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負け組皇子の大逆転  作者: 近藤パーリー
ルンの章~ヒロインと家族の肖像~
8/18

脱出編

ルンの台詞での

「皇后様」=エメルダ

「皇太子様」=ガイスト

となります。

 数日前にゾルメディア帝国本国にある帝都大門を抜け脱出した幾つもの馬車が、ある地点を目指して走っていた。


 その地点とは旧ゾルメディア王国、即ち世界の中心地。


 帝国本国から幾つもの国を越えて最短距離で向かったとしても船と馬車を利用して二週間近くは掛かる。しかも、世界の中心地から50キロ圏内は魔物しか存在しない不毛地帯。

 故に、この世界の誰しもが世界の中心地はおろか、その付近にさえ近寄ろうともしない。


 にも関わらず馬車の一団は、帝都を飛び出して十日程で西の大陸最東端の人里に一泊した後、再び旅立つと、何の迷いも無く魔物達の勢力圏内へと入っていった。


 その一団の先頭、口笛を吹きながら一番大きく豪華な馬車を操縦しているのは金髪碧眼の美青年。


 彼の名はガイスト、ゾルメディア帝国の元皇太子。


 ガイストは父であるゾルメディア帝国スレイン皇帝へ、次期皇帝継承権を放棄する代わりにゾルメディア皇家の皇領である世界の中心地が欲しいと申し出た。

 スレイン皇帝も色々な物を厄介払い出来るし、次期皇帝継承者問題にもケリを付けられるとして、何の役にも立たない世界の中心地をガイストの欲するままに与えた。

 それは我が子に死ねと言っていると同じ事。

 しかし、スレイン皇帝は知らなかった。ガイストには予言の石碑(モニュメント)に記された“魔王の力”、特殊魔法“魔物使い”が備わっている事に。

 だからこそ、人間を憎み襲う魔物しかいない場所でも、ガイスト率いる馬車の一団は無事でいられるのだ。


 ガイストが手綱を握る馬車には二人の女性が乗車していた。


 その二人、ピンクブロンドの髪をした女性は、ガイストと同じ金髪碧眼をした女性に膝枕をされるような姿勢で震えながら(うずくま)っていた。

 金髪碧眼の女性は微笑みながら、震える桜色の髪を優しく撫でる。


「こ……怖い……」

「大丈夫よ。ガイストを信じて」


 怯えている方の女性は、元男爵令嬢のルン。


 ルンは予言の石碑(モニュメント)に記された聖女なのだが、世界最大勢力を誇るゾルメディア帝国の皇子であり、“後に頂点を統べる者”と目されていたアーサーと婚姻しても、聖女の力には目覚めなかった。

 それ故に、もう用は無いとしてガイストと不義密通したという冤罪を掛けられ、罪人として皇城の牢屋へと入れられてしまった。

 そんなルンを助けたのがガイスト。ルンは間違いなく聖女であると確信していたガイストは、ルンと母親である皇后を貰い受ける言質をスレインより取り付けたのだった。


 ルンは不毛地帯へと入った事により、何時狂暴な魔物に襲われるかと怯えきっていた。

 それを金髪碧眼の女性が優しく諭す。


「貴女も見たでしょ、スライムがガイストの言う事を聞いたのを」

「でも……」


 その容姿は儚げながらも優しくルンを労うのは、ガイストの母でありゾルメディア帝国元皇后のエメルダ。


 ガイストは旅の途中、カビのように自然発生的に産まれるスライムをルンや仲間達の目の前を操って見せていた。

 それでもルンは恐怖を払拭出来ないでいた。


「スライムなんかと、世界の中心地にいる魔物とじゃ全然違いますよ……」

「平気よ。ああ見えてガイストは絶対に仲間を裏切らないから」


 ルンの弱気な発言にエメルダは自信をもって応える。

 ガイストが次期皇帝継承権を放棄するまで無事でいられたのは、皇后だったエメルダの尽力があってこそだった。


 スレイン皇帝も元々は幼い頃に婚約をしてしまったからエメルダを皇后に迎えたのであって、本来ならダンテ侯爵令嬢だった側室のテルメを正妃にしたかった。

 しかし、小国とはいえエメルダは元王女。皇家の者が大した理由も無く属国王家の姫と離縁したとなると各属国に不信感を抱かせてしまう。


 けれども、スレイン皇帝にとっても全ての準備は整った。自分と姿形が良く似ているアーサーは、側室が産んだ第二皇子ながらも帝国内においては誰もが次代の皇帝へと望まれる者。

