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最凶ヒヨコ伝説 ~裏切られた勇者はヒヨコに生まれ変わったので鳥生を謳歌します~  作者:
第1部5章 帝国首都ローゼンシュタット 燃えよヒヨコ
105/327

5章17話 ヒヨコVSドラゴン

『これより準々決勝第2試合目!グラキエス選手!対するはピヨちゃん!』

「ピヨッ!(そう言えばいつも放送の声の人はヒヨコだけピヨ選手じゃなくピヨちゃんと呼ぶのはどういうことか!)」

 ヒヨコは激怒した!必ず、かの邪知暴虐な(※以下略)


 何だか誰か(邪神)に邪魔をされた気がするが、いくら世間一般でピヨちゃんと呼ばれているからって、ヒヨコだけピヨ選手ではなくピヨちゃんではまるでヒヨコだけマスコットキャラみたいじゃないか。


※現在、ヒヨコはIRAと朝の元気体操促進委員会のマスコットキャラです


 何やら誰かに文句を言われた気がするがきっと気のせいだろう。ヒヨコはマスコットキャラではないからだ。


「ふふふふ、遂に雌雄を決するときが来たのだ」

 ヒヨコの目の前に立つのはトルテの兄グラキエス君の人間バージョンだ。人間の武闘家みたいな構えを取るグラキエス君はそこそこ様になっていた。

「ピヨピヨ(果たしてヒヨコに勝てるかな?既にあのトルテと雌雄を決したこのヒヨコに)」

 ヒヨコも構える。

「そ、そうなのか?」

「ピヨッ(そう、雌雄は最初から決していたのだ。奴が雌でヒヨコが雄だ!)」

「はっ、それでは僕らには困難なのだ」


 ピヨピヨ


 何となく沈黙が起こる。


『え、ええと、じゃあ、取り敢えずはじめ!』


 おおっ!何だか締まらない感じだが、試合は始まってしまった。

 グラキエス君が走ってヒヨコへと突撃してくる。だが遅い!

 ヒヨコはグラキエス君の背後に一瞬で回り込み嘴攻撃を仕掛ける。


 キンキンッ


 うむ、さすがの硬さにヒヨコもびっくりだ。

「うーん、ヒヨコは早いのだ。とはいえ、その程度の攻撃では僕にダメージを与えるなんて100年早いのだ」

「ピヨッ!」

 ピヨスパイラルアタックでスピードを乗せて一気に突けばダメージは通るだろう。イグッちゃんのように弱点があればいいのだが、弱点らしき弱点は見当たらない。

 何よりもこれでは互いに千日手になってしまう。試合が終わらないのはあまり好ましくない。


「とうっ!」

 グラキエス君はヒヨコにパンチを放って来る。振るだけで大気が震える恐ろしい攻撃力であるが、ヒヨコには攻撃が当たらない。速度が違いすぎるからだ。

 だが、物凄い風がヒヨコを吹き飛ばす。


「ピヨッ(なんというバカ力!?)」

「いくのだ、ピヨちゃん!」

 鋭く攻撃を仕掛けてくるグラキエス君。

 右の正拳突きをヒヨコはかがんで避ける。

 次いで右回し蹴りが足元に来るので飛んで避ける。

 そこからクルッと回って後ろ回し蹴りが頭に飛んでくるからかがんで避ける。

 同時に左手の裏拳が飛んでくる。スウェーバックで見事に避ける。

 だが回転の勢いそのままで右回し蹴りが頭にくる。これは避けきれなさそうなので、ヒヨコは翼を使い流水の受け身に入るが、蹴りの動きが突然頭から足に落ちてくる。


「ピヨッ」


 鋭い蹴りを足に受けたヒヨコは回転して地面に倒れる。

「やっぱりドラゴンの時より動きにバリエーションが少なくて厳しいのだ」

「ピヨヨ?(よく動いているように思われますが?)」

「僕はここに尻尾攻撃が入ってくるからもう少し手数が多くのなるのだ。この尻尾は短すぎるのだ」

「ピヨ(むむむ、確かにそれは手厳しい。だがしかしこれでヒヨコに勝てると思うなよ?)」

 ヒヨコは翼を左の翼を上に、右の翼を下にして構える。


「な、何か強そうな構えなのだ」

「ピヨピヨ(フフ、この構えの恐ろしさを瞬時に分かるとはさすがよ。これを天地ヒヨコの構えと呼ぶ)」

「その心は?」

「ピヨッ!(今考えました!)」

「ガッカリなのだ」


 再びグラキエス君はヒヨコに襲い掛かる。グラキエス君の初撃を右手羽の流水で受け流す。

 そして左の手羽でヒヨコチョップ!


