表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/16

第七話 彼の正体を暴く夜

 不良たちの悪魔のような笑い声が河川敷一帯を埋め尽くしていた。

 その場にいた不良たちの中の、ある五人は地面にうつ伏し動けない状態の(ヨル)に、何度も殴る蹴るなどの暴行を加えていた。またある五人は、金目のものがないかと(ヨル)のスクールバッグの中身を漁っていた。またそれ以外の不良たちは適当にだべっていたり、河川敷には火気厳禁の看板があるにも関わらず、手持ち花火を楽しんでいたりしており、河川敷は混沌(カオス)そのものだった。

「うおっ! なんだこれ!」

 (ヨル)の荷物を漁っていた班の一人が何かを発見し声を上げた。

その声に不良たち一同は一斉に反応した。

 長田(オサダ)が、「なんだ?」と言って、(ヨル)の荷物漁り班に近づいた。

「ほら見て見ろよ!」

 そう言って不良の一人がまるで自分のものかのように長田(オサダ)に見せびらかしたものとは、(ヨル)の水晶玉だった。

「……ッ‼」

 (ヨル)はそれを見て目を見開いた。

「待って……! それは本当にやめて‼」

 (ヨル)は必死の形相で叫んだ。

 しかし、その言葉は火に油を注ぐ結果になる。

 不良たちは、へ~と悪い笑みを浮かべた。

「なぁ、これ高く売れるかな?」

「まぁ売ってみる価値はありそうだな……コイツ財布も持ってなかったし、むしろ売れなきゃ困るよな!」

「このカードも、ある層にはウケるんじゃねぇか?」

 取り巻きの不良の一人がそう言ってタロットカードを長田(オサダ)に見せびらかした。

「ねぇ……本当にやめて……」

 (ヨル)は地面を這って近づこうとした。

「チッ‼ お前は黙ってろ……‼」

 しかし、(ヨル)の様子を監視していた不良たちに(ヨル)は取り押さえられてしまった。

「ヴッ……‼ 離してッ……‼」

 (ヨル)はそれでも必死にもがき続けた。

「大人しくしろお前! はぁ、どうする、長田(オサダ)?」

 (ヨル)を取り押さえた不良が長田(オサダ)に問いかけた。

「まぁ、その玉は、貰っとくか。高く売れそうだしな」

 長田(オサダ)(ヨル)の水晶玉に手を伸ばそうとした。

 そのとき――

「おい! お前!」

 (ヨル)を押さえていたいた不良が声を上げた。

「……ッ……‼」

 (ヨル)は不良たちをやっとの思いで振り払い、長田(オサダ)の体に思いっきりしがみつきかかったのだ。

「おい⁉ 何すんだよ⁉」

 長田(オサダ)は倒れ込んだ。

「離っれろ‼」

 長田(オサダ)(ヨル)を自分の体から引き離そうと顔とか関係なしに何度も(ヨル)を殴ったが、(ヨル)はがっしりと長田(オサダ)の体をロックして、離れそうになかった。

