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清楚系ビッチ妹のデレ期はうれしくない  作者: かごめごめ
♡第3章♡

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膝の上の妹

 やっぱり、今日のあやねはどこか変だ。

 もっとハッキリ言ってしまえば、機嫌が悪い。……ように見受けられる。

 昼休み。芳乃を膝の上に座らせながら、いつものように三人で昼食を摂っていたところ、


「はあぁっ……」


 あやねが突然深刻そうな溜息をついて、俯きがちにゆっくりと立ちあがった。

「どうかしたか?」

 俺は芳乃の口へ運んでいた箸を止め、訊いた。


「……いい加減にしてください」

「なにがだ?」

「言わなければわかりませんか?」

「そりゃそうでしょ、言いたいことがあるなら言わなきゃ伝わるわけないじゃん、馬鹿なの? ――はい、次はお兄ちゃんの番ね♡」

 俺の膝の上で軽口を返しながら、上体をひねって俺の口へミートボールを運ぶ芳乃。できればこれ以上刺激するような発言は控えてほしいのだが、芳乃は芳乃で今朝から続くあやねの不可解な態度に軽く苛立ちを見せているので、あまり強くは言えない。


「では、言わせていただきますが…………目障りなんです」


 あやねは顔をあげ、吐き捨てるように言った。

 予期せずぶつけられた強い言葉に、俺も芳乃もなにも返せずにいると、あやねは畳みかけるように口を開く。

「朝からずっと、いちゃいちゃいちゃいちゃと……一緒にいる私の身にもなっていただきたいのですが?」

「それは、俺と芳乃のことを言ってるんだよな?」

「ほかにいないでしょう? お兄さんの頭は空洞なんですか?」

「なにそれ? 別にあやねに迷惑かけてるわけじゃないでしょ?」

「迷惑です。とっても迷惑しています。気分が悪くて仕方ないんです!」


 ……あやねの言い分はわかる。

 たしかにソーマと別れたことで、芳乃の俺に対する依存っぷりはますますエスカレートし、ついには膝の上で昼食を摂るまでになった。

 先週までより確実に過剰になってはいるし、人によってはそれが不快にも感じるだろう。

 だがそれは……ある意味では“平常運転いつものこと”なのだ。

 それでも、目障りと言われてしまえばそれまでなのだが……正直、どうにも釈然としない思いがある。

 あやねがからかってくるのは日常茶飯事だが、こうして怒りや憤りといった負の感情を向けてくることなんて、これまでになかった。

 言葉の端々にも、いつものからかいとは明らかに種類の違う棘が含まれている。

 それほどまでに、今日の俺たちは目に余ったということだろうか……?


「……いつも以上に甘えてるって自覚はあるよ? だけど、それでなんで、あやねが怒るの……?」


 それは純粋な疑問から来る問いかけだろう。

 俺が引っかかっているのも、きっとそこだ。

 これまでずっと、からかう隙を窺うようにニヤニヤと俺たちを見守ってきたあやねが、“怒りをあらわにすること”それじたいが、“違和感そのもの”なのだ。


「怒ってなんかいません。とにかく目障り……それだけです」


 あやねは食べかけの弁当を片付け、背を向けた。

「どこ行くんだよ」

「これからはお二人で仲良く食べてください。思う存分いちゃついてくださいね」

「……」

 去り際、あやねはぽつりと、


「……兄妹のくせに」


 そんなつぶやきを残していった。

「……なんなの、あれ。意味わかんない……」

 芳乃の漏らした言葉からは、非難というよりも戸惑いの色が強く感じられた。

「単に虫の居所が悪いだけ……とかならいいんだが」

「……あの日なのかも」

 冗談めかした台詞も、にじみ出た動揺が台無しにしている。

「かもな……」

 俺の返事も似たようなものだった。



 あやねが俺たちから距離を置くようになって、四日が過ぎた。

 距離が縮まるきざしはない。それどころか、日に日に開いていくようにさえ感じる。

 こんなにも憂鬱な金曜日ははじめてだ。


 そう――俺は自分でも不思議なくらい、ショックを受けていた。


 もしかしたら、もう関係の修復は不可能なのかもしれない――ふとそんなふうに考えただけで、怒濤のように焦燥感が押し寄せてきて、胸の奥が苦しくなる。

 芳乃ラブホ騒動を経て、以前よりもぐっと距離が近づいた気がしていた。

 だが、それは俺の勘違いだったのだろうか?

 開く距離などハナから存在していなかったのだろうか?

 ……そうは思いたくなかった。


 だから俺は、できる限りあやねに歩み寄りたいと思っているのだが。

「もう、これだけ譲歩してあげてるっていうのに、あやねはまだ不満なの?」

 休み時間、芳乃が唇を尖らせながら不満げに言った。

「譲歩する気があるなら、まずは膝の上から降りるところから始めろって、何度も言ってるだろ」

「……それはやだ。もう充分譲歩してるもん。これ以上は無理なの」

 どのへんが譲歩しているのかさっぱりわからないが、これでも芳乃の中ではいちおう、歩み寄りの姿勢を見せているつもりらしかった。


「なぁ、そこをなんとか、もう一声だけどうにかならないか?」

「……………………わかった。優しすぎるお兄ちゃんに免じて、最後の譲歩、するね。本当にこれが最後。これでもダメなら、もうあやねなんて知らない……ってなるかもしれないくらい、ものすごい譲歩」

「それは?」

「……今日のお昼、お兄ちゃん、あやねと一緒に食べてあげて」

「……は? それができないから困ってるんだろ?」

「二人きりなら、たぶん大丈夫だと思う」

「なんでだよ」

「お兄ちゃんとあやねってさ、わたしの知らないあいだに急接近したんでしょ?」

「その言い方には語弊があると思うが……まぁ、仲良くなったのはごく最近だ」

 ちょうど先週の金曜日、連絡先の交換をして。

 土曜日は家で半日、のんびりとした時間を二人で過ごし。

 日曜日には外で待ち合わせしたり、ファミレスで食事をしたりした……。


「あやねはさ、嫉妬してるんだと思う。せっかくお兄ちゃんと仲良くなれたと思ってたのに、わたしがソーマと別れたとたん、お姫様だっこで登校してきたりしたから……お兄ちゃんを取られた、みたいに思っちゃったんじゃないかな? お兄ちゃんは最初からわたしのものなのに、ねっ?」

 上体をひねり、思いきり抱きついてくる。

「だから、わたしがそばにいなければ、たぶん大丈夫」

「……おまえの推測が正しいかどうかは、わからないが。やれるだけのことは、やってみる」

「うん。……ねぇ、お兄ちゃん」

 耳元で囁かれた声は、いつになく真剣で、切実な響きがあった。


「あやねのこと、お願い……」



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