 更には、ガイストとルンが浮気をしていたとでっち上げられた事によって、今まで十分低かったガイストの人気は地の底へと落ちた。

 それによりガイストと皇后エメルダは筆頭公爵家のメルチェ家という後ろ楯を無くしたどころか、本来の婚約者だったディアナもアーサーの新たな婚約者となった。

 これだけの物がアーサーには備わっているのだ、最早皇后の祖国であるプロム王国が何を言おうが他の属国は全てアーサー支持へと廻る。


 何よりもスレイン皇帝は己の子であるガイストの姿形や性格が大嫌いだった。

 何故なら、ガイストはスレイン皇帝の父であるゾルメディア帝国先帝に何もかも似ていたからだ。

 スレイン皇帝は賢帝と名高かった父に何度も煮え湯を飲まされていた。そして幼いガイストにも何度か嵌められた事があった。

 しかし機は熟した。今更自分とアーサーに逆らえる者など何処にもいない。

 後は邪魔な皇室典範なのだが、そこは期を見て力業でガイストとエメルダを葬ってしまえば良い。もう彼等親子を守る者など何処にもいないのだから。


 手始めとしてルンとの不義密通を理由にガイストを廃嫡し、皇后諸とも幽閉してしまおうと考えていたところへガイスト本人が次期皇帝継承権を放棄する代わりに自分の墓を国にしてほしいと願い出た。

 更には、元男爵令嬢ルンも欲しい、エメルダとも離縁して自分に与えてくれとも願い出て来た。

 もし元皇子と皇后を立て続けに暗殺したら属国からも不振がられるし、暗殺という死因を揉み消すのにも骨が折れる。ガイストを廃嫡、幽閉したとしても元々のゾルメディア皇家正室嫡子はガイスト。確実に殺して全てを隠蔽しないと、後々反乱の引き金にもなりかねない。

 けれど、些細な条件さえ飲んでやれば、冤罪の大本となる男爵令嬢を抱えて自分達の方から地獄へ堕ちてくれるというのだ。自室に潜ませている公文書官により、ガイスト自身が発言した内容全ての言質も取っている。

 有り得ない内容の条約を記した羊皮紙にサインしたとしても、この世の地獄である世界の中心地でデンジャラス公国などというふざけた名前の国を興さない限りは何の意味も持たない。人を騙す事に長けたガイストと言えど今度ばかりは年貢の収め時。

 地の底を這い、誰からも見向きされなくなった第一皇子の母親と今更離縁したところで何処からも批判は起こらない。

 それはプロム王国も同様、腹の中は煮えくり返っていたとしても何も言える訳がない。二人の皇族を暗殺するより何倍も楽だ。

 スレイン皇帝は渡りに船とばかりにガイストが提示する条件と条約を飲んだ。


 ガイストが皆を連れて帝都から旅立った後、スレイン皇帝はエメルダとの離縁理由を何の取り繕いも無く、ガイストが求めたからだと公表した。

 そのような戯れ言などプロム王国にとっては屈辱以外の何物でもない。

 これ等の理由から、後々プロム王国は西の大陸で初のゾルメディア帝国からの独立を宣言し、デンジャラス公国の友好国ともなるのだった。

 スレイン皇帝には、本当に言質と証拠を取られているのが自分の方で、数年先の未来がどうなるかなど分かる筈も無かった。


 けれどもエメルダには分かっていた。ヤンチャであったし学問の成績も悪かったガイストだが、物心ついた頃から子供とは思えない程冷静に物事を判断し、皇宮や市井での情報には(さか)しかった。尚且つ持てる駒や状況を上手く利用する事にも手練れていた。

 それはエメルダが最も尊敬するゾルメディア帝国先帝とも良く似ていた。


 ある日、貴族令嬢で固められたテルメの侍女達が皇后であるエメルダに面と向かって馬鹿にした事があった。そういった行為は以前から日常的に行われていたのだ。

 そこへ幼かったガイストが偶々居合わせていた事が彼女等の不運。ガイストは件の侍女達を罠に嵌め、スレイン皇帝自らが皆の前で処罰するように仕組み、誰からも文句を言わせず全員纏めて醜聞付きで解雇、侍女達の実家も没落させてしてしまったのだ。

 それ以来、後宮でエメルダに悪意有る言動をする者は居なく無くなった。


 ガイストは自分を馬鹿だと思っているので自分が馬鹿にされる分には何とも思わないが、身内や仲間に危害が加わると相手が誰であれ容赦無く叩き潰した。

 アーサーもそこは分かっていたので舐めてはいたが下手に手を出す真似はせず、裏で暗躍して皇宮内を己の信者で固める事に重点を置き、ガイスト本人には些細な嫌みを言うに止めていた。

 故に、帝国本国の貴族達は、ガイストを道楽者の馬鹿皇子、無能と罵りながらも、本気でキレた時は貴族にすら牙を剥く狂犬だとも知っていたので皇太子と皇后を孤立させるという手段を使ったのだった。

 帝国の実権を握る者達はガイストの飄々とした表面や、母親がお飾りの皇后だという外見しか見えておらず、誰一人として魔王の力とはまた違う隠された真なる姿に気付かなかったのだ。

 その才能に気付いた僅かばかりの者達、彼等にしてみれば、そんなガイストの性格や才能は心強いの一言である。


 そう、ルンが泥の中より産まれた聖女ならば、ガイストは貴族の持つ狡猾さや残忍さを泥の中で育てた悪党でもあったのだ。


 元々ガイストの根底には、謀略を駆使して相手を地獄へと叩き落とす皇家の血ならでわの陰湿さを持ち合わせていた。けれども元となる性格や人格は前の世界の転生者。気の良い仲間達とつるんでいた能天気な一般ピーポー。