「……っ! それに触らないで‼」

「あぁ⁉ 気持ち(わり)ぃな‼ どけ!」

 長田(オサダ)(ヨル)の腹に一発蹴りを入れた。

「ヴェッ……!」

 (ヨル)は地面に倒れこんだ。

「チッ! お前ら、ちゃんと押さえてろよ‼」

 長田(オサダ)の怒声が取り巻きの不良たちの耳に響いた。

「わ、(わり)い」

 不良たちによって(ヨル)またもや取り押さえられてしまった。

「あ~そんなに大事なもんなんだな、これ? 確かに高そうだもんな~」

 長田(オサダ)は水晶玉を手に取り、水晶玉を通して映った(ヨル)の顔をまじまじと見ながらそう言った。

すると、長田(オサダ)は、「あ!」と何かを閃いたように声を上げた。

「ははっ、そんなにこれが大事なら……こっちのカードはどうなってもいいよな⁉」

 長田(オサダ)は、取り巻きの持っていたタロットカードを取り上げて、そのまま川の方に向かって大きく腕を振り上げた。

「ァ……‼」

 (ヨル)はその長田(オサダ)の腕の動作の意味をいち早く理解し、思わず息を呑んだ。

「……ッ‼ やめてッ‼」

 (ヨル)の振り絞った叫びが、夜のしじまを切り裂いた。

 その時、長田(オサダ)の振りあがった腕を何者かが背後から掴んで止めた。

「――おい、やめろ」

 長田(オサダ)はその聞き覚えのある声が突然耳に入り、咄嗟に振り返った。

 背後の人物をみて長田(オサダ)は目を丸くした。

「……ッ‼ お前ぇ……! なんでここにッ……⁉」

「……‼」

 (ヨル)長田(オサダ)の背後の人物を視界に捉えて、目を見開いた。

昼間(ヒルマ)くん……⁉」

 昼間(ヒルマ)は眉間にしわを寄せ、長田(オサダ)を睨みつけた。

「おわっ‼」

「えっ⁉ 待てよ……なんでこいつ、ここにいんの?」

「つ、つーか‼ いつからいた⁉」

 周りの不良たちは突然の昼間(ヒルマ)の登場に驚きを隠せずにいた。

「腕下ろせ」

 長田(オサダ)の腕を掴んでいた昼間(ヒルマ)の右手はだんだんと力がこもっていき長田(オサダ)の腕の骨はミシミシと音を立てた。

「……な、なんだよ~急に背後に現れんなよ! びっくりするだろ?」

 長田(オサダ)は平然を装いながら昼間(ヒルマ)の手を振りはらい、タロットカードを持っていた右手を下ろした。

「……」

 昼間(ヒルマ)はふざけた態度の長田(オサダ)よりも、(ヨル)に目がいっていた。

「……ッ……」

 昼間(ヒルマ)はボロボロになった(ヨル)を見て目をすぼめ、唇を嚙み締めた。

「……それ、返せ」

 昼間(ヒルマ)は冷淡な口調で長田(オサダ)に手を差し出した。

「はぁ、なんでだよ? そもそもお前、関係ねぇだろ」

 長田(オサダ)昼間(ヒルマ)を睨みつけて言った。

「……」

 しかし、昼間(ヒルマ)は黙ったまま、冷淡な眼差しを長田(オサダ)に向けた。

 長田(オサダ)は「チッ」と舌打ちをした。

「はぁ……お前マジでダサくなったな。前までこっち側だったのによ……何、急にコイツかばってんだよ? あぁ⁉」

 長田(オサダ)昼間(ヒルマ)を威圧するように、怒声をあげた。

 しかし、それに昼間(ヒルマ)がひるむ様子は全くなく、ただゴミを見るような冷淡な眼差しを長田(オサダ)に向け続けた。

「チッ、何だよその目……はぁ……分かった。分かった。コイツがそんなに特別なら、こうしよう。お前がこのメガネの代わりにリンチにあえ」

「……!」

 昼間(ヒルマ)は驚いたように表情を止めた。

「そしたら、このメガネは家に帰してやる。それでいいだろ? あ、でもお前はそんなことする人間じゃねぇか~アイツらのこともすぐに裏切るしな~」

 長田(オサダ)は、終始嫌味ったらしく棒読みで昼間(ヒルマ)を煽った。

 取り巻きの不良達は長田(オサダ)の言葉に「アハハッ!」と爆笑した。

「いや! なんでそうな」

 (ヨル)がそう反発しようとした昼間(ヒルマ)は口を開いた。

「はぁ……じゃあそれでいいぜ」

「え! マジで?」

 あっさりと自分の要求を承諾した昼間(ヒルマ)に対して、長田(オサダ)は思わず笑ってしまった。

「あぁ、(ヨル)を帰してやれるならオレはなんだっていいぜ」

昼間(ヒルマ)くん⁉ ま、待って、何考えて――」

 (ヨル)昼間(ヒルマ)があっさりと身代わりを承諾するなんて思ってもみなかったため、かなり戸惑っていた。

(ヨル)、もう帰れるから、安心しろ」

 そう言って昼間(ヒルマ)(ヨル)に近づくと(ヨル)を取り押さえていた不良たちは(ヨル)から自然と離れて行った。

 そんな二人を周りにいた不良たちは冷やかすように「ヒュー」と口笛を吹いたり、「カッコいいー」と連呼したりしていた。

「お前……立てるか?」

 昼間(ヒルマ)(ヨル)に手を伸ばした。しかし(ヨル)昼間(ヒルマ)の手をはらった。

「え」

「ま、待って、ダメ……駄目だよ……」

 (ヨル)はひどい顔になりながら必死に首を横に振った。

「いや、オレは大丈夫だ。だから立――」

「――大丈夫じゃない‼」

 (ヨル)は今までになく強い口調で言った。

「……‼」

「僕は……大丈夫……だからさ……! 昼間(ヒルマ)くんは帰って…………お願いッ……!」

 (ヨル)は涙目になりながらひどく懇願するように言った。

昼間(ヒルマ)くんのことを避けてしまった僕に、助けてもらう価値なんてないんだっ……!)

