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最凶ヒヨコ伝説 ~裏切られた勇者はヒヨコに生まれ変わったので鳥生を謳歌します~  作者:
第1部5章 帝国首都ローゼンシュタット 燃えよヒヨコ
100/327

5章12話 武闘大会1回戦Ⅰ

※フリュガの名前がフリュグール(設定時の名前)になっていたので直します。

 武闘大会本選がやってきた。


 VIP達の集まる部屋では新皇帝アルトゥルに対する愚痴があふれていた。

「皇帝陛下は間違っておられる。従来親衛隊とは貴族最大の名誉職、陛下に信を置かれている貴族家であるという証拠の為に代々、高位貴族の子供を騎士として雇うのが信頼の証だというのに」

「全くです」

「先帝陛下にしっかりと教育してもらうように言ったのですが、院政はするつもりはないと聞き入れてはもらえなかった」

「全く何を考えているのやら。今代の皇帝陛下は伝統というものを分かっていない」

「クラウス殿の留任は分かるが多くの大臣を交代させている。我が子は折角大臣補佐官になったというのに転属させられた」

「私の家もそうです」

「あんな若造に宰相補佐をさせるなんて何を考えているんだか」

「このままでは我々の帝国が壊れてしまう」

 伯爵以上の貴族達は危機感を感じていた。

「エリアス殿下が皇帝になっていれば何の問題も無かったというのに」

「全くですな」

 貴族達は自分たちの与し易い皇帝を欲していた。

 エリアスは与し易過ぎたからこそ何の文句も無かったのだ。

 アルトゥルは皇帝の中でもかなり強い類だ。野心のない貴族ならば望むべく存在だろう。

 だが、それは彼らにとっては非常に邪魔なのである。その声を集めて気持ちを一つにさせようとしていた。

 互いに愚痴を言い合い、誰もが皇帝に翻意する気持ちがあるのだと共通認識にさせる。そういう手順を何度となく踏んでいた。

 これが大貴族であるスヴェン・フォン・リューネブルク公爵の上手いところであった。



***



「って、話をしてたらしい」

 と、アルトゥル自身に説明していたのはシュテファン・ヒューゲル男爵だった。

「切ってくるか?」

 立ち上がり剣の柄を掴むのはエレオノーラである。

 この場には皇帝アルトゥル、皇帝の妹エレオノーラ、その夫ヒューゲルの三人が皇帝用の部屋でくつろいでいた。

「お前の嫁は物騒だな」

「アンタの妹が物騒なんだ」

 腰の剣をカチャカチャ鳴らすエレオノーラを見て、皇帝とヒューゲルは同時に責任を擦り付ける。


「っていうかどういう情報網してんだよ、ヒューゲル」

「ほら、貴族の知り合いもいますから。ちなみに『あんな若造に宰相補佐をさせるなんて何を考えているんだか』って台詞が私の仕込ませたスパイです」

「お前、サラッと自分を失脚させて立場から逃げようとか考えてねーか」

「嫌だなぁ。そんな事は思ってませんよ?」

 アルトゥルもエレオノーラもヒューゲルの人格をよく知っているので、あわよくばという狙いを入れているに違いないと確信している。


 こいつはチャンスがあれば自分の責任に無いように重い立場から逃げる奴だと。

 ヒューゲルは実の所、エレオノーラよりもアルトゥルの方が付き合いが長い。冒険者になって黄玉級の試験のためにケンプフェルト領来て仕事をした際にアルトゥルと出会っていたからだ。

 そこでヒューゲルは1月ほどであるがアルトゥルの下で様々な仕事をして大きい功績を上げていた。長らく進まなかったプロジェクトをいくつか軌道に乗せており、その頭脳をアルトゥルは大きく買っていたのだ。

 実際、アルトゥルはどんな冒険者でも手に入れられない破格の報酬と待遇を用意して手元に置こうとしたが、ヒューゲルはそれを蹴って師の待つヘレントルへと戻り、それから1年で冒険者最大級の栄誉、ダンジョン攻略を成し遂げたのだった。

