プロローグ
プロローグは読まなくても本編に支障は御座いません。本編でも同様の内容が出てきますが、細かい箇所での符合の一致を求めるなら、御覧頂けた方がより楽しめます。
“戦いに破れた者が魔王となって魔物を操り、この地を中心として、世界を席巻する。
泥の中より産まれた聖女が、後に頂点を統べる者と神前で婚姻すると同時に己の力に目覚める。
聖女の力は荒廃した地を潤す。
更には、聖女と統べる者との間には唯一の勇者が産まれ、最終的には無限の大地に千年王国を築くだろう”
世界の中心地、旧ゾルメディア王国、現ゾルメディア帝国領内において、無限の資源所在地及び、神の住居だったと伝わる神殿に安置されている予言の石碑より。
~~~~~~~~~~
『その昔、無限の資源が存在する世界の中心地の王国に、二人の聡明なる兄弟王子が居た。
兄である第一王子の名はルーク。王族特有でも珍しい銀色の鬣を持つ彼は智に優れ、その智謀故に貴族達への人身掌握に優れた。
弟である第二王子の名はゲイザー。兄王子程ではないが、王族特有の金色の鬣を持つ彼は武に優れ、その誠実さ故に庶民達からの人気が高かった。
二人共に国を思い、我こそが次代の王だと思った。
二人は次期国王の座を巡り、苛烈なまでの継承権争いを行う。
そして遂に、玉座に座す父王の言葉で次代の国王、王太子は第一王子のルークと決まった。
智謀に優れたルークに一日の長があり、誠実故にゲイザーは敗北したのだった。
王太子となったルークは直ぐ様ゲイザーに付いた者達を一掃する。
ゲイザー自身も無実の罪で捕らえられ、死刑を宣告される。
死を待つばかりの牢獄の中で、ゲイザーが無念と怒りで身を焦がした時、その力は目覚めた。
それは予言の石碑に記されている魔王の力。
ゲイザーは魔物を使って牢獄を破壊し、その場から逃げた。
更には魔物の大軍を操り、王国へと攻め入った。
王国は強大で強力な魔物達に成す術な無く蹂躙された。
民は世界の中心地を追われ、西へと逃げ延び、その地に王国を移すしか無かった。
だが、ゲイザーは元の王国、世界の中心地だけでは飽きたらなかった。
全世界に向けて宣戦布告。
ここに、世界中をも捲き込んだ魔物と人間の大戦が幕を開けた。
無限の資源を糧にした魔王ゲイザーと操りし魔物達は、全世界に荒れ狂う。
ルークも一国の王太子として前線で戦うも、ある時魔物の凶牙が彼を襲い、その身に大きな怪我を負う。
ルークが荒涼とした前線で傷付き陣地で伏せっていると、一人の庶民の娘が献身的に彼の看護を行った。
娘の名はシェラ。ルークはシェラに心奪われ、シェラもルークを愛した。
そして二人が、魔物被害によって崩れかけた前線の神殿で二人だけの婚姻を交わした時、シェラはその力に目覚めた。
それは予言の石碑に記されている聖女の力。
ルークは直ぐ様、聖女となり自身の妻となったシェラを連れ、再び西の王国へと戻る。
だが、父王は心労の為に死の直前であった。
父王崩御の後に新国王として立ったルークは、その智謀を生かして魔王が操る魔物と戦う全世界の国々に激を飛ばした。
「我が妻は予言の石碑に記されし聖女也」
その言葉を耳にした全世界の国々は皆が協力し、ルーク国王の治める国を人間側のリーダーと定める。
聖女シェラ王妃も己の力を最大限に生かし、周辺諸国を大戦前と同様の緑豊かな大地へと戻す。
またその後、ルーク国王と聖女シェラ王妃との間に待望の王子が産まれる。
王子は産まれながらにして、類い稀なる力を持っていた。
王子は予言の石碑に記されている勇者だった。
勇者の名はバーン。当初バーンは赤子ながらも凄まじい力を持っていた。
故に、周りの者の手を焼かせたが、物心が付くと己で力の制御が出来るようになっていく。
そして、赤子から少年へ、少年から青年へと成長し、遂に魔物達と対峙の時を迎える。
勇者が跳ねれば空を飛び、勇者が走れば嵐吹き、勇者が剣を振るえば鋼の鱗を持つドラゴンすらも一刀両断にした。
しかも、その身はミスリルすら通らず、毒を盛ろうとも効かず、炎にくるめようとも焼けず、氷に閉ざそうとも勇者を止める事は出来ない。
軍を率いれば連戦連勝。勇者は母である聖女に似た優しげな面影に大地色した茶色の鬣を持っていたが、その智謀は父のルーク国王譲り。
勇者の次に産まれた弟王子。父親譲りの珍しい銀色の鬣を持つその名はギムレットも、兄王子、勇者バーンへ協力。
