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最凶ヒヨコ伝説 ~裏切られた勇者はヒヨコに生まれ変わったので鳥生を謳歌します~  作者:
第1部5章 帝国首都ローゼンシュタット 燃えよヒヨコ
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5章16話 帝国最強決定戦

今回はヒヨコも出るのに全部三人称です。

『さあ、やってきました武闘大会準々決勝です!午前は準々決勝の4試合、そして午後には準決勝が行われます。1試合目は親衛隊同士の戦いラカトシュ選手とラルフ選手との親衛隊同士の対決!続いて2試合目は今大会最年少7歳のグラキエス君と帝都で子供の人気者ピヨちゃんという色物対決!そして3試合目はマーサ選手とマキシム選手の獣王国対決!そして4試合目はクラーク選手とガラハド選手と同じく獣王国対決となっております。特筆すべきは獣王国側が強い事ですね。さすがは強者が王になる国と言えるでしょう』


 観客は大きく盛り上がり1試合目を待ち望む。


 ラルフとラカトシュは闘技場の上に立つ。

「こう、ラカトシュさんと戦うのってどのくらいぶりっすかね」

「5年前、お前が犯罪組織の手先として陛下を襲った時以来だろう。訓練は見ていたが手合わせをした覚えはないな」

「あれ?そうでしたっけ。いやー、陛下の下っ端になってから毎日のように皆にボコボコにされていたから覚えてないっすよ。てっきりラカトシュさんと手合わせしてたと思ってたっす。頭、叩かれすぎたっすかね?」

 ラルフは笑ってごまかすのだった。


「さて、ラルフよ。お前が陛下の部隊に入る際に一つ約束をしたと思うが、今日、見せられそうか?」

「いやー、どうっすかね。ラカトシュさんが爺さんになって衰えてからじゃダメっすか?」

「よろしくはないな」

「じゃあ、仕方ないっす。………今日、見せるっす」

 ラルフはスッと目を細め、陽気な笑顔から真剣な顔つきになり、腰を落として槍を構える。


『それでは、はじめ!』

 審判の声にラルフとラカトシュが同時に動く。

 観客にはその初動さえも見えなかった。ラカトシュとラルフが瞬間で交差し、激しい金属音が聞こえ、いつの間にか二人の位置がいれかわっている。

 ラカトシュは1回戦は無手で戦っていたし、最初に構えていた時は武器さえ持っていなかった。

 その筈だが、両手に刃引きされたナイフを持っていた。

「少しはやる様になったようだな」

「いやー、ホント、小便チビっちゃいそうっすよ。トラウマものっすからね、ラカトシュさんは」

 ラルフは軽口を聞きつつも集中して構えている。一切の隙もない構え。軽い調子のラルフとは思えない程、洗練された姿だった。

 ふとラカトシュが動く刹那、短剣がラルフの手元に飛んでくる。ラルフはそれを槍で弾けそうだが、敢えて紙一重でかわし、ラカトシュのいる方へと向かって槍を突き付ける。

 ラカトシュは縮地法でその場から消えて、ラルフの斜め後ろに回り込み攻撃を仕掛ける。

 だが、ラルフは槍の石突側で攻撃を捌く。

 ラカトシュは小回りの利く短剣を左手で持ち素早く攻撃を仕掛ける。

 しかし、ラルフは短剣の刃を一切当たることなく槍で捌き、捌き切れない攻撃は避ける。

 だが、防戦一方ではなく、ラルフは一瞬で縮地法を使いラカトシュの背後から攻撃を仕掛けるが、ラカトシュも同時に縮地法で飛び退りつつ、投げて地面に刺さったナイフを回収する。


「あの時の小僧が、よくぞここまで育ったものよ。陛下は果報者よ」

「そうっすか?鬼教官に泣かされた覚えしかないっすよ」

 ラルフは軽口を叩きつつも一切隙を見せない。


 だが、ラカトシュはこの態度こそが怖いとも思っていた。

 感情と戦いを切り離せる強い精神性は鍛えても育つものではない。

 ラカトシュの暗殺集団だったヴァードン族では多くの同胞が精神を鍛える過程で壊れて狂人になっていった。

 ラルフは子供の頃に犯罪者ギルドにて薬物で精神を壊されていた。

 陛下が拾ってから再起し、過去と薬物を乗り越え、強靭な精神力を身に着けた。ヴァードン族ならばとっくに廃人だった人間が再起したようなものだ。ありえない存在でもある。

 とはいえ、ラルフも陛下の下になったばかりの頃はバックフラッシュで暴れて厄介な部分もあった。

 それこそ自分たちのようなより高みの存在がいたからこそ矯正できたのだが…………もはや教える事は何もないと言えるレベルの達人に到達していた。

 濃密な下地により、ポーラより若いが精神的な未熟さは一切ない。


(俺の育てた戦士の中でも最高傑作と呼んで良い化け物に育ちおった。まあ、まだまだではあるが……)


