卑怯だよ
初投稿、初小説です。
ですので読みづらい部分もあると思いますがよろしくお願いします。
「なぁ優。あれって食べられるやつなのか?」
火の元をずっと見ていた涼太は遠巻きに春香の作品をみたらしい。
「普通は食べられるけど、春香のことだからなんとも……」
二人の間に沈黙が流れる。汗を流しながらパチパチと木が燃えている様子を見つめる。
「そうか……俺は彩ちゃんのを食べるから、春香のは頼んだ」
「――いやいや! 卑怯だぞ!」
僕だって綾ちゃんのを食べたい。それがサラダだとしても春香よりは良いに決まっている。そこへ運命のカウントダウンが始まることを告げられる。
「よぉーし! 皆、準備はできたか? 適当に食べ始めていいぞー」
崎島先生の号令がかかった。
「お腹減ったわね~」
「――ま、まずは肉を焼いて食おうぜ!」
春香の何気ない一言に涼太はすぐさま提案する。
「何を言ってるの?野菜から食べないとダメに決まってるじゃない。常識よ」
一体誰がそんな常識を作ってくれちゃったんだ、この瞬間だけでいいから無効にして欲しい。
「さぁさぁさぁ!」
ゴクリ
僕と涼太は喉を鳴らす。考えろ。回避する方法を。考えろ。
「おぉ~なんだこれ。すごい気合い入ってるな~!」
崎島先生だ! 各チームを見回っていた先生が僕たちの所にも来てくれた。このチャンスを見逃すわけが無かった。
「崎島先生! その作品は春香が作ったんです。良かったら(俺たちより先に)食べてください!」
「春香もいいよね?」
涼太と僕は出来るだけ平静を装いながら発言した。元から汗を流している。ここで冷や汗が流れても気づかれないはずだ。
「悪いね~。いただきますっと」
春香の答えを待たずに先生は彼女の切った野菜を一つ口に放り込んだ。
「うん! うまい! 何故か他の所より美味しく感じるよ!」
「嘘でしょ!?」
思わず口に出してしまった。春香が睨んできているような気がするが怖いのでそちらは向けない。というより崎島先生はいろいろなところで少しずつ味見して回っているようだ。もしかしたら先生は片付けや準備が面倒でそうした作戦に出ているのかもしれない。
「私が切ったんだから当たり前でしょ!」
「う……うん。」
僕と涼太は目を見合わせから、そのカットされた野菜に手を伸ばした。恐る恐る口に運ぼうとする二人
「はやく食べなさい!」
「――うわっ!」
見かねた春香が二人の持つ野菜を口に無理やり押し込んできた。
「……美味しい」
予想とは違う感想がボソッと口から洩れた。
「だからいったじゃない。当たり前でしょ?」
彼女は落ちていく太陽とは真逆の輝きを持った笑顔を見せてきた。逆光で陰っていたはずだが僕には、はっきりとその表情を見ることが出来た。彼女のにこやかな顔は、なぜか僕の鼓動を早くするのだ。
卑怯だよ。
春香が見せる無邪気さに僕はいつも困ってしまう。いつもわがままで勝手な癖にこんな時は、僕の隣にいるのだから。
ここまで読んでいただきありがとうございました。
また次回、是非よろしくお願いいたします。