その日の背中は
初小説です。
優、春香、涼太、彩が町へ行くまでのお話です。
セミの鳴き声が360°全方向から聞こえてくる。春香にグラウンドで待機と言い渡された……。
遅い。
春香自身が集合を言い渡しておいてこれはないぞ。さすがにこの日差しの中でこれ以上は辛い。建物の影で待とう、涼太と彩ちゃんに訴える。三人の意見は議論の余地なく賛成だった。そして僕たちが影に移動を始めた瞬間。
「待たせたわね!」
「……遅い」
まったく悪気がない笑顔だ。そして、屈託のない笑顔は、月並みな表現ではあるが太陽という言葉がふさわしい。怒る気すら消え失せてしまった。
「女の子は準備に時間がかかるの!」
(おんなのこ??)
良かった。声には出てない。僕は、安堵しながら疑問というかどこか突っ掛るものを感じた。いや、春香の性格がということではなく、彼女の言う準備として時間がかかった理由であろう物だ。右手に虫取り網、肩には虫かごのヒモを引っかけている。
「女の子というより少年だよな」
ボソッと涼太が耳打ちしてくる。
「なに!? 」
まさか聞こえているわけではないだろう。しかし、春香にとって良くないことを言われていると察知したに違いない。
「恐ろしい……」
「聞こえてるわよ」
しまった。思わず声に出してしまっていた。ジト目で僕たちを睨んでいる春香を必死にフォローする。だが、嬉しいことに、あまり気にはしていないようだ。彼女の興味はこれからの冒険とやらに向けられていたらしく、一人で機嫌を治してくれた。ただ用心に越したことはないのでしばらくは言うことを素直に聞いておこうと考える。
「いってきまーっす!」
春香は、雑務作業中の担任に無理やり声を届かせる。
「おぉ~! いってこーい! 適当に帰ってこいよ~!」
崎島先生はこちらをチラリと横目で見てから晩御飯の雑務作業をもくもくと行っている。僕たちにとってもこの先生は非常に好かれている。自主性を育てるという名目で出来うる限りのことはやらせてくれる。ただ悪く言うと放任主義者って言葉がぴったり当てはまる。
「先生の許可も得たことだし、さぁ! しゅっぱーつ! ついてきなさい!」
アッハッハッハと笑いながら春香は背を見せて町へと続く坂の方へ進み始める。僕がみるに、いつもより歩幅を広げて歩いている気がする。どれだけ楽しみにしてたんだよ……。
「はいはい」
「よっしゃ! いくぞー!」
「ま、まって~」
春香があんなに陽気な時はトラブルに巻き込まれる可能性が高いと人生をかけた分析結果が出ているのだが……今はとにかく付いていくしかない。その結論だけは今までもそしてこれからも変わらない。
ここまでありがとうございました。
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