 ラカトシュは目の前のちゃらんぽらんな青年が隙の一切ない怪物になった事を評価する。

 ヴァードン族で史上最高傑作と呼ばれ、かつてヘギャイヤ共和国の大貴族フォーク侯爵の切り札として仕えていたラカトシュでなければ既に抜かれていただろう。それほど高みに達していた。



 ラカトシュが消え、ラルフは即座に真後ろに槍を向けて攻撃を仕掛ける。先回りした攻撃にラカトシュは肝を冷やすが、腕で軽く攻撃をいなし、体を地面に這わす程低くかがみつつ短剣でラルフの足を狙う。

 ラルフはその攻撃を槍の石突を地面に叩きつけ攻撃の軌道をそらしつつ、そのまま槍を使った棒高跳びのように空を舞いラカトシュの背後を取る。

 だがラカトシュは縮地法で、逆にラルフの背面後方に回り込み両手で持った短剣を振り二振りの刃で二つの斬撃を飛ばす。

 ラルフはその二つの斬撃をかわさず槍を回転させていなす。


 互いに膠着した状況だが、あまりに凄まじい技術の応酬に観客は大きく盛り上がる。




 獣人のVIP観客席では呆気に取られていた。帝国は人手が多いから手強いなどという認識が大きいが獣人達もこの戦いを見て驚いていた。

 オラシオとウルフィード、それにオラシオに呼ばれてやってきていたモーガンの3人が試合を見ていた。

「あの黒い肌の爺さん、強すぎんだろ」

 オラシオがあまりの事に開いた口がふさがらないといった感じだ。

「だが、若い小僧も槍の扱いは極めてやがる。防御が硬すぎるぜ。あれは俺でも簡単には抜けねえ」

「帝国は質が弱いけど量があるって。冗談言うなって。俺達じゃなきゃ相手にもならんぞ」

 ウルフィードとオラシオは改めて帝国の底力を思い知る。

「モーガン、知ってたか?」

「いえ、彼らは皇帝陛下直属だったので、つい最近まではケンプフェルト辺境伯の衛兵でしたから。あのポーラという少女を含めシアン族もそこにいたらしいですよ」

「あのポーラという少女も獣王国にいれば獣王候補の上がるほどの腕だった」

 オラシオはきっぱりと言い切る。

「今代の陛下はちょっと変わり者らしくて」

「変わり者?」

「子供の頃から何でも拾ってくる事で困らせていたそうです。シアン族も今闘ってる二人も国や組織に捨てられたような存在で、陛下は拾ったらしいとヒューゲルは言ってましたね」

 モーガンはヒューゲルから聞いた事をそのまま口にしていた。

「………俺達が言う事ではないが、………優秀な人材を拾ってきたって事か?」

「まあ、多くは人格や素行、実力に問題が有った人間が多いそうですけど。ただ、それを超一流に育てている為、今代の陛下はそれこそ彼らにとっては大恩人。あの実力がそのまま肉の盾にさえなるらしいです」

 モーガンの言葉にオラシオは言葉を失い、ウルフィードも息をのむ。

「…………察してはいたし、お前の友達にも聞いてはいたが、皇帝ってのはちょっとした傑物だな。あれほどの手練に忠誠を誓わせるほどの者だとしたら、我らは戦おうとも思わん。あんなのが死兵となって立ち向かってきたらバカを見る」

「まあ、酒を飲みかわし裏表のない面白い男だとは思ったがウチの次期獣王候補達とでは器が違いすぎる。話にもならん」

 オラシオとウルフィードは弱くても多くの味方を作っているカリスマを持つ皇帝を評価する。


「モーガン殿が帝国と組むべきと言った理由も分かる気がするが」

「いえ、これは政治に長けた友の言葉です。元々、獣王国は味方が少なすぎると。ベルグスラントとアルブムに一方的に攻められているのだから、近隣諸国に味方を作って牽制してもらうべきだと。前皇帝は人の好い方だったから獣王国と結ぶにはちょっと武が足りないだろうが、そこは我が友ヒューゲルやエレオノーラ殿下が示せば問題ないと。今代の陛下は既にそれを持っているから、ヒューゲルやエレオノーラ殿下はそれこそ陛下やその部下たちの活躍を見ているだけで良いというだけになっている」