 ヒューゲルもまたアルトゥルが何故手元に親衛隊として大貴族の嫡子などを置かないか重々知っていた。ヒューゲルは仕事の都合でアルトゥルの配下に負けた事もあるので、ヒューゲルはアルトゥルの配下が生半可な実力者じゃない事を嫌という程味わっている。そして彼らが代わりの利かない実力者だという事も。


「でも、どうするんですか、陛下」

「どうもせんよ」

「兄上は甘くないか?」

 ジロリとエレオノーラは不機嫌そうに兄を睨む。

「あのなぁ。世の中ってのは大半が自分の利を求めるものだ。帝国はもうよほど発展しなければ大きい利益なんて転がってこねえよ。だから優秀な人材、優秀な技術を集めているんじゃねえか。行き詰っているから貴族達も既得権益の確保に焦る。エリアスもIRAの既得権益を狙う馬鹿に乗せられただけだ。多少、傲慢な所はあったが根は悪い奴じゃなかったのだがな」

「そういう毒虫を野放しにしているから」

「そういう毒虫を機能するようにするのが俺たちの仕事だ」

「!」

 エレオノーラは兄の言葉に唖然とする。


「良いか。アイツらだって別に根が悪党って訳じゃねえ。偉い奴が野心やら持ってるかもしれないけどな。伯爵やら侯爵やらは自分の程度は知ってるはずだぜ。もうちょっといい職が欲しい、良い年金が欲しい。それをくれる人についていくって話だ。そいつらの首を飛ばして何になる」

「少なくとも毒虫共が消えるだろう?」

「新しく参入してくる奴らは毒虫でない可能性がないのか?仕事もなにも引継ぎせず、切れれば、また1からやり直しだ。で、ちゃんとできるようになったころ、彼らが野心を持って毒虫にならないと言えるのか?」

「そ、それは……」

 アルトゥルの言葉にエレオノーラは反論できない。


「お前は剣士として超一流だ。才能もある。教えてきた人間も一流だ。だがな、人は誰もが出来る人間ではないし、教育者が自分に合うかどうかは分からないし、努力し続ける事は非常に難しく、潔白でい続ける事も難しい。俺達は皇族という立場があり、それに報う為に努力をしてきた積りだ。だが、ヴィンやエリアスなんかそういうのから逃げて来ただろ。誰もが立場があっても正しく生きるのだって難しい」

「そりゃ、そうですけど」

「大体な、権力ってのは腐るものだ。貴族という特権階級ならなおさらだ。まずそういうものだって理解しろ」

 アルトゥルは最初から誰も信用していないとも取れる言葉を吐く。

「だからとて腐った連中をのさばらせるのはどうなのでしょうか?」

「まず、出来るだけ腐った連中は使わないように心がけるのは当然だ。だが、どうやったって無理が出る。腐った行動が出来ないように法律を作っても、法律の隙間を突いて逃げるのは当然だ。つまるところ綺麗な人間だけで物事は回せないって事だ。大体、綺麗な人間だけじゃ上手くいかない部分もあるだろう。それこそ隙をついて逃げるような奴の方がよほど狡賢い。そういう奴を上手く使ってやるのが皇帝ってものだろう」

「とはいえ、兄上。皇帝に翻意を持つ連中を野放しにするのはどうなんだ?」

「決定的な状況になる前に抑え込み、脅すなり降格させるなりいかようにも方法はある。そういう奴を良いように利用できなくて何が皇帝か」

 アルトゥルはクハハハハと笑う。


「アルトゥル陛下が指摘したいのはこういう事だ。人格と技能は別だという事。使える部分は使えばいい。人格がクソで自分に翻意を持っていても、しっかり成すべき仕事をしてくれるなら問題ない。それが清濁併せ呑むって事だと言いたいわけさ」