 メキッ


「ピヨヨーッ!」

 ヒヨコは左の手羽を抑えて痛みで転がりまわる。


『おおーっとグラキエス君の体が硬すぎて、ヒヨコ自滅!弱い翼で攻撃とはなんとウッカリピヨちゃん!でもしょうがない!だってピヨちゃんバカだから!』

 余計な放送が流れる。大観衆は大笑いする。

 ヒヨコの自爆がそんなに面白いか!?


「うーん、もう僕の勝ちで良いと思うのだ」

「ピヨピヨ(ひ、ヒヨコを舐めたらいかんぜよ!)」


 ヒヨコは左の手羽を抑えながら立ち上がる。

「でも、ヒヨコには僕を倒すだけの力は無いのだ。もう諦めるのだ」

「ピヨッ(バカめ、ヒヨコはちゃんと考えて戦っていたのだ。そう、グラキエス君にはヒヨコの攻撃は一切効かないという事を完璧に悟ったのだ!)」


 ………


「ええと、だからピヨちゃんは降参すべきだと思うのだ」


「きゅうきゅう(兄ちゃん、気を付けるのよね。そのヒヨコはバカだから何しでかすか分からないのよね!)」

 遠くでグラキエス君にアドバイスを送るトルテ。なんて失敬なドラゴンなんだろう。


「ピヨヨーッ!」

 ヒヨコはグラキエス君に突貫する。

「僕にヒヨコの攻撃は利かないのだ。」

 グラキエス君は拳を握りヒヨコを待ち構える。だが、ヒヨコは縮地法を使ってあっちこっちに現れてグラキエス君の攻撃を避ける。

「ピヨッ!(秘技!ヒヨコ乱舞!)」


 ピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨ


 あちこちにヒヨコが現れてはピヨッと嘴で突き、また縮地法で移動して突くという超高速打撃。


「うーん、痛くはないけど鬱陶しいのだ」

 グラキエス君はブンブンと拳を振ってヒヨコを追い払おうとする。


 だが、その一瞬の隙をヒヨコは見逃さない。

「ピヨヨ(バカめ。言っただろう!ヒヨコの攻撃は効かないと。)」

「いや、それ僕の台詞なのだ」

「ピヨヨッ(故に!投げ飛ばして場外勝ちすれば良いのだ!必殺、ヒヨコドロップ!)」

 ヒヨコはグラキエス君の背中から手を回しバックドロップを仕掛ける。

 だがやっぱり捕まえていないのですっぽ抜けてしまい場外へと放り投げてしまう。だが、それで勝てるからそれでいいのだ。

 スポーンと放り投げられたグラキエス君は場外へ一直線。ヒヨコの勝利は確定だ!


 だが、何とグラキエス君は翼を背中から出して空を飛ぶ。

「あ、危なかったのだ。トルテの言うように何をしでかすか分からないのだ」

「ピヨピヨ(翼を生やすなんて汚いぞ!翼を持つなんて種族として恥ずかしいと思わないのか!)」

「いや、ヒヨコだけには言われたくないのだ」

「ピヨッ!?………ピヨピヨ(あらやだわ。ピヨちゃんたら)」

 言われてみればヒヨコは翼の一人者だった。ヒヨコは友達。怖くないよ!


