表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/17

8話 新年を迎えて

 元旦の朝は、そのまま紫苑と毛布にくるまりながらソファの上で迎えた。


 俺の胸で眠っている紫苑の目尻には、うっすらと涙の乾いた白い跡。


 でもその表情はとても穏やかに見えて…… 半開きの口からはよだれが垂れて、初めて見る紫苑の子供っぽい表情に驚かされる。


 おでこならチューしていいかな…… かなり無防備ですよ? 紫苑さん。


「ん…… ダメ…… 」


 はい! ダメですよね! って、何の夢を見てるのか知らないけど、タイミング良すぎる寝言だ。


 家でも緊張を緩める事が出来なかったんだろうな…… あどけない寝顔を見るとそう思えてくる。


 紫苑がクールで大人っぽく見えていたのは、そんな自分をひた隠しにしたかった表れなのかもしれない。


 紫苑を起こしてしまわないようにソファから抜け出し、カーテンの隙間から外を見てみる。


 思いの外積もっていた雪は一面を銀世界に変え…… と言ったら北海道の人に怒られるかもしれないが、拳が埋まるくらいは積もっていそうだった。


「これは鍵を見つけるの、苦労しそうだな 」


 明るくなってから探そうと思っていた紫苑自宅の鍵だったが、これでは雪に埋もれて捜索難航必至だ。


「おはよ…… 橙馬君 」


 紫苑がソファに寝転がったままこっちを見ていた。


「ありゃ、起こしちゃったか。 ゴメンな 」


 『ううん』と笑顔を見せる紫苑は、すっぽりと毛布にくるまって頬を赤くし、なんだか凄く可愛い。


「すっかり積もっちゃったみたいだ。 鍵を探すの、ちょっと苦労するかも…… 」


「あ…… それなんだけど…… 」


 紫苑はソファの横に置いてあったバッグから、クロネコのキーホルダーが付いた一本の鍵を申し訳なさそうに取り出した。


「うぇ? その鍵、家の? 」


「ごめんなさい…… ここに来るのに、何か理由が欲しかったの。 同情を誘って家に転がり込むなんて、嫌な女だよね…… 」


 端から見たらそうかもしれないけど、俺には可愛いワガママ程度にしか思わない。


「早く言ってくれればいいのに。 だから時々ソワソワしてたのか 」


 昨日の紫苑はなんとなく落ち着きがなかった。


「それは、その…… トランクスって初めて着たから、スースーして落ち着かなくて 」


 あ…… 紫苑の服は昨日全部洗濯機に突っ込んだままだっけ。


「忘れてた! すぐ出してくる 」


 慌てて脱衣所に向かおうとすると、ソファ越しに紫苑に腕を掴まれた。


「だ、ダメだよ! 下着も全部入ってる! 」


 あ、そうか…… この辺は菜のはの感覚で接しちゃダメなんだ。


「もうちょっとだけ…… この服着てていい? 」


 紫苑は手が隠れるくらいダボダボのパーカーで、顔を赤らめながら上目遣いで聞いてくる。


 反則ですよ紫苑さん…… 俺にはそのお願いを断る理由はない。 


「構わないけど、菜のはにはバッグの底から出てきたって言っておいてくれよ? 」


 そう返事をして俺は雑煮の準備に入った。


 醤油ベースの出汁になるとと青菜を入れ、焼いた餅を入れるだけの一般的なものだ。


「あけおめー! お兄ちゃん、紫苑さん! 今年もよろしくお願いします! 」


 起きてきた菜のはは挨拶もそこそこに、風呂場へと直行する。


「あ、お兄ちゃん。 妹の新年初裸、今年も見る? 見ちゃう? 」


「毎年見てる見たいに言うな。 ほれ、一番風呂行ってこい 」


 『はーい』と元気よく戻っていった菜のはに、紫苑は呆気に取られて何も言えなかったようだ。


「…… 新年からパワフルだね…… 」


「いつもの事だよ。 仲良くできそうか? 」


 紫苑は『大丈夫!』と鼻息を荒くし、『よし!』と気合いを入れてリビングを出ていった。


 昆布で出汁を取りながらその背中を見送っていると、紫苑はふと立ち止まって俺に振り返った。


「そういえば新年の挨拶、まだだったね 」


「そういえばそうだったな。 今年もよろしくな 」


「よろしくお願いします、旦那様! 」


 ニコッと笑った紫苑は、菜のはの後を追いかけて風呂場に行ったようだ。


 今の発言…… お付き合いしますってことでいいんだよな?