 (ヨル)は両拳を強く握り、唇を噛み締めた。

「お前……大丈夫なわけ、ないだろ……」

 昼間(ヒルマ)は苦しそうに顔をしかめた。

「あははっ‼ メガネくんは仲間思いなんだなぁ‼」

 長田(オサダ)は高らかに笑った。

「……はぁ……ふぅ……」

 昼間(ヒルマ)は息を吸って吐いて、気持ちを落ち着かせた。

(ヨル)……お前に最後に言いたいことがある」

 昼間(ヒルマ)(ヨル)の目線と同じ高さになるように、腰を下ろした。

「すまなかった。こんなことに付き合わせてしまって」

 昼間(ヒルマ)(ヨル)に向かって深々と頭を下げた。

昼間(ヒルマ)くん……!」

 (ヨル)は目を丸くした。

「許してくれとは言わない、全部オレが悪いんだ。全部……全部……」

 一言(ひとこと)一言(ひとこと)深くかみしめながら昼間(ヒルマ)は言った。

 それを見た長田(オサダ)を含めた不良たちは笑い転げた。

「アハハッ‼」

「くくっ……! お前、あんま笑ってやんなよって」

「だって! こんな、情けない昼間(ヒルマ)、みたことねぇよ!」

「お前やっぱ最高だな!」

「ハハッ‼ ヤバァ‼」

 その場にいた不良たちは口々に昼間(ヒルマ)に嘲笑の言葉を浴びせた。

「ハハッ! お前ちゃんと謝れるじゃねぇか!」

と言って長田(オサダ)昼間(ヒルマ)の背中をバンバン叩いた。

「いや~見直したぜ」

「――だけど……」と言って昼間(ヒルマ)は周りの不良たちにはまるで眼中にないかよのように昼間(ヒルマ)は顔を上げた。

「オレは同時に、お前に感謝している。(ヨル)

 昼間(ヒルマ)は、暖かく優しい眼差しで(ヨル)を見つめた。

「あ…………」

 (ヨル)は目尻がふつふつと湧き出るくらい熱くなるのを感じた。

「オレはお前のおかげで目が覚めたよ。あんなクソ野郎どもと関わるなんて馬鹿げていたってことをな……‼」

 昼間(ヒルマ)(ヨル)から長田(オサダ)に視線を変えた。

「はぁ‼ 誰が、クソだ⁉」

 長田(オサダ)昼間(ヒルマ)の胸ぐらを思いっきり掴みかかった。

「お前しかいねぇだろ、長田(オサダ)。確かに、お前らからしたら、オレは薄情な奴だよ。だけどそれは オレからしてもだ。だからもういいよな? こっちはいい加減、お前のそのクソくだらねぇ友達ごっこに付き合ってられねぇんだけど?」

 昼間(ヒルマ)長田(オサダ)をなめ腐ったような目で見据えた。

 長田(オサダ)は顔に血管を浮き出させた。

「調子……乗ってんじゃねーよ‼」

 長田(オサダ)は怒鳴りながら、タロットカードを持った右手を大きく振り上げ――その拳を昼間(ヒルマ)の顔面にトばした。

昼間(ヒルマ)くん‼」

 (ヨル)が叫ぶ。

 しかし、その拳は昼間(ヒルマ)の顔面の目の前で止まった。

「……⁉」

「ったくよー、二度も同じ手くらうわけねぇだろ?」

 昼間(ヒルマ)長田(オサダ)の拳を握って止めた。

「チッ‼ 放しやがれ‼」

 長田(オサダ)昼間(ヒルマ)の手を振り払った。

「……!」

 すると長田(オサダ)(ヨル)のカードケースを地面に叩きつけた。

 カードケースの中身のカードがバラバラッ――と草むらに広がった。そして、長田(オサダ)は地団太を踏むかのようにタロットカードを思いっきり踏みつけた。

「……‼ てめッ……!」

 昼間(ヒルマ)は顔に血管を浮き出させた。

「ははっ! こんなにムカつくこと言われたのは初めてだぜ……はぁ、もういいや……お前も! あのメガネも! 今日は帰させねぇよ……‼」

「チッ、てめぇ……話が違ぇだろうが……どこまでいってもクズだな……」

「ははっ、んなこと知るか、オレがルールなんだよ」

「……」

 長田(オサダ)の暴君のような言動に昼間(ヒルマ)は呆れるほかなかった。

「おい! お前ら! こいつら二人とも再起不能コースがご所望(しょもう)みたいだ‼ しっかり最後までサービスしろよ‼」

 目が、完全キマってしまった長田(オサダ)の言葉で、周りの不良たちは完全にスイッチが入ったように「ひひひっ」と不気味な笑みを浮かべながら、二人の方にじわりじわり近づいて来た。

