バー・アメイジングでの拮抗
煌びやかなネオン街の一軒に、コートを着た茶トラの猫が吸い込まれて行く。
「いらっしゃいませ」と、バーテンダー猫の落ち着いた声が聞こえた。「メニューをどうぞ」
茶トラ猫は、青いライトの燈るバーの中をちらりと見回してから、メニュー表に目をやり、「ジン・フィズ」と注文した。
「厳選鰹節も」と。
バーテンダーはピクリと耳をゆする。
「量は?」と、彼が聞くと、「半分と半分の丁度真ん中」と、客猫は言う。
「かしこまりました」と、バーテンダーは答え、客猫を奥の間に招いた。
「尻尾狩り隊を解散してくれ」
客猫は言う。
「これ以上の消耗戦は、互いの疲弊を招くだけだ」
彼は、恵まれた体躯と鞭のような立派な尻尾を持って居る。だが、片腕は義手のようだった。
オーナー猫はマタタビ煙草を燻らせた。
「兵長自ら、一匹で嘆願に?」
「ああ。他の奴が此処に来ようとしても、途中で跳ねられちまう」と言って、兵長猫は短い指で、首を横に掻き切る仕草をした。
オーナーはそれを見て、ふうと煙を吹き出す。
「尻尾狩り隊を解散すると同時に、お前達が暴れ出さない約束が無い」
「俺を猫質にすれば良い」
「お前の命にどれだけの価値がある?」
「それを言われると手厳しい。しかし」と、兵長猫。「俺は、反乱軍の、ある秘密を知っていてね」
オーナー猫の目つきが変わった。馬鹿にするような細目が、一瞬見開かれる。
「どんな秘密だ?」と、マタタビ煙草をもみ消した。
「俺しかコードを知らない、隠し銀山への侵入経路だ」と、兵長猫は言う。「拷問にかけて白状させようとしても無駄だ。俺も、道具を使わずに自死する方法は知ってるからな」
「では、自白剤かな」と、オーナーは突っぱねる。
「無駄だと言ってるだろう?」と言った兵長猫は、コートの袖の中から短銃の先を覗かせた。
オーナーの両脇に居たボディガード猫達が、頭への一撃を食らってバタバタと倒れる。
「参ったね。義手の中に隠していたか」と言って、オーナーは静かに両手を挙げた。
兵長猫はその背後に回り、首の裏に銃口を当てる。
「それじゃぁ、一緒に来てもらおう」
その後、人間に与し、世の猫の長い尻尾が憎いと言って、それを狩り尽くす事を目的にしていた部隊は解散された。
尾のある猫達を守っていた反乱軍は、「和平条約」が交わされると同時に、活動を収束した。
そして世は「尾のある猫の優雅」を湛える時代に突入したのだった。
猫達は、狩られ野晒にされていた尻尾に、祈りを捧げた。




