シュンとなつみの物語 バーチャルな恋 実話
この物語は、突如始まり、お互い惹かれ合い、切なく、とてもロマンティック、そして短い物語です。まるで、今年の暑くて例年にない短い夏のように・・・
〈出会い〉
あの日あの時、なつみはパソコンのゲームに夢中になっていた。シュンとの出会いが、ほんの5分、いや、1分でもずれていたなら、この物語は始まらなかっただろう。只、普通に挨拶し、たわいもない会話をしていたはずなのに、なつみの心の中で、chemical reaction(化学反応)を起こしてしまったのだ。なつみは恋をした。不思議な、まるでファンタジーの世界にいるようで、とてもとても楽しかった。そして同時にシュンもなつみに夢中になっていることが
手に取るように分かった。
〈苦悩〉
しかし、なつみは、分かっていたんだ。シュンも言っていたように、このバーチャルな恋は長続きしないことを。シュンは愛する人と別れたばかり、なつみも同じだった。でもシュンの方が遙かに心の傷は深かった。なつみは自分などシュンの心の隙間に入り込めないい事くらい分かっていた。それでもシュンは自分を犠牲にしてでも、全力でなつみに向き合ってくれた。なつみもシュンの負った深い傷を、少しでも癒そうと必死だった。どれだけのメールをしただろうか。どれだけのチャットをしただろうか。でもチャットが終われば残るのは虚しさだけ、東京と大阪。会いたいけど会えない。会ってはいけない。シュンの心の傷が深い事、会うことによりお互い、より深く傷つくことが怖かったから。シュンがなつみに夢中になったほんの短い日々、それは、別れた彼女への寂しさをかき消すための身代わりだったのか・・・なつみは
シュンを忘れようと、それこそシュンの身代わりになる人を見つけようと、全力で走ってみた。友という友に声をかけ、男女問わず人を集め、夜通し語り合い、笑い合い愉しい会を企画した。そのメンバーで花火大会も企画した。でも、現実は甘くない。なつみの思い通りには
いかなかった。この想いに幾度涙を流したことか。シュンはなつみに教えてくれた。1970年代の切ない名曲「22才の別れ」。そのフレーズが自分にダブると。なつみも聴いてみた
。聴くたびに涙が頬を伝った。そして偶然「22才の別れ」をモチーフにした映画が公開された。シュンは東京で、なつみは大阪で、同じ日に映画を観に行った。なつみは号泣した。帰ってパソコンを開くと、一足先に帰ったシュンからの着信メール。やはり男泣きしたと・・・そして映画について語り合った。 でもシュンは言ったこの「22才の別れ」の曲で切ない思い出が二つになってしまったと。そして一つの深い傷が二つの浅い傷になったと。別れた彼女は現実、バーチャルの中にいるなつみは幻・・・何度言われたことか。でもなつみはシュンが好きだった。一生分の涙が枯れるほど泣いて泣いて泣けるほど・・・。シュンは本当に純粋な青年。なつみよりずっとずっと大人の考えを持っている。お互い顔も知らないのに、パソコンの
チャットで知り合い、こんな恋にまで発展するなんて、なつみは予想だにしていなかった。まだ元カノとの別れの傷が癒えていないシュンの心の中に入り込み無邪気に幸せを噛みしめていたなつみ。写メも送り、シュンの心をかき乱し、困らせているとも知らずに・・・。時には喧嘩をし、時には叱られ、時には笑い合い・・・もちろんバーチャルの世界の中で。なつみは本当に楽しく、シュンの考え方が大好きだった。
〈別れ〉
夏の終わりと共に、シュンからメールで告げられた・・・もう・・・やめよう・・・と。純粋なシュンにとってなつみの存在をどう位置付けていいのかわからない。友達?恋人?それともただのメル友?でも所詮男と女、シュンにとってどうしても恋愛対象として見てしまう。直接会えないのに、こんな中途半端な関係はシュンには無理だ・・・と。シュンは自分の写メを添付してくれていた。素敵だった。なつみの予想通りだった。丸一日泣き続けた。なつみは本当に初めて振られてしまったのだ。
〈未来〉
本当に短く、なつみにとってしょっぱいラブストーリーは終わってしまった。なつみは当分立ち直れない。でも頑張る。今は羽が傷ついた小鳥でも、必ず飛んでいけるはず。真っ青な空に向かって羽ばたいていく。絶対に・・・。
一応物語はここで終わっている。でも本当の終焉はまだなんだ。いつの日か、シュンとなつみは日本のどこかですれ違うだろう。でもお互い気付かない。しかし二人とも幸せそうに笑っている。まっすぐ前を向いて歩いている。そして、すれ違う瞬間、二人だけの映像がスローモーションになるんだ、きっと。 シュン、ありがとう、そして、さようなら。あなたのことは一生忘れません。涙をこらえて・・・なつみ。 END