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ミルクココア

作者もミルクココアは大好きです。

ある冬の日のこと。

私は駆け出し、扉を開けた。

中には電球の光を浴びて、白く光っている物体が。

でも、そんなの確認する前に、私は蓋を開けた。もう我慢できなかった。

胃の中身をぶちまけた。

白と緑と茶色といろいろ。たくさん混ざって流れていった。

「なんでよ……」

地面に膝と手をついた。汚いなんて、考えていなかった。

「なんで出ちゃうの……?まだ死にたくないよ……」

体を抱きしめた。柔らかさなんて全然なくて。ただ、ぶよぶよしている皮の手触りと、ごつごつしている骨の感触がした。

「……嫌い。大嫌い。こんな社会も、こんな私も……」

嫌いだから、逃げたかった。

死んでしまえば楽になると思った。

……でも、やっぱり死ぬのは怖くて。

……そんな私の心は、白と緑と茶色といろいろ。


外に出た。

月が右だけ輝いていた。

……寒い。寒さなんて、本当は大嫌い。

でも、だからこそ冬は好きだった。

寒さが私をつんつん刺して。だから私は生きていると実感できた。

吐いた真っ白い息が、手先を凍らす。それでも両手は口周り。


歩き回った。

行ったことのあるところ、行ったことのないところ、行く必要すらなかったところ。

寒さはちくちく刺してきて、とっても辛かった。

……ああ、生きている。今はまだ寒いって感じられる……。

……もう少し歩こう。


公園のベンチにお尻を刺されながら、私は夜空を眺める。

雲が出ていた。透明な水に墨汁を滴らしたように、もくもく雲が動いていた。

ざくざく寒さは刺してきて。

あまりの痛さに膝を抱える。足は石の鎧を纏ったように、固くて冷たかった。

「……帰ろうかな?」

……まだいっか。

だんだん眠気が現れて、痛みに襲いかかる。

痛みがちょっと、治まって。

かわりに眠気が、包み込む。


「……と!大丈夫ですか!」

……煩い。それにあなたは誰?

ポニーテールの、同年代の女の子。

「……!良かった!とりあえず、これ飲んでください!」

なにかを渡される。棒のように硬い腕を伸ばし、差し出されたなにかを受け取った。

……缶だった。

……とっても熱かった。それでも不思議と優しかった。春の日差しのようだった。

かじかむ手には辛いけど、なんだかとっても心地よかった。

……気がつけば、両手になにかが落ちていて。かすかに温いそれは、甲を伝って滴った。

「だ、大丈夫ですか……?」

こくりとうなずいて、私は缶を開ける。

口を付けて、かすかに冷たいそれを、喉に流し込む。ミルクココアだった。

「おいしい……」

頬になにかが伝わって、両手にぽたぽたおちてきた。私は始めて泣いていることに気が付いた。

嫌だから出る涙じゃなかった。

嬉しくて仕方がないから流れたものだった。

……ミルクココアがおいしかった。

世界のどんなものよりおいしく感じた。

……たぶん、彼女が心配してくれるから。

心がとっても温かい。


私の家、近いから。

そう言う彼女の背の上で。

左だけが光る月。くるっと回って輝いた。

左の光る月は、いつになくきれいに輝いていた。


「……ほんと、いっつもミルクココアを飲んでるよね。暑くないの?」

とある夏。缶を片手に月を眺める。

「……うん。あなたとの思い出のものだもん。ちょうど、ほら。こんな月の夜」

私はこくりと飲み込んで。

月の左がきらりと輝く。 

読んでくださりありがとうございました。

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