※その翼ではありません。


『なんと、グラキエス君、空を飛んだ!そう言えば竜人族(ドラゴニュート)は飛行種族だったか!ヒヨコは飛べない!羨ましそうに空を見上げている!』

「ピヨピヨ(だが、ヒヨコが飛べないと思ったら大間違いだ。空に飛ぶのを待っていた!)」

 ヒヨコは闘技場をいっぱいに使って助走すると空中に向かって大ジャンプする。


「ピヨッ!(見よ!これが必殺のピヨスパイラルアタック!)」

 体を回転させて嘴ととがらせて体当たりを敢行する。無論嘴には保護具が付いているが、それでも十分な威力はある。むしろあの硬い鱗を突くには保護具があった方がヒヨコの嘴に優しい。


「直線で来るなら殴って叩き落すだけなのだ!」

 グラキエス君のパンチを翼で体の向きをコントロールしかわしつつ、嘴をグラキエス君のお腹に突き立てる。


「ガブッ」


 さすがにお腹を叩かれて良い感じのダメージが入った。何で空を飛ぶのが丁度良かったかって?真横にやったら避けられただけでヒヨコが場外にぶっ飛ぶから使いどころが難しかっただけだ。

 更にヒヨコはグラキエス君と位置を入れ替えて、グラキエス君の背中を翼でがっちり固め(?)て、両足でしがみつき頭から一気に落下する。


 ガッシャーン


 派手な音を立てて頭からグラキエス君をヒヨコドロップ(完成版)の餌食にする。


「ピヨヨーッ!(みたか!)」

『ピヨは柔術のスキルレベルが上がった。レベルが2になった』

 神託のアナウンスが入る。


 地面に頭がめり込んでグラキエス君はもはや虫の息だろう。ピヨピヨ。


『な、なんと、だ、大丈夫なのでしょうか、グラキエス選手。ピヨちゃんが残酷必殺技を使い大逆転なのですが………』


 するとグラキエス君は穴の開いた闘技場から頭を抜いて立ち上がる。


「ううう、痛かったのだ。涙が出そうなのだ。……どうやら僕はピヨちゃんを侮っていたようなのだ。さすがは父ちゃんが認めた(ヒヨコ)の中の(ヒヨコ)なのだ」

「ピヨピヨ(その基準は若干嫌なのだが…)」


 トルテにせよ、どうして竜族の基準がイグッちゃんなのだろうか?


「本気の本気を見せてやるのだ!」

 するとグラキエス君は体を輝かせ体を大きくさせていく。


 本来の姿、成竜の姿に変貌する。体長5メートルほどの巨大なドラゴンが闘技場の半分を占拠する。さすがに客も悲鳴を上げる。

 まさかドラゴンに人間が変身するとも思っていなかったからだ。



 すると分かっていたかのように放送が入る。

『臨時解説の宰相補佐シュテファン・フォン・ヒューゲルです。実況も観客も取り乱しているので説明しましょう。彼は竜王イグニス様の息子、トニトルテさんのお兄さんでグラキエス君と言います。人化の法LV8まで極めて竜人族(ドラゴニュート)に擬態して人間の中に入っても目立たないよう振舞えるになったから送り出されたそうです。なので暴れたりしないので観客の皆さまは安心してください』

 と即座に放送が入る。


 というか、多分イグッちゃんかトルテ辺りから情報を聞いていたな?

 よく考えたら今大会は腹黒補佐さんは開催者サイドである。


※元々グラキエスはヒューゲル推薦による出場です。


 ギュオーッとか呻いているドラゴンに、ヒヨコは若干驚いていた。幼竜はあんなに小さくてかわいいのに、一段階ステップアップしただけでこんなに大きなドラゴンになるのかー。

 ヒヨコはビックリしていた。そりゃもうすっごくびっくりだ。


 グラキエス君はヒヨコに向かって爪を振る。

 だが、動きが本来のモノであってもヒヨコの速度の前には捕えるのは困難だろう。

 しかしそこはグラキエス君。体を翻し尻尾が闘技場の全てをカバーするように襲ってくる。逃げ場は空にしかない。体の大きさがかなりアドバンテージだ。

 ヒヨコはジャンプして尾からの攻撃を避ける。

 ジャンプしたヒヨコは回避が困難に。そこに目掛けてグラキエス君は爪攻撃を仕掛けてくる。


「ピヨッピヨッ」

 両翼を使った流水で攻撃を受け流す。

 威力が強すぎて、ヒヨコは風圧で吹っ飛ばされてしまう。ギリギリ場外にならない場所に降り立とうとしているが、今度は上から巨大な尾が降ってくる。


 やばいよ、やばいよ。着地とほぼ同時に頭から尾が飛んできた。さすがにヒヨコは空を飛んでる途中に避けられない。早く着地しないと!