「そう言えば帝国最強はエレオノーラ殿だったと聞いていたが……」

「正直、私でも勝てない猛者です。剣を極めた人ですからね」

 モーガンは首を横に振る。

 モーガンの実力は三勇士になるに相応しい者なのは元三勇士も認めている。獣王国を出奔しても、獣王国が危機の時は駆け付けてくれるし、役職についてほしいと二人は思っていた。

 その男が考えずにあっさりと自分より強いと断じる程の剣士がエレオノーラ殿下だというのであれば帝国の武は自分が考えている以上に深いモノなのだと感じる。


「ヒューゲルはそれ以上と?」

「……正直に言えばヒューゲルは全く読めませんね。同じパーティを組んでいたものの、ほとんど全力を見たことがない。決闘では私でさえ勝てないエレオノーラ殿下に勝利しているが、戦って負けると思った事は無い。パーティのリーダーではあったが……」

「強いからリーダーだったという訳ではないのだな?」

「我々はダンジョンに挑む冒険者パーティでしたが、ダンジョンではそれぞれ役割をこなせなければ生き抜けないのです。強いだけではどうにもならないという限界を思い知って、彼らと出会いパーティに加入したのです。ヒューゲルとフェルナンドの言うとおりにすればどんな敵にも勝てるという自信が付き始めた頃、私は獣王の存在に疑問を持ち始めました。パーティという小集団でさえ仕事を正しく割り振り、正しく果たさねば生きていけないのに、国という巨大な集団を、ただ強いだけで率いて大丈夫なのかと」

「獣王国の在り方はやはり外から見ると歪なのかもしれないな…」

 ウルフィードは溜息を吐く。

「少なくとも、その後、獣王国に帰りましたが、獣王陛下は立派な国のリーダーでした。少なくとも力だけの方ではないからこそ、勇者との戦いで私は獣王陛下の下で戦ったのです」

「そうだったな」

 3人はかつての事を思い出す。

「お2人が悩んでいるのは次の獣王が腕力だけで、アルトリウス様ほどのリーダーがいないという事でしょうか?」

「よく分かってるな」

 オラシオは肩をすくめて苦笑する。その通りだったからだ。




***




 闘技場では手に汗握るような戦いが行われていた。

 激しさは感じられない。どちらかと言えば互いに綱渡りしているかのようなギリギリの戦いだ。だが、どちらも落ちたりしない。20分も続き、もはや観客も声さえ出せない程、緊迫していた。


 槍を構えるラルフだが息が弾んできている。対してラカトシュは全く息が乱れておらず、まるで涼しそうに両手に短剣をもって構えていた。

 フッとラカトシュは大観衆の前で消える。どこにいたのかも分からないほど自然に。

 ラルフは背後に槍を突きだすと、よくよく見ればラカトシュはラルフの背後にいた。


「びっくりしたー。ちょっと本気になりすぎじゃないっすか?」

「どうだったかの?」

「っていうかマジビビったんすけど、もしかしてオレ、生かされているだけっすか?修行の一環っすか?」

「そう思っているならばお前は私の予想を超えた成長をしているのだろう。さっきのは私の裏技だったのだがな」

「俺が見失った時に攻撃を仕掛ければ余裕で勝てたっすよね?」

「気配も殺気も何もかも消している状況故に攻撃への切り替えにどうしても時間が掛かる。とはいえ、今までこれで殺せなかったのはお前が二人目だ。他の900人ほどは何も分からずに死んだ」

「いや、殺すのはやめて欲しいっす」

「安心しろ。本番のつもりで殺しに行ってやる」


 ラカトシュは凄まじい殺気を放ち、観客さえも寒気がするほどの殺気に震える。だがそれに呼応するようにラルフの殺気もまたぶつかり合うように跳ねあがる。


 ギイイイッ


 すると二人の位置がまるで瞬間移動したかのように闘技場の異なる位置で刃をぶつけ合う。

 金属音が響き二人がものすごい速度で動き続けているのが分かる。


 だが、戦っている最中、突然、ラカトシュは消える。

 殺気も気配も消え、目に見えている筈なのに認識が出来ない。一瞬の隙間を縫ってラルフへ攻撃を仕掛ける。ラルフは槍では間に合わないと判断し、腰に差していた短剣を抜いて防御しつつ、逆に短剣で攻撃を仕掛ける。