「お前の夫は良い事を言うな。そういう事だ」

「むう……、納得がいかんな」

 エレオノーラは真面目が故に腕を組んで口をへの字に曲げる。

「まあ、だから、人格よりも実力を見て仕事を割り振っているせいか貴族達の声がうるさいんだけどな」

「貴族は血だけでなれるから、実力も人格も何もない連中があぶれているからなぁ。煮ても焼いても食えないのをどうするかが一番の課題だ」

「ホントそれな」

 アルトゥルとヒューゲルはここぞとばかりにこき下ろしながらゲラゲラ笑うのだった。

 エレオノーラは兄と意気投合する夫に引きつらせていた。そう言えば、この二人、妙に仲が良かったっけ、と昔を思い出しながら。




***




「カールよ。負けるでないぞ!」

「そうよ、皇帝に一泡吹かせてやりなさい」

 出場する場所で父であるアルブレヒト伯爵に激励を受けるのは次男でありこの国一番の剣士と言われているカール・フォン・アルブレヒトその人である。2年前、4年前の武闘大会で優勝している帝国きっての武人と謳われている戦士である。

「無論、そのつもりです」

 この国一番の剣士は必ず皇帝直属の親衛隊に入るという習わしがあったが、現皇帝が就任した際に帝国第三騎士団へと転属させられた。

 現皇帝はケンプフェルトにいた頃に自身の親衛隊を持っていた為、親衛隊を解体したのだ。

 アルブレヒト家は代々軍閥で大きい権力を持ち、実力もあるカールの経歴にケチが付いた事、更には自分の家の子供達も多く重職から外された事にアルブレヒト家は腹を立てていた。

 ここで実力を示して皇帝を見返したいとカール自身も家の気持ちとは別に持っていた。


 両親や家族の応援を聞き武闘場へと向かう。


『さあ、帝国筆頭剣士!カール・フォン・アルブレヒトの登場です!背丈ほどもある大剣を軽々と振り回す重戦士です!』

 その放送に多くの観客が盛り上がる。

 出てきたのは髪を短く刈り上げている大男。アルブレヒト家の次男でもある強力な剣士だった。

『対するは皇帝直属親衛隊ラルフ・フォン・ゼーバッハです!こちらは槍使いですね!細身の軽戦士といった所でしょうか?経歴不明で辺境伯領にて陛下に拾われた戦士だそうです』

 美しい顔立ちで、未だ10代程の若い槍使いが現れる。ゼーバッハ家はケンプフェルトの配下の血筋であるが、養子という事もあり皇帝直属でも身元が定かでないという点においては、怪しい配下筆頭とも言うべき存在であった。

『皇帝陛下。ラルフ選手ですがどのような戦士なのでしょうか?』

『見ての通り槍使いだ。以前、シュバルツシュタットのスラム解体の際に保護した孤児でな。ケンプフェルトの武官系貴族ゼーバッハ家の養子に入ったって訳だ。今のゼーバッハは完全に技術者だから武官になれる養子を欲していたんだそうだ。ま、ラルフは元平民の貴族って訳だ』

『な、なるほど。実力は保証できるという事ですね』

『そうだな。ギュンター、ラトカシュ、ポーラ、ラルフの4人は差し詰め俺直属の四天王って所だな。ギュンターは立場上、体より頭を使う方が多いから他の三人には期待してくれ』