ギムレットは勇者でこそなかったが、その智謀は内政面に明るく、魔物達に対しても兄王子に負けず劣らず獅子奮迅の活躍を見せる。
ここにきて二十年近くに及ぶ魔王と全世界の勢力は勇者率いる人間側へと傾いた。
長い長い戦いの末、人間が魔物より取り戻す場所は、遂に魔王の拠点である世界の中心地のみとなる。
けれども、全世界人間側のリーダーたるルーク国王は全面対決、世界の中心地への総攻撃よりも魔王との和平を提案する。
例え世界の中心地を取り戻せたとしても、我々の被害もただではすまない。
ならば、昔の因縁を忘れ、共に手を取っていこうと。
これに心打たれた皆は、魔王ゲイザーの元へと使者を走らせる。
使者は魔王に世界の中心地の東側半分を魔王の領土に、西側半分を人間側の領土に、無限の資源は魔物と人間が共により良く扱おうという旨を伝える。
例え無限の資源が存在する世界の中心地といえども、このままでは勇者率いる全世界に倒されてしまう。
二十年にも及ぶ兄弟喧嘩の幕引きには丁度良いとも思い、魔王ゲイザーはルーク国王からの提案を飲む。
斯くして、世界の中心地と西の人間側領土の中間点による、和平協定調印式は行われる。
魔王ゲイザーは元来、武に優れ、誠実な王子。
故に、多数の魔物の供を引き連れながらも、人間側へ友好的に接する。
魔王ゲイザーが、全世界人間側のリーダー、ルーク国王の隣、調印の為に檀上に登る。
そして、調印の為のペンを持った瞬間にそれは起こった。
地中に潜む暗殺者が手に持つ剣で、背中から魔王の心の臓を一突。
そう、ルーク国王は最初から魔王と和平をするつもりは無かった。
最初から目的は、世界の中心地から魔王を誘い出しての暗殺。
世界の中心地全てを己の手に入れる為の虚偽。
更には、王家の血を引く魔王を殺し、後顧の憂いを無くす事がルーク国王の真実。
しかし、これほどの卑怯な行いに勇者バーンは使えない。
勇者バーンは智謀こそ父親譲り。だが、戦いの中で育ったが故、性格は魔王ゲイザーに良く似ている。
皆への裏切りは、例え父であっても勇者バーンは許さない。
だからこそ、ルーク国王は忠実なる己の手の者だけで、魔王暗殺を成した。
余りの鮮やかな暗殺劇に、勇者バーンも目の前で起こった悲劇が信じられず、動けずにいた。
だが、ここで暗殺劇以上に誰もが予想し得なかった事が起こる。
後は死すだけの魔王ゲイザーが、ルーク国王の裏切りに激怒。
最後の命令を全ての魔物へ発信する。
「世界の中心地に集い、人間共を憎み続け、其処を絶対に死守しろ!」
忽ち調印の場は大混乱。
魔王最後の命令を受けた魔物達が、暴れ狂い人間達に襲い掛かる。
これは全く予想していなかったルーク国王。
調印台に立ち、最も魔物達側の近くにいた為、突撃してきた魔物に護衛していた騎士共々吹き飛ばされ殺されてしまう。
人間を憎む魔物達の勢いは誰にも止められず、勇者バーンもここは一先ず引く事を考え、皆を守りながら元の西へと逃げて行く。
そして、全ての魔物達は世界の中心地とその周辺のみに屯し、それ以上は外へは出てこなくなった。
この時点で、世界のリーダーであったルーク国王の裏切り。世界の中心地とその周辺にしか魔物達は存在しない。それに、長期に及ぶ大戦で全世界の人間側も疲弊の極み。
以上の事から鑑みる。世界の中心地は勇者が王子であるところの王国の領土ながら手を出さない。魔物犇めく荒涼とした世界の中心地周辺は何処の国の領土でもないとの結論に全世界の国々は同意する。
ここに、二十年にも及んだ魔王と全世界との大戦は幕を閉じた。
それからの勇者バーンは西の国々に乞われ皆の為に尽力す。後に宗主国の皇帝に即位する。
聖女シェラも人々の為に尽力す。大戦の傷跡深い大地を緑豊かな大地へと戻し、後に皇太后となる。
弟王子のギムレットも、兄のバーンに協力し国作りに尽力す。後に大公となる。
そして、聖女シェラ、勇者バーン、大公ギムレットが起こした大国は、元あった世界の中心地の国名から“ゾルメディア帝国”と名付けられる。
ここに予言の石碑は成就された。
全ては石碑の伝説の通り』
吟遊詩人の吟う“聖女と勇者と魔王の伝説”より。 詠み人知らず。
~~~~~~~~~~
乙女ゲーム[レジェンド・オブ・モニュメント]オープニング兼プロローグ