 ヒヨコは避ける必要があったので多少無理をしても右足の着地と同時に一足飛びでを縮地法を使い攻撃を避ける。


『ピヨは縮地法のスキルレベルが上がった。レベルが2になった』


「ピヨヨ~(あぶね~。あっさり負ける所だった。これがドラゴンの本領か)」


 だがグラキエス君は攻撃の手を緩めない。尻尾攻撃や爪攻撃などでヒヨコを攻め込む。ヒヨコは必死に逃げるだけになってしまう。

 だが、ヒヨコは狙っていた。イグッちゃんにも存在していた顎の裏にある逆さまになっている鱗を。どうもあそこを突かれると小指をテーブルにぶつかったような痛みがあるらしい。

 ヒヨコも以前ステちゃんの部屋でベッドの足に指をぶつけた事が有るが、めっちゃ痛かった。

「ピヨヨーッ」

 再び、ヒヨコ乱舞でグラキエス君を翻弄する。


『むう、これはちょこまかとうざったいのだ』

 周りを振り払うように手足をばたつかせ尻尾を振ってヒヨコを叩き出そうとする。だが、ヒヨコはそこで尻尾をかわすと懐に飛び込む。

「ピヨッ!(ピヨスパイラルアタック!)」

「ギュオオオオオオオオオオオオオオオオオッ」

 喉元を抑えて痛みでのたうち回るグラキエス君。バッタンバッタンと闘技場の上でのたうち回る。

「ピヨヨーッ!」

 そして闘技場から押し出されそうになり慌てて逃げるヒヨコ。

 グラキエス君はゴロゴロ転がり、ヒヨコは轢かれそうになるので慌てて逃げるが、頭に尻尾が降ってくる。

 攻撃されたのではない。ごろごろ転がっている意図しない余波がそうさせたのだ。

 慌ててそれを避けるが逃げ場がない。

 ゴロゴロ転げまわるグラキエス君の端で、ヒヨコは踏み外して闘技場から落ちそうになり必死で爪を立てて、落ちないよう堪えていた。

 だが、何とかバランスを取って闘技場にしりもちをついて堪える。


 恐ろしい。


 まさかのたうち回るのが一番ヒヨコの敗北に近づくとは。だがこれでヒヨコを恐れて降参するだろう。

「ギュアアアアアアアアアアアアアアアアッ!」


 だが反応はむしろ逆だった。

 なんか竜の逆鱗に触れた気分だ。

 グラキエス君は理性を失ったかのように尻尾を振り回す。ヒヨコはピョコタンピョコタンと縄跳びのように尻尾を飛んでやり過ごすが、グラキエス君は翼を広げて空を舞う。

「ぎゃううううううううっ」


 グラキエス君は口元に巨大な魔力を練り上げる。

 やばいっ!ブレスだ!


 吹雪吐息(ブリザードブレス)が空から吹き荒れる。

「ピヨヨッ!(不味い!あれを食らったらヒヨコがかき氷になってしまう!赤いヒヨコは苺になってしまうではないか!大ピンチだ!)」

 すさまじく冷たく、ドライアイスが吹き荒れる雪の嵐がヒヨコに襲い掛かる。

「ピヨヨーッ(爆炎吐息(ボンバーブレス)!)」

 ヒヨコの吐息が大爆発を起こし、恐ろしく冷たい吐息をヒヨコの灼熱が吹き飛ばす。


『中々、やるのだ。僕は今、ヒヨコを強敵と認めるのだ』

 口元に再び魔力を集めてグラキエス君はさらに空から氷雪弾を凄まじい勢いで連射するように吐いてくる。

「ギュオオオオオオオオオオオオオオッ!」

「ピヨヨーッ(火炎連弾(ラピッドファイア)吐息(ブレス)!)」


 闘技場の上空からグラキエス君の氷雪連弾吐息(ラピッドアイスブレス)とヒヨコの火炎連弾吐息ラピッドファイアブレスがぶつかり合い氷が炎にぶつかり大爆発を起こす。


 やがて闘技場に作られていた結界が木っ端みじんに吹っ飛んでしまう。

 悲鳴が上がり、ヒヨコはそこでハッと気付く。


 そういえばブレス禁止だったような?


