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17話 橙の夢

 吹石家で行われた新入生歓迎パーティーは、大広間に用意されたバイキング形式の豪勢なものだった。


 菜のはの制服姿を見た吹石先輩が少し暴走気味だったが、9時過ぎまでしっかりと盛り上がり、皆楽しそうで俺も満足だった。


 ただ一つ…… 帰りを蒼仁先輩に送ってもらったはいいが、菜のはは酔っぱらって俺の背中で熟睡中だ。


 オードブルの中に混じっていたウイスキーボンボンを食べてしまったようで、オードブルを用意したメイドさんは吹石先輩にこってり絞られて俺達に平謝りだった。


「んん…… おにぃちゃん…… 」


「ハイハイ、もう寝ような 」


「いやぁだぁ…… かまってよぉ…… 」


 菜のはは俺の首筋にパクッと噛み付いて甘噛みをし始めた。


「フフッ 菜のはちゃん可愛い 」


 明日も学校があるけど、紫苑は今日はウチに泊まっていくという。


 親には送ってもらった車の中で連絡済みで、大して反対はされなかったらしい。


「何が可愛いもんか。 吸血鬼みたいで首がゾクゾクする 」


「吸血鬼らないもん! 」


 紫苑に手伝ってもらって菜のはを引き剥がし、甘えてくるのを無理矢理寝かせてリビングに戻ると、紫苑も制服のままうつらうつらしていた。


「紫苑、ここで寝たら風邪引くぞ 」


 肩を揺すって紫苑を起こすと、眠たそうな目で俺を見てフフっと微笑む。


「えい! 」


「おわっ! 」


 紫苑は俺に飛び付き、首筋にパクッと吸い付いた。


「ちょ! 紫苑さん!? 」


「私は吸血鬼なのです 」


 思いがけない大胆なスキンシップにビックリしたけど、これは蒼仁先輩のリハビリの効果なんだろうか。


 いや、菜のはに対するヤキモチなのかもしれない……


「ゴメンな、デートの最中だったのに 」


「ううん、あれで断ってたら吹石先輩に呪い殺されそうだったし。 私も楽しかったから 」


 そう言って紫苑は俺に寄り添ってきた。


 平日なのに突然泊まると言い出したのは、その埋め合わせって事か…… ヤキモチを妬く紫苑もこれはこれで可愛い。


「ずっとこうしていたいな…… 学校を卒業しても、おじいちゃんやおばあちゃんになっても 」


「どうしたんだよ急に。 蒼仁先輩と吹石先輩に触発されちゃったか? 」


 エヘヘと紫苑は照れくさそうに笑った。


「ちょっと待っててな 」


 俺は紫苑から離れて自分の部屋に駆け上がり、机の引き出しにしまっておいた封筒を持って戻る。


「いつ見せようかと思っていたんだけど 」


 封筒から取り出して紫苑の前に広げて見せたのは、ディズニーのアラジンとジャスミンが描かれた婚姻届だ。


「………… 」


 紫苑は無言でそれを手に取って、呆然と眺めている。


 さすがにやり過ぎたか…… いや、順序的には婚約指輪の方が先だったか? なんだか引いちゃってる感が否めない。


「ま、前々から考えていたことなんだ。 正月に泊まりに来た時に結婚の話をしただろ? まだ結婚出来る歳じゃないし、生活力も何もないけど…… 」


 口を半開きにしたまま動きの止まってしまった紫苑に、どう説明したものかと考える。


「許嫁…… じゃなくて婚約者? って言えばいいのかな。 その…… 口約束じゃない、証みたいな物が欲しくてさ! 」


「うん…… 嬉しい…… 」


 気が付けば紫苑の頬には涙が伝っていて、婚姻届に溢さないよう手の甲で拭っていた。


 言い訳がましい説明なんていらなかったみたいだ。


「頑張って幸せにするから 」


 紫苑は目を閉じてゆっくりと首を横に振った。


 え…… いや…… このタイミングで俺フラれた?


二人で(・・・)幸せになろう、だよ。 旦那様! 」


 溢れる涙をそのままに、屈託のない笑顔を向ける紫苑はとても眩しく…… 比べるものではないけど、この時俺は紫苑が誰よりも大事に思えた。




 晴れた夏休みのある日。


 俺と紫苑はクーラーの効いた図書館の一席で、センター試験に向けて猛勉強中だ。


 紫苑は進路を地元の医大の医学部にする事を決めた。


 俺自身はまだ目指す職業が見つけられずにいたが、紫苑は心理カウンセラーとして人の役に立ちたいと、しっかりした夢を持っている。


ならば俺は、この星院東を目指した時と同様に紫苑を追い掛けて医大を受験するのが筋だろう。


「なにも私の為に医大を目指すことはないんだよ? 橙馬君には橙馬君の道を進んで欲しいと思うし 」


 そうは言っているけど、頬杖をついて俺の問題集の進み具合を見ている紫苑は終始笑顔だ。


「夫婦で医師とか凄いんじゃね? 俺がなれるかはわからんけど 」


 冗談半分に言ってみると、紫苑は声を殺してクスクスと笑った。


「君ならきっとお医者さんになっちゃうよ。 決める時は決める人だもの 」


 俺がいつ決めたかはわからないが……


「あ、でも婦人科はダメだよ? 色々な意味で 」


 少しむくれた紫苑は、俺の鼻っ面をツンと突っつく。


 最近はこんな冗談も、人目を気にせずある程度言えるようになった。


 


 あの日の婚姻届は、俺の机の引き出しに鍵付きの箱に入れて大事にしまっている。


 鍵は二つ…… そのどちらかが欠けても開かない特注品だ。


 届を提出するのはいつになるかわからないけど、俺と紫苑はきっと…… いや、間違いなく結婚する事になるだろう。


「あ、そうだ! 今日の夕御飯は私が作ろうか? 」


 言っちゃ悪いが、俺の嫁(仮)は料理がメチャクチャ下手だ。


 そんな彼女が胸を張って作る旨い物が一つだけある。


「んじゃチキンライスは俺が…… 」


 『えー!』と文句を言う紫苑がとてもいとおしい。


 いつだか紫苑言っていた、『おじいちゃんやおばあちゃんになっても』という言葉が、今の俺の夢かもしれない。




橙色の恋愛事情 佐伯紫苑編 


最後までお付き合い頂きありがとうございました。


マルチエンディングストーリーの第一弾いかがだったでしょうか? 紫苑編はこれで終了となりますが、第二弾として楠木藍編に続きます。


よければお付き合いのほど、よろしくお願いいたします。

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