 その相反する2つの人格、性格が、ルンと同じく無理無く同化している。

 故に、敵を地獄へ落とすよりも、屈辱を与えて相手を虚仮(こけ)にする方を好む(たち)であった。

 更には、転生前の妹が彼の人格に多大な影響を与えており、家族や仲間達を守るのは当たり前という考え方に育っていった。


 その全てを纏めて例えるなら、悪の力でもって仲間達を守るデビ○マンのような存在。


 そんな我が子を熟知しているエメルダだからこそ、どんな時でもガイストを信用出来るのだった。

 事実、馬車の一団が魔物達の勢力圏内に入って暫く経っているのに、車窓にはスライム一匹の影すら写らないのだから。


「ほら、もう結構経つのに魔物達は全然襲ってこないでしょ」

「そうですけど……」

「それに貴女は聖女なんだから」

「でも……私は聖女の力に目覚めなかった……今は男爵令嬢ですら無いから何の価値も無いただの役立たずです……」

「そんな事は無いわ。貴女は絶対に聖女だとガイストは断言した。ガイストの言う事は信じられるもの」


 不安な表情のままのルンは、何時までも優しく微笑むエメルダを見据える。


「……何で皇后様はそこまで皇太子様を信じられるんですか?」

「もう、皇后様は止してって言ってるでしょ。今は公太后なんだから。ガイストも大公ですよ」

「でも……何故……?」

「フフ、幼い頃から見ていれば分かりますよ。もし、ガイストが次の皇帝に即位していたなら、先帝様……ジン様の治世のように、更に帝国は隆盛を極め、余計な策など弄せずとも世界の中心地を手に入れてたかもしれなかったしね」


 ジンと言う名の人物こそ、スレイン現皇帝が最も苦手とした父であり、エメルダが最も尊敬する元義父。今は亡きゾルメディア帝国先帝ジン・ゾルメディアである。


 そこまで語ったエメルダの瞳には一抹の淋しさが横切った。


「けれども、結局はそうならなかった。それも全てメルチェ家が裏で糸を引いていたからだけど」


 その台詞を耳にしたルンは、伏せっていた身をゆっくりと上げて恐る恐る尋ねる。


「……どういう事ですか?」

「……そうね、貴女には全てを話しておきましょう」

「えっ?」

「第一王女とはいえ小国の姫でしかない私がゾルメディア帝国皇太子だったスレインと何故婚約出来たと思う?」

「それは……スイマセン、私馬鹿だから分かりません……」

「習ってない事、知らない事は分からなくて当たり前ですよ。それに貴女は元々男爵令嬢、こういった陰謀渦巻く権力劇には今迄無縁だったでしょ」

「…………」


 何も応えられないでいるルンに、スレインとの馴れ初めを語り始めるエメルダ。


「私がスレインの婚約者になれたのは、帝国本国の大貴族や大きな属国に力を付けさせたくないジン様の思惑があったからなの」

「それって……」

「そうですよ。小国の王女が皇后になったからといってプロム王国は帝国全土に然程影響を及ぼさない。言うなれば帝国は現状維持のままでいられるから」

「…………」

「だからスレインの弟妹皇子でも先皇后レイナ様が産んだ正室の子等はプロム王国と同様、小国の王家へと嫁ぎ、大した力の無い側室ドーラ様の産んだ子等は、自らの思うまま自由に嫁ぎ先を選ばせたの。その多くは帝国本国や大きな属国の貴族家へと嫁いでいったけれど」

「それって子供達にしてみたら不公平じゃないですか」


 当たり前の意見にエメルダは悲しげな微笑みを返す。


「そうね。でもレイナ様は本国子爵家のストーム家出身。権力をもって無理矢理捩じ込まれた側室のドーラ様は本国公爵家のアクバン家出身ですからね」

「実家の爵位なんてのが関係しちゃうんですか?」

「そうですよ。けれどもジン様が真実愛してらしたのはレイナ様だけでした。ドーラ様が産んだ皇子皇女達はジン様の子ではないという噂もありましたからね。髪や目の色、顔立ちがジン様やドーラ様と全然違う子ばかりでしたから」

「メチャクチャじゃないですか……」


 自分も男爵令嬢だったが故に使い捨てられたルンは憎々しげに眉間に皺を寄せた。

 ルンの反応は尤もなのだが、エメルダには先帝ジンの苦悩が分かっていた。


「それでもジン様は何も言わなかった。皇帝へと即位したばかりの頃は権力基盤が弱いので、例えドーラ様が不貞を働こうともアクバン家の後ろ楯が必要だったのです。大した権力を持たない側室だったとしても家の名を売る大看板にはなりますからね」

「そんな事の為に……」

「でも私と違ってレイナ様は、御崩御なさるまでジン様の御寵愛を受けてらしたから後宮内で安く見られる事もなかった。御幸せな生涯だったと思いますよ」


 結果論となるのだが、ゾルメディア帝国からの独立を宣言する国々が続々と出てきたのにはこういう背景もあった。

 最も父を嫌っていたスレインが皇帝に即位して、何故正室直系の皇子皇女である自分達は、皇家の血を引き継いてない子等よりも力を持たない家に嫁がなければならないのか。そういった思いと共に、表向きは逆らえないが、元々側室の子であったアーサーが次の皇帝へと即位するという事が面白くなかったのだ。