 紫苑の自宅の鍵の問題は解決した。


 次はどうやって紫苑の家庭を潰さずに、紫苑が安心して眠れる環境にするかだ。


 結婚するにしたって俺がまだ17歳…… 誕生日が7月だからまだ半年以上ある。


 それに未成年の結婚は親の同意が必要な筈だ。


 仮に親父を説得出来たとしても、佐伯家が許さないだろう…… 成人が18歳になる法律がもう少し早ければとも思ったが、実際はそんな簡単なものじゃない。


 「紫苑の父親のヤバい趣味を止めさせるのが現実的だよなぁ 」


 でも、一家庭の問題にどうやって切り込む? 俺1人じゃとてもじゃないが力不足…… 警察に頼るか? ん? 警察?


「上がったよー! 」


 菜のはを先頭に、ホカホカになった二人がリビングに戻ってきた。


 紫苑はなんだかぐったりとしている…… 風呂場で何かあったのか?


「お兄ちゃんお兄ちゃん、紫苑さんのおっぱ…… むぐっ! 」


「ストーップ! 」


 紫苑が慌てて菜のはの口を塞いだ。


「な、なんでもないよ! ちょっと女のコの話だから! 」


 気にはなるところだけど、とりあえず苦笑いをする紫苑と同じ顔をしてみた。


「ぞ、雑煮すぐ食べれるぞ。 二人とも餅は何個にする? 」


「私2つ! 」


 菜のはは我先にとキッチンに飛んでいく。


「私も2つにしようかな。 とっても美味しいよって菜のはちゃんが言ってたよ 」


「普通の雑煮だけどな 」


 二人のテンションが少し高いのは俺の気のせいだろうか? 裸の付き合いっていうのは、女も男も変わらないのかもしれない。


 二人は出した雑煮をペロっと平らげ、この後皆で初詣に出かけようという話になった。


 菜のはを見ていると、どことなく無理に明るく振る舞っている感じ…… 楓の時のような失敗をしない為にも、紫苑との事は早めに話しておいた方が良さそうだった。


「紫苑さんは家族では初詣行かないんですか? 」


 うっ…… いきなり脇腹をえぐるような菜のはの質問が紫苑に浴びせられる。


「う…… ん、そうだね……  」


 苦笑いの紫苑は、まだ菜のはには身の上を話したくない様子…… 怖いんだろうな、やっぱり。 

 

「紫苑…… ツラいと思うけど、俺は菜のはに隠し事はしたくない。 話してやってくれないか? 」


 ピクッと体を強張らせる紫苑に、菜のはからも笑顔が消えた。


「紫苑さん、ウチに来たのも何か訳アリなんですよね? お兄ちゃんにすがりたくてここに来たんですよね? 」


 少し責めるような口調の菜のはに、紫苑は何も言えずに怯えた目をしていた。


「私は貝塚燈馬の妹です。 私だって蚊帳の外はイヤなんです…… 信用してもらえないのなら、お兄ちゃんを渡すことなんて出来ない! 」


 渡すって…… その言葉にもビックリだけど、菜のはが既に紫苑を俺の彼女として見ていた方がビックリだ。


「大丈夫、菜のはは思ってるほど子供じゃない 」


 後ろに回って両肩に手を添えてやると、紫苑は俺を一度仰ぎ見て、意を決したように菜のはに向かい合った。



 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