第1話 「ここはどこ? そして――」
青い空、白い雲、広がる大平原。
「ここどこ?」
全く見知らぬ景色にそう言葉が漏れる。
正直全然頭が動かなくて、しばらく雄大な景色を眺め続け……綺麗だなー。
じゃない! あれ? えっ? 待て待て待てちょっと頑張れ僕の脳味噌!
いやいやいやいや、まさか……嘘だよね?
どれだけ頭をひねろうとも、なーんにも……そう、文字通り何にも出てこない。
「そもそも僕って誰だよ……」
絶望感に染まると言うのはこう言う事だろうか?
いや、何もないと言うか何も考えられないと言うか。
ただただ呆然と立ち尽くす。
……何がどうなっているんだよ?
凄まじく美しい景色を眺めて、はてどのくらい経ったのだろうか。
このままでは拉致があかないととりあえず適当に歩き出す。
「……野生動物とか出てこないよな?」
自分の事はまるっきり思い出せないのだが、一応日本と言う国に住んでいると言う事や、ある程度の常識や知識等はあるようなのだが。
果てさて、その知識によれば日本では見渡す限りの大平原何てないはずなんだけどなー。
もしかして拉致られた? そしてサバンナとかに放置?
「いやいや、ないない……ないよね?」
怖くなって、その思いを払拭する意味も込めて否定の言葉を口にしたのだけど、逆に不安が増してくる。
うぅー。本当にどうなっているんだか?
あっ、そう言えば持ち物!
気がついて確認してみれば、学ランを着ていて……って事は、僕は学生だったのか。
靴はスニーカーを履いていて……あれ? 学生って事はカバンは?
そう言えば見当たらないと言うか……探さずに歩き出しちゃった。
うわぁ、もうどこが最初に居た場所か分からないし、そもそもあるかも分からないし。
「……もういいや、このまま進もう」
喪失感ばかり募っていく現状。
……ああ、歩いて少しずつ落ち着いてきたのか、急に怖くなってくる。
ってかこえぇ!
え、ライオンとか出たらどうしよう?
そうじゃなくても肉食獣に襲われたりしたらイチコロだよ?
全力で逃げ出すなり助けを求めるなりしたくなるのだけど、でもどこに逃げれば良いか分からないし、声を上げる何てここに居ますよって教えるようなものだしで辛うじて踏みとどまる。
怖い……怖い!!
キョロキョロと周囲を警戒しつつ……ど素人の自分がまともに警戒出来ているとも思えないので少しでも早く誰か人が居ないかを願ってしまう。
「だ、誰か……誰か……」
泣きそうな声色に、不安がますます高まっていく。
ああもう、なんでどうしてこんな事に?
ちくしょう、記憶がないからさっぱり分からない……。
いや、この場合記憶があったところで無意味なのか? ……はっ、学生証とかあれば名前くらい分かるかも!
思い立って慌ててポケットを全部探してみるのだけど、出てきたのはハンカチとちり紙……僕って真面目な生徒だったのかな?
でも、学生証が出てこない辺り不真面目だったのかも?
……カバンに入れていた可能性もあるか。
と言うか、一体全体ほんとどういう事だよ。
涙目になっている自覚はあるのだけど、こんな大平原に身を晒して眠る何て事やりたくもないし……いや、仮に森とか洞窟とかあった所で僕外で寝れるのか?
知識をたどるに、現代日本だと家で布団やベッドで寝るのが普通だと思うのだけど。
……い、家に帰りたい。
……家ってどこだよ! 僕だ誰だよ! 誰か助けろよ!」
はっと気付けばいつの間にか考えを叫んでいたようで、慌てて口を両手で抑えて周囲を見渡す。
……とりあえず何もないっぽいけど……分からない……分からない!!
大声を上げて走り出したい衝動と戦いつつ足早に移動を始める。
徐々に日が落ちて行っていて……よ、夜にこんな場所に痛くない!
そう言えば野生動物って夜動きが活発になったような……し、死にたくない!!
気付けば走り出していて……そんな場合じゃない!
ど、どこかかかかかか、隠れる場所!!