 そんな時、本来帝国を継ぐ筈だった皇家正室直系嫡男で、先帝ジンの面影を持つガイストが世界の中心地=無限の資源を引っ提げて現れた。

 当初は魔王と呼ばれるガイストを牽制していた彼等だが、プロム王国の独立宣言、デンジャラス公国との国交樹立と軍事同盟締結を皮切りに考え方が変わった。

 自分達を弱小王家へと嫁がせた父が、聖女と共に無限の資源を携えて助けに来てくれたと思ったのだ。

 そうなると、後は国力の大小に関わらず先にデンジャラス公国と友好関係を築いた国が西の大陸において優位に立てる。無限の資源をより多く確保、魔王軍の庇護下に入れば国力や軍事力など何の問題も無くなるからだ。そして我先に次々と帝国を裏切っていった。

 それを見た各弱小属国も、先帝ジンに似たガイストの元へと走っていった。


 そう、元々彼等は帝国への忠誠心が薄かった事と、ガイストの容姿や帝都では無能と呼ばれていた性格に(ほだ)されてしまったのだ。


 故に、最終的には西の大陸での国力No.1はプロム王国、No.2が先ゾルメディア皇家正室直系の子等が嫁いでいった国々とガイストの息が掛かったロッケンロー王国。先ゾルメディア皇家正室の血を継いでいながら冷遇されていた者達が力を持つ結果となった

 先側室の産んだ子等が嫁いでいった大きな属国が何時までもゾルメディア帝国にぶら下がっていた為に、デンジャラス公国との友好関係を築く事に出遅れてしまう。

 欲を出して帝国本国の上位貴族へと嫁いでいった者達は国すらも滅ぼされ自身も下位貴族へと降爵、最悪の末路は御家取り潰しとなった。


 転生した後も権力とは無縁の中で育ったルンには、このような未来が待っているとは今はまだ夢にも思えず、エメルダの(もたら)す話が新鮮で不思議に感じられた。


「そんな事情が……皇帝なのに奥さんも自由に選べないし、本当の子供も幸せに出来ないなんて……」

「でも、まだ幼かった私はスレインとの婚約が嬉しかったわ。ジン様はそれを見越してらしたから病弱なレイナ様の療養名目で、よくプロム王国へお越しになってたからね。子供だった私とスレインも仲が良かったし、よく手紙のやり取りもしていました。それをメルチェ家が邪魔をしたのです。そういう意味ではスレインもメルチェ家の被害者と言えますね」

「確かメルチェ家ってゾルメディア帝国の筆頭公爵家で、悪の親玉」

「あら、よく知ってますね?」


 思わず、乙女ゲームの知識が出てしまったルンは慌てて取り繕う。


「あわわわわ! ちっ、違うんです! 私の友達の友達の友達から聞いただけなんです!」

「そうなの? でも、貴女の友達の友達の友達の言う通りですよ。メルチェ家は帝国本国の筆頭公爵家。そして全ての元凶。彼等は次の皇后を自分達の息の掛かった家の令嬢にしたかった。そうすれば、次期皇帝もメルチェ家に連なる者となるし、帝国全土において逆らえる者など何処にもいなくなるから」

「そんな事言っても、もうスレイン様には皇后様がいるじゃないですか」

「だから彼等は策を弄し、更には2つの保険を掛けたのですよ」

「2つの保険?」


 首を捻るルンにエメルダは僅かばかり目を細めた。


「本来、私は帝都にある帝立フレンドプル学園に留学して、スレインと共に勉学を学び、親好を深める予定でした。それをメルチェ家がプロム王国近隣の属国に反逆の疑いがあるとして、私の留学を取り止めにしてしまった。そして、私からの手紙も近隣諸国が帝都の内情を探る為の物かも知れないと言って全部握り潰してしまったの」


 如何にも乙女ゲームという名の帝立フレンドプル学園とは[レジェンド・オブ・モニュメント]アドベンチャーパートの舞台となる学園でもある。

 自分が男爵令嬢のヒロインとなって攻略対象者と恋愛する場面しか知らないルンにとっては、この世界で脈々と受け継がれてきた歴史の裏側など思いも寄らなかったし、メルチェ家の横暴に納得出来なかった。


「そんな理屈って……」

「帝国本国筆頭公爵家の権力は下手な属国など逆らえない。要は疑惑であれば良いのですよ。私が学園に留学する数年間だけ嫌疑を掛け続けられれば良いの。結局嫌疑は晴れましたからね。当然と言えば当然なのだけれど」

「何故メルチェ家はそんな真似を?」

「私が学園に留学すると都合が悪いから。当時のメルチェ家にはスレインと同年代の令嬢が居なかったけれど、寄子のダンテ家には見目麗しいと評判のテルメ様がおられた」


 そこまで聞かされては、流石に鈍感なルンも事情を悟った。


「まさか! 巷で噂されていた純愛じゃないんですか!」

「さあ、どんな噂か知りませんが、婚約者がいる相手にすり寄るのが純愛というのならば純愛なのでしょう。無理矢理な理屈を付けられて握り潰された手紙が来ない事に「婚約者としての資格が無い」と風潮する事が最良の言葉ならば最良なのでしょう」

