第七話 彼の正体を暴く夜
不良たちの悪魔のような笑い声が河川敷一帯を埋め尽くしていた。
その場にいた不良たちの中の、ある五人は地面にうつ伏し動けない状態の夜に、何度も殴る蹴るなどの暴行を加えていた。またある五人は、金目のものがないかと夜のスクールバッグの中身を漁っていた。またそれ以外の不良たちは適当にだべっていたり、河川敷には火気厳禁の看板があるにも関わらず、手持ち花火を楽しんでいたりしており、河川敷は混沌そのものだった。
「うおっ! なんだこれ!」
夜の荷物を漁っていた班の一人が何かを発見し声を上げた。
その声に不良たち一同は一斉に反応した。
長田が、「なんだ?」と言って、夜の荷物漁り班に近づいた。
「ほら見て見ろよ!」
そう言って不良の一人がまるで自分のものかのように長田に見せびらかしたものとは、夜の水晶玉だった。
「……ッ‼」
夜はそれを見て目を見開いた。
「待って……! それは本当にやめて‼」
夜は必死の形相で叫んだ。
しかし、その言葉は火に油を注ぐ結果になる。
不良たちは、へ~と悪い笑みを浮かべた。
「なぁ、これ高く売れるかな?」
「まぁ売ってみる価値はありそうだな……コイツ財布も持ってなかったし、むしろ売れなきゃ困るよな!」
「このカードも、ある層にはウケるんじゃねぇか?」
取り巻きの不良の一人がそう言ってタロットカードを長田に見せびらかした。
「ねぇ……本当にやめて……」
夜は地面を這って近づこうとした。
「チッ‼ お前は黙ってろ……‼」
しかし、夜の様子を監視していた不良たちに夜は取り押さえられてしまった。
「ヴッ……‼ 離してッ……‼」
夜はそれでも必死にもがき続けた。
「大人しくしろお前! はぁ、どうする、長田?」
夜を取り押さえた不良が長田に問いかけた。
「まぁ、その玉は、貰っとくか。高く売れそうだしな」
長田は夜の水晶玉に手を伸ばそうとした。
そのとき――
「おい! お前!」
夜を押さえていたいた不良が声を上げた。
「……ッ……‼」
夜は不良たちをやっとの思いで振り払い、長田の体に思いっきりしがみつきかかったのだ。
「おい⁉ 何すんだよ⁉」
長田は倒れ込んだ。
「離っれろ‼」
長田は夜を自分の体から引き離そうと顔とか関係なしに何度も夜を殴ったが、夜はがっしりと長田の体をロックして、離れそうになかった。
「……っ! それに触らないで‼」
「あぁ⁉ 気持ち悪ぃな‼ どけ!」
長田は夜の腹に一発蹴りを入れた。
「ヴェッ……!」
夜は地面に倒れこんだ。
「チッ! お前ら、ちゃんと押さえてろよ‼」
長田の怒声が取り巻きの不良たちの耳に響いた。
「わ、悪い」
不良たちによって夜またもや取り押さえられてしまった。
「あ~そんなに大事なもんなんだな、これ? 確かに高そうだもんな~」
長田は水晶玉を手に取り、水晶玉を通して映った夜の顔をまじまじと見ながらそう言った。
すると、長田は、「あ!」と何かを閃いたように声を上げた。
「ははっ、そんなにこれが大事なら……こっちのカードはどうなってもいいよな⁉」
長田は、取り巻きの持っていたタロットカードを取り上げて、そのまま川の方に向かって大きく腕を振り上げた。
「ァ……‼」
夜はその長田の腕の動作の意味をいち早く理解し、思わず息を呑んだ。
「……ッ‼ やめてッ‼」
夜の振り絞った叫びが、夜のしじまを切り裂いた。
その時、長田の振りあがった腕を何者かが背後から掴んで止めた。
