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清楚系ビッチ妹のデレ期はうれしくない  作者: かごめごめ
♥第4章♥

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妹の胸に抱かれて

「また話を聞いてくれ」

「……今度は、どっちの?」

「俺の“違和感”についてだ」

「コウちゃん、俺をカウンセラーかなにかと勘違いしてないだろうね?」

 なんて言いつつも席を立ち、空き教室への移動を促してくる湊だった。


「ふぅん、つまり――“甘えられているとき”は違和感があるけど、“セックスしているとき”は違和感がない、と。似たような状況にもかかわらず」

「そうだ」

 俺は自分が感じたことすべてを、余すことなく湊に説明した。

「……それってやっぱり、違和感の正体はムラムラだったってことにならない? コウちゃんは一方的に甘えられることで『早くエッチしたいのに!』というムラムラ(フラストレーション)を抱えていたが、晴れて願いが叶いスッキリ……違和感は消えてなくなった」

「いや、なくなってはないんだ」

「性欲が回復したってこと?」

「違う、性欲から離れろ。あのあと家に帰ってから……芳乃はいつものように俺に甘えてきた。そのときは、確かに感じたんだ」

「……なるほど。それは確かに性欲じゃ説明がつかないね。コウちゃんが妹に欲情するはずないんだから」

「そういうことだ」

「となると、いったい……」

 顎に手を当て、じっと考えこむ湊。やがて、なにかに気づいたようにハッと顔をあげ……


「まさか、そういう……ことなのか? 今になって、影響が……?」


 ぼそりとそんなことを言う。

「なにかわかったのか?」

「……“甘える”というのは完全に一方通行の行為だが、セックスは双方向のコミュニケーションだ。相互に甘えている、と捉えることもできる。つまり、セックスによって違和感は緩和された、と考えれば……」

「おい、俺にもわかるように説明してくれ」

「……俺の推測が正しければ」

 俺の目を見て、湊は言う。


「俺にはどうしようもできないし、コウちゃん一人で解決できる問題でもない。でも、ただ一人だけ……いる。問題を解決できて、そして責任を取るべき人間が」


「責任……?」

 湊は結局、肝心な部分はなにひとつ教えてくれないまま、別れ際、独り言のように、

「気は進まないけど……話しておくか……」



 あやねとは途中で別れ、俺は芳乃と二人、家路をたどる。

 道中、芳乃はずっと――様子がおかしかった。

 陰鬱なその表情は、なにかを思い悩んでいるように見えた。

「大丈夫か?」

「……え、なにが?」

 おまけに、上の空。

 俺にちらりとだけ視線を向け、すぐにまた前を向いてしまう。

「……ごめんなさい」

 風の音にかき消されそうなほど小さな声で、ぽつり、と芳乃は言った。

「……」

 本当に、どうしたんだ……?


「このあと、わたしの部屋に来て」


 帰宅するなり、玄関先で俺に背を向けたまま、真剣な声色で言った。

 ……そうだな。

 なにか思い悩んでいることがあるなら、思う存分甘えさせてやって、気を晴らしてもらうのがいいかもしれない。

 そのつもりで、いつものノリで。

 俺は、芳乃の部屋へ向かった。


 芳乃はベッドに腰かけて待っていた。

 俺がそばに寄ると、芳乃は立ちあがって俺を見あげた。

「……届かない」

「は?」

「膝立ちしてほしいかも」

「……」

 よくわからないが。おおかた新しい甘え方でも開発したんだろう。

 俺は素直に指示に従い、その場に膝をついた。

 その、次の瞬間。


 ――視界が、真っ暗になった。


 いったいこれからなにが起こるのかと身構えたが、なんのことはない、芳乃はただ、俺の頭を胸にかき抱いただけだった。

 それ以上、特になにをしてくるわけでもない。顔面に慎ましやかな膨らみの感触が伝わるが、それだけだ。

 ……どういう趣向だ? いつもなら俺の胸に芳乃が顔を埋めてくるのに、今の状態は、それとは真逆だ。

 これじゃあ、まるで……


「いいよ、お兄ちゃん」

「……なにが?」

 どこか間の抜けた俺の返事は、芳乃の腕の中で溶けて消えた。


「甘えていいよ?」


「……………………」

 あまりに優しい、慈愛に満ちた声だった。

 このまま浸っていたい――ふいにそんな気持ちが湧き起こる。

 が、無理やりに抑えつけ、絞り出すように声を発した。

「……どうしたんだよ、急に。なにかあったのか」

「……」

 わずかな沈黙を挟んで、芳乃は言った。

「言われたの。お兄ちゃんは本当は、誰かに甘えたがってるのかもしれない、って」

「…………。なんだよ、それは。言われたって、誰に?」

「わたしたち兄妹のことを、昔からずっと、見守ってきた人に」

「……」

 あいつ、あれだけ避けてた芳乃と、接触を持ったのか。俺のために……。

 だが、湊。残念ながら、また外れだ。だってそうだろう、俺には、そんな欲求……

「気づいてあげられなくて、ごめんね?」

「……勘違いするなよ。俺は別に……」

「きっと、わたしのせいだから。……みーくんもそれに気づいてたから、彼女のあやねじゃなくて、わたしに教えてくれたんだと思う」

「……なにが、おまえのせいだっていうんだよ?」

「お兄ちゃんが甘えたい盛りのときに、わたしがお母さんを独り占めしちゃってたから」

「…………」


 たしかに芳乃は、昔から母さんにベッタリだった。

「お母さんは渡さない」と、俺に対しては常に対抗心を剥き出しにしていた。

 芳乃が物心ついてから、母さんがいなくなるまでの期間、ずっと。

 芳乃がそんな様子だったから、俺は無闇に事を荒立てたくなくて、必要以上に母さんに近寄ることをしなかった。物理的にも、精神的な面においても。

 親に甘えるようなことは、しなかった。

 記憶にある限りは、一度も。

 ……だからその反動が、今ごろになって現れたって?

 バカバカしい。


「そのお詫びと、それから、いつも甘えさせてもらってるお礼……って言ったら変かもだけど。とにかく……わたしに甘えてみて、お兄ちゃん?」

 芳乃はそっと、驚くほど優しい手つきで、俺の頭を撫で始めた。

「……あのなぁ、芳乃。俺はおまえじゃないんだぞ? そんな、甘えたいみたいな欲求は、俺には、」


「妹の――家族の前でまで、強がらなくていいんだよ、お兄ちゃん。たとえ彼女には見せられない姿だとしても、わたしの前では、ありのままを見せていいんだよ。ほら、わたしがいつもお兄ちゃんにしてるみたいに、甘えてみて?」


 とっさに否定しようとした。

 ――言葉が出てこない。

 とっさに離れようとした。

 ――身体が動かない。


 どれほどの時間、そうしていただろう。

 やがて俺は、


「…………だったら、もっと撫でてくれ」


 そんなことを、口走っていた。

「うん、いいよ。お兄ちゃんの気が済むまで、ずっとこうしててあげる」

「……」

 胸のうちに広がるのは、違和感なんかではなく、信じられないほどの充実感だった。

 あぁ…………もう、認めるしかないだろう。


 ――喜べ、湊。

 おまえの推測は、どうやら大正解だったみたいだ。


 俺は芳乃の温もりに、いつまでもいつまでも、身を委ね続けていた。

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