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4.おひとりさま まきまき

4.おひとりさま まきまき



 私みたいなのを、いわゆる「おひとりさま」と言うのだろう。

 買い物も食事も観劇も、水族館や美術館も、旅行さえ全部一人で行けちゃうし、一人でよく行くからだろう。映画館は一人で行ったことはないけれど、多分行けると思う。


 とは言え、別に友達がいないとかそういうわけではない。というか、付き合いは広い方だと思う。誘われれば当然遊びに行くし、私から遊びに誘ったりもする。その辺のノリはいい方だと思うし、やっぱりみんなで遊んだ方が楽しい。食事だって誰かと一緒の方が美味しいし、観劇だって後で感動を語り合えるのは楽しい。


 でも、やっぱり学生にとって一回の観劇費用は安い席でも結構な出費で、毎月のそれに趣味でもない人を誘うのは心苦しい。尚かつ安くて良い席を取るためには2ヶ月前から予定しなくてはいけないため、段々予定の確認するのも面倒臭くなってしまったのだ。そう思っているうちに次第に一人で行くようになっていた。

 水族館や買い物や旅行なども最初は友達と行っていたし、今でも一緒に行くことはあるけれど、自分のペースでゆっくり回りたいときもある。というか、一人だと自由気ままに気を遣わなくて非常に楽ちんで、気がついたらそれらも一人で行くことが多くなっていた。

 そんなことをしているとお出かけのときの食事も一人なので、飲食店にも一人で行けるようになってしまう。


 こうして立派な「おひとりさま」へと変わってしまったのだ。


 だけど別に彼氏いない歴イコール年齢でもないし、彼氏が欲しくないわけでもない。というか、街中でいちゃいちゃしているカップルとか見たりすると、やっぱりいいなって思うし、正直寂しさも感じる。

 でも、それよりもどうしても面倒臭いという気持ちの方が上回ってしまう。最後に彼氏と別れてからやっと気がついたのだけれど、付き合っているときは相手の趣味に合わせて遊んでいたので、一人の時間がなかなか取れない。別に彼氏と遊ぶのも楽しいけれど、自分の趣味も楽しみたい私としては物足りない感じだ。だから無理して作るほどでもないなぁと思ってしまうのだ。


 そんなこんなで、既に最後に彼氏と別れてからいつの間にか2年が経ってしまっている。


 これは確かにゆゆしきことなのかも知れないけれど、それならいっそ、面倒臭さとかも感じなくなるような恋が出来たらいいなぁと、切に願うのみだ。







 その週の金曜日、研究室での作業の休憩がてら研究棟の近くの購買部に出かけた。

 この大学は都内にあるくせに南北に長く、購買部も食堂もいくつかあるが、その中でも研究棟から一番近いのは農学部食堂と購買部。

 その購買部のお菓子売り場で商品を見ていると、後ろから声をかけられた。


「あ、まきまきいいところにいた」


 振り返れば、岡田くんとのんちゃんがやってきた。


「ん? 何?」

「まきまき、今日の夜、暇だよな」


 岡田くんは両手で私を指差して断定的に聞いてきた。

 確かに予定はないけれど、こうして聞かれると何か言い返してやりたくなる。


「何? 飲み? ボーリング? カラオケ?」

「飲み。ついでにいつものメンツじゃないぞ」

「え?」


 岡田くんは少し悪い笑みを浮かべた。

 「いつものメンツ」と言えば、農学研究科の同期のよく遊ぶ5、6人のことだ。まだ付き合いは浅くとも、みんなそれなりに気さくに話せる仲だ。

 だけど、どうやら今日は違うらしい。


「なんかな、学部の時のサークルの先輩がさぁ、彼女にこっぴどく振られたとかで、今日その慰め飲みをするんだよ、新宿で」


 と、岡田くんはげらげら笑いながら言う。

 まったくその先輩をかわいそうと思っていない様子だ。


「それで、何で私がそれに誘われるの?」

「その先輩がさ、誰でもいいから女の子連れてきてくれってうるさくてさー。連れてったら俺の分も含めて先輩が出してくれるらしいんだよ。ほら、まきまき暇だろ?」


 要するに、自分の分の飲み代を浮かせたいから私を誘っているのか。その先輩も先輩でどうなんだろうか。

 そこで私は岡田くんと一緒にいたのんちゃんに目を配る。

 のんちゃんはとろんとした目で私と目を合わせると、私が何を言わんとしているのか分かったのか、はっとして顔の前で手を振った。


「ほら! あたしはダメダメ! 知ってる人ならまだしも知らない男の人ばっかのところ行くと、ほら……」


 のんちゃんは気恥ずかしさか言いにくそうに語尾を濁した。

 のんちゃんこと竹原希たけはらのぞみは同期の中でも一番可愛い。大きい瞳にリカちゃん人形のような顔立ち、おまけに身長が153cmと、いかにも男が守ってやりたくなる容姿をしている。更に天然ぽく見える仕草や喋りが可愛さを引き立てている。これでも学部の時は成績トップだったとか信じられないくらいだ。

 要するに岡田くんの飲みに行くには私よりも適任なタイプだ。

 とは言え、のんちゃんは今、同じ研究室の同期の鈴木くんと付き合っているので、あんまり不透明なことをしたくないのだろう。


「いいじゃん、はるかちゃん行ってきなよー。ステキな人と出会うかもしれないしね」


 のんちゃんはのんきに私に手を振りながら言ってくる。

 すると岡田くんが勢いよく私の肩を叩いてきた。


「おうおう、いいじゃねーかまきまき。俺の先輩慰めてやってよ。ついでにお持ち帰りもな」


 なんてバンバン強く叩いて言ってくる。

 私は内心でため息を吐きながら、今日の予定を再度脳内で確認する。


「はぁ、もう仕方ないなぁ。分かった、付き合うよ」

「おおー、やっぱりまきまきなら一緒に行ってくれると思ってたぜ」


 と更に岡田くんは嬉しそうに背中をバンバン叩いてきた。

 こうして今夜は知らない先輩の慰め飲み会に行くことになってしまった。



次回9月24日更新予定

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