第三話 (criminal type)ジョンが生きていけないのはどう考えてもお前らが悪い! 1
ジョンは冷たい風の吹く通りをあてもなく歩く……いや、冷たく感じるのは風だけではない。薄暮れの空色、東に浮かぶ上弦の月光、行き交う人々の足音、喧騒、息遣い……いずれも、今のジョンにとってはひどく冷たい。
それらの中にジョンは、微かに……女の笑い声のような音を感じていた。感じてはいたが、それは心身の底冷えと空腹感に比べれば些細な問題だった。
ジョンは時間の経つごとに賑やかさを増す大通りをさまよい続けていた……するとある時ジョンの鼻に、抗いがたい香ばしさを伴った脂の匂いが飛び込んできた。それは、ジョンの右手に見える脇道から大通りへと吹き込んできている。
よく肥えた豚の肉でも焼いているのだろうか。王宮での食事が、懐かしい……
目頭が熱い。
過去の記憶に恋しさを感じてか、ジョンはその芳香に引き寄せられていった。金も持たないのに。
しばらく歩くと、脇道を囲う建物の一角から笑い声が聞こえてきた。声のした辺りから少し先には樽が置いてあり、そこに近付いてみると樽の横っ面にジョッキの絵が描かれていた。ここは酒場だろうか?
どうやらここから、ジョンの鼻を惑わす芳香が届いていたらしい。そしてそれは入口らしき扉の辺りから強烈に匂い、ジョンの腹をキュゥっと刺激した。
ああ、肉……いやなんでもいい、何か食いたい……ッ!
悶えるジョンの鼻に、別の芳香が流れ込んできた。
この香り……エール、かッ……
ジョンの腹が、その猛烈な欲求を締め付けるような、ズズっと吸い込んで縮めてくるような痛みの形で伝えてくる。
食糧と酒の存在を実感したジョンの限界は近い。
考えろ、私はどうすれば……この飢えを満たせるか?
ジョンが空腹下、エネルギー不足の頭をなんとかこねくり回していたとき……騒ぎ声が聞こえてきた!
「んだテメぇ!?」
「文句あんのかゴラ!?」
怒声に、ジョンはひらめいた。
そうか、酒場、酒の席といえば……もめ事がつきものだ!
もめ事から店を守り、警護して見返りに金をもらえないだろうか? 今の私なら、丸腰でも酔った客になど負けはしない。
それに酒場でなくても、他の商人だって警護を必要としているかもしれない……!
そうだ、用心棒!
ジョンは空腹感を忘れ、意気揚々と酒場へ入っていく。
しかし。
「大丈夫か!?」
「いらっしゃい、ご注文は?」
「え?」
店内の扉沿いにいた給仕らしき男は、平然とした態度でジョンに声をかけてきた。店内も、特に混乱した様子はない。
「いや、外で叫び声が聞こえて……もめ事なら、私が助けたいと思ってだな」
「ああ、あいつらか? もう飲んで仲直りしたよ。ほれあそこ見てみ」
手振りに従って視線を移すと、大きな男二人が肩を組んで笑い合っている。
「そうか……しかし酒の席に騒ぎはつきものだろう? 用心棒になってやるぞ」
「はあ……そうか、あんたこの町は初めてだな? よそは知らねえけど、この町じゃそんな騒ぎ、もめ事なんてそうそう起こらないよ」
少し落胆してしまったことを自覚し恥じながら、ジョンは再度用心棒を売り込んでみる。しかし給仕らしき男は、そんな需要はないと言う。
「そ、そうなのか?」
確かにジョンはこれまで、女侯爵フレーゼの命を受けて郊外へ赴く以外はほとんど城内で過ごしていたから、城下町の様子はよく知らないのだが。
「何なら試してみるかい?」
男が少しいたずらっぽい表情を見せた。
「今日一日、俺の見習いってことで店に置いてやる。で、もめ事を収めてくれるたびに、毎回あんたの活躍に応じた代金を払う……もし店じまいまで何も起こらなかったら、あんたが俺に金を払う」
「どうだ、やってみるかい?」
criminal type:罪人相(犯罪者ヅラ、的な)
Criminal type:?