「――おい、やめろ」
長田はその聞き覚えのある声が突然耳に入り、咄嗟に振り返った。
背後の人物をみて長田は目を丸くした。
「……ッ‼ お前ぇ……! なんでここにッ……⁉」
「……‼」
夜は長田の背後の人物を視界に捉えて、目を見開いた。
「昼間くん……⁉」
昼間は眉間にしわを寄せ、長田を睨みつけた。
「おわっ‼」
「えっ⁉ 待てよ……なんでこいつ、ここにいんの?」
「つ、つーか‼ いつからいた⁉」
周りの不良たちは突然の昼間の登場に驚きを隠せずにいた。
「腕下ろせ」
長田の腕を掴んでいた昼間の右手はだんだんと力がこもっていき長田の腕の骨はミシミシと音を立てた。
「……な、なんだよ~急に背後に現れんなよ! びっくりするだろ?」
長田は平然を装いながら昼間の手を振りはらい、タロットカードを持っていた右手を下ろした。
「……」
昼間はふざけた態度の長田よりも、夜に目がいっていた。
「……ッ……」
昼間はボロボロになった夜を見て目をすぼめ、唇を嚙み締めた。
「……それ、返せ」
昼間は冷淡な口調で長田に手を差し出した。
「はぁ、なんでだよ? そもそもお前、関係ねぇだろ」
長田は昼間を睨みつけて言った。
「……」
しかし、昼間は黙ったまま、冷淡な眼差しを長田に向けた。
長田は「チッ」と舌打ちをした。
「はぁ……お前マジでダサくなったな。前までこっち側だったのによ……何、急にコイツかばってんだよ? あぁ⁉」
長田は昼間を威圧するように、怒声をあげた。
しかし、それに昼間がひるむ様子は全くなく、ただゴミを見るような冷淡な眼差しを長田に向け続けた。
「チッ、何だよその目……はぁ……分かった。分かった。コイツがそんなに特別なら、こうしよう。お前がこのメガネの代わりにリンチにあえ」
「……!」
昼間は驚いたように表情を止めた。
「そしたら、このメガネは家に帰してやる。それでいいだろ? あ、でもお前はそんなことする人間じゃねぇか~アイツらのこともすぐに裏切るしな~」
長田は、終始嫌味ったらしく棒読みで昼間を煽った。
取り巻きの不良達は長田の言葉に「アハハッ!」と爆笑した。
「いや! なんでそうな」
夜がそう反発しようとした昼間は口を開いた。
「はぁ……じゃあそれでいいぜ」
「え! マジで?」
あっさりと自分の要求を承諾した昼間に対して、長田は思わず笑ってしまった。
「あぁ、夜を帰してやれるならオレはなんだっていいぜ」
「昼間くん⁉ ま、待って、何考えて――」
夜は昼間があっさりと身代わりを承諾するなんて思ってもみなかったため、かなり戸惑っていた。
「夜、もう帰れるから、安心しろ」
そう言って昼間は夜に近づくと夜を取り押さえていた不良たちは夜から自然と離れて行った。
そんな二人を周りにいた不良たちは冷やかすように「ヒュー」と口笛を吹いたり、「カッコいいー」と連呼したりしていた。
「お前……立てるか?」
昼間は夜に手を伸ばした。しかし夜は昼間の手をはらった。
「え」
「ま、待って、ダメ……駄目だよ……」
夜はひどい顔になりながら必死に首を横に振った。
「いや、オレは大丈夫だ。だから立――」
「――大丈夫じゃない‼」
夜は今までになく強い口調で言った。
「……‼」
「僕は……大丈夫……だからさ……! 昼間くんは帰って…………お願いッ……!」
夜は涙目になりながらひどく懇願するように言った。
(昼間くんのことを避けてしまった僕に、助けてもらう価値なんてないんだっ……!)