(まずい! 僕だけならまだしも……昼間(ヒルマ)くんが危ない……‼)

昼間(ヒルマ)くん……‼ 逃げ――」

 (ヨル)昼間(ヒルマ)の方を見ると、昼間(ヒルマ)はふっと笑みを浮かべていた。

(……!)

 (ヨル)はその昼間(ヒルマ)様子を見て目をパチパチとさせた。

「お前、何笑ってやがる!」

 長田(オサダ)が不審な目を昼間(ヒルマ)に向けた。

「この世の終わりすぎて、狂っちまったんじゃねぇか?」

「この人数だもんな!」

 他の不良たちも口々と言うが昼間(ヒルマ)は笑みを絶やすことはなかった。

「いや、悪い。お前らがダサすぎて、つい……! はぁ、たった二人にこの人数……お前らムキになりすぎなんだよ。恥ずかしくねぇの?」

「ハァ⁇」

 周りにいた不良たちが続々とキレ始めるが、昼間(ヒルマ)は口を慎もうとする素振りは微塵もない。

「群れでしか行動できない甘ちゃん連中が……このオレに勝てると……本気で思ってんのか?」

「アァ‼ んだッと……コラァァ‼」

 昼間(ヒルマ)の煽り文句が取り巻きの不良の一人の琴線に触れ昼間(ヒルマ)に向かってもうスピードで走ってきた。

「ヒッ‼」

 (ヨル)が怯えた声を上げた。

「なぁ、(ヨル)、最後に一つだけオレの願いを聞いて欲しい……」

 昼間(ヒルマ)は敵に視線を向けながら(ヨル)に言った。

「え?」

「オレがどんな姿になっても、オレから目を離さないでくれ」

「……!」

 (ヨル)昼間(ヒルマ)の横顔から見える水晶のように澄み切った琥珀色の瞳に……うなづくほかなかった。

「うんっ……!」

 (ヨル)相槌(あいづち)をしっかりと受け取ると、昼間(ヒルマ)は自然と口角をあげた。

「死ねッ‼ この野郎ッ‼」

 昼間(ヒルマ)に迫って来た不良は大きく右腕を振り上げ、昼間(ヒルマ)の顔面に向かって拳を大きく突き出した。

 しかし、その拳は(くう)を切った。

 不良が視線を落とした。

 するとそこには地面に身を低くかがませた昼間(ヒルマ)がいた。

 そして、突然、昼間(ヒルマ)の頭から獣のような耳が生えた。

 しかし、不良が驚く間もなく、昼間(ヒルマ)は一瞬――飛んだ。

 昼間(ヒルマ)の左足が空を切り裂き、がら空きの不良の(みぎ)後頭部(こうとうぶ)にドカッ! と蹴りを入れ、そしてそのまま円を描くようにまた、ドカッ‼ と鈍い音を響かせながら昼間(ヒルマ)はその不良を地面に叩きつけた

