第二話 (busted)ジョンは流浪人、また……流れるでござる 2
「……それはつまり、私を免官するということでしょうか?」
「免官? 生ぬるい、領地からの放逐……追放刑が妥当だろうて」
ジョンの問いに対し、女侯爵ではなく侍従長が口を開いた。
「そうだ、そうだ!」
「お前なんか、追放刑で当たり前だ!」
「欠地王のくせに!」
「ヘロド様の痛みに比べたら、追放でもぬるいわ!」
侍従長の声が堰を切ったかのように、他の侍従たち……赤い短髪の男、茶色い髪を三つ編みにした女、黒髪黒目の豊満な女、金髪を左右にまとめた細身の女……あちらこちらからジョンへ、次々と罵声が浴びせられる。
それらは、一部に不可解な単語を含んでいたが……ジョンには反論の余地もない。
「コラコラ、静かになさい……」
女侯爵は彼らをなだめる。
「ジョンにだって、悪気があったわけじゃないでしょう。この城から大人しく立ち去り二度と戻らぬなら、許してあげましょう」
「良いのですか? こやつが壊した物品、傷付けた騎士たち……弁済させずとも?」
「構いません、臣下を責める前例を作りたくありませんからね。それに、取り立てたワタシにも非があります」
女侯爵は懸念を示した侍従長を諭す。ジョンには、むしろその態度こそ辛い。
「ワタシが間違わなければ……」
やがて女侯爵は独り言をこぼしながら天を仰いだ。
「太子さまにルヴァの瞳で飾った指輪をお贈りして、これをワタシの気持ち、そしてワタシ自身と思ってくだされば嬉しい……なんて言いながらさあ」
彼女の目が虚ろになり、
「そしたら太子さまが「悪いけどそうは思えないよ、だってキミのほうが指輪よりずっと綺麗だから」なーんて言いながらワタシの手を取って……抱きしめられてえ……」
彼女の顔がだらしなく弛む。
女侯爵の数少ない悪癖の一つが表に出てしまっていることを察したらしく、侍従長が大声をあげた。
「なんと寛大なる御沙汰、感激で年寄りの胸が震えましたぞ!! 爺は嬉しゅうございます!!」
「……ハッ!?」
女侯爵は現実に引き戻されたのか、慌てた様子で顔付きと姿勢を正した。
「寛大? ヤケを起こされたくないのでしょう、計算高い御方で」
ジョンには、侍従の一人がそうつぶやいたように聞こえた。が、どうやら侍従長には聞こえなかったらしい。
女侯爵はその声がした辺りを一瞬睨んでから、ジョンに向き直して宣告する。
「とにかく、アンタによる損失も、任用責任としてワタシが請け負うから。だから……今日で、アンタとの主従の契りを無かったものとする」
これではまるで、無能者あつかいだな……ここでも、私は…………
「これまでお世話になりました、フレーゼ様。これにて、失礼仕る」
ジョンは女侯爵に深々と頭を下げて、広間を後にした。
「……さよなら」
「追放刑でないだけでも、ありがたく思え!」
ジョンは女侯爵の声と侍従長の罵声を背に、城をあとにした。
ああ、腹が減った……
ジョンは城下町をさまよっていた、着のみ着のまま城を追い出されたジョンは、食事を取ることも出来ず城下町をウロウロしていた。
なんとかして、食い扶持を得ねば……
腹の鳴る音を感じながら、ジョンは城下町を歩いてみる。
大通りや住宅街の近くには食材や料理を扱う露店が多々あるようだ。だが、金がない。
腹を空かせながら町を歩いていると、日が暮れてきた。食材屋は店を畳みはじめるが、軽食をふるまう屋台は賑やかさを増す。
それはジョンの心中、腹の中とは比較にもならぬほどの明るさ、暖かさをまとっている。
日暮れて道遠し。