夜は両拳を強く握り、唇を噛み締めた。
「お前……大丈夫なわけ、ないだろ……」
昼間は苦しそうに顔をしかめた。
「あははっ‼ メガネくんは仲間思いなんだなぁ‼」
長田は高らかに笑った。
「……はぁ……ふぅ……」
昼間は息を吸って吐いて、気持ちを落ち着かせた。
「夜……お前に最後に言いたいことがある」
昼間は夜の目線と同じ高さになるように、腰を下ろした。
「すまなかった。こんなことに付き合わせてしまって」
昼間は夜に向かって深々と頭を下げた。
「昼間くん……!」
夜は目を丸くした。
「許してくれとは言わない、全部オレが悪いんだ。全部……全部……」
一言一言深くかみしめながら昼間は言った。
それを見た長田を含めた不良たちは笑い転げた。
「アハハッ‼」
「くくっ……! お前、あんま笑ってやんなよって」
「だって! こんな、情けない昼間、みたことねぇよ!」
「お前やっぱ最高だな!」
「ハハッ‼ ヤバァ‼」
その場にいた不良たちは口々に昼間に嘲笑の言葉を浴びせた。
「ハハッ! お前ちゃんと謝れるじゃねぇか!」
と言って長田は昼間の背中をバンバン叩いた。
「いや~見直したぜ」
「――だけど……」と言って昼間は周りの不良たちにはまるで眼中にないかよのように昼間は顔を上げた。
「オレは同時に、お前に感謝している。夜」
昼間は、暖かく優しい眼差しで夜を見つめた。
「あ…………」
夜は目尻がふつふつと湧き出るくらい熱くなるのを感じた。
「オレはお前のおかげで目が覚めたよ。あんなクソ野郎どもと関わるなんて馬鹿げていたってことをな……‼」
昼間は夜から長田に視線を変えた。
「はぁ‼ 誰が、クソだ⁉」
長田は昼間の胸ぐらを思いっきり掴みかかった。
「お前しかいねぇだろ、長田。確かに、お前らからしたら、オレは薄情な奴だよ。だけどそれは オレからしてもだ。だからもういいよな? こっちはいい加減、お前のそのクソくだらねぇ友達ごっこに付き合ってられねぇんだけど?」
昼間は長田をなめ腐ったような目で見据えた。
長田は顔に血管を浮き出させた。
「調子……乗ってんじゃねーよ‼」
長田は怒鳴りながら、タロットカードを持った右手を大きく振り上げ――その拳を昼間の顔面にトばした。
「昼間くん‼」
夜が叫ぶ。
しかし、その拳は昼間の顔面の目の前で止まった。
「……⁉」
「ったくよー、二度も同じ手くらうわけねぇだろ?」
昼間が長田の拳を握って止めた。
「チッ‼ 放しやがれ‼」
長田は昼間の手を振り払った。
「……!」
すると長田は夜のカードケースを地面に叩きつけた。
カードケースの中身のカードがバラバラッ――と草むらに広がった。そして、長田は地団太を踏むかのようにタロットカードを思いっきり踏みつけた。
「……‼ てめッ……!」
昼間は顔に血管を浮き出させた。
「ははっ! こんなにムカつくこと言われたのは初めてだぜ……はぁ、もういいや……お前も! あのメガネも! 今日は帰させねぇよ……‼」
「チッ、てめぇ……話が違ぇだろうが……どこまでいってもクズだな……」
「ははっ、んなこと知るか、オレがルールなんだよ」
「……」
長田の暴君のような言動に昼間は呆れるほかなかった。
「おい! お前ら! こいつら二人とも再起不能コースがご所望みたいだ‼ しっかり最後までサービスしろよ‼」
目が、完全キマってしまった長田の言葉で、周りの不良たちは完全にスイッチが入ったように「ひひひっ」と不気味な笑みを浮かべながら、二人の方にじわりじわり近づいて来た。
(まずい! 僕だけならまだしも……昼間くんが危ない……‼)
「昼間くん……‼ 逃げ――」
夜が昼間の方を見ると、昼間はふっと笑みを浮かべていた。
(……!)
夜はその昼間様子を見て目をパチパチとさせた。
「お前、何笑ってやがる!」
長田が不審な目を昼間に向けた。
「この世の終わりすぎて、狂っちまったんじゃねぇか?」
「この人数だもんな!」
他の不良たちも口々と言うが昼間は笑みを絶やすことはなかった。
「いや、悪い。お前らがダサすぎて、つい……! はぁ、たった二人にこの人数……お前らムキになりすぎなんだよ。恥ずかしくねぇの?」
「ハァ⁇」
周りにいた不良たちが続々とキレ始めるが、昼間は口を慎もうとする素振りは微塵もない。
「群れでしか行動できない甘ちゃん連中が……このオレに勝てると……本気で思ってんのか?」
