う。

「フシャーッ!」

 するとシロがミーシャの手から無理やり抜けて猫人族の男に襲い掛かる。

「ひいっ!」


 すると熊人族の男はシロをぶん殴り地面に叩きつける。

「ギャッ」

 シロは床に叩きつけられてぐったりしていた。

「シロ!」


 ミーシャはシロに駆け寄ろうとするが熊人族の男は前に出てミーシャの首根っこを掴む。


「び、びっくりさせやがって」

 猫人族の男は舌打ちをしてギロリと仔虎猫のシロを睨みつける。

「あんな子猫にビビるお前が弱すぎるだけだ」

「べ、別にビビっている訳ではない!急に飛び出して驚いただけだ!このくそ猫が!」

 猫人族の男は熊人族の男に文句を言いながら、シロを蹴りつける。

「やめて!」

 ミーシャは叫ぶがシロはぐったりした状態で床に倒れ伏していた。


「そんな子猫に八つ当たりなど相変わらず弱っちいクソ野郎だな、お前ら一族は」

 熊人族の男は呆れるように猫人族の男を軽蔑するような視線を向けて呆れるように口にする。

「黙れ!その弱っちいクソ野郎に頼ってきたクズ共が僕らを嘲るな!」

「ぐっ」

 猫人族の男は熊人族を怒鳴りつけられ、熊人族の男は言葉を告げなくなる。

「マキシムじゃあ、マーサには勝てねえと考えたから僕らに頼ったんだろうが!違うか?」

「ち、違う。だが戦いである以上万一があり得るからこその手だ!獣王になる気もない奴に負ける訳にはいかないんだ!そうじゃなきゃ、誰がお前らのような連中に頼るかってんだ!」

「ふん、結局は必要だから使っている癖に言い訳がましい連中が。同罪だろうが。なんだ、俺様は強いから弱くて卑怯な奴らとは違うってか?笑わせてくれるぜ。大体、熊人族なんざリンクスターの一族に足元にも及ばないくせによ」

 ペッと唾を吐いて猫人族の男は熊人族の男を嘲る。


 言葉の通り、確かに殴り合いによる総力戦ではリンクスターは圧倒的に弱い。だが従魔士が全力で従魔を集めて戦いに出た場合、相手はほぼ全滅するだろう。それほど凶悪なのだ。しかもリンクスター一族は一切傷つくこともなく、やり遂げるだろう。傷つくのは従魔だけである。


「お、お母さんに何をするの!?」

 ミーシャは焦ったように男たちに問う。

「何もしない。いや、僕たちでは何もできない。だが、ここにお前がいればあの女も何もできない。その為の人質だ」

 猫人族の男は口にしミーシャを見下して笑う。


「外は僕の部下達に固めさせている。これでもうこの場にくる人間はいないだろう。試合前にマーサに人質がいる事を伝えねばならない。僕はちょっと外すが、逃がさせるなよ!」

「ここの外に出る為のドアは一つしかないし、外はお前らの部下が固めてるのだろう?そこの狭い小窓から人間が出れる筈もないし、万一などありえぬ」


 すると、ぞろぞろと入ってきた猫人族の男たちはミーシャをロープで簀巻きにして猿轡口に巻き、ポイッと床に放り投げられる。

 だがそこでミーシャはちらりとシロを見る。


 シロはふらつきながらもゆっくりと体を起こし、マーサの控室に向かっただろう猫人族の後を追う。


(シロ、頼んだよ)

 ミーシャは身動きの取れない自分の代わりに助けを求めに行ってもらう。

 祖父グレンは従魔士の利点とは強い力よりも、代わりにやってほしい事を頼める事だとミーシャには平和的かつ困った時の使い方を徹底して教えていた。

 まだ念話スキルが弱い為、ミーシャには遠くの不特定多数へ連絡することは出来ないが、従魔士自身が捕えられても、念話で遠くにいる従魔に声をかけて呼び寄せる事が出来るグレンは遠くの仲間を呼ぶことができる。


 もしもミーシャがその域に達していたらこの場に100以上もの強大な魔物が殺到しただろう。何もやれずに駆逐されるのは彼らだった。未熟な今だからこそミーシャという世界最高峰の従魔師の卵を抑える事が出来ているのだ。


 そしてリンクスター一族がミーシャを恐れたのは、グレンの域に達した場合、手も足も出なくなるからだ。自分達が全員でやれることを一人でやられてしまえば、もはや自分たちの価値が地に落ちる事を知っていた。

