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4話  それぞれの冬休み

 三日後の放課後に行われた追試で、藍と保木は赤点だった英語をギリギリながらも無事クリアした。


 青葉は残寝ながらクリアならず、迎える冬休みも登校して特別講習を受けることになった。


「橙馬ぁ! 助けてくれよぉ! お前生徒会長だろぉ!? 」


「無理言うな。 三年生への進級テストも控えてるんだからしっかり勉強してこいよ 」


 冬休み中に遅れを取り戻しましょうという特別講習…… と言えば聞こえはいいけど、実際は学校に缶詰状態で勉強三昧の罰のようなものだった。


 外部から講師を呼び、徹底的に苦手教科を叩き込まれ、3日に一回行われるテストに合格するまで終われない。


 何故詳しいのかと聞かれれば、俺も一年生の時に経験済みだったからだ。


「高垣青葉君、どうぞこちらへ 」


 終業ベルが鳴った直後、スーツ姿の講師二人が青葉を迎えに教室に入ってきた。


「うわああぁ! 助けてくれー! 」


 俺の後ろに隠れた青葉は、両脇を抱えられて講師に連れいかれてしまった。


「成仏すれよ、青葉…… 」


「高垣君を勝手に殺しちゃダメだよ。 早ければ一週間で戻って来れるんだから 」


 紫苑は眉をひそめて苦笑いしていたけど、この講習はホント洗脳されるんじゃないかと思うくらいキツイ。


 それでもこの講習があるおかげなのか、進級できない生徒や卒業できない生徒は学校創立以来ゼロなんだそうだ。


「まあ、アイツは散々遊んでたのも事実だからな。 これに懲りて改心するだろ 」


 少しふざけ気味に言うと、紫苑や藍達から笑いが溢れる。


「そう言えば燈馬、冬休みの予定はどうなの? 」


 後1週間もすれば我が校も長期の冬休みに入る。


 この冬休み期間中に学習塾の短期集中講座に通う生徒も多く、他校に比べて日数が長いのだ。


「俺は普段通りの冬休みで普段通りの正月になると思うけど…… そういうお前はどうなんだよ? 」


 質問してきた藍に、同じ質問を返してやる。


「ウチはおじいちゃんとあっちに戻るかな。 毎年の事だから 」


 藍の毎年というのは、両親の墓参りのことだった。


 藍の両親は、藍が物心がつく前に事故で亡くなったらしい。


 ほぼ駆け落ち状態で結婚した両親には頼る者がなく、やむを得ずおじいちゃんが引き取って藍を育てた。

 おじいちゃんは両親と絶縁していたらしいが、正月には家族揃ってと両親に顔を見せに行くのだそうだ。


「そっか、俺からも何か…… 」


「何言ってるのよ? 別にアンタが関係することでもないじゃん 」


 そうなんだけどさ…… 藍はケラケラ笑っていたけど、内心をあまり見せないこいつの事だから、本当は寂しいんじゃないかと思う。


「紫苑はどうするの? 」


 話の流れを変えるように保木が紫苑に聞いていた。


「うーん…… 冬季講習かな。 不安な所はいっぱいあるから 」


 流石学年上位の優等生…… と感心していると、保木は苦いものを食べたように舌を出していた。


「頭爆発しちゃうよ? 少しは遊んで発散しないと! 」


 そこからまた女同士のじゃれ合いが始まる。


 冬休みか…… 今年は菜のはも受験だし、その勉強に付き合うことになりそうだな。





 帰宅するとすぐに、脱衣所の方から二人の笑い声が聞こえてきた。


 帰ってすぐに風呂に入ってたのか…… 今日の迎えは楓に頼んでおいたのだが、明るい声を聞くということは楓のテスト結果は問題なかったんだろうな。


「あ、おかえりお兄ちゃん! 楓さんったらね…… 」


「ダメだよ菜のはちゃん! それを言ったら……って!! 」


 二人ともバスタオル姿のまま脱衣所から出てきた。


 楓は俺の顔を見た途端固まって、下から徐々に赤く染まっていく。


 「見るな変態! 最近ちょっと太ったのよ、悪かったわね! 」


 そう言って楓はすごすごと引き返していった。


 いや…… わざわざ出てきたのお前だし、太ったなんて思ってねーし……


「んで、どうしたんだ? 菜のは 」


「胸もお尻も少し大きくなって羨ましいなって言おうとしただけなのに 」


 あ…… そう。


「いいなぁ…… 私も早く大人の女性になりたいな 」


 菜のはは自分の胸のサイズを不満そうに揉みながら、口を尖らせて呟いていた。


「急がないでも、ちゃんと大人になるから心配すんな 」


「わかってないなぁお兄ちゃんは。 あ、もしかして貧乳好き? 」


 バスタオル姿で何を言い出すんですかこの子は!


「む、胸の大きさは関係ないんだよ! 」


「あはは! 照れちゃって可愛い! 待っててね、今にボインボインボインになるから! 」


 菜のはは満面の笑みで脱衣所に戻っていった。


 菜のは…… 言いたい事は伝わったけど、それじゃ腰までボインになるように聞こえるぞ……




 夕飯後、楓は菜のはの受験勉強に付き合ってくれていた。


 アイツの学力は俺より遥かに上…… なんだか体のいい家庭教師みたいだ。


「ありがとな、菜のはの勉強見てくれて 」


 一区切りついたのか、楓が伸びをしながらリビングに降りてきた。


「別にいいのよ、菜のはちゃんの力になれれば。 ついでにアンタの勉強もみてあげようか? 」


「やっとテストから解放されたのに…… 今は腹いっぱいだよ 」


 楓がお気に入りの、親父が焙煎したコーヒーをブラックで出してやる。


「そういや、お前は正月はどうするんだよ? 」


「ありがと。 お正月? お母さんの所に行くつもりだったけど 」


 あれ以来、楓の母親から俺のスマホに連絡は来なくなった。


 楓は自分の連絡先を母親に教えたみたいだけど、頻繁に連絡してくる訳でもなかった。


楓自身も、『お父様に買ってもらった大事な物だから』と乱用はせず、用法用量をわきまえて正しく使っているようだ。


「今後の事も話してこなきゃならないしね。 アンタだって菜のはちゃんと水入らずで過ごしたいでしょ? 」


「別にそんな事は思ってねーよ。 菜のはだってお前の事気に入ってるみたいだし 」


「…… うん、それはそれで嬉しい。 でもアタシに気を遣わずにゆっくり過ごしてよ 」


 楓は飲み終わったカップを下げて、菜のはの分の麦茶を用意して階段を駆け上がって行った。


 一緒に住むようになってもうすぐ2ヶ月…… なんとなく普通になってしまったけど、楓だっていつまでもここにいる訳じゃない。


 少しなら走れるまでに回復もしているし、もう少し体力が戻れば下宿や一人暮らしくらい出来るようになるだろう。


 なんだか寂しいような気もするが、元は星院東に通う為の一時的な手段なのだから、アイツが望む形で見送るべきだろうな……

 

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