「アァ‼ んだッと……コラァァ‼」
昼間の煽り文句が取り巻きの不良の一人の琴線に触れ昼間に向かってもうスピードで走ってきた。
「ヒッ‼」
夜が怯えた声を上げた。
「なぁ、夜、最後に一つだけオレの願いを聞いて欲しい……」
昼間は敵に視線を向けながら夜に言った。
「え?」
「オレがどんな姿になっても、オレから目を離さないでくれ」
「……!」
夜は昼間の横顔から見える水晶のように澄み切った琥珀色の瞳に……うなづくほかなかった。
「うんっ……!」
夜の相槌をしっかりと受け取ると、昼間は自然と口角をあげた。
「死ねッ‼ この野郎ッ‼」
昼間に迫って来た不良は大きく右腕を振り上げ、昼間の顔面に向かって拳を大きく突き出した。
しかし、その拳は空を切った。
不良が視線を落とした。
するとそこには地面に身を低くかがませた昼間がいた。
そして、突然、昼間の頭から獣のような耳が生えた。
しかし、不良が驚く間もなく、昼間は一瞬――飛んだ。
昼間の左足が空を切り裂き、がら空きの不良の右後頭部にドカッ! と蹴りを入れ、そしてそのまま円を描くようにまた、ドカッ‼ と鈍い音を響かせながら昼間はその不良を地面に叩きつけた
「ガハッ‼」
不良はタンを吐き出したのち、白目をむきながらぴくりとも動かなくなった。
「「「「「「「「……‼」」」」」」」」
その一瞬の出来事に、長田たちは唖然とした。
そして昼間はゆらりと立ち上がった。
しかし、その姿は今まで皆が見ていた昼間の姿ではなかった。
「……あ…………」
昼間のその姿を見て、夜は空いた口がふさがらなかった。
昼間の頭部からは狼のような縦長の耳が生え、その耳には見覚えのあるピアスが、銀色にキラリと光っていた。
顔は人間の様だが、狼のような鋭い瞳孔を持ち合わせ、狼のような真っ黒な鼻を突き出している。さらに臀部からは狼のような毛むくじゃらの長い尻尾が生えていた。
「ったく本当は、夜がいなくなってから変身しようとしてたのによ……」
夜はぼそっと呟いた。
「お前らから吹っ掛けられたケンカ……おまけに、オレは一昨日(最初)に長田から一発くらってんだ。だったら…………やり返す理由は十分だよな?」
昼間はそう言って手の指をポキポキと鳴らし、鋭い瞳孔であたりにいた不良たちをギロリと睨みつけた。
その瞳孔はまるで、今から狩られるのはお前らだ。と言っているようだった。
「ヒッ‼」
不良たちはおびえた様子で後ずさった。
「はっ…はは……! なんだその恰好……コスプレか……? いつまでもふざけた野郎だな……」
そう言って昼間を指さした長田の人差し指はやや小刻みに震えていた。
「ふざけてるのはお前の方だ長田。オレを再起不能にするんだろ? いいぜ。やってみろよ? やれるもんならな……‼」
昼間は意地の悪い目を光らせながら、ちょいちょい、と自分の方に来るよう促すように人差し指を動かした。
その昼間の行動はさらに長田の癇癪に触れた。
「チッ‼ ナメやがって……‼ お前らも何ビビってんだ⁉ こいつ一人ぐらいどうってことねぇよ! 俺たちはこれだけの人数がいるんだ‼ お前一人がどう足搔こうが結局オチは決まってんだよ! そのふざけた格好もどんなトリック使ってんのか暴いてやるからな‼」
「あぁ、そ、そうだよな……」
「な、何かトリックがあるに決まってる‼」
長田のその発言を聞き、取り巻きの不良たちは、何かのトリックで姿が変わっただけだと思い込み、もとの威勢の良さが取り戻しつつあった。
「よ、よし……」
長田は仲間の不良たちを自分の口車に上手く乗せることができたことを確認すると、長田は、昼間と夜がいる方向に腕を大きく振った。
「お前ら……一斉にかかれぇぇ‼」
長田の合図とともに取り巻きの不良たちが、「ォォォオオオオオ‼」とすさまじい気迫で二人の方に一気に駆け出してきた。
「……」
昼間もその不良たちの集団に向かってすぐさま駆け出した。
「オラァ‼」
先頭に出た二人の不良が、右、左、と両側から次々にパンチを繰り出さす。
しかし、昼間は右、左、と体を捻らせながら一つずつ最小限の動きでよけ、片方の不良に昼間は腕を下から目一杯引き、不良(敵)の腹部に思いっきり突き出した。
「グハッ‼」
昼間は間髪入れずに倒れかかった不良を土台のように踏み、シュッ――! と殴りかかってきたもう一方の不良に懇親の蹴りを入れた。
