8話 なんやかんやで現在っす。プラス、カイル様視点もあり。
「魔力なしなんて、恥ずかしい」
「できそこないの末っ子ちゃん。とんだ期待はずれよ」
「さっさと出てけよ」
屋敷中からバカにされる私はフィリア・ティルーシア。伯爵家の末っ子ちゃんです。ちなみに、迷惑な話ですが、ピンク王太子の婚約者でもある。
あれから、なんやかんやで水、焔、翠、風の魔力をピンクオウジサマの側近になりそうな適した人たちにに渡したんです。過去話では、はしょりました(メンドクサいから)結果としつ、ま、オウジサマは、10年間とりあえず大丈夫です。グッジョブ私。
「フィリア、明日はカイル殿下との婚約式の打ち合わせだ。準備は怠るな」
「……はい。お父様」
しおらしくうつ向きながら答える私。
なんやかんやで魔力なしの役立たずで恥な私をピンクオウジサマは婚約を望んだ。責任感じてるなら、別にいいです。10年、あと少しで魔力は私に戻る。そうしたら、私はさっさと出ていく予定だ。自由に憧れます!
でも、ピンクオウジサマはあれからご立派になりました。人工魔力器を開発して、誰でも魔力なしでも魔法が使えるように尽力したのには驚きました。さすがに国防は天然魔力の貴族ですが、防御魔力器まで開発したのは、さすがに、引いたわ。
ピンクの柔らかい髪をかきあげ、やさしく微笑む美青年。その隣にいるのが、たかが伯爵位の魔力なしの令嬢。
まー、誰も納得しませんよね。
「……。わたくし、そろそろ消えればよいのでしょうか」
そっと呟くと、フィリアは微笑みを浮かべた……。
✳✳✳
『ヴェイルはオウジサマを守ってね❗』
にっこりと微笑む翠の瞳は先程まで黒かった。貴重なシャドウを失って喜ぶ少女、私のために力を手放す少女に惚れるなという方が無理だ。力を取り戻し、黒髪の変化する煌めく瞳の女性が将来自分の隣に立つ光景しか望まなかった。
私はカイル・アルフィート・キルラルト。キルラルト王国の唯一の王子で王太子だ。得意魔法はフィリアから譲られた白魔法だが、5年前から使用していない。
彼女が知ったら「何故ですか?」と、問うだろう。しかし、年下の好きな女の子に頼る情けない男にはなりたくなかった。そのままずっと彼女の魔力を当てにして使い続けていたら、まるでダメ男じゃないか。そんな私をフィリアが好きにならないこと位はわかる。
――だから、私は人工魔力器を作った。彼女の白魔法の魔力を魔石に閉じ込め、魔石を器に埋め込む。器を身につけるだけで呪文を唱えれば発動できるという仕組みだ。
しかも、何百、何千と魔石に白魔法を閉じ込めるうちになんと、私自身に白魔法の魔力が定着し、人より多く魔力を保持できる体になってしまった。
それが分かったのは宮廷魔術師カールに、フィリアの魔力を封じて貰った時に、魔力なしの身体になるはずが、フィリアとは違う私自身の引き出され、魔力が身体に目覚めてしまったからだ。魔術師カールによると、たまたま白魔法ばかり使っていたから白魔力に目覚めたが、まだ他の魔力も目覚めるかもしれないとのことだった。
やっと、胸をはって婚約者であるフィリアと婚約式ができる。
父王に事情を話して結んだ婚約だが、魔力なしになってしまったフィリアを認めない声ばかりだった。
だが、フィリアの美しさを隠すことができ、奪われる心配はないことに安心している自分もいた。魔力なしを花嫁にする家は少ない。夜会にも家の恥だと伯爵家は出席させなかった。私はそれを喜び、10年後、魔力を返し、私の花嫁になるフィリアを想像すると、胸が躍っていた。
婚約式の打ち合わせ当日、私は絶望を味わうことになる。フィリアが屋敷から消えたからだ。
フィリアは、待っていて手に入る花嫁ではなかった。
ーだが、逃がすものか。必ず手に入れてみせる。私は結構、しつこい男だと言うことを分からせてやらねば。
巷ではやさしく、慈愛に満ちた天使のような王子と詠われるカイルは、実際はそれは仮面であり、本性は腹黒いことを自覚していた。
(カールに感謝だな。フィリアの白魔法を封じたおかげで白魔法はフィリアには戻らない。だが、私の中の白魔力がフィリアに引き寄せられる)
この自分の中の白魔法がフィリアに戻ろうとする力をたどれば、フィリアに行き着く。……花嫁は、私の手の中に堕ちてくる。
天使の顔でカイルはうっそりと微笑んだ。
傍らでヴェイルが顔をひきつらせ、鳥肌全開だったのは、言うまでもない。