「うっ……」


 元々乙女ゲームのヒロインでもあるルンは言葉に詰まってしまった。

 ここにきて攻略対象者達に送るヒロインの言葉の数々が、客観的に見ると有り得ない事だと気付いたのだ。


「そしてメルチェ家の思惑通り、スレインはテルメ様を溺愛してしまいました。当時皇帝だったジン様にも周辺諸国の反逆を理由に私との婚約を破棄したいと申し出たそうです。けれど、他の弟妹達も数多ある小国王家との婚約が幼い頃から成っていたので、その申し出は巌として受け入れられなかった。あくまでも反逆の疑いがあるのは周辺諸国ですからね」

「そんな裏があったんですか……」

「それでもテルメ様と一緒になりたいのなら、次期皇帝継承権を放棄して皇族からも籍を抜き、一介の騎士となれ。そこまでするなら皇命を使ってダンテ家に婿入りさせてやると仰られたの」

「確かにそれなら、何の権力も持ってないんで側室様の子と同じく有力貴族の元へ嫁げますもんね」


 ルンの返答を聞いたエメルダは、微笑みを深くしてニコリと笑った。


「フフフ、やはり貴女は馬鹿ではありませんよ。これだけの情報で、よくそこに気付きました」

「そんな事」

「いいえ、貴女はガイストが認めた女性。私は絶対に貴女を何処に出しても恥ずかしくない最高の淑女へと育てます」


 急に誉められて恥ずかしくなってしまい、ルンの頬は微かに染まったが慌てて話を元に戻そうとする。


「いっ、いえ、でっ……結局、スレイン様とテルメ様はどうなったんですか?」

「スレインよりも寧ろ、ジン様の御言葉を聞いて慌てたのはメルチェ家の方ですよ。だってそうでしょ。折角テルメ様に籠絡させた次期皇帝だったのに、庶民と殆んど変わらない騎士になってしまうかも知れないのだから」

「例えただの騎士になったとしても、絶対服従の皇命を使われたら婚姻は断れませんよね?」

「そうですよ。愛する者と婚姻する為に継承権を放棄したというのに、騎士になったとたんそれを反故になんて事は当然出来なくなる。スレインを罠に嵌めたり殺そうとしても皇命を言い渡したゾルメディア皇家からは絶対睨まれるし、間違いなく真実を暴かれてしまうでしょうしね」


 ここで、ルンは閃いた。


「あっ! だから側室様なんですね!」

「そうですよ。あくまでも二人は純愛、しかし私との婚約破棄は出来ない。ならばスレインが皇帝に即位した後に側室として娶ればいい。それまではテルメ様を皇太子の愛妾として囲えば良いと彼等は考えました。これが1つ目の保険です」

「ほえ~よく考えられてますね~」


 思わず素で驚いてしまうルン。けれども、まだ種明かしは続く。


「フフフ、スレインとしてはダンテ家へ婿入りする気満々だったらしいけど、メルチェ家が必死で止めたみたいですよ。皇室典範により一度継承権を放棄してしまったら二度と皇帝にはなれませんから」

「ですよね」

「何より美人令嬢と評判で、有力貴族からの婚約申し込みも引く手あまただったテルメ様の元に、庶民同然の者を婿入りさせるさせるなんてダイヤモンドを泥の中に捨てるようなものですからね」

「成程、スレイン様だけじゃなくテルメ様の意味も無くなっちゃうんですね」

「その通りですよ。良く理解できましたね」


 また褒められたルンは照れくさそうにはにかんだ。

 今迄の会話の全てを納得したので、調子に乗って些細な疑問を投げ掛ける。


「でも先帝様もそこまで自分の子が頼んでるんだから、騎士と言わず大公ぐらいにはしなかったのですか? 大公なら一代限りですよね?」

「テルメ様の後ろにメルチェ家が居るのはジン様も見抜いていたのですよ。それに一代限りとはいえ大公家なら産まれた子をまた皇家へと養子に出す事が出来るかもしれないでしょ。そうなったら(はかりごと)次第では次期皇帝継承権No.1の皇太子にさえなってしまう可能性すらある」

「あっ、そうか」

「ジン様はちゃんと次代も見据えていたのですよ。それでもメルチェ家は筆頭公爵家。皇帝と言えども物申す事は中々出来ない。だから反逆の疑いがあるという虚偽報告には後手に廻ってしまった」


 次から次へと繰り出される権謀術数に、どんどんと引き込まれていくルン。

 ルンも女子なので、自分の身に降り掛からなければドロドロ劇は好きなのである。

 当初の震えは完全に収まり、話が続いていく度に内容を理解して、返す言葉も多くなっていく。


「でもそれって両刃の剣でもあるんじゃないですか? だって嘘がバレたら間違いなく皇帝様から御叱りや何らかの処罰を受けますよね?」

「ええ、けれどもテルメ様が皇太子妃になりさえすれば、それ等は全て帳消しと同等の価値を持つ。だからジン様は、スレインどころかテルメ様にまで何の利用価値も無くなる罠を仕掛けたのですよ」