「ヴッ‼」
次は後ろから別の不良が昼間に腕をまわし拘束する体制をとる。しかし、昼間は動じす
ドカッ! ドカッ! と右ひじを不良の顔面に食らわせた。
「オラァ‼」
最後には右ストレートを顔面におみまいさせるとその不良は吹っ飛び、後ろにいた別の不良たちに覆いかぶさった。
するとその間に、不良が昼間の横を通り過ぎる。
「……!」
夜の方に敵が向かった。
「テメェから死ねぇぇ‼」
「……ッ‼」
夜は逃げようと試みるが自身の足に痛みが伴い立ち上がることができなかった。
(痛ッ……‼ マズイ……! 立てないッ……‼)
そんな時に敵が待ってくれるはずもなく敵のパンチが猛スピードでとんでくる――
「オラァ‼」
「ヒッ……‼」と夜は反射的に目をつぶった。
〝ドカッ――!〟
しかし、間一髪のところで、昼間が蹴りで敵を吹っ飛ばした。
「グェ……‼」
殴りかかってきた不良は地面に倒れた。
「あ……‼ 昼間くん‼」
「オイ、お前ら……」
昼間は目の色を変えた。
「夜に指一本でも触れてみろ……その指、切り落とすからな?」
昼間は鋭利な爪を不良たちに見せながら本気の低いトーンで言った。
「ヒィッ‼」
昼間の殺気に不良たちは思わずたじろぎ、歩を進めることを躊躇した。
そんな時、長田が怒声をあげた。
「オイ‼ ヒよってんじゃねぇぞ‼ お前ら‼ さっさと行け‼」
不良たちはまたもや、長田に無理やり戦闘のスイッチを入れさせられ、昼間に次々と殴りかかって行った。
「チッ……! オラァ‼ くたばれ‼」
次に殴りかかってきた不良の股下を昼間はヒュッ――! と、軽々とくぐりぬけると、地面に両手をつき、開脚して円を描くように足を回転させ付近にいた不良たちをあとかたもなく一掃した。
昼間はその後も多勢で襲ってくる不良たちに一瞬の隙も見せず、相手した。
「……‼ グホッ……! ガハッ……‼ チッ……オラァ‼」
不良は昼間のパンチを顔面に三発くらいながらも、不良は昼間に向かって懇親のパンチを繰り出した。
しかし、そのパンチは完全に昼間に見切られていた。
「チッ、遅せぇよ……!」
昼間は不良のパンチを軽々と避けたあと、不良の顔面に自分の拳を思いっきり食い込ませた。
「ガハッ‼」
不良は鼻から血を噴き出させた。
「こいつ、マジでバケ……モン……」
不良はそう一言、言い残してどさっと地面に倒れ込んだ。
その不良が最後の一人だった。
夜は不良たちを一掃した昼間を見てごくりと唾液を飲み込んだ。
(すごい……‼ さっきまであれだけの人数がいたのに! まさか、一人で全員片付けてしまうなんて……‼)
しかし、夜は昼間に気を取られていたせいで、自分に魔の手が迫っていることに気づいていなかった。
(チッ……‼ まだ、こんなところで……終われるかよ……‼ せめて……アイツだけでも……)
その魔の手の正体は長田だった。
(まぁ、こんなもんか……)
昼間はふぅと安堵の息を漏らした。
その時――「や、やめて‼」と夜の叫び声が昼間の背後から突然聞こえてきた。
「……!」
昼間は咄嗟に振り返った。
昼間はその光景を見て、呼吸が一瞬止まった。
「やめてっ……放して……‼」
「大人しくしろ、お前‼」
刃渡り十五センチほどのナイフを持った長田が夜を切りつけていた。
「……ッ‼ てめぇ‼」
昼間は鬼の形相で長田を睨んだ。
「オイッ‼ そこ動くんじゃねぇぞ昼間‼ このメガネに傷をつけたくなかったらな‼」
「ヒッ……!」
長田は夜の首にナイフを当てた。
昼間は、「チッ!」と舌打ちをして動きを止めた。
「よーし、いいぞ……」
長田は余裕が出てきて、邪悪な笑みを浮かべた。
「土下座だ‼ ド・ゲ・ザァ‼ 頭をたれてやったら許してやらないこともない‼」
静寂な河川敷に悪魔の声が瞬く間に響き渡った。
「昼間くん……こんな奴、相手にやること……っないよ……‼」
「……‼」
昼間はそう言った夜の目が潤んでいることにすぐに気づき、言葉を喉に詰まらせた。
「……ほら……やれよ、早く‼」
長田は急かすように、ナイフを上下に揺らした。
「……」
昼間は黙ったまま唇を噛み締め、両拳を強く握りしめた。
「……長田……お前にとってオレは、最初からダチでもなんでもなかったのか?」
昼間は神妙な面持ちで長田に問いかけた。
「はぁ? 急に何言って……」
長田は昼間の唐突な問いに首を傾げた。




