表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

短編童話『飛べない鳩と濁った空』

作者: イチ


 その日も、空は快晴でした。


 雲一つないはずの青い青い空。


 けれど、どこか濁った空。


 


 そんな中、生暖かい風を微かに頬に感じながら、一羽の白い鳩が地面に横たわっていました。右羽根に刺さった矢が重たくて、鳩は動く事も出来ずにいます。


「嗚呼…神様。どうか僕の羽根を治して下さい。もう一度あの愛しい空を飛びたいのです。」


 重たい瞼をうっすらと開け、鳩は震える声音で続けます。


「多くは望みません。今日一日…いえ、ほんの一時程の自由を僕に…」


 どうか…


 そのか細い声で紡がれる願いを聞いていた空は、哀れに思いながら答えます。


「鳥さん、お前さんのその羽根はどうしたんだい?」


 鳩は懐かしい空の気配に涙を流しながら答えます。


「人間にやられました。…一時の快楽のために放った心ない矢が、僕の人生を奪ったのです。あなたとの逢瀬も、これが最後でしょう…。」


 空はその言葉を聞くと悲しみのあまり暗雲を立ち込ませ、静かに雨を降らせました。


 それから空はゆっくりと語ります。


「鳥さん聞いて下さい。私もかつては美しい空でした。それが今はどうした事でしょう…人間が開発した鉄の乗り物から吐き出される排気ガスや、スプレー等から吐き出されるフロンガス、洗剤やガソリンで汚染された水が蒸気になって空にやって来る度に、私の美しい(からだ)は汚れてゆき、遂には私の涙まで酸性雨となってしまいました。…そうなると今度はこぞって、人間達は言うのです。『これは自然界の復讐だ』『空が、大地が、緑が怒っているのだ』と…。いいえ、いいえ違うのです。私は…」


 雨足が早くなりました。鳩は全身びしょ濡れになってしまい、血が後から後から流れていきます。それでも鳩は空を怨む気持ちなんてこれっぽっちもありません。むしろ近くに行けない我が身に空からの雨を感じられて、とても幸せでした。


「…私は人間を怨んだり、復讐をしたいわけではありません。私だって人間を愛しているのです。ですが私達を人間に害を及ぼす存在にしているのは、他でもない人間なのです。…嗚呼なんて愛しくて悲しい、残酷な生き物なのでしょう…。私も出来る事なら、もう一度人間を優しく見守る空に戻りたい…。」


 空の涙は止まらなかった。


 鳩も悲しくて、涙を流した。


 神様どうかもう一度…


 





 不意に、どこからともなく声がした。



『空を愛する純白の鳩よ…人間を愛する濁った空よ…。お前達の願いは聞き届けられた。飛ぶがよい。晴れ渡るがよい。』



 その声は果たして、神だったのか悪魔だったのか。







 その日、空は青く晴れ渡っていた。


 そして、その空には純白の雲が一つ。


 ふと、公園で遊んでいた子供が空を指差しました。


「ねえ見ておかあさん!あの雲ハトみたいだよ。まるでお空をおそうじしてるみたいだね。」




 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 環境問題という難しいテーマが、分かりやすく触れられていて良かったです。 [気になる点] 悪い点というほどのことはないのですが、環境浄化に取り組んでいる人間がいることも、お話の中に盛り込めた…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