『皇帝陛下からはこのようなお言葉を頂きました!さあ、ラルフ・フォン・ゼーバッハは果たして前回優勝者にどこまで立ち向かえるのでしょうか!?』


 槍を両手に持って体を半身にしてスタンダードに構えるラルフに対して、大剣を両手で持ち青眼に構え、盾の代わりに大きなバックラーを付けて闘技場に立つカール。


 はじめの声と共に二人が動き出す。

「はあああああああっ」

 カールがまず前に出る。強力な一撃をラルフは槍で受け流しつつ斜め後ろに下がる。

 カールは凄まじい猛攻を仕掛けるがラルフは闘技場で円を描くように動き、カールの攻撃を受け流しつつ場外となる位置と一定の距離を取り続けていた。


 さすがに優勝候補とも言うべき相手にラルフは苦戦しているように見える。

 ラルフが大きく距離を取って槍を回しながら間合いを測る。


「槍の方が間合いで有利だというのは、本物の戦士にとっては関係ないという事を見せてやろう!」

 カールは剣を構えて、明らかに届かない場所にいるラルフへその剣を振るう。

 刹那、地を這い強力な斬撃が飛ぶ。張られていた闘技場周りの結界にぶつかり光が跳ねる。それに観客は悲鳴交じりの歓声が響き渡る。

 一流の剣士は斬撃を飛ばす。魔力のあるこの世界だからこそできる事でもあった。




 控室から見ていたヒヨコは不満そうにしていた。

「ピヨピヨ(なんであの攻撃がよくてブレスがダメなのだ!)」

「そうだそうだ。咆哮砲(ハウリングロア)くらい良いじゃないか。ケチー」

「ピヨピヨ(そうだ、もっと言ってやれ)」

 ヒヨコはグラキエスと名乗る青髪の竜人族(ドラゴニュート)の少年と一緒に抗議していた。

 が、その声に耳を貸す人はいなかった。




「さあ、どんどん行くぞ!」

 カールは剣を構えてさらに嵐のように次々と斬撃を飛ばして来る。

 だが、ラルフは槍をグルグルと回しつつ飛ぶ斬撃を全て受け流しながら、一気に前へと踏み込む。

「なっ!?」

「チェックメイトっす」

 ラルフはカールの大剣を踏みつけ、槍をカールの首につきつける。

 一瞬の決着にカールさえも絶句する。槍をまるで手足のように扱い、嵐のように飛び交う斬撃を全て受け流した技巧は恐ろしいものだった。


『決着!な、何と優勝候補筆頭のカール・フォン・アルブレヒト選手が一方的に攻めていると思っていた中であっさりと逆転!勝者はラルフ・フォン・ゼーバッハ選手です!』

 放送と共に会場は大きく盛り上がる。

 なまじラルフが全くの無名の騎士だったからこそである。皇帝陛下直属という事もあり、とんでもない逸材を新皇帝が隠し持っていたとして、大きく盛り上がっていた。


『さあ、二回戦は…』




***




 二回戦が始まる中、選手の大観覧席にステちゃんがやってくる。

「いたいた、ヒヨコ。今日は午前最後の試合だって?」

 ステちゃんはトルテを連れてヒヨコの方へとやってくる。

「ピヨピヨ(ヒヨコの雄姿をとくとご覧あれ)」

「対戦相手は……パウル・フィリップスさん?冒険者…。どこかで聞いたような?」

 ステちゃんはコテンと首を傾げる。

「きゅうきゅう(言われてみればどこかで聞いた事が有るのよね)」

「ピヨッ!(ヒヨコは覚えているぞ!)」

「え?知り合い?」

「ピヨピヨピヨピヨ(フルシュドルフから帝都に行く途中、お馬に乗って護衛役をしていた人だ。つまり腹黒補佐さんが雇っていた冒険者さんだ)」

「あ、あー。そう言えばそんな名前だったかも。……へー……そ、そんなに強い人だったんだ」

 移動中はトルテが活躍していて、彼は活躍の場がほとんどなかったので印象がうすい。

「ピヨピヨ(さえない冒険者上がりのオッサンだと思っていたのだろう、酷いステちゃんだ)」

「べ、別にそんな事は思ってないわよ?」

「ピヨッ(残念、ヒヨコはそういう認識だった!)」

「お前が一番失礼だ!」

 ステちゃんはハリセンを出してバシッとヒヨコの頭を引っ叩く。