息が上がり胸も痛むけど、視界の果に森が見えてくる。
あそこまでどのくらい距離があるかさっぱり分からないのだけど、でも希望が見えてきた!
一気に安心感が胸に満ちてきて。
グオォォォォォォオオオオオオ!
遠くから響いてくる何かの雄叫び。
あまりのショックと恐怖に思わず立ち止まって、しゃがんで体を隠しつつ周囲を伺う。
……と、取り敢えず大丈夫。
まだ、大丈夫。
すっかり薄暗くなった周囲。
こ、怖い!!
むやみやたらに走ったりするのは危険だと判断し、呼吸を整えつつゆっくりと森を目指す。
流石に日が落ちる前までには辿り着けないだろうけど、でも、あそこを目的地と出来ただけでも全然心の持ちようが変わる。
お願い、死にたくない……死にたくない!!
恐怖と戦いながら1歩1歩進んでいく。
本当に不幸中の幸いと言うか、何とか森へと辿り着くことが出来たのだった。
森の中は既に真っ暗で、大平原とどちらが危険なのかも分からないのだけど、でも、どちらも危険な事には間違いない訳で。
ならばと少しでも安全だと思い込めるような場所を探す。
……いや、僕から見て安全だと思っても実はって事はあるだろう。
でも、そんな事言っている場合でもないだろうし……疲れている自覚はあるから、横になって休みたい……。
……休む?
「いやいや、寝たら殺されるかも?」
再び湧き上がる恐怖心。
でも、知識からきちんと休まないと肝心な時に対応出来ないとも知れるし、そして人間いつまでも起きていられる訳でもないって事も分かっている。
……本当になんでどうしてこんな事に?
いや、そもそもなんで記憶ないんだよ……。
目が熱くなり、視界が歪む。
それが尚更恐怖心を煽ってくるわけで、慌てて何度も拭うのだけど……でも、次から次に溢れてくる。
「……あっ……」
その中で、大きな木のウロとでもいいのか、そう言う物を見つける。
良かった……あそこなら安全かも?
冷静に考えずとも、もし何か居たら? あんな場所他の生物の住処かも何て思いもあるのだけど……。
でも、もう深く考えるのは疲れた……。
そんな思いに後押しされ、幸い何も居なくかつ住んでいるような後も見えなく感じたので、そのまま中で横になる。
……暗闇と疲れとの中でどれだけ調べれたか何て分からないけど……でも、目覚めたら……記憶も戻って布団の中で目覚めれるように。
きっと夢だと言う願いを込めて、目を瞑るのだった。
「朝だ……」
眩しさに目を覚ます……。いつの間にか日が昇っていて……あれ? 僕はどこで寝てるんだ?
ここはどこ? いや、僕は――。
そこでようやく昨日の出来事が記憶に蘇ってくる。
どうやら寝ているうちに襲われたりしなかったようで。体中が痛みはするし、足に至っては豆が潰れたようで痛みを発していたのだけど。
でも、生きている。
その事実に心の底から感謝しながらウロの中から這い出る。
お腹は減ったし……喉もカラカラ。
そう言えば水は早く取らないと危ないのだったか……水場探さないとな。
「……夢じゃ……ないよなぁ」
自嘲気味に零す。
ははは、起きたら記憶が戻っていて、で、普通の生活に戻っている事を願っていたけど……現実は非常なりってやつか。
でも――。
「死にたくない……死にたくないよ」
溢れる本音。
何が何だか訳が分からないけど……どうするか決まった。
僕は生きていく。
記憶がとか日本に戻るとかその後考えればいい。
うん、そう開き直ったら少し楽になった。
「じゃぁ、生きるために水を探すかね」
疲れの取れていない体を引きずり歩き出す。
と、何かに呼ばれたような気がして後ろを振り返るが……当然大きなウロのある巨大な木が……あれ? こんなに馬鹿でかいのって地球にあるのかな?
あー、でも海外を知っている訳じゃないし、きっとそう言う事もあるのだろう。
「……1晩、ありがとう」
見つめていると思いが込み上げてきて、頭を下げながら口にする。
……うん、なんか、本当にこの巨木のおかげで無事だったような、そんな気さえしてきた。
よし、じゃあ行きますか!