第三話 (criminal type)ジョンが生きていけないのはどう考えてもお前らが悪い! 3
「宜しく頼みましたよ」
女はジョンを座らせてからテーブルを離れ、立ち去ろうとする。
「……食べてよいものだろうか?」
「いいんじゃねえか? あんたが食えば、多分丸く収まる」
ジョンは焼かれた豚肉とスープ、麦のパン? らしき料理を前に生唾を飲み……込んだところで視線を感じ、出入口の側へ振り向いてみる。
すると黒髪の女は扉の前でこちらを向き、目を剥いてジョンの辺りを睨んでいる。その表情は美しくも、恐ろしい。
「お、教えてほしい。貴女はなぜ私に施しをくださるのか」
ジョンは女のまっすぐな視線に耐えかねて質問してみる。
しかし女は何も答えない。あごを引き、大きな胸の下で腕を組み、ただジョンのいる辺りを見つめている。
ジョンは小さくため息をついて料理に向き直し、まずは肉を取ろうと……その前にもう一度、そうっと女の動きを窺ってみた。
しかし女は同じ姿勢で……あごを引き、小さな紅い唇を固く結び、ただジョンのいる辺りを見つめている。
ジョンはまた小さくため息をついて料理に正対し、まずは肉にかじりつく……
うまい、うますぎる!!
ジョンの目からは涙、口からは涎……万の、いや十万の喜びがあふれ出す。
ジョンは急いでそれらを呑み込み、せめて礼を言いたいと女のいた出入口に向き直す。
「この恩は! 生涯、わ……」
その方向には誰もいない。閉じられた扉があるのみだった。
しかし、ジョンの意識にどこからか舌打ちのような音が届いてくる………………
「恩着せがましいことも言わなきゃ礼の一つも言わせねえ、胸もデカいが器もデカい姉ちゃんだったな」
料理を平らげたジョンは、片づけを手伝いながらアリダーと雑談を交わす。
「本当に、知り合いじゃないのか? 可愛かったし紹介してほしいくらいなんだけど」
「どこかで見かけた気はするが、話したこともないはずだ」
ジョンはそう感じていた。
この世界に来てから目にした限りでは、黒髪の人間はそれほど多くない。少し癖のありそうな黒髪を長く伸ばした、豊満な女……
まさに、「どこかでチラッと見かけたような気がする程度」それがジョンの認識だった。
「ところで」
「賭けの話なら、まぁ引き分けってとこだろ?」
アリダーは青い目を逸らす。
「いやその話はいい。それより、冒険者、について知っていれば教えてくれないか。私にもできる稼業だろうか?」
ジョンは何となく、それが光明かもしれないと考えていた。
「あんた冒険者じゃないのか? ずいぶん腕に自信があるって態度だったが……」
そしてその予測は、当たりそうだった。
アリダーから、この酒場の近くに冒険者のギルド……冒険者たちの互助組織の支部があるから、そこで詳しく話を聞けばいいと教わった。
ジョンは酒場の片隅で一夜を明かさせてもらい、翌朝ギルドへ向かうことにした。
「世話になった、ありがとう」
「いいってことよ、じゃあなジョン」
屈託のない笑顔を向けながら手を振るアリダーに頭を下げ、ジョンは教えられた道順に従い冒険者のギルドへ向かった。
なおアリダーの教えた道順が間違っていたのかジョンは道に迷い、「酒場の近くにある」ギルドらしき建物に辿り着いたのは昼すぎであった。