エピローグ
この事件について書かれている新聞では、美緒の活躍は描かれていなかった。ただ、僕の活躍は描かれていた。なんだか恥ずかしい。
ニュースにもなったらしく、世間話の大好きなその場にいたおばさん連中は、「彼は初めて見たときから、他の同年代の少年とは違うオーラがありました」と語っているらしい。
へえ……あれだけ僕を犯人扱いしていたのに。
美緒の活躍が描かれていないのは少し残念だけど、この新聞の記事があれば、大学とかも推薦もらえちゃったりするかな。そんなことを考えて、僕は学校へ向かった。
途中で美緒と遭遇し、昨夜のお礼を述べた。
ケーキが作れなくて残念そうだった。事件があった直後だから、仕方ないだろう。新聞の記事を切り抜いて美緒に見せると、「桐岡君、格好良かったですよね〜」と褒めてくれた。自分については何も言わない。
記事によると、動機は、殺したおばさんが金を使った汚いやり方で、高松先生の夫と不倫していたというものだった。彼女は、おばさんを殺害してから、自分の夫も殺害し、自分も死ぬつもりだったと話していると言う。
「無駄に……故意に生き物を殺すのは、最低のことです。そんなこと私は認めません」
以前、僕が森で野生動物を撃っていたと話した時も、彼女はそう言っていた。生きるためではなく、殺すために殺すのは、最低なことだと。
だが、そういう彼女はどうして僕を嫌わないのだろうか。
結果として、森で経験して学んだことが彼女を助ける事に繋がった。皮肉なものだ。助ける手段として用いられたボールペンのあの技も、もともと猟の途中で拾得したのだから。
もしかしたら、殺す相手が違うだけで、僕も高松先生も一緒なのではないか。殺したいから殺した。単純に言えばそれだけだ。正当化は……。
「……桐岡君は違いますよぉ」
「え?」
「桐岡君は、死んだ生き物を無駄にしませんから」
「……ふうん」
口に出ていたのだろうか。でも彼女の言葉で気が楽になった。
猟で死んだ野生動物は、その場に放置したりはしていない。食べてその肉を味わったり、他にも様々な使い道があった。
それだけの違いなのだろうか。彼女の言葉には、もっと深い意味があるように思えた。
「美緒ちゃーん!」
その大声で、僕の意識は現実へと引き戻される。
わざわざ校門のほうから走ってきたのは、ほかでもない亜矢子だ。
「新聞見たよ! 本当は美緒ちゃんがまた解決したんでしょ!? 詳しい話聞かせてねー!」
そう言えばあの時、フランクおじさんの言葉が思い浮かんだのはなぜだろう……?
作品を読んでくださりありがとうございました。もしよろしければ点数はいらないので感想だけでもいただけると画面の外で小躍りします。