「あったま良い~!」


 ルンは無邪気に喜び、エメルダもほくそえんだ。


「表向き、皇命を用いて純愛を貫く元皇太子の手助けをすれば、皇家は庶民にも貴族にも人気が出る。片やメルチェ家は何の旨みが無くとも庶民同然の者を寄子令嬢の婿として絶対受け入れなければならない」

「見事な倍返しですね」

「結局メルチェ家は多数の属国にあらぬ疑いをかけた処罰として下位貴族の寄子を幾つか潰し、一定規模の領地を皇家へ返還。安くない罰金も支払いましたからね。結局スレインも私を皇太子妃として娶りましたよ」

「そこまでやって側室止まりですか? 先帝様って凄かったんですね~。何の問題も無く逆に相手を追い込むなんて」

「貴女がフレンドプル学園へ編入出来たのもジン様のお陰ですよ」

「えっ! そうなんですか!?」


 思わぬところでジンが出てきた事に驚いたが、次に聞いた内容で、ルンは言葉を失ってしまう。


「ジン様は学力などは二の次、三の次として、身分に関係無く誰であろうと、より個性的で独創的な者を全ての学費免除で入学させる特別枠を一定数儲けました。後の帝国文化を担う芸術家の卵を育てるとして。そこにニルス家へ引き取られた貴女が引っ掛かったのですよ」

「…………」

「普通は、読み書きが出来なくても特種な才能に秀でた庶民ばかりがその枠に入るのですが、貴族では貴女が初めてでしたよ」

「…………」


 ルンが引き取られたニルス家は普通の男爵家。名門とされているが授業料も帝国一と謳われるフレンドプル学園へ普通に入学するなど夢のまた夢。

 それに、親に連れられて初めて行った学園で面接らしき物を受けた覚えはあったが、入学試験を受けた覚えは確かに無かった。

 それでも私は乙女ゲームのヒロインなのだからどうにかなるだろうと考えていたら本当にどうにかなってしまった。

 ヒロイン編入の裏側にはこんなカラクリがあったと初めて知らされたルンは、何も言えなくなった。

 遠回しに馬鹿だと言われたみたいで泣きたくなる心とは裏腹に、エメルダは真逆の反応を示す。


「本当に凄いわ。後にも先にも貴族では貴女だけだったもの。ある意味、貴女はジン様のお目がねにかなったのよ」

「……あ……有難う…………御座います……」

「だからアーサーもガイストも貴女に目を付けたのからしら?」

「そ……そうかも……知れませんね……」


 言葉少なに応えるしか出来ないルンだった。

 そんな思いを余所に、エメルダは更に先帝ジンの偉業を語り続ける。


「他にもジン様は、魔物に襲われる場所を正確に調べ直して旧ゾルメディア王国皇領より50キロ圏内と定め、陸路海路問わず帝国内の全交通網を整備し直したのですよ」

「そんな事まで?」

「ええ。それに伴い交通機関も綺麗に整えられたから、私達は十日程で此処まで来れたのです。そうなるとスレインが暗殺者(アサシン)を送ったとしても、もう追い付けませんよ」

「あっ、暗殺者(アサシン)って!」

「グレン達が船のスムーズな乗り継ぎや馬車の速度を計算した上での移動ルートを全部調べ上げ、関所や宿泊先の手続きも事前に済ませておきましからね。普通ならどんなに最短でも二週間以上は掛かりますよ」


 自分達がそれほどまでに危ない橋を渡っていたのだと今更ながらに気付かされたルン。

 けれどもガイストの仲間達はそんな素振りを一切見せず、世界の中心地へ向けて一直線に笑いながら旅を続けてきた。


 今回の場合、暗殺対象が逃げていたとしても暗殺者(アサシン)は普通の庶民に扮して追いかけなければならない。

 もし、無理矢理国境を越えて属国の騎士団に捕まってしまうと、元皇太子親子暗殺という任務内容がバレてしまう危険性が有るからだ。帝国本国が属国に弱味を握られてしまうと如何程の要求をされるか分かった物ではない。

 寧ろ皇帝の密命だからこそ、暗殺者(アサシン)は普通の最短ルートで出来る限り速く追うという手段しか使えないのだ。

 金に物をいわせて早馬を何度も使い潰し買い換え、優先的に船に乗ったとしても、船と船の乗り継ぎ時間は待たなければならないし、関所では絶対に足止めされてしまう。


 だからこそガイスト達は事前に下調べを全部済ませ、万全の態勢を整えてから帝都を出発したのだった。

 まぁ、複雑な準備の陣頭指揮をとったのは全てグレンだが。


 暗殺者(アサシン)の存在を知らされ、改めて肝が冷えるルンに対して、何の不安も感じなせない微笑みのエメルダ。


「一昔前なら陸路で迂回の連続ばかり。世界の中心地最寄の国へ着くまでに二ヶ月以上は掛かっていたでしょう。何より時間短縮や大量の物資運搬の生命線とも言える海路が世界大戦以来、全くと言って良い程整備されてなかったから。それをジン様が全て綺麗に整えたのです。これに習って別大陸の国々も同じ政策を始めたのですよ」