 ピンポンパンポーン

『只今の試合、グラキエス選手が先に吐息を使ったので反則負けです。勝者はピヨちゃん!』


『あ』

 グラキエス君は空を飛んだまま口を開けてハッとした様子で放送席の方を見る。

 観客が騒然となっている中、空を飛んでいたグラキエス君は竜の姿のまま、闘技場に降りると、トボトボと闘技場を去ることになるのだった。

「ピヨピヨ(危なかった。ブレス無しの試合でなければ空爆による一方的に主導権を取られ、ヒヨコは手も足も出ずに負ける所だった)」

 ヒヨコは額の汗を拭いて取り敢えず勝利にホッとする。


 それはそれとして、さあ、それでは皆さん、ご一緒に。ヒヨコのフルシュドルフダンスの時間です!

 取り敢えずヒヨコはウイニングダンスをするのだった。




***




 控室に戻るとステちゃんとトルテとグラキエス君がいた。

 グラキエス君はドラゴニュートの姿に戻っており、トルテに説教されているのだった。

「きゅうきゅう(まったく、情けないのよね。父ちゃんに続き兄ちゃんまでヒヨコに負けるとは。ヒヨコに勝っているのはトルテだけなのよね)」

「ドラゴンの姿になれば負けはしないのだ。ピヨちゃんが逆鱗に触れるからうっかり全力で戦ってしまったのだ。僕は悪くないのだ」

 グラキエス君はふくれっ面でそっぽ向く。

「ピヨピヨ(うっかりものめ。ヒヨコは焦ったぞ。ヒヨコもすっかりブレス禁止を忘れていたからな)」

 よくよく見ればこのグラキエス君、ヒヨコと同じく『迂闊者』の称号持ちである。ピヨピヨ、ついにヒヨコは仲間を見つけたのだった!


「きゅうきゅう(ブレス有りならアタシが優勝するに決まっているのよね。それ以前にあんなちゃっちい魔法の壁なんて簡単に砕いちゃうのよね)」

 トルテはフンスフンスと鼻息を荒くして自分の吐息を高く評価する。

「ピヨピヨ(確かにヒヨコのブレスでぶっ壊しちゃっていたな。確かにこれはいかん)」

「だから壊さないように空に飛んで攻撃したのだ」


「というかちょっと遠慮しようね。君達、本気を出すと本当に危ないから」

 ステちゃんは半眼で突っ込むと

「ごめんなさいなのだ」

 頭を掻いてグラキエス君は謝る。どこかの金色の幼竜と違ってとっても素直でいい子である。同じ父からどうしてこうまで性格の違う子供が生まれるのか?


「きゅうきゅう(まあ、兄ちゃんはブレスが無ければただのウッカリな青いドラちゃんだから仕方ないのよね。しっかり者のアタシとは違うのよね)」

「それを言ったら終わりだよ、トニトルテ~」

 ウッカリものの青いドラちゃんとしっかりものの黄色いドラちゃん。

 何故だろう?何だか既視感(デジャヴ)を覚えるやり取りである。


「ピヨピヨ(まあ、ブレス合戦だとヒヨコが不利だったからな。良い判断だったな、試合でなければ)」

「きゅうきゅう(確かに。ヒヨコは飛べないから空中からのブレスが一番効果的なのよね)」

「もう少し戦いたかったのにガッカリなのだ」

 ショボンとするグラキエス君。


「きゅ~う?(そう言えば……ミーシャ見かけないのよね)」

「ピヨピヨ(そう言えば。ああ、マーサさんが試合だから見に行ったんじゃないか?シロもいないし)」

 ヒヨコ達はまったりと過ごしている中、後で知った事だが事件が起きていたらしい。




***




 マーサはミーシャが見つからないまま自分の番が回って来たので控室に戻る。

 そこには一枚のメモ書きが存在していた。


『娘を返してほしくば、マキシムと戦い負けろ。他の者に伝えたら殺す。マキシムに悟られても殺す。』


 それを見てマーサは凍り付くのだった。

 驚愕と恐怖を同時に感じつつも、即座に冷静になる。

 一体誰がこのような事をしたのか?