ミーシャの父親であるエミリオがいた頃は立場がひどく弱かった。

 グレンはリンクスターを見限り、曾孫のミーシャを後継ぎと考えているのが明白なだけに、リンクスター本家は手を打たなければならないと焦りがあったのだろう。




***




 そして、脅迫の手紙を見たガラハドはミーシャがさらわれた事を知り、コロシアムの中を必死に探すが当てがないし入れない場所もあるので中々手掛かりがつかめなかった。


 そんな中シロがついてくる。


『それではマキシム・ベアード選手とマーサ・リンクスター選手。試合を始めてください!』

 試合が始まってしまった。


「くそ、どこなんだよ」

 ガラハドは焦ったままコロシアムから出ようとすると、シロがガラハドのズボンを咥えてコロシアムへ引き留めようとする。

「何だよ、探してるのに……」

「みゃーみゃー」

「俺はお前に構ってやる暇なんて無いんだ。お前のご主人様を探してやってんだぞ!」

「にゃー」

 ズボンのすそを引っ張ってからこっちに来いと言わんばかりに進む。


「……もしかして、お前、知ってるのか?」

「みゃー」

 シロはコクリと頷き走り出す。

「ば、場所を知ってたのかよ。だったら早く言えよ、って言える訳ねえか」

 念話使いでさえシロの言葉は分からないのだから当然である。


 ガラハドは走るシロの後をついていく。


 すると途中で曲がると猫人族の男が4人ほど部屋の前で集まっている場所に差し掛かる。

 シロはミャーミャーと鳴きながら部屋の前にいる男たちを無視して入り口のドアで爪を掻き始めるのだった。

「おい、待てよ。そこに入りたいのか?」

 ガラハドは慌ててシロを追いかける。

「何をしてる!」

「ここは立ち入り禁止だぞ」

 猫人族の男たちは人間のように剣を持ってガラハドの前を塞ぐ。

「いや、飼ってる猫がそっち行っちゃって」

 とは言えもそれなりに訓練をされている男たちが複数いるので、ガラハドは少し用心する。ここで戦ってしまえば中にいるかもしれないミーシャが危険だからだ。


「なんだよ、そんなの放し飼いしてるんじゃね…」

 そう言いかけている男達を前に、ガラハドはシロに近づくふりをして、ドアの前に近づくと、思い切り拳に力を入れる。


 ガッシャーン


 鉄でできた強靭な扉がガラハドによって吹き飛ばされる。

 倒れたドアの先にいたのはロープで簀巻きにされているミーシャだった。

 それを取り囲むように立っていたのは猫人族5名と熊人族の男もいた。


「おいおい、立ち入り禁止だって言う割にはなんだ、この物騒な親父どもはよぉ」

「ガラハド!?」

 熊人族の男は慌てたように口にする。

「なんだ、これ、今試合中だってのに、これどういう状況だ?」

 ガラハドは熊人族の男を見て問い詰める。


「見られたからには仕方ねえ。お前ら、こいつを殺すぞ」

 全員が武器をとる。

「むーむーむーっ」

 ミーシャはジタバタする猿轡をかまされて喋れていないようだ。

 ガラハドは拳を固め男たちを睨みつける。


「気に入らねぇ。子供を人質に取って獣王になろうってのか?」

「黙れ、小僧。お前ら虎人族が、ましてや子供に何が分かるというのだ。これは我ら熊人族が獣王になる為のチャンスなのだ!こんな人間の大会で朽ちてたまるものか!」

 熊人族の男は腰に差してある()()を引き抜きながら巨大な体をもってガラハドの前に立ち塞がる。

「政治も知らぬ子供が知った口を!」

 猫人族の男は部下達の後ろに下がりガラハドを怒鳴りつける。

「黙れ、男だったら誰かの後ろに隠れて文句を言うんじゃねえ!」

 ガラハドは嘲笑うように猫人族の男を睨みつける。

「なっ」

「父上から聞いていた。今のリンクスターはグレン殿の悪い所しか見習わなかったクズばかりだと。グレン殿に見限られたのも、部下の後で吠えるだけのクズなど同胞と思われたくないからだろう。まして利益を求めてマキシムに勝たせるためにマーサ殿の娘を誘拐とは吐き気がする」

「ぐっ。だ、黙れ黙れ黙れ!長い間我が一族の操る魔物に守られてきた癖に!いくらお前と言えどこの人数で勝てるまい!」

 猫人族の男は地団太を踏んで怒鳴り散らす。

「まさかベアード族の副長バルガスまで絡んでいたとはね。こんなのとつるんで恥ずかしいと思わないのか?」

「黙れ、我らは獣王の座に立たねばならぬのだ!」

「何故?」

「笑止!貴様らのような獣王を何度も輩出する一族と違い、常に不遇にあい才能あるものは強くなる前に謀殺される!貴様のようなガキに何が分かる!我らは100年ぶりにマキシム様という強者を得た!この私はマキシム様を獣王に戴くためならばどのような苦杯も飲んで見せよう!俺の命や名誉で獣王になれるなら本望だ!」