「へっ……へええ……すっ、凄いですね~」


 ルンは平気を装おうとするも、頭の片隅に暗殺者(アサシン)の存在がちらつき変にビビってしまう。

 逆にエメルダは、尊敬する先帝ジンの偉業を捲し立てる。


「大型船の増強を指示したのもジン様。そのお陰で西の大陸と対極に位置する東の大陸との交易も活性化しました。遠くの国々とも国交を持つに至りましたし。ジン様の治世は短かったけれど、今では歴史の教科書に載る程の賢帝とされていますからね」


 そう言われても、ルンは学園へ入った直後からアーサーの魅了に掛かっていたので授業内容を一切覚えていなかった。

 それに、乙女ゲーム本編でも先帝ジンなんてキャラクターは出てこなかったので今の今まで全く知らなかった。

 ただ、さっき聞いた内容や、これだけエメルダが絶賛する人ならヤッパリ凄い人なんだろうとは理解出来たが。


「切れ者で全属国王家や貴族どころか、全帝国庶民からも絶大な信頼を置かれていたジン様にはメルチェ家も迂闊な真似が出来なかった。だから次代の皇帝となるスレインに的を絞って勝てると思い、反乱劇をでっち上げたのですよ。それでもジン様の方が一枚も二枚も上手でしたね」

「これが貴族の騙し合いってやつですか?」


 ダイアから聞かされ頭の片隅に残っていた言葉が無意識に口をついて出てしまう。


「そうね。下位貴族や普通の庶民には縁が無いでしょうけど。でもジン様の凄いところはこれだけじゃないのよ」

「へっ?」

「またジン様の(はかりごと)によって、メルチェ家は再度予期せぬ事態に見舞われたの」


 エメルダはすっとんきょうな声を出したルンに、先帝ジンの幼少の頃を聞かせる。


「ジン様は切れ者だったけど同時に変わり者でもあったの。何せ子供の時分から護衛を撒き、皇城を抜け出しては身分を隠して市井で遊び回ってたらしいですよ」

「……それって皇太子様と一緒じゃないですか……」

「そうですね。ガイストが狡猾だったり変わり者なのもジン様から受け継いだのかも知れませんね」

「ですね…………ああああ! スイマセン!スイマセン!」

「フフフ、構いませんよ。そこは私も分かってますから。それにジン様も若い頃から出来損ないの皇太子って言われていたみたいですからね」

「……本当に一緒じゃないですか……」


 慌てて謝ったのにエメルダもガイストの事を十分知っていたので取り繕う事も馬鹿らしくなってきた。


「ジン様は元々継承権を放棄して大公家を興し、悠々自適な独身貴族生活を送ろうとしていたのですよ。でも、ジン様の御弟妹は病弱な妹皇女のチョウカ様唯一人だけだったから継承権を放棄出来なかったの」

「嫌でも皇帝にならなきゃいけなかったんですか? 普通の貴族なら奪ってでも欲しがりそうな地位なのに」

「幾つかの公爵家も、当時の皇后様や皇太后様に自家からの養子縁組を奨めたりもしたのよ。本国の貴族達も不安だったのね。出来損ないと呼ばれる皇子が次の皇帝になる事に」


 出来損ないと呼ばれた先帝ジンと、無能と呼ばれたガイスト元皇太子。


 ルンは二人の負け組皇子に不思議な縁を感じた。


「皮肉な物ですね。蔑まれてた人が今じゃ賢帝と呼ばれるなんて。皇太子様も綿密な脱出計画を立ててるし。貴族って見る目が有るのか無いのか……」

「そうね。でも皇后様と皇太后様は養子縁組みを全て拒否した。御二人は何故かジン様を溺愛していたの。フフフ、私と考え方が一緒ですね」

「馬…………………………やっぱり自分の子や孫が一番可愛かったんじゃないですか?」


 一瞬「馬鹿な子ほど可愛い」と言いそうになったが、直接言葉にするのは流石に抵抗があったので、何とか思い止まった。


「かも知れませんね。しかし皇帝に即位するまで何の後ろ楯も育てなかったジン様は、ドーラ様を側室として迎えないといけなかった。当時若かったドーラ様も御家の為に、既に老人に近かったジン様の元へ嫁いだ。だから白い結婚でも恩あるアドバン家の為に離縁せず、不貞にも目を瞑っていた。賢帝の影の部分ですね」

「…………」


 この世界では十代で子を成す事は当たり前。けれどもジンは独身時代が長く、普通なら孫がいても可笑しくない年齢で皇帝に即位した。

 御家の道具として老人の元へ嫁がされる貴族令嬢と、妻の不義を知りながらも何も言えない皇帝。

 歪さで成り立っていた関係にルンは何も応えられない。


「そうなる前、ジン様は四十歳を過ぎても次期皇帝継承に必要な皇太子妃がいなかった。そんな時、チョウカ様の主治医を通して当時子爵令嬢だったレイナ様と出会われ、漸く年の差婚なされたの。本当に先々帝様が崩御なさる直前だったらしいですよ」

