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僕の答えをいつまでも  作者: 星野詩乃
第1章「林間学校にて」 
9/41

主変わらず

おはようございます。


初投稿、初小説です。ですので読みづらい部分もあると思いますが読んでいただけると嬉しいです。

「さあ! 楽しいBBQよ! 男子ども火を起こしなさいっ!」


 春香の命令で僕たちは火おこしを開始する。日は傾き始め、晩御飯の時間になっていた。


 この暑い時期に火おこしとは……。周りの組も汗を流しながら火おこしを始めている。汗には、いい汗と悪い汗があるがこれは圧倒的に悪い汗だ。


「私と彩ちゃんは料理担当だから!」


 僕は知っている。春香は料理ができない。それはもう絶望的に。肉を焼けば黒い塊に、煮物を作ればスープになる。それに、無自覚の料理下手人間にありがちな自己流アレンジを加えてしまう。彼女はそれを自信満々にやってのける。僕は、林間学校のために断る理由をストックしているが涼太は……。まぁいいや。


 その点、彩ちゃんは素晴らしい。家でも母親の手伝いやお菓子作りをしているらしいが、それは、家庭料理の粋を超えていた。なぜそんなことが言えるかというと、前に学校へお弁当を作ってきてもらったことがあるからだ。その時は、感動で前を見られなかった。同い年でこんなに料理が上手い人がいるなんて。それは、芸術品のようで食材も1つ1つが感謝の言葉を叫んでいたように思う。いや、僕には確かに聞こえたよ。


 トントントン


 心地いいリズムが聞こえてきた頃、僕と涼太はやっとの思いで火をつけ終わる。後は春香が変なものを作らないか見張るだけだ。


「春香、あんまり彩ちゃんの邪魔しちゃだめだよ」


「そ、そんな邪魔なんて……」


 彩ちゃんはいつもの調子で否定しようとする。忌憚しようとする。彼女の否定はあくまで卑屈にはならない。僕はそういった謙虚さが彩ちゃんの魅力の1つでもあると思う。


「ふっふーん。これを見てもそれがいえる?」


 彩ちゃんの謙遜を遮り、自信満々の笑顔で春香が手元の野菜をみせてくる。BBQに高度な料理スキルは必要ないはずだ。……それでも春香の場合は心配なのだが。


「……ウソだろ?」


「なぁに? 私の才能に惚れちゃった?」


 そこにあったのは見事な飾り包丁が施された野菜たち。人参、しいたけ、サラダ用にトマト、キュウリ、ゆで卵でさえ見事な細工が施されていた。一体、どういうことなんだ。


 春香は昔から器用でなんでも人並み以上にこなせるのは知っている。だが唯一といってもいいほどの短所は料理が出来ないところだった。


 僕は夢をみているのか?


 そう思っても仕方のない光景が広がっていた。春香に見られないように腕をつねる。

 

 ――痛い。もちろん当然のように現実だった。


 いや、こういう時こそ逆転の発想だ。春香は美術系も得意としていた。それの応用だろう。見かけはいいが味は悪い。今までは素材そのものでも春香の手を加えれば何故か美味しくなくなっていた。


 塩と砂糖を間違えたり、調味料の分量が多すぎたり少なすぎたり。今回もそうに決まっている。いや、そう思うことでしか自分を納得させられなかった。ただどうしても気になる月並みな質問をぶつけてみることにした。


「春香って料理出来なかったよね? いつ練習したの?」


「……。昨日の夜に練習したのよ!」


 いくら彼女でもそんな短い時間で芸術品にまで仕上げられるはずがない。


「さすがに昨日今日で出来るものじゃないような……」


「うるさいわね~。私に不可能はないの!」


 その一言を出されると弱い。確かに春香に不可能はないように思う。以前から、溢れる才能を発揮している場面はあった。そんな春香が努力をし始めたらとんでもないことになるのではないか。


 しかも、その努力は長年かけて培った繰り返しの差ではないというのだから恐ろしい。僕は、彼女が料理を出来るようになってしまった――どこかで賞をとれそうなほどに――と脳内でメモを取りながら火の元へ戻るのだった。


「楽しみに待ってなさーい!」


 春香の声が背中に刺さった。出来ることなら食べたくはない。林間学校の初日で病院のベッドの上に行くのは流石に嫌だ。僕は彼女の声に右手を挙げそれを答えとしてはぐらかしたのだった。


読んでいただきありがとうございました。


また是非よろしくお願いいたします。


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