 熊人族の男バルガスは剣を構えながらガラハドを睨む。

 ガラハドは目を細める。


「獣王なんてクソッたれだ……か。……………そういう事なんだな、父上」

 ふと父の口癖を思い出してガラハドはその意味を何となく理解し思わず口に付く。

 父しか獣王を知らないガラハドにとっては獣王とは尊敬すべき存在だった。一度もクソッたれだとは思ったことも無かった。これまでの獣王を知らないからだ。


「くたばれ!ガラハド!」

「おおおおっ」

 バルガスは巨大な剣を片手剣のように振るって襲い掛かる。ガラハドはその攻撃をかわしながら距離を一瞬で詰めて熊人族の男を殴り飛ばす。

 一撃で悶絶するが、堪えつつ剣を握って構える。

 周りの猫人族の男たちも武器を持って構える。9人に囲まれる状態になっていた。だが、ガラハドは半年前のアルブムの大進侵攻で南東方面を一人で守っていた。いくら質が高いと言えど、たかが9人相手に後れを取るつもりはなかった。


「くっ………。ここまでやって今更退く訳にはいかねえんだよ!」

 バルガスは剣を構えてガラハドと距離を取る。

 周りの男たちもそれぞれ武器を持ってガラハドを取り囲む。


 ガラハドは即座に走り、武器を持っていながら後方で警戒が若干弱まってる男へと飛び込み拳で悶絶させる。

 多対一の時、弱い奴から倒して人数を減らすのが得策。これは戦争で死んだ兄姉達からの教えでもある。短剣を取り出した男のを殴り飛ばし、落ちた短剣を踏んで叩き壊す。

 さらに近くにいて慌てた者を、蹴り飛ばし地面に倒れ伏させる。

「くっ、これが獣王の息子の力か」

「や、やばくないか」

 怯えが走る。

 ガラハドは多対一の戦闘に慣れている。

 幼い頃から英才教育を施されていたと言えば聞こえはいいが、強き虎人族の大人たちを相手に立ち回り鍛えて来た。先人達に様々な状況での立ち回り方や戦い方を教わってきた。

 それが生きていると感じるガラハドはこのまま勢いに任せて制圧しようと考える。


 戦いは空気が変える。猫人族の猛者たちや熊人族のバルガスも大会で準々決勝まで進んだガラハドが幸運だけで勝ち進んだのではないと感じる。


「そこまでだ!」

 猫人族の男はミーシャの髪を掴んで体を起こさせ、ナイフをミーシャの首に押し当てる。


「そんなもの人質になるとでも思ってるのか?」

「んーんー」

 ガラハドは猫人族の男を睨み、ミーシャは小さくだがコクコクとうなずく。


「思っているさ。……お前ら虎人族は女子供、戦闘員以外は保護対象。よもや保護すべき相手を見捨てるとは思えん。何より動けなくなっているぞ?」

 にやりと猫人族の男は笑う。

 ガラハドはギリッと歯を軋ませて拳を握るが

「はっ、その女は俺に無礼を働くからな。別にどうなっても構わねえよ。マーサが怖くて人質を取って勝とうって言うテメエらに腹立てただけだ。刺すなら刺してみろよ。俺はテメエをぶんな…」

 すると猫人族の男はナイフをミーシャの足に突き立てる。

「んんんんんんっ!」

 ミーシャは悲鳴をあげそうになるが猿轡が声を漏らさせない。

「!……や、やめろ!おま、何を…」

 さすがのガラハドも真っ青になって猫人族の男を見る。


 ミーシャは強烈な痛みに涙が出てくるのを感じる。

 だが、思えば多くの戦士たちが剣に刺されたりしていた。ヒヨコは兵士たちに剣を刺されても人間達から獣人達を守るために立ち塞がっていた。

 母ももっと酷い傷で帰ってきた事もあった。獣人族の戦士たちはこのような痛みを受けながら守っていたのだろうと気付かされる。


 猿轡をかまされつつも、涙がポロポロとこぼれて来ても必死に我慢して痛みに耐える。

 全然痛くない、大丈夫とでも言いたげに、ミーシャは強い視線で猫人族の男を見る。


 猫人族の男はミーシャが痛がり助けを乞うような目を見せるだろうと思っていた。強気を見せるミーシャに対して逆に気圧されてしまう。


 その姿にバルガスはぞっとする。

 幼い少女ながらも自分達と肩を並べ、戦場を駆け回り、同胞のために体を張って守っていたマーサの片鱗を見たからだ。


(本当にあの子供を傷つけて良いのか?いくらマキシム様を獣王にしたくても……………いや、俺達はマキシム様を獣王にさせねばならぬのだ。その為なら俺の手を汚すくらい……どうって事は無い)


