雪山の少年
整理しよう、私はバイアスロンの特訓のために雪山に来た。
もうすぐ頂上という所で雪崩に巻き込まれ、目を覚ますと目の前には熊。目を閉じ、生を諦めかけた時に。そこには頭を撃ち抜かれ倒れた熊と、こちらに走ってくるTシャツ短パンの白髪少年…。
「おーい、大丈夫かー?」
「…えと、ありがとうございます。この熊は貴方が?」
「おう、俺が撃った。」
少年の背中には今も口から煙を吐く長銃が見えた。
「…モシン・ナガン…。」
モシン・ナガン…フィンランド製のスナイパーライフルであるが、なぜ持っている?ここは銃の所持が禁止されている日本だぞ…と。
「いやいや、それよりその服装!寒いでしょ!それ!」
何度も言うがここは雪山である。そんな軽装では低体温症で死ぬぞと、
「ん?あぁ、俺は平気だから。」
そう言うと少年は私を背負い歩き出した。
「え、ちょっとちょっと…!」
「お前、怪我してるだろ、近くに俺が住んでる小屋があるから手当してやるよ。」
「…わかった、熊はどうするの?」
「後で取りに来る、今夜はご馳走だ。」
あぁ、やっぱり食うのか。
背負われながら、ふと少年の足元を見るとそこには
「え、スキー板は!?」
「板?板がどうした?」
この雪山の雪は柔らかい、スキー板をつけなければ即座に足首まで埋まってしまうが、少年は板の様な物は何もつけていなかった。
「なんで足が沈んでないの!?」
「ん?靴履いてないからな…。」
いやいや、それはおかしい、2人分の体重に加え、ここの地面は雪崩が起きたばかりでかなり柔らかいはずだ。というか靴履いてないからってなんだよ!?
謎が多すぎる、なんだコイツ。
しかし、今は助かるためにこれ以上何も言わないでおこうと決めた。
「俺はシムナ、この山で猟師をやってる。」
小屋に入り、一通り治療を終えた後、彼は話し出した。
「…私はフタバ、一応オリンピック日本代表…。」
「ほー、そんな凄い選手さんが雪山に何をしに来た?他のやつは?」
「え、いや…。」特訓のために1人で来たなんて言ったら笑われるだろうか、それとも
「俺は怒っている。」
「えっ?」
予想外の反応に少し驚く。
「今年で15人目だ、遭難したり、動物に襲われる奴は。
本来ならあの熊も殺す必要はなかった。お前が来たからあの熊は死んだんだ。」
「え、あ、すみま…せん…。」
「それは死んだ熊に言うんだな…。」
そう言うと彼は再び小屋の扉を開け外に出ていった。
「夜には戻る、暖炉の前で休んでろ。」
暖炉には火がついていてとても暖かい。
今日は疲れた、そのまま私は目を閉じた。