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1話 佐伯紫苑

「おい塩昆布! オマエなんか可愛くないんだよ! 」


 真っ赤な顔をした田中君の一言からそれは始まった。


 教室中の誰もが笑い、止めてくれる友達は誰もいなかった。


 小学6年生の夏、宿泊研修中にあった些細な話題がきっかけだった。


 思春期によくある、好きな子に対する照れ隠しのつもりだったんだろう…… 当時、背の小さかった私を、男子は『シオ子』と呼んでいた。


 夕食後の自由時間、少し背伸びした女子達から恋愛話に花が咲き、私に好意を寄せている田中君が女子達のターゲットになったのだ。


 それ以来、私のあだ名は塩昆布。


 女子の中には『シオちゃん』と呼ぶ子もいたけど、あまり多くはなかった。


 皆、私を庇うことで自分がターゲットになりたくなかったんだと思う…… そんな年頃だから。



 それから学校生活のほとんどを一人で過ごし、中学校は親に頼み込んでわざわざ校区外の三和中学校に通わせてもらった。


 顔見知りのいない中学生活は不安だったが、小学校の悪夢を中学校でまた見るのは耐えられなかったのだ。


 一時間かけて通う中学校は辛かったが、中学校生活は平穏で皆は優しかった。


 二年生になった頃にはある程度仲のいい友達も出来て、小学校の悪夢を忘れかけたある日、隣のクラスの二階堂君から放課後の校舎裏で告白された。


 小学校時代に悪い思いしかしなかった男子に興味がなく、断る態度が冷たかったのかもしれない…… 翌日にはクラスの女子の態度が変わった事に気が付いた。



「アンタでしょ? 錫弘(すずひろ)に色目使ってたのって 」


 そう言って私に突っかかってきたのは、クラスでリーダー的な存在の白石 恵梨香(しろいし えりか)だった。


 白石さんは二階堂君の元カノだったらしく、別れた原因が私だと詰め寄ってきた。


 その場は仲のいい友達が止めてくれたおかげで何事もなかったが、それから白石さんの虐めが始まった。


 私の周りから徐々に友達は減っていき、一週間もすると誰も挨拶もしてくれなくなった。


  シオちゃんといると、私達までハブられる


  ゴメン、佐伯さん…… あの子を敵に回すとめんどくさいのよ


 ボッチにされる辛さは小学校から知っている…… そう言われると、私は誰にも助けてとは言えなかった。


 「あんた、塩昆布って言われてたんだってね。 あっちで虐められたからわざわざ三和に来たの? ダサっ! 」


 どこからその話を聞いたのかは分からない…… その日から白石さんは私を『塩昆布』と呼ぶようになり、クラス中の笑い者となったのだった。


 小学校の悪夢の再来…… とても学校に通う気にはなれず、かといって無理を言って通わせてもらっている親には『行きたくない』とも言えず、感情を押し殺して三和中に通う毎日。


 そんな中で、『学校一の変態シスコン』と言われる男子の存在を知った。


 存在を知るきっかけになったのは、二つ隣のクラスで先生を巻き込んで大暴れしたからだ。


 発端は同じクラスの男子が、その男子の妹をバカにしたことだった。


「俺をバカにすんのは構わねぇ! でも誰だろうと妹をけなす奴は許せねぇんだよ! 」


 私のクラスにまで響く声で、ボコボコになりながらも3人相手にケンカする彼がカッコよく見えた。


 


 3年生に進級して、彼の妹が三和中学校に入学してきた。


 彼がベタ惚れする妹の事にちょっと興味があって探してみると、彼とはあまり似ていなく、私から見ても可愛いの一言。


 当然学校中の噂になり、彼のシスコンは更にエスカレートしていった。


 そのおかげ…… といっては語弊があるかもしれないが、私への虐めは気にならない程になり、離れて行った友達も僅かだが話しかけてくれるようになっていた。




 ある日を境に、彼の姿を見ることはなくなった。


 聞けば、妹をいじろうとした男子をボコボコにして停学になったんだとか。


「バカだよねアイツ。 自分のせいで妹が虐められるのにさ…… シスコンはキモいわ 」


 友達が言った言葉は正しい…… でも私はそれに頷くことは出来なかった。


 その噂が、彼の耳に入ったかどうかは知らない。


 彼はその後、ケンカした相手一人一人に頭を下げて回ったという話を友達伝てに聞いた。


  すごいなぁ…… 私にも、その勇気の少しでもあればまた違ったのかもしれない…… そう思わされた。


 あの時、田中君に嫌だと言えていれば…… あの時、白石さんにやめてと言えていたら…… そう思ううちに、彼と話をしてみたくなった。


 だけどその停学以来、彼の姿を見ることはあっても話しかける機会はなく、私達は三和中学校を卒業した。




 私立星院東高等学校。


 毎年、大学や医療系専門学校への進学率100パーセントを誇っている超進学校に、私は猛勉強の末入学する事が出来た。


 特段医療系に興味があったわけじゃない…… 理由は簡単、三和中学校や私の家の校区の東葉(とうよう)中学校からここを受験する人がいなかったからだ。


「え…… うそ…… 」


 入学式が執り行われる前に集合した1年A組のドアの名簿に、彼の名前を見つけたのだった。


 過去なんて知られたくない…… 同じ中学校の人間が、同じクラスにいるのは正直恐怖でしかなかった。


 最初はそんな風に思っていた彼と、恋人関係になるとは夢にも思わず…… そんな彼との高校時代の思い出話です。

  


  


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