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短編小説集

好敵手(ライバル)

作者: 大西洋子

 一直線に飛んだボールが、キーパーの伸ばした指先をかすめ、ゴールに吸い込まれた。

 スタンドはどよめきに包まれ、ほどなく試合終了のホイッスルが高々と鳴り響いた。その瞬間、優勝候補が全国への切符をかけた争いから脱落した。


 嘘だろ、おい。

 おれは、中学の時は頼もしい仲間で、今は手強いキーパーである幼馴染の悔しがる姿を見ながら、思わず叫んだ。

「……対戦相手決まったな」

 監督が勝った相手を睨み付けつつ皆に撤収を告げ、その言葉と同時に荷物の片付けが始める。……おれ以外は。

「……対戦相手に不服か?」

「……いえ……」

 おれは知らず知らずのうちに唇を噛んだ。

 監督は何も言わず、おれの肩を叩くとスタンドを後にした。

 


 あの試合から数日後の早朝、登校前のランニングに出てしばらくすると、小学校の学区分岐点でもある道路に、あいつがサッカーボールを手におれを待ち受けていた。


「よう、はると」

「かず……」

「公園へ行かないか?」

 おれはかずに言われるがままに、よく一緒に遊んだ公園へ入っていった。


 朝早くなのでか、まだ人影がない。

 おれたち向かい合い、軽くパスをし合う。お互いに無言でパスをし合う。お互いに汗が浮き出る頃、腕時計がランニング終了を知らせる刻を告げる。

 かずの腕時計からもアラームが鳴った。

「明日もこの時間にここへな」

「……ああ」

 おれはかずの思惑とか、意図に首を傾げつつ、約束を交わした。


 翌日も、その翌日も、かずとランニングをし、公園でボールを蹴り合った。

 お互い申し合わせとかしていないのに、少しずつ早く家を出、だんだんボールを蹴り合うだけではなくなっていた。


 決戦が迫る早朝、何時ものように家を出ると、すでにかずが待ち受けていた。

「はると、東小学校のグランドまで走ろう」

「ああ」

 おれ達は東小学校に向かって走った。


 東小学校のグランドは、おれが通っていた北小学校よりも広く、グランド脇に鎮座するゴールネットには、きちんと網が張られていた。

 おれたちはいつもように、ボールを蹴り合い始めた。

「……いよいよだな」

「ああ。お前と対戦したかった」

「運も実力の一つだ。俺達はその運を味方につけられなかっただけだ。

 ――さあ、はると、思いきって蹴ってこい!」

 ようやく、おれはかずの意図を理解し、かずの胸をおもいっきり借りることにした。


 おれは何度もシュートを決める。何度かかずに阻まれ、もう一本、もう一本と言葉が飛び、その言葉に答える。


 何度シュートを決めただろうか。これでもか。と、渾身の一発を放ち、かずが受け止められず、ニヤリと笑ったその時、お互いの腕時計からアラームが鳴り響いた。


 流れる汗を拭い、ゴール隅に置いておいていた水筒を一気に空にすると、並んで家に向かって走り出した。

 分岐点までやって来ると、かずとおれは申し合わせたかのように止まり向き合った。

「行けよ。全国に」

 かずの拳が突き出る。

「ああ」

 おれも拳を突きだし、拳と拳を正面からぶつけ合う。

 お互いにお互いの健闘を称え、次への活躍を祈る仕草だ。

 かずは短い別れの言葉をつげ、振り返りもせず去っていった。


「かず、ありがとうな」


 全国へのたった一枚の切符をかけた決戦まで、多くの想いがこめられた決戦まで、あとわずか……

 

 

  




 

 


  


 


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