3話 一生愛せるか?
紫苑のお見舞いのおかげ? 風邪も落ち着いて、週明けには普通に登校した。
朝のホームルームで渡された中間テストの結果に、教室内は歓喜のグループと絶望のグループに別れた。
俺もドキドキしながら渡されたファイルの中身を確認して、ホッと胸を撫で下ろす。
「無事乗り切ったようだな、会長 」
珍しく遠藤が俺の様子を見に来て、やれやれという顔をする。
「なんとかな。 平均以上ではあるけど、あまり誉められたものじゃない 」
答案用紙と回答を見比べて見ると、答えは合っているのに解答欄が一個ずれてたりと、もったいない間違いをしていた。
集中出来ない状態で試験を受けた結果だ…… 次はこうならないように気を付けないと。
「どうするんだ? 次の期末テストの結果次第では、佐伯と離れ離れになってしまうぞ? 」
星院東では、二学年期末までの偏差値で三学年のクラスが決まる。
学力に応じてクラス分けをする事で、個人の学力を底上げするのが目的だ。
紫苑とは運良く一年の頃から同じクラス…… 出来れば三年もこのままで行きたい。
「やるだけやってみるさ。 お前や紫苑についていくのは大変だけどな 」
「まあ学力だけが全てじゃない。 クラスが分かれたとしても、僕は友人をやめるつもりはないしな 」
「私もだよ貝塚君! 」
遠藤も伊藤も嬉しい事を言ってくれる。
「どうしよ橙馬ー! 赤点やっちゃったよー! 」
藍が半べそをかきながら俺に泣きついて来た。
紫苑が駆け付けてきて藍の背中をポンポン叩くと、藍は紫苑を腕ごと抱きしめ、胸に顔を埋めてグリグリと擦り付ける。
「紫苑ー! ヤバいよー! 」
「ちょ!? ぁん! 落ち着きなさい藍! 」
まぁそうなるわな…… 青葉や保木は魂が抜けたように真っ白になって呆けていた。
「…… 遠藤、ちょいと力を貸してくれるか? 」
俺も他人の事を言えないけど、泣きすがる藍や灰になりそうな青葉や保木を見かねて遠藤に話を持ちかけた。
「ふむ…… 特訓でもするつもりか? 」
雰囲気だけで言わんとする事を分かってくれるのはありがたいけど、蒼仁先輩みたいでちょっと怖いぞ?
「ああ、こいつらを放ってもおけないだろ 」
「了解した。 場所はどうする? 」
「図書室を開けてもらうか 」
藍も青葉も、紫苑と遠藤にすがるような視線を向けていた。
保木までが俺に助けを求めるようなキラキラした目をしている…… らしくなく可愛いぞそれ。
「それじゃ、今日の放課後から始めるか。 申請出しにちょっと行ってくる 」
我が校の図書室の利用率はかなり高い。
なのであらかじめ使用申請を出しておかないと、席が取れなくなる可能性があるのだ。
俺は藍達を紫苑に任せ、予鈴がなる前にと職員室へ走った。
俺の見通しは甘く、今日の図書室の使用申請は通らず明日からになった。
このテスト終了時期は、俺達のように補習対策で席を確保する生徒が多いのだ。
仕方なく俺達は商店街の一画にあるフードコートに集まり、四人掛けの席を二つ繋げて勉強をすることになった。
講師はもちろん遠藤と紫苑。
藍達が赤点だった英語を中心に、遠藤がヒアリングの要領を教えている。
「貝塚君は英語大丈夫だったの? 」
「紫苑にがっちり教えて貰ったからな。 出題傾向もバッチリだったし、紫苑先生様様だったよ 」
伊藤は涼しげな顔をしてメロンフロートのストローを咥えていた。
横では遠藤が外人みたいな発音でペラペラと英語を喋り、紫苑までが熱心に聞いている。
ちなみに藍達三人は半開きの口になり、思考停止しているようだった。
「すげぇな、流石遠藤だわ 」
「蘇芳君は大学院の研究生目指してるから、論文とか英語必須なんだって 」
論文とか、高校生が考えるレベルじゃないよな……
「貝塚君は進路どうするの? 夢とか 」
夢ねぇ……
「お婿さん? 」
『つまんない』と伊藤に白い目で見られました……
「考えておかないと、三年生になってからじゃ遅いかもよ? 」
「そうなんだけどさ、いまいちやりたい事とか見つからないんだよ。 それなら俺は…… 」
必死に紫苑を追いかけてみたい…… 言葉には出さずに紫苑をチラッと見ると、伊藤は『頑張れ』とクスッと笑った。
「相当レベル高いよ? 彼女は 」
「頑張るさ。 誰にも渡したくないからな 」
「言うようになったねー! もう気持ちの整理はついたのかな? 」
伊藤には何も言わずに微笑んで見せたが、伊藤は微妙な表情だった。
「君達の関係がどこまで行ってるのか分かんないけど、中途半端はやめてよね? 私の大事な友達を泣かせたら許さないよ? 」
「分かってるよ。 それは十分に気を付けてるつもりなんだけど 」
ふと遠藤がこっちを見ていることに気が付いた。
「Can you love har for a lifetime ? 」
え? なんだって?
「loved ones or close friends ? 」
「…… 英語で言われたってわかんねぇよ? 」
「どっちなんだ? と聞いている 」
「じゃあ最初のやつで 」
そう答えると、遠藤はニヤッと不適な笑みを浮かべた。
誰も翻訳出来ない中でただ1人、紫苑だけが耳まで真っ赤になって俯いていた。