「ガハッ‼」

 不良はタンを吐き出したのち、白目をむきながらぴくりとも動かなくなった。

「「「「「「「「……‼」」」」」」」」

 その一瞬の出来事に、長田(オサダ)たちは唖然とした。

 そして昼間(ヒルマ)はゆらりと立ち上がった。

 しかし、その姿は今まで皆が見ていた昼間(ヒルマ)の姿ではなかった。

「……あ…………」

 昼間(ヒルマ)のその姿を見て、(ヨル)は空いた口がふさがらなかった。

 昼間(ヒルマ)の頭部からは狼のような縦長の耳が生え、その耳には見覚えのあるピアスが、銀色にキラリと光っていた。

 顔は人間の様だが、狼のような鋭い瞳孔を持ち合わせ、狼のような真っ黒な鼻を突き出している。さらに臀部(でんぶ)からは狼のような毛むくじゃらの長い尻尾が生えていた。

「ったく本当は、(ヨル)がいなくなってから変身しようとしてたのによ……」

 (ヨル)はぼそっと呟いた。

「お前らから吹っ掛けられたケンカ……おまけに、オレは一昨日(最初)に長田(オサダ)から一発くらってんだ。だったら…………やり返す理由は十分だよな?」

 昼間(ヒルマ)はそう言って手の指をポキポキと鳴らし、鋭い瞳孔であたりにいた不良たちをギロリと睨みつけた。

 その瞳孔はまるで、今から狩られるのはお前らだ。と言っているようだった。

「ヒッ‼」

 不良たちはおびえた様子で後ずさった。

「はっ…はは……! なんだその恰好……コスプレか……? いつまでもふざけた野郎だな……」

 そう言って昼間(ヒルマ)を指さした長田(オサダ)の人差し指はやや小刻みに震えていた。

「ふざけてるのはお前の方だ長田(オサダ)。オレを再起不能にするんだろ? いいぜ。やってみろよ? やれるもんならな……‼」

 昼間(ヒルマ)は意地の悪い目を光らせながら、ちょいちょい、と自分の方に来るよう促すように人差し指を動かした。

 その昼間(ヒルマ)の行動はさらに長田(オサダ)癇癪(かんしゃく)に触れた。

「チッ‼ ナメやがって……‼ お前らも何ビビってんだ⁉ こいつ一人ぐらいどうってことねぇよ! 俺たちはこれだけの人数がいるんだ‼ お前一人がどう足搔こうが結局オチは決まってんだよ! そのふざけた格好もどんなトリック使ってんのか暴いてやるからな‼」

「あぁ、そ、そうだよな……」

「な、何かトリックがあるに決まってる‼」

 長田(オサダ)のその発言を聞き、取り巻きの不良たちは、何かのトリックで姿が変わっただけだと思い込み、もとの威勢の良さが取り戻しつつあった。

「よ、よし……」

 長田(オサダ)は仲間の不良たちを自分の口車に上手く乗せることができたことを確認すると、長田(オサダ)は、昼間(ヒルマ)(ヨル)がいる方向に腕を大きく振った。

「お前ら……一斉にかかれぇぇ‼」

 長田(オサダ)の合図とともに取り巻きの不良たちが、「ォォォオオオオオ‼」とすさまじい気迫で二人の方に一気に駆け出してきた。

「……」

 昼間(ヒルマ)もその不良たちの集団に向かってすぐさま駆け出した。

「オラァ‼」

 先頭に出た二人の不良が、右、左、と両側から次々にパンチを繰り出さす。

 しかし、昼間(ヒルマ)は右、左、と体を(ひね)らせながら一つずつ最小限の動きでよけ、片方の不良に昼間(ヒルマ)は腕を下から目一杯引き、不良(敵)の腹部に思いっきり突き出した。

「グハッ‼」

 昼間(ヒルマ)は間髪入れずに倒れかかった不良を土台のように踏み、シュッ――! と殴りかかってきたもう一方の不良に懇親の蹴りを入れた。

「ヴッ‼」

 次は後ろから別の不良が昼間(ヒルマ)に腕をまわし拘束する体制をとる。しかし、昼間(ヒルマ)は動じす

 ドカッ! ドカッ! と右ひじを不良の顔面に食らわせた。

「オラァ‼」

 最後(のち)には右ストレートを顔面におみまいさせるとその不良は吹っ飛び、後ろにいた別の不良たちに覆いかぶさった。

 するとその(かん)に、不良が昼間(ヒルマ)の横を通り過ぎる。

「……!」

 (ヨル)の方に敵が向かった。

「テメェから死ねぇぇ‼」

「……ッ‼」

 (ヨル)は逃げようと試みるが自身の足に痛みが伴い立ち上がることができなかった。

(痛ッ……‼ マズイ……! 立てないッ……‼) 