「お~、賢帝誕生危機一髪ですね~」

「皇室典範では皇帝崩御事、皇太子に皇太子妃がいなければ継承権第二位以下の者が繰り上がり皇帝となる。ジン様の次は皇帝と皇后と皇太后の許可を貰った側室の子、この場合チョウカ様ですが、皇女は女帝にはなれないのです」


 ここでルンは、不思議そうに首を傾げた。


「そういえば、ゾルメディア帝国って今までも女帝はいなかったですよね?」

「一応女性にも継承権があるですが、皇女は産まれて直ぐに皇帝、若しくは皇太子といった皇族が保護者兼代理人として継承権を放棄するという習わしがあるのですよ」

「女性にしてみると嫌な習わしですね」

「フフ、そうですね。でもチョウカ様が女帝になれないなら、次は先々帝様の御弟妹で、属国の王家や臣下に婿入り嫁入りした御方の子や孫を儀礼上皇家の養子、つまり皇太子として迎えた後、皇帝となります」


 更に、これ等の優先順位を全てブッ飛ばした継承権No.1は、継承権順位に関わらず、皇帝、皇后、存命なら皇太帝、皇太后(二人とも存命なら皇太帝が認めなくとも皇太后が認めればOK、皇太帝しか存命していないなら皇太帝が認めなくてはならない)が認めた皇族となる。けれどもジンの時は当然それも居ない。

 故に今回の場合は、先にエメルダが言った通り、ジンの従兄弟(いとこ)従兄弟違(いとこちがい)が次の皇帝となる。


 次期継承権に厳しいゾルメディア帝国において、歴代の皇帝は殆んどが皇后の産んだ嫡男、若しくは次男で、二人だけ大公家より養子に迎えた男子。側室の子の次期皇帝継承権が皇后の子の次であっても、結局は養子縁組みと同じなので皇室典範の巧妙さが邪魔をして付け入る隙が無かったのだ。

 だが、当時のジンとしては、例え側室でも弟を産んでくれたら幾らでも継承権を放棄する気満々だったし、養子でも何でもドンと来い状態だった。にも関わらず、側室から産まれたのは病弱で、尚且つ女性のチョウカだけ。しかも皇后と皇太后は何処からも養子を取らなかった。


 エメルダは複雑な皇室典範やゾルメディア皇家の内情、更には先帝ジンの個人事情を説明する。


「当時のゾルメディア皇家としては、帝国初、先帝の甥や又甥からの新皇帝誕生は出来る限り避けたかったので、皇太子であるジン様の継承権放棄は許されなかった。それでもジン様は自由な独身貴族生活の為にギリギリまで粘って何時までも結婚しなかったそうですよ」

「そういう意味じゃ、最後の最後でレイナ様が現れてくれて助かりましたね」

「ええ、だからスレインやその弟妹達はジン様がお歳を召した時の子供なのです」

「ひえ~、もう四十歳を過ぎてたんですよね? 頑張りましたね~」

「凄いわよ、何せ五十歳を越えてからも子宝に恵まれたのだから。ホント、どの口が独身貴族生活を望むなんて言ったのかしら」

「……五十……」


 先帝ジンの性力にジト目で呆れ返ってしまうルン。

 しかし、遠い未来にガイストと自分が同じ偉業を成すとは、今はまだ知る由も無かった。


 そして話は確信部分へと入っていく。


「皇后だったレイナ様は元々体が強い人では無かったから、ジン様より早く崩御なされていた。多くの皇子皇女達を産んだのも奇蹟に近かったの。だからメルチェ家にとって色々と邪魔な皇太后は存在しない」

「確かに、皇太后様って次期皇帝継承権に何かと絡んできますもんね」

「ジン様は御年を召して即位されたので、崩御なさるまで皇帝であったとしても先は長くない。実際に私がゾルメディア皇家へ嫁いだ辺りから体調を崩され始めたから。ここまでは分かるわね?」

「はい」

「例え今の皇太子妃、次の皇后が私だったとしても、スレインが皇帝へと即位した後、テルメ様を側室として娶り、皇子を成せばメルチェ家は当初の企み通りだったのよ。スレインが白い結婚を貫けば数年後には皇室典範により私と離縁出来る。離縁後の皇后にテルメ様を据えれば良いのだから。そうすれば元側室の子でも皇太子になれるから」


 そこまで聞かされたルンは、またもや閃いた。


「まさか……ガイスト…………皇太子様ですか?」

因みにキャラクターネームは


元皇后エメルダ→宇宙海賊クイーン・エメラ○ダス

側室テルメ→銀河鉄道9○9のメー○ル

先帝ジン→エー○をねらえ!の宗○仁

先皇后レイナ→マシ○ロボ・クロノスの大逆襲のレ○ナ・ストーム

ストーム子爵家→上と同じ

先側室ドーラ→魔境伝説ア○ロバンチの蘭○一家

アクバン公爵家→上と同じ

帝立フレンドプル学園→うる○やつらの友○高校の英語読み(friend pull)

妹皇女チョウカ→エー○をねらえ!の竜○麗香(お○夫人)

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