 だがラルフはそれを軽くかわしながら大きく距離を取る。


「や、やっべー、反応できないっすよ、それ。ずるくないっすか?」

「そうやって距離を取ると逆にこちらの思うつぼなのだがな」

「そう言っても、近接でラカトシュさんに捕まったら即死確定じゃないっすか」

「そのために編み出した技であるからな。とはいえ」

 ラカトシュは話しながらも腰を落とすのを辞めて自分の腕の甲を見る。短剣が当たった痕が残っていた。


「審判よ。私の負けだ」

 ラカトシュが自ら負けを宣言する。

「え?」

 一番驚いているのはラルフであった。まったく勝った気がしてなかっただけに。むしろ終始押され気味だった。

「えーと、ラカトシュさん、どうしたっすか?」

「ふっ、成長したな」

 ラカトシュは戦闘時ではなく普段のニコニコした顔でラルフの肩を叩く。

「?」

 ラカトシュは右手の甲に傷がついているのを見せる。

「お前さんと初めて会った時、お前さんは即効性の毒ナイフを使っていた。もしもお前のそれが毒ナイフだったら、私とて右手抜きで戦う事になっただろう。それで勝てる程私も甘い相手ではないと判断した。勝利はお前に譲ろう」


『決着!勝者はラルフ選手!ラカトシュ選手、負傷の為、降参です!』

 その瞬間物凄い拍手と歓声が降り注ぐ。


「ラルフよ、お前が陛下の下に入る際、ワシを越えよと言ったが、ふむ、まあ、甘い所は多すぎて指摘するのも面倒くさいが、約束を十分に果たしたと言えるだろう」

「あ、ありがとうございます」

「これでフロレンツィア様との縁談も進められよう」

「ラカトシュさん…」

「まあ、それはそれとして………準決勝はどちらが上がってきてもお前とは相性が悪いからな。過去にないタイプの強敵と戦って痛い目を見るが良い。まあ、これも修行だ」

 ラカトシュはにこりと笑ってラルフの肩を叩く。

「って、なんすかそれ!めっちゃ修行のために身を引いてるじゃないっすか!」

 頭を抱えるラルフを置き去りにラカトシュは闘技場を去るのだった。




***




 そんな頃、マーサはミーシャを探していた。

「どこ行ったのかしら?すぐあちこち出歩くんだから。これじゃ心配で試合にも行けないじゃない」

「ピヨ?」

「あら、ピヨちゃん、ミーシャ知らない?」

「ピヨヨ?」

 ヒヨコは首を傾げる。マーサは腕を組み眉根にしわを寄せる。


「ん?あー、ヒヨコ!お前、こんなところで何してんだ?」

「ピヨ」

 するとそこにガラハド殿下までもがやってくる。

「ガラハド殿下」

「え、えーと、み、ミーシャの母親か?ど、どうしたのだ?」

 ガラハドはマーサに声を掛けられ慌てたように返事をする。

「ミーシャを見かけませんでしたか?」

「ミーシャか?いや、みていないぞ。さっきステラとかいう狐人族とドラゴンと一緒にいるのは見たが」

「ピヨピヨ」

「ピヨちゃんもそこにいたの?」

「ピヨ!」

 そう、と言わんばかりにマーサを差す。

「ミーシャは見なかった?」

「ピヨピヨ」

 ヒヨコは翼をパタつかせえ爪でひっかくような姿を見せる。

「シロがどうかした?」

「ピヨピヨ」

 するとヒヨコは首を横に振る。

「シロも見かけてないって事?」

「ピヨピヨ」

 ヒヨコは首を縦に振り、申し訳なさそうにする。

「良いのよ、別に。ごめんなさいね、これから試合なのに」

「ピヨヨ~」

 ヒヨコはトテトテと試合の入場口の方へと向かう。

「どこに行ったのかしら、本当に」

 マーサは困った様子で武闘大会の会場を歩いてミーシャを探していた。


 ヒヨコはトテトテと試合会場へと向かって行くのだった。

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