 そんな時に敵が待ってくれるはずもなく敵のパンチが猛スピードでとんでくる――

「オラァ‼」

「ヒッ……‼」と(ヨル)は反射的に目をつぶった。

〝ドカッ――!〟

 しかし、間一髪のところで、昼間(ヒルマ)が蹴りで敵を吹っ飛ばした。

「グェ……‼」

 殴りかかってきた不良は地面に倒れた。

「あ……‼ 昼間(ヒルマ)くん‼」

「オイ、お前ら……」

 昼間(ヒルマ)は目の色を変えた。

(ヨル)に指一本でも触れてみろ……その指、切り落とすからな?」

 昼間(ヒルマ)は鋭利な爪を不良たちに見せながら本気(マジ)の低いトーンで言った。

「ヒィッ‼」

 昼間(ヒルマ)の殺気に不良たちは思わずたじろぎ、歩を進めることを躊躇した。

 そんな時、長田(オサダ)が怒声をあげた。

「オイ‼ ヒよってんじゃねぇぞ‼ お前ら‼ さっさと行け‼」

 不良たちはまたもや、長田(オサダ)に無理やり戦闘のスイッチを入れさせられ、昼間(ヒルマ)に次々と殴りかかって行った。

「チッ……! オラァ‼ くたばれ‼」

 次に殴りかかってきた不良の股下を昼間(ヒルマ)はヒュッ――! と、軽々とくぐりぬけると、地面に両手をつき、開脚して円を描くように足を回転させ付近にいた不良たちをあとかたもなく一掃(いっそう)した。

 昼間(ヒルマ)はその後も多勢で襲ってくる不良たちに一瞬の隙も見せず、相手した。

「……‼ グホッ……! ガハッ……‼ チッ……オラァ‼」

 不良は昼間(ヒルマ)のパンチを顔面に三発くらいながらも、不良は昼間(ヒルマ)に向かって懇親のパンチを繰り出した。

 しかし、そのパンチは完全に昼間(ヒルマ)に見切られていた。

「チッ、遅せぇよ……!」

 昼間(ヒルマ)は不良のパンチを軽々と避けたあと、不良の顔面に自分の拳を思いっきり食い込ませた。

「ガハッ‼」

 不良は鼻から血を噴き出させた。

「こいつ、マジでバケ……モン……」

 不良はそう一言、言い残してどさっと地面に倒れ込んだ。

その不良が最後の一人だった。

(ヨル)は不良たちを一掃した昼間(ヒルマ)を見てごくりと唾液を飲み込んだ。

(すごい……‼ さっきまであれだけの人数がいたのに! まさか、一人で全員片付けてしまうなんて……‼)

 しかし、(ヨル)昼間(ヒルマ)に気を取られていたせいで、自分に魔の手が迫っていることに気づいていなかった。

(チッ……‼ まだ、こんなところで……終われるかよ……‼ せめて……アイツだけでも……)

 その魔の手の正体は長田(オサダ)だった。

(まぁ、こんなもんか……)

 昼間(ヒルマ)はふぅと安堵の息を漏らした。

その時――「や、やめて‼」と(ヨル)の叫び声が昼間(ヒルマ)の背後から突然聞こえてきた。

「……!」

 昼間(ヒルマ)は咄嗟に振り返った。

 昼間(ヒルマ)はその光景を見て、呼吸が一瞬止まった。

「やめてっ……(はな)して……‼」

「大人しくしろ、お前‼」

 刃渡り十五センチほどのナイフを持った長田(オサダ)(ヨル)を切りつけていた。

「……ッ‼ てめぇ‼」

 昼間(ヒルマ)は鬼の形相で長田(オサダ)を睨んだ。

「オイッ‼ そこ動くんじゃねぇぞ昼間(ヒルマ)‼ このメガネに傷をつけたくなかったらな‼」

「ヒッ……!」

 長田(オサダ)(ヨル)の首にナイフを当てた。

 昼間(ヒルマ)は、「チッ!」と舌打ちをして動きを止めた。

「よーし、いいぞ……」

 長田(オサダ)は余裕が出てきて、邪悪な笑みを浮かべた。

「土下座だ‼ ド・ゲ・ザァ‼ (こうべ)をたれてやったら許してやらないこともない‼」

 静寂な河川敷に悪魔の声が(またた)く間に響き渡った。

昼間(ヒルマ)くん……こんな奴、相手にやること……っないよ……‼」

「……‼」

 昼間(ヒルマ)はそう言った(ヨル)の目が潤んでいることにすぐに気づき、言葉を喉に詰まらせた。

「……ほら……やれよ、早く‼」

 長田(オサダ)()かすように、ナイフを上下に揺らした。

「……」

 昼間(ヒルマ)は黙ったまま唇を噛み締め、両拳を強く握りしめた。

「……長田(オサダ)……お前にとってオレは、最初からダチでもなんでもなかったのか?」

 昼間(ヒルマ)は神妙な面持ちで長田(オサダ)に問いかけた。

「はぁ? 急に何言って……」

 長田(オサダ)昼間(ヒルマ)の唐突な問いに首を(かし)げた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