「ピヨピヨ(ところでこの竜人族(ドラゴニュート)の少年はトルテの知り合いか?)」

 ヒヨコはと近くにいる青髪のドラゴニュートの少年を差す。

「きゅ~う?」

 トルテは不思議そうに腕を組んで首を傾げる。まったく覚えが無さそうだ。

「おや、おー、トニトルテ。ちょっと大きくなった?」

 青髪の少年はトルテに気付いたようで歩いて近寄ってくる。

「きゅう?(誰なのよね?アタシにトカゲのしっぽが付いてる知り合いはいないのよね)」

「トニトルテよ、この兄の顔を忘れたか」

「きゅうきゅう(アタシの兄ちゃんは出来の悪い青い兄のドラちゃんと評判なのよね。お前のような竜人族(ドラゴニュート)とは違うのよね。確かに似た匂いはするけど)」

 クンカクンカと匂いを嗅ぐトニトルテ。

「じゃあ、人化の法LV1に変身!」

 ボヤンと少年は変身すると突然幼竜の姿になる。


「きゅうきゅう(お、おおっ!兄ちゃんなのよね!)」

『成竜になって人化の法LV8まで覚えたから、母さんに外出許可を貰ったのだ!勝手に家から飛び出した幼竜とは違うのだ』

「きゅう~(いや、勝手に家を飛び出して、まんまと悪い奴に捕えられた初代様は兄ちゃんなのよね)」

 トルテはジト目で兄を見る。

「ピヨピヨ(何だ、トルテの兄ちゃんか)」

「きゅうきゅう(でも何で兄ちゃんがここにいるのよね?)」

 トルテの兄ちゃん、グラキエスといったか、ドラゴンの姿から青髪の竜人(ドラゴニュート)に戻り、話を続ける。

「勿論、何か楽しそうな祭りがあるらしいから見に来たのだ。ついでにトニトルテに会えたらいいなとも思ったのだ」

「きゅうきゅう(そこはトニトルテに会いに来てついでに祭りに参加するというべきなのよね。デリカシーとかいろいろ欠けているから、青いドラちゃんはダメな子と言われるのよね。妹の黄色い利発なドラちゃんと噂されるトニトルテを見習うと良いのよね)」

「ピヨピヨ(そんな黄色い利発なドラちゃんも帝国に来て二度も捕縛されているダメな子ですが)」

「きゅうきゅう(余計な事は言わなくていいのよね)」

「トニトルテはいつも見栄ばっかり張ってフリュガお母さんに怒られてるのだ」

「きゅっ…きゅうきゅう(ア、アタシは別に母ちゃんを恐れてはいないのよね)」

「大体、トニトルテは家庭内序列が一番低い父ちゃん以外大きい口を叩けないのだ」


「ピヨピヨ(イグッちゃん。家に居場所がないのか?)」

 ヒヨコは友人の家庭内序列の低さに涙した。

 ヒヨコはイグッちゃんの味方だぞ!頑張れ!


「きゅうきゅう(でも兄ちゃんとヒヨコじゃどっちもアタシの下っ端だから面白くもないのよね。勝ち上がっても消化試合になるのよね)」

「ほらな、直にトニトルテは意地を張るのだ。兄妹喧嘩で一度も勝った事ないくせに」

「きゅうきゅう(大会の前に兄ちゃんを大会に出れない体にしてやっても良いのよね)」

「大会よりも面白そうだから乗ってあげても良いのだ。でも、残念ながらお母さんたちにトニトルテの様子を見てくる事と、トニトルテと喧嘩をしない事を約束してきたから乗ってあげないのだ。お兄ちゃんのやさしさと心の広さに感謝するが良いのだ」

「きゅう~?(その本心は?)」

「帰った時にお母さんたちに怒られるのが一番怖いのだ」

「ピヨピヨ(イグッちゃんの家庭はお母さんが一番強いのか?)」

 ヒヨコは首をコテンと傾げる。

「きゅうきゅう(ウチの母ちゃんはおっかないけど、兄ちゃんの母ちゃんは触るな禁止なのよね)」

「ピヨピヨ(触るとどうなるのだ?)」

「きゅうきゅう(凍るのよね、物理的に。恐ろしいのよね。頑張れるのは父ちゃん位なのよね。アタシも幼い頃、凍らされたのよね)」


 ………


 トルテは三歳児だった筈だが、幼い頃って………いつ?


 ヒヨコとステちゃんは返答に窮して凍り付いてしまう。

 触らなくてもお前の母ちゃんの話によってヒヨコ達は凍り付いたぞ!?


