第一話 (alleged)ジョン太の転生前夜 2
alleged:(根拠なく)主張した、噂された、言い訳した……など
Alleged:?
「これで、大まかには説明できたと思います……そういえば、貴方の名を聞いていませんでしたね」
私は、この世界の神を名乗る金髪の女性、ソニアから状況説明を受けた。辺りには何もなく、彼女の他に誰もいない。当面は、彼女に従ってみよう。
「私は、ジョン……さる国で、王位に」
「ええ、生前は王様だったと聞いています。さぞ優れたお方なのでしょうね」
この女、嫌な所を突いてくれる。
ソニアの意図はわからないが、少なくともジョンには皮肉と受け取れた。
私は確かに、王位に在った。しかし……母も、兄も、諸侯も……私を認めてはくれなかった。そう、感じている。
「私はそんな貴方に、真に活躍する場を与えたいのです」
まるで私の心中を見抜いているようなことを言う…………神、か。
「貴方に力を与えましょう。貴方は私の世界で、自身の能力によって立身し、英雄……民の良き指導者として君臨する、というのはいかがですか?」
「力……?」
「貴方は、どのような力がお好きですか? 武力? 知力? 政治力? 魅力? 魔力? 生命力? うふふ……」
力……知力、策謀、あるいは財力……それらは武力を前にすると、まあ脆いものだ。
私は長年兄を見て、それを思い知っている。
「それは、どんな力でもよいのか?」
「一つだけ、ですけどね」
もったいぶるような態度は少し癪だが、不満は言うまい。
私は、兄の姿を思い出していた。
勇猛果敢、意気軒昂、鎧袖一触。皆にその姿を讃えられ、慕われていた兄がいた。
兄とともに居るとき、私はただの「兄の血縁者」でしかなかった。それが悔しかった。憎かった。妬ましかった。
強く気高かった、兄。
「お奨めはやっぱり武力、戦闘能力ですかねえ。苦しむ人々を救い上げる、分かりやすく圧倒的な力……世の多くの女性にも、きっと慕われるでしょうね」
「多くの、女性にも……それはもしや、サラセン人のハレムとかいうものか!?」
「さらせんじん、とやらは分かりませんが……多くの女性を愛し愛されることも不可能ではないでしょう」
むむ、心惹かれるな……
私は、兄の姿を思い出していた。
雄々しく立つ兄の側には、妻……皆にその姿を讃えられ、兄を心から愛するベレンガリアが寄り添っていたという。
彼女にとっては当然だが、私は「愛する兄の血縁者」でしかなかっただろう。だが、彼女が兄を愛する一方で、私の妻は………………
愛されていた、兄。
それに比べて、私は。
「よし、決めた。私に圧倒的な武力、戦闘能力を与えてもらえないか」
その力で私は、兄のような……いや兄よりも遥か高みを往く、模範的な騎士として生きてみようじゃないか。
そして、様々な女性と、様々な恋をしよう。フフフ。
(ハーレムを作りたいとか、模範的な騎士はそんなこと言わない)
「分かりました、それでは早速準備をしましょう。その辺で仰向けになって、目を閉じていてください」
女神はどこからともなくいくつかの祭器? のような物を出して、指示通り仰向けに寝転がった私の周りに並べだした。
「もし眠ければ、寝ていてもかまいませんよ?」
ジョンは目を閉じて、女神に身を任せた…………
このとき、ジョンは気付けなかった。
女の優しげな笑顔が、彫像に貼り付けられたような不自然な輪郭をしていたことに。
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ふふっ、馬鹿じゃないの? こいつ。ろくに話も聞かないで、
この私が治める世界が、馬鹿力だけで生きていけるような、そんな乱れた世界なワケないでしょう?
このおバカさんが私の世界でどんな苦難を見せてくれるか……フフッ、楽しみぃ……
ってあっ、術式固定しちゃった……まっいっか、あの男のオツムじゃ大それたことは出来ないでしょ。
ソニアは「魔」を添え間違えたことに気付いた。彼女の監視下でならいつでも無効化できる形で、男に『能力付加』を書き込むつもりが……用いる呪術を誤って男への『能力付加』を固定させてしまった。
といっても、それはちっぽけな失敗でしかなく、致命的な問題をもたらすことはないだろう。解除方法も、無いわけではないし。
ソニアはそう考えていた。
そしてその考えは、おそらく正しい……はずだった。