 マキシムに悟られたくないという事が解せない。


 だが、そんなものは考えなくても思い当たる存在はある。最近、マキシム・ベアードを代表した他の三勇士候補に近づいている存在がある。

 没落気味の自身の実家、リンクスター家だ。

 とはいえ、今は救出に行けるタイミングじゃない。まだ見つけてもいない。

 試合に出てマキシムに悟られぬよう負けろという事は、マキシムが強いという所を見せろという事だ。自分の格を落とせという事。試合を棄権した場合、ミーシャがどうなるか分かったものではない。

 そう言ってマキシムが黒幕の可能性もあるか?

 ………長年獣王国で不遇を囲っていた熊人族は純粋に不器用だ。だが、首が締まっている以上、リンクスターを頼ってもおかしくはない。

 いや、……もしもリンクスターならば、ミーシャ自身が最も邪魔なはずだ。ミーシャを殺してしまうのが一番手っ取り早いのだ。無事に返すとは書いていない。無事に返される保証もない。


「どうすれば……」


 するとコンコンとノックが鳴る。

「失礼します」

 ノックをして入ってきたのはガラハドだった。

「で、殿下。どうしてここに?あ」

 そこでマーサは驚いた様子でガラハドの手元を見る。

「なーなー」

 白い仔虎猫、シロを抱えていた。

「シロ。ミーシャは?」

「みゃうー」

 ジタバタしてミーシャはガラハドの手から逃れようとしていた。

「マーサさんがミーシャを探していたから、俺も探したんだけど、なんかこいつだけしか見当たらなくて」

「そ、そう」


 マーサはしばし考えてガラハドを見る。

 悪い子ではないがこんな問題を教える訳にはいかない。リンクスターと自分の対立を旧獣王家に教えたところで良い事なんて全くない。

 とはいえ獣王国の戦士として八百長に手を貸すのは死ぬほど屈辱でもある。何よりミーシャの身の危険が大きい。このぎりぎりになって紙が置かれているという事は試合前に奪回されないように考えたという事だ。恐らく近くにいる筈。


 もしかしたらシロが知っているかもしれない。とはいえ、……もう今にも始まる試合をボイコットしたらその時点でミーシャの命が危ない。


 マーサは苦渋の決断をして試合へと向かう事にする。

「くっ」

 書かれた紙を丸めて地面に叩きつけて試合会場へと向かう。



「どうしたんだろ?なあ?」

「みゃーみゃーみゃー」

 シロは反応せず、ただ手を放せと言わんばかりにシロはガラハドの手を跳ね除けようとする。

 ガラハドは諦めてシロを下ろしてあげて、マーサの捨てた紙をゴミ箱に入れようと手を伸ばす。


 そこで拾った紙だが、殺す、という文字が見える。

「ぶ、物騒だな。何だこれ?」


 ガラハドは紙を広げてみるととんでもない言葉が書いてあった。

 そこで焦ったような様子だったマーサの姿を思い出し、とんでもない事になっていると気付くのだった。


「くっ、こんな人質を取って脅迫をするような真似、獣王国の戦士がする事じゃねえ」

 ガラハドは怒りに震える。父の作った国の誇りを怪我すような真似をした何者かに激怒する。


 ガラハドはシロを放して、どこにミーシャを隠したのかを真剣に考える。

 こんな時、いつものように爺やがいてくれればと思うが、獣王国の対アルブム・ベルグスランドとの戦争に備えて、軍の取りまとめをしている。ここに来れる状況ではなかった。


「俺がどうにかしないと!」

 ガラハドは拳を握り気合を入れて、慌てて部屋の外へと飛び出すのだった。

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