「バルガス!ガラハドをやれ!帝国には大会に支障を起こさなければ問題ないと言われている。死なない程度に痛めつけてやれ!本来ならここで殺しておきたい所だがこのガキはまだ試合を残しているからな。ガラハド、動くなよ。俺は本気だ。次に妙な事をすればこのガキを殺す」


 猫人族の男は唾を飛ばして大声でバルガスに指示を出す。

「あ、ああ。…悪いな、ガラハド。お前に恨みはないが邪魔されると困るんだよ」

「クソが」

 ガラハドは歯を食いしばり悔しそうにし、バルガスは持っている剣を捨ててガラハドを殴りつける。


 ゴッ




***




「ピヨッ!」

 ヒヨコがピヨリと立ち上がる。

「きゅうきゅう(どうしたのよね、ヒヨコ)」

 ヒヨコの頭の上でまったりしているトニトルテは怪訝そうに首を傾げる、


「ピヨッ(試合が終わって腹が減った!今日の帝国宮廷食堂のAランチはチキンカツとあったぞ!チキンをキチンと食いに行くぞ!鳥ウマー)」

「いや、何故知ってる?」

 ステラは呆れたようにヒヨコを見る。

「ピヨピヨ、ピーヨピヨ(知っている。ヒヨコは何でも知っている)」

「何でも?」

「ピヨピヨ(ごめんなさい。何でもは知らない。知ってる事だけ)」

「つまり何も知らないと?」

「ピヨヨーッ!(ステちゃん、ヒヨコを侮りすぎだ!)」


 ステラの中では『ヒヨコ=おバカ』という認識なので、ヒヨコが知ってる事なんてたかが知れていると確信していた。

「ピヨピヨピヨピヨ(山賊の親分に修行方法を尋ねた結果、何故か武闘会設営のお手伝いをする羽目になってな。毎日、お昼ご飯は無料でお弁当や宮廷食堂だったのだ。良いように使われている事に気付けていればこんな事にはならなかったのに!)」

「いや、気付けよ」

 ステラは凄く呆れたような目でヒヨコを見る。

 それよりも山賊皇帝さんがいつの間にか山賊の親分になっている事実の方が引っ掛かっていたが。そのうち不敬罪で首とか刎ねられないか、そっちの方に心配する気持ちが傾いてしまう。


「とはいえ、折角だからマーサさんの試合が終わってからにしない。何か苦戦しているっぽいけど」


 試合はかなり互角の攻防を繰り広げていた。


 身長250センチ以上ある巨大な熊人族のマキシムはパワーと防御で攻めるタイプで、マーサはスピードと技術で翻弄するように戦うタイプ。

 にも拘らず、マーサは何故か回避ではなく防御に回り、マキシムの攻撃の直撃をさけるようにしながら、劣勢状態になっていた。

 このままではまさか負けてしまうかとも考えられる。空気を呼んで一緒に食べるのは止めた方がいいような気もするが………ともステラの頭によぎる。

 しかしヒヨコ達は空気を一切読まない。

「ピヨッ!(取り敢えず、直に合流できるようにミーシャに会いに行こう!)」

「きゅうきゅう(そうなのよね、きっとミーシャのお母さんの控室で暇しているのよね)

 トニトルテの言葉にステラも渋々頷く。負けた母親を一人で相手にするのは、いくらヒヨコ以上に空気を読まないミーシャでもつらかろう。


「そうね。ミーシャに………え?」


 その刹那、ステラがミーシャを頭に浮かべた瞬間、ミーシャが殺されるビジョンが同時に頭によぎる。


「な、何これ、何、こんな……うそ、でしょ?」

 ステラは頭を掻きむしる様にしながら両手で頭を抱えて困惑する。

 そして拳を握り立ち上がる。

「急がないと!」

 ステラは突然走り出す。


 ヒヨコ、トルテ、グラキエスの3者は首をコテンと傾げる。

 そんなに腹が減ったのだろうかと。


「ピヨピヨ(まってくれ、ステちゃん。ヒヨコは手持ちの金がない)」

「きゅうきゅう(一人で急がれたらアタシたちは飯が食えないのよね)」

「それは困るのだ」

 ヒヨコを先頭にトルテとグラキエスがピヨピヨきゅうきゅうとステラについていく。


 ステラの予知は唐突で脈絡がない為、ヒヨコ達とは微妙にかみ合っていなかった。

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