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Chap.2 : Good Boy

「今日からあなたは私の下僕です。私の言うことを聞き、私に従い、私のために毎日働きなさい」

「…え?」


不気味で魔性の笑みを浮かべている目の前の女の子に釘付けになっていると、「お手」と女の子は手のひらを上にして片手を差し出してきた。なにをしているのか分からず戸惑っていると、突然胸が締め付けられて息が苦しくなった。


「ぐぁっ…」

「お手は?」


先ほどのように淡々と言ってくる女の子の言うことに従い、その手に自分の手を重ねると、急に息苦しさがなくなった。この不可解な現象に疑問符を浮かべていると、「お座り」と言われた。またも命令まがいのことばかり言っているため、さっきから何様なんだよ、と言おうとすると、また息がしにくくなったため、急いで片足を地面につけて座ると呼吸が元に戻った。なんなんだ、これは。


「やった…」


ぼそっと呟かれたその声に顔をあげると、女の子は恍惚とした表情を浮かべ、満面の笑みで僕を見下ろしていた。その笑顔は恐ろしくもあるものの、同時にとても美しかった。


「人間の下僕を連れているのはこの学園で私が初めて。これでパパも私を認めてくれる」

「さ、さっきから一体何を、」


この奇妙な女の子と状況に恐怖を感じていると、「そこの君たち」と声をかけられた。見ると、老いた男性のような人影が暗闇から浮き出てきた。彼はまるで紳士のようなスーツと立ち振る舞いで穏やかな笑みを浮かべている。


「もう消灯時間を過ぎています。早く寮にお戻りなさい」

「はい、校長先生。行くわよ」

「はあ?ちょっと待っ、」


言い返そうとした途端に首がぎゅっと締め付けられる感覚がした。仕方なく、既に歩き始めている女の子の後を急いで着いていく。


「ここは、魔法使い養成専門学校<Cradleクレイドル>っていう場所で、あなたはこれから24時間365日私と行動を共にします」

「そんな学校聞いたことがないし、大体なんで僕がこれから君とずっと一緒にいなきゃいけないんだよ」

「下僕のくせに口答えは許しません」


女の子が手を空中にかざし、ぐいっと引く仕草をすると、僕の首元もそれに引っ張られて首が苦しくなった。思わず顔が歪むと、女の子は満足そうな顔をして手を離す。すると呼吸も楽になった。


「いい?私の言うことは絶対なの。お前が私に反抗しようとするたび、呼吸は困難になる。お前は私に従うしかないのよ」

「だからなんでそんなことができるんだよ」

「本当に察しが悪いわね。あなたは私に助けてほしいと言い、なんでもするとも言った。それに私は魔法使いの契約として、あなたを私の下僕にすることを選んだ。ただそれだけ」

「下僕って…。」


とんでもないことをしてしまった、と絶句していると、女の子は振り返り、これまでの言動に似つかないにっこりとした笑顔で僕を見た。


「私に従うことができるなんて、光栄でしょう?」


その悪魔のような一言に、僕は何も返すことができなかった。


小さく鼻歌を歌いながら歩いている女の子の後ろをただ歩き続けると、ある建物の中に通された。真っ赤な廊下を突き進んだ先に真っ赤なドアがあり、ドアには<RURI>と書いてあった。


「ルリ?君の名前?」

「下僕は必要な時以外喋らない」


それだけ返されて流石にイラッとしたが、黙ってルリが促すままに部屋に入った。部屋の中は黒しかない。黒い壁紙、黒いベッド、黒い机。全てが黒くてむしろ感心するほどだった。ルリは制服のままベッドの上に座り、ふわ、とあくびをした。


「もう夜も遅いし、メイクだけ落として寝る」

「そう。」


それだけ言い、何をするべきか分からずに突っ立っているとルリはジロッと僕のことを睨んだ。


「お前がやるの。下僕。お前が私のお世話をするの。分かってないの?」

「お世話?そんなメイク落とすぐらい自分でっ、」


首がぎゅっと絞められる感覚がしたため、「分かった、分かった」と頷くと首が元に戻った。はあ、とため息をついてルリに「じゃあやり方教えてくれよ」と言うと、ルリは目を大きく見開いて「はあ?」と呆れたように言った。


「メイクの落とし方も知らないの?これだから男は…。」

「いや、僕メイクなんてしたことないから落とし方も知らなくて当たり前だろ」

「口答え」


今度は僕の口が無理やり閉ざされた。開けて喋ろうとしても喋ることができない。フラストレーションが溜まって拳を固く握りしめると、ニィっとルリが笑った。


「悔しい?ムカつく?でも恨むなら数十分前の自分を恨みなさい。ほら、こっち来て」


ルリはベッドから立ち上がり、さっきとは別のドアを開けた。そこは洗面台とバスルームがセットになっている部屋で、ルリは大きな鏡の前に置いてあるピンクの小瓶とコットンを手に取り、僕に渡してきた。


「これで私の顔を拭きなさい」


もう逆らっても無意味なことはわかっているため、渋々言う通りにする。ルリの目元、口元、眉、そして顔全体を軽く拭くと、ルリはコットンを僕から奪ってゴミ箱に放り投げ、ベッドに歩いて戻った。そして足を組んで僕を見ている。


「これ、脱がせて」


ルリは足をブラブラと揺らし、真っ黒な厚底のヒールがついた靴を僕に見せつけている。僕は無言でひざまずき、大きなリボンがついたその靴を丁寧に脱がせると、ルリはふっと笑った。


「いい子。」


そう言ってルリはジャケットだけ脱ぎ、制服のままベッドに入った。一人残された僕は何をしていいかも分からず、ここがどこで自分がどういう状況に置かれているのかも分からず、ただ夜が明けるまでただ立ち尽くしていた。

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