第三話 (criminal type)ジョンが生きていけないのはどう考えてもお前らが悪い! 4
ジョンは冒険者の互助組織……「ギルド」アイリーズ支部……の門を叩いた。
入口から入って正面には、金髪を短めに切り揃え、花飾りをあしらったヘアバンドで前髪を後ろへまとめた女がいる。
「見かけない方ですね、ご依頼ですか? ご依頼なら、右へお進みください」
「ここが冒険者のギルド、か? 冒険者について教えてほしいのだが」
ジョンは素直に申し出る。
「えーと……入会希望、ということでいいですか? それであれば、担当者を呼びますが」
「ああ、お願いいたす」
ギルドに入会……冒険者として登録すれば、すぐにでも活動できるとアリダーから聞いていた。現時点で特別判断に迷うことはないだろう、ジョンはそう考え、紹介を受ける。
「……簡単に説明すると、こんな所です。このまま、登録なさいますか?」
落ち着いた雰囲気を感じさせる熟年の女から説明を受けたジョンは、早速登録手続きを始めた。
「名前はジョン……ジョン・アクィテイン。戦闘力には自信がある」
「はい、ジョン・アキテインさんね。セールスポイントは戦闘力……困りものねぇ」
私の力を疑うのか? これでも、私は……
「疑ってるわけではないの、確かにあなたには何かを……感じるのだけれど」
ジョンの不服そうな様子を見てだろうか、女は丁寧に答える。
「私が現役の頃くらい……からかしらね、腕自慢向けの依頼、仕事ってあまり無いのよ。ある程度の経験や実績、信用があれば危険地域への案内、護衛……そういう依頼もあるのだけれど」
実績や信用……今のジョンには無い。
「なんとか別の依頼をこなして、階位を上げていくしかないわ。がんばってね」
「丁寧なご説明、痛み入る」
登録を終えたジョンは、出入口近くの正面受付へ戻った。
「ジョンさん、とりあえずコレ」
ジョンは受付嬢から手のひらサイズの木板を受け取った。そこには紋様とジョンの名が焼き印され、そして「見習い」の文字のみが墨で書かれていた。
「階位が「什長」になるまでは、この木板を使うからなるべく汚さないようにね」
「わかった、早速依頼を紹介してもらえないか」
「右の部屋の壁に、依頼の概要が書き出してあるから見てきて。「階位不問」って囲みの中から選んでね」
ジョンは言われた通り、隣の部屋で依頼の概要を確認するが……「階位不問」の依頼五件は、一件の人探しと、四件の採集依頼であった。
人探しは伝手のない私には難しいだろう……そう考えたジョンは採集依頼について、受付嬢に詳細をたずねてみる。いずれも、郊外での採集、数日あれば終わらせられるものだという。
「四件のうちで、最も簡単なものと最も必要日数の少ないものはどれだろうか?」
ただでさえ、採集となるとジョンにはあまり自信が湧かない。先の赤竜狩りの失敗がジョンの頭をよぎる。それでも人探しよりは、マシだろうか。
「この「オマ幹とオマ穀の採取」ね。見本の絵もあるし、がんばれば二日で帰って来られるってさ」
二日と聞いて、ジョンの腹が鳴った。
外では日が傾き始めたようだ、昨日の深夜から何も食べていないのだから腹が減るのも当然か。
徒歩で現地へ向かい、作業をして二日……空腹に耐えられるだろうか? 難しいように思える……
ジョンはふと思いつき、たずねてみる。
「報酬の前借りとか、出来ないものか……?」
「ごめん無理、前金とか報酬の前借りは「伍長」からって規則なのよ。ギルドへの貢献と信用が必要ってわけ」
あっさりと断られた。
「けどこの依頼なら、道中の森で果物採ったり獣を狩ったりできるって聞いたよ」
「そうなのか!? ならば!」
ジョンは身を乗り出す。
ギルドでの手続きの後、ジョンは採集用のカバンを受け取り早々にギルドを出た。
時間が惜しい、既に日が落ちたが少しでも早く……依頼完遂が先か、それとも餓死が先か。
ジョンは簡単な依頼には不釣り合いな悲壮感を抱きながら町を出ていく。
城門の外を歩くジョンは、辺りを吹く風の音に混じって……どこからともなく聞こえる女の笑い声のような音を感じていた。