『1回戦2試合目はラカトシュ選手の勝利です。続いて第3試合に入りますので、エドガル・フォン・ブラント選手、グラキエス選手、出場集合場所にお集まりください』

 放送が響き渡る。おや、どうやらもう試合は終わったようだ。

 同時にグラキエス君は立ち上がる。

「僕の出番みたいなのだ」

「きゅうきゅう(万が一にも優勝したらアタシに高級ジャーキー1年分をプレゼントするのよね!)」

「トニトルテは相変わらずがめついのだ」

 溜息を吐きながらグラキエス君は闘技場の方へ向かうのだった。




***




『さあ、帝国第三騎士団所属エドガル・フォン・ブラント選手の入場です。そして相手はまさかのお子様グラキエス君7歳です!宰相補佐ヒューゲル騎士爵の推薦で出場しています。このグラキエス君は拳一つで勝ってきたという事ですがどのように戦うのか見ものです』


 互いに闘技場に立ち互いに相対する。


「君のような子供を叩きのめすのは申し訳ないが、私はこの国の騎士団の身でね。負けるのは風聞が悪い。悪いが勝たしてもらう」

「まあ、お祭りに参加したかっただけだから別にトニトルテじゃあるまい、勝敗はどうでも良いのだ。折角、人化の法で人型になれたからどの程度動けるか試したかっただけなのだ。さあ、かかってくると良いのだ」


『それでは…はじめ!』

「はあああああああっ!」

 エドガルは剣を握り、八双の構えでグラキエス君に襲い掛かる。

 肩口へ狙って一閃。

 だが、グラキエス君は腕でその攻撃を防御する。


 カキーン…………


「……………はい?」

 会場がありえない防御音を聞いて全員の目が丸くなる。

 いやいや、ドラゴンって叩くとそういう音するねん。聖剣で叩かれたトルテがそんな音鳴ってたからな。ヒヨコは知っている。


「よっこいしょ」


 ドゴンッ


 パンチ一閃、エドガル君は吹き飛んで結界の壁にぶつかって地面に倒れるのだった。


『あ、圧勝!強い!何だこの強さは!グラキエス君!第三騎士団の星、エドガル選手を瞬殺した~っ!』


「ピヨピヨ(改めて思ったんだが、どうやって竜族に勝てば良いんだ?イグッちゃんの時は偶々弱点にグサッと刺さって悶絶させたが、ヒヨコの攻撃力が刺さるのだろうか?)」

「反則ね、あれ。カキーンって何よ、カキーンて。人体に当たった音じゃないよね」

「きゅうきゅう(ふはははは、ついにヒヨコの年貢の納め時なのよね。兄ちゃんの力をとくと見るが良いのよね。竜族のプリンスの力を見せてやる時が来たのよね!)」

 トルテはきゅうきゅうとここぞとばかりにヒヨコを嘲笑う。


「ピヨピヨ(兄が強かったからと途端に調子に乗りやがって。ヒヨコの王子様として、名高いピヨちゃんの力を見せてやる。何せ次は町長さんの元雇われ護衛。明らかに噛ませ犬なのだから!)」

 ステちゃんは目を細めてヒヨコを見る。

「いや、ヒヨコも大概酷い奴だよね。一緒にヘレントルのダンジョンに行った仲でしょうに」


 さあ、ヒヨコの活躍を乞うご期待。


 次回、『ヒヨコ無双開幕!』ローゼンブルクの闘技場でピヨと握手!


※この次回予告はヒヨコの独白であり、そんな予定は一切ありません。

【ドラゴン成長表】

 幼竜:人間に乗る程度のサイズ(体長20~100程度/寿命50歳程度)

    例:トニトルテ 体長約60→80センチ

 成竜:人間を1~3人乗せるようなサイズ(体長300~800程度/寿命200歳程度)

    例:グラキエス 体長約400センチ

 老竜:子供を成せるようになりかなり大きい(体長1500~2000程度/寿命500歳程度)

    例フリュガ 体長約1800センチ

 古竜:最終神化系(体長3000~6000程度/寿命不明)

    例:イグニス 体長約5200センチ

